正式名称、地域イノベーター養成アカデミー(通称「地域アカデミー」)。「好きな地域に住んで、仕事をつくる」という、開拓者精神旺盛な人々のためのファーストステップとなることを意図して2010年に立ち上がり、今年で4年目を迎えます。過去3年間で、参加者総勢150名のうち、少なくとも23名がUIターンし、地域に移住しました。
参加者の15%が移住するプログラムの秘密について、プログラム担当であるNPO法人ETIC.の長谷川奈月さんにインタビューしました。(写真は現地でのフィールドワークにて、まちを歩いて雰囲気をつかむアカデミーのメンバー)
■「どこで暮らし、どんな仕事をしたい?」を震災で突きつけられた
石川:まず、地域アカデミーのプログラムについて概要を教えてください。
長谷川:まず、日本各地の受け入れ地域の中からひとつを選び、4,5名でチームを組みます。それから半年間、主に週末を使いながら、泊まりがけの現地フィールドワークや、東京でのワークショップを通して、地域についての調査・研究をします。あらかじめ受け入れ地域の人々から「解決してほしい課題」が提示されることもあれば、何が課題なのかを探すことから始めることもあります。 石川:参加者150名中23名が移住して、新しい仕事をはじめたというのは、すごいことだなと思います。どういったことが背景にあると思いますか?
長谷川:要因は様々あると思います。この3年に関しては、社会的背景も大きいんじゃないかなあと感じますね。例えば、2011年の東日本大震災の影響。それ以前に漠然と「地域に移住して仕事をしたい」とか「地元に帰りたい」と思っていた人たちに、震災は「あなたは、どこで暮らし、どんな仕事をしたいの?」ということを突きつけたのだと思います。
■地域で仕事をしたい、という想いを共有できるコミュニティ
石川:それは当時、僕も思いました。他にはどんな要因がありますか?
長谷川:社会的背景以外にも、「地域で働きたい」という想いを仲間と共有できるということも1つの要因になっています。飲み会で参加者の話を聞いていると、「会社で働いている時は、地域で働きたいという話をまわりとすることもないし、そう考えているのは自分だけだと思っていた」という声が意外と多くて、驚きました。
石川:たしかに僕も会社員だった時は、あまりそういう話を聞いたことがなかったです。ETIC.では、日常的にそういう会話が飛び交いますけど。
長谷川:地域アカデミーでは、プログラム期間中、週末に集まったり、夜な夜なスカイプをつないで、そのとき自分が思っている地域についての想いや考えを共有して、ディスカッションしたり。さらには合宿みたいなノリで現地フィールドワークにいって、普通に旅行してたらおそらく会わないであろう人たちと、濃密なコミュニケーションをとります。そういうことをしているうちに、少しずつコミュニティがうまれるわけです。
石川:プログラム修了後も自主的に集まって、色んな活動をしてるそうですね。
長谷川:「自分たちの専門性を活かして地域課題解決に貢献しよう」とアカデミーで出会ったメンバーで集まって、東京在住のまま事業を立ち上げた人たちも出てきました。「すごいなあ、こんなつながりが生まれるんだ!」と驚きましたし、本当にうれしかったですね。もっとライトな活動としては、例えば日本酒会などがあります。地域アカデミー参加者は、日本全国各地をめぐる旅行好きが多いので、行く先々で買ってきた日本酒や地酒を、みんなで集まって飲んだりしているそうです。
石川:楽しそうですね(笑) いろいろな形で、地域に関わり続けているんですね。
長谷川:彼らは、同じ受け入れ先のフィールドワークに参加したメンバーでもないし、それどころか同じ年度ですらなく、「アカデミーに参加した」というメンバーでわいわいやっているんです。こういったいろんな活動の中から、移住しちゃう人がひとり、ふたりと出てきたりする。おそらく、自分の想いをじっくり温められるつながりが大事なんだと思います。いきなりUIターンするのはハードルが高いし、別にそうならなくてもいいと思います。私がこうなったらいいな、と思っているのは、みんなの日々の生活の中で、少しずつ地域について思いを巡らせている時間が増えるということです。
■地域のキーパーソンが、「先輩」としてUIターンの相談相手に
石川:ここまでのお話は、参加者間のコミュニティが移住につながっているというものでしたが、受け入れ地域の現地の人達とのつながりについては、どうですか?
長谷川:それは、移住を実現する上で、すごく大事な要素だなあと年々思います。その地域にどんな人たちがいて、何が起こっているのかを幅広く紹介してくれる地域のキーパーソンを、地域アカデミーでは「地域コーディネーター」と呼んでいます。彼らが現地側の受け入れ担当になります。
石川:地域でいろんな新しい取り組みを進めている、顔役みたいな人っていうことですね。
長谷川:そう。彼ら自身が、まちづくりを進める起業家精神にあふれたイノベーターでもあります。アカデミーでは、「地域のいろんな方たちに接する機会を提供してほしい」ということを彼らにお願いしています。地域には、新しい取り組みや外部からの来訪者に対して、ポジティブな人もいれば、そうでもない人もいる。できるだけ地域の生の声を理解できるように、そのどちらも体験させてください、と伝えています。
石川:地域コーディネーターとは、期間中みっちりコミュニケーションをとるんですね。
長谷川:そうですね。何かわからないことがあれば東京からメールや電話で問い合わせることもあるし、地域でのフィールドワーク中はずっと彼らと一緒です。他にも、地域コーディネーターが東京出張の際はみんなで集まって飲むとか、プログラム参加後も関係性は続きますね。自分のライフプランを考えていく上での相談相手になってくれる存在がいることが、UIターン希望者の背中を押しているんじゃないかな、と思っています。地域コーディネーター自身が先輩移住者であるというケースも少なくありません。
石川:頼れる先輩的なところがあるんですね。確かに、そういった人たちの存在は大きいと思います。たとえば、客観的にみたら無謀な条件で人が転職したりする時って、「この人たちと働きたいから」という衝動が働いていることが多いです。ましてや生活環境が一変する移住では、それ以上に人とのつながりや、人の魅力が大事なのかもしれませんね。
■都市部とはちょっと違う、地域でのコミュニケーションの作法を学ぶ
石川:ここまでは、人とのつながりについて伺ってきました。他にも、参加者がアカデミーを通して得るものはありますか?
長谷川:あるある!なんというかなぁ、コミュニケーションの作法とか、地域に入り込んでいく際の姿勢、みたいなものを身につけるのは大事です。だいたい、参加者の多くは都市部でバリバリやっているビジネスパーソンだから、地域で何かを調べて、提案するスキルは十分すぎるほど高いことが多いです。でも、企画を伝える現地の人たちって、地元のおじちゃん、おばちゃんが多い。そこでいきなり、東京で仕事しているときに多用するカタカナ言葉とか、きれいなパワーポイントのチャートを使っても、伝わらないことが往々にしてあります。
石川:それはよくわかります。(笑)
長谷川:それって、頭ではわかっているんだけどね。でもついつい、思いがこもったり、真剣に伝えよう、しっかり資料をつくろうと気合が入り過ぎると、そういった配慮が抜け落ちることがある。現地のいろんな人達とのやりとりを通して、そういったことが調整できるようになったりしますね。
石川:それができると、元々持っているスキルがすごく活きてくるでしょうね。
長谷川:みんなですごく頑張って資料を作り込み、フィールドワークで地域の人たちにプレゼンテーションしたある地域のケースがとても記憶に残っています。内容はすごく良かったんだけど、思ったように伝わらなかったんです。そうしたら、その場である地域活性化の達人が「こうやって話したらいいんじゃない」と、実演したところ、すごく場が盛り上がったということがありました。それでみんな、「あ、こうやって伝えたらいいんだ」って気づいた。
石川:さすがですね。話を聞くだけだとできそうだけど、実際やってみるとその切り替えがすごく難しいんですよね。このあたりの話は、前回ラボで書いた井上英之さんの「コミュニケーションの作法とあり方」の部分にも通じますね。
長谷川:そう。説得したり、優秀さを伝えることよりは、楽しんでもらって巻き込んじゃうことが大事なんです。完璧じゃなくても一歩踏み出してみるとか、まずは小さくはじめてみるってことも大切ですね。そういう感覚を、言葉じゃなくて、現地の人たちと接する中から学ぶことで、「移住してもやっていけるかも!」という自信につながっていくんだと思います。 写真のパンフレットには、本文に登場した地域コーディネーターや、アカデミー参加者のその後のストーリーが掲載されています。7月7日には、地域コーディネーターが東京に集結するアカデミーのオープニング・イベントも予定されています。ちょっと様子をみてみようかな、という方は是非足を運んでみてください!
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