1997年に日本初の「長期実践型インターンシップ」を開始したNPO法人ETIC.(エティック)は、2004年から日本全国に挑戦の生態系をつくることをミッションに、全国のコーディネート団体と一緒に「チャレンジ・コミュニティ・プロジェクト」(以下、チャレコミ)をスタートさせました。
このネットワークは「成長意欲のある若者」と「本気で新規事業に挑みたい中小企業やベンチャー企業」を、インターンシップや副業の実践型プロジェクトでつなぎ、地域の中で挑戦が生まれやすい生態系を築く仲間として全国に広がっています。
チャレコミは2024年に20周年を迎え、これまでの感謝を伝えるために「地域コーディネーターサミット2024」を開催しました。
本記事では、当日のセッション「地域ベンチャー就職 - 若者編」から編集してお届けします。
若者が地方を選ぶことが当たり前となる文化をつくる──。チャレコミでは、2025年より、全国の地域コーディネーターが中心となって、若い人材を育成する新しいプラットフォーム「地域ベンチャー就職」の仕組みづくりをスタートします。
はじめの一歩として、2024年11月、現役大学生と地域コーディネーターたちがそれぞれの立場から思いや考えを共有する場がつくられました。今回、様々な意見をもとに現状や課題を紹介しながら、新しい仕掛けの可能性を探ります。
「若者が当たり前に地方を選ぶ」文化をつくりたい
大学生と地域コーディネーターとの議論は、司会・松本裕也さん(一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン 事務局次長)のこんな言葉から始まりました。
司会の松本裕也さん
「地方の漁師業は、かつて“3Kの仕事”といわれ、人手不足が課題となっていました。我々フィッシャーマン・ジャパンは、2015年から宮城県仙台市を拠点に、全国の若者たちに声をかけながら、漁師のイメージアップを図り、水産業を盛り上げる取り組みを行ってきました。これまで200人の若い漁師が誕生しています。
現在、各地共通の課題としてあるのが、「若者にとって、地方で働き、暮らすことのハードルをどう下げるか」です。なかでも新卒入社は、その課題が顕著のように感じます。
では、インターン生やボランティアとして一度は地方で働く経験をした若者たちが、地方ではなく都会で就職を決めたその背景には一体どんな迷いがあったのでしょうか。また、どうすれば地方で働き、暮らすことを選ぶのが当たり前の選択となるのか、今回、実態の声を聞き、新しいプラットフォーム『地域ベンチャー就職』に活かしたいと思っています」
「荒波にもまれる経験をしたくて東京での就職を選んだ」──大学4年生の声から
議論の場は2つの分科会で構成。まず、1つ目として、大学生たちの声を地域コーディネーターが聞くことから始まりました。
テーマは、「どうすれば若者が地方に来やすくなる? 〜キャリアと地方の未来を探る作戦会議〜」。なぜ、若者たちの中で、地方を選ぶことにとまどいが生まれるのか。迷いを解消するために地域コーディネーターができること、必要なことは何か。大学生と地域コーディネーターで構成されたグループに分かれて話を聞き、意見を出し合いました。
あるグループからは、九州出身という大学4年生の女性と地域コーディネーターとの間でこんな議論が展開されました。
大学生 : 富山県でインターン後、東京の企業に就職が決まりました。東京の企業を選んだ理由は、「人口の多い東京だからこそ携われる規模の大きな仕事で荒波にもまれる経験を積みたい」という思いがあったからです。
地域コーディネーター : 荒波にもまれる経験がしたい、という気持ちはわかります。ただ、それは東京でなければできないことなのでしょうか。地方でも荒波は経験できそうです。
大学生 : 日本の中心地から全国へ仕事が展開されること、また、事業に関わる人の多さからいうと、東京のほうがより学びの多い荒波を経験できそうだと思いました。経験の場としても、地方より関東圏や関西圏の大都市のほうが多いだろうと。
地域コーディネーター : 都会と地方、荒波の内容は仕事によっても大きく異なると思いますが、本質的なところでは人と人との関係が影響すると考えると、課題の乗り越え方も大きな違いはないかも。
大学生 : 私はまだ、地方でどんな経験ができるのかイメージできるほど経験がないと思っています。また、地域コミュニティについて、一度入ると外へ出づらい印象があります。一度地元で就職してからでは東京に行く機会がなくなりそうで、それなら、東京に出てから地方に戻ったほうが地元のコミュニティにも入りやすいように思いました。
地域コーディネーター : ロールモデルの不在が課題かも。実際、入社してその会社に飛び込んでみないとわからないことが多いことも課題で、例えば、学生たちが自分の5年後、10年後をイメージできるロールモデルと出会えると、また違った可能性が開けるのではないでしょうか。
といっても、ロールモデルにはキラキラした特別な存在ではなく、学生にとって身近な年代の人がイメージしやすいように思います。地に足をつけて地道にキャリアをつくり、生活をしている地元の20代、30代を関連企業から紹介してもらって情報発信する仕組みがあるといいのかもしれないですね。
「どうすれば地域の魅力が若者に伝わるのか」──大学生たちの本音を聞いて
「なぜ、若者たちは地方ではなく都会での就職を選ぶのか」という課題については、大学生から様々な声が聞かれました。共通するのは、「将来の自分をイメージすることが難しい」といった小さな不安でした。
- 自分を活かせる仕事、やりたい仕事があるかわからない。
- 地方の会社で働いている自分の姿がイメージできない。
- 人とのつながりが濃厚なイメージの地域コミュニティが自分と合うか不安。もっと気軽に人とつながりたい。
- 収入的に一定金額の月収+ボーナスが当たり前になると都会から離れにくくなりそう。
- 交通が不便……など
それでは、若者たちが一人ひとり自分のハードルを越えて地方の興味ある仕事を選ぶためにはどうすればいいのでしょうか。大学生と地域コーディネーターとが交わした議論では、大学生の本音を思わせる意見やアイデアも出されました。
- 身近な場所に、「地域での就職」について語ったり、相談したりする場所がない。地方の仕事に興味を持った時とのギャップをどう埋めるか、誰かと考えられる場が必要かも。
- いきなり就職ではなく、副業からスタートできる仕組みがあるといいかも。
- 地域コミュニティへの入り方として、自分の時間を大切にしたい人でも気軽に入れる入口があるとハードルが低くなりそう。
- 地域側に、学生たちの話を聞き、一緒に不安を解消していく姿勢をもつことがもっと必要なのでは?
- 地域のユニークな仕事や取り組みを、学生たちのSNS発信力を活かしてプロジェクト化してみては? 課題解決や面白い人材が集まるきっかけになりそう……など。
こうした結果について、松本さんは「これまでと同じ意見が出ていると感じるのが本音」と、従来とは異なる情報発信の必要性を課題の一つとして提示しました。
「各地ともに地域資本や仕事の魅力を伝える情報発信は丁寧に行ってきたと思います。でも、伝えたい地域のよさが若者たちに届いていないことが意見からも見て取れます。どうすれば伝えたいことが伝わるのか、各地の地域コーディネーターみんなで一緒に考える必要があるのではないでしょうか」
地域コーディネーターによる、地域と若者のためのプラットフォームづくりのポイントとは?
2つめの議論の場は、地域コーディネーターのみが集まり、意見を共有しました。テーマは、「若者たちが当たり前のように地方を選ぶためにはどうすればいいか」です。
最初にG-net理事の田中さんから、こんな意見が出ました。
「1つの企業で半年以上、インターン生として仕事を体験することで地方の仕事に実感ある手ごたえを持てることが長期実践型インターンシップのよさです。しかし、いまの大学生は、複数の選択肢から都合に合わせて気軽に選びたいという傾向が強い。そういった若者の志向を取り入れたインターンの形をつくることが必要かもしれません」
地域コーディネーターたちは、「地域で働き、暮らす」を選択する若者が増えるために、地場産業を選ぶ価値をどう示すか、思考をめぐらせました。
様々な議論が繰り広げられたものの、各グループともに限られた時間で一つの方向性や答えにたどり着くことは難しい状態に。例えば、あるグループからは、「メッセージを認知してほしい層が狭くなっている? 大学生向けの長期実戦型インターンシップなら、対象を大学生のみから、20代、第二新卒など社会人にまで対象とするのはどうだろう」といった意見が出ました。
「特定地域づくり事業協同組合を新しい雇用の仕組みに活かしながら雇用の幅を広げられれば」、「入口づくりは重要だけれど、そこから先へ進んでもらうためにも、キャリアパスやロールモデルも各地域で明確に提示する必要があるのでは? 業態や個人によって異なるそれらをどう見極め、整理するのか。新しいプラットフォームと個社、それぞれの役割のすみわけが重要かもしれない」など、多くの意見が地域コーディネーター間で共有されました。
さらに、「特定地域づくり事業協同組合を作れない地域でも」と独自のアイデアを語った地域コーディネーターたちも。「地域コーディネーターが間に入り、必要な制度を作り、3社で1人を雇用するといったイメージを形にするプラットフォームがあっても面白いかもしれない」と。
最後は、こんな意見も。
「優秀な新卒人材を採用したものの、どう活かせばいいのかわからないと悩む中小企業もあるのでは? そういった中小企業向けの企業支援も求められているように感じます。実績の豊かな企業が、中間支援として、新卒人材が活躍し続けられる環境をつくるまでサポートするとより可能性が開けるかも」
全国の地域コーディネーターたちが集まったからこそ出た意見の数々に、松本さんはこう一言話し、場は幕を閉じました。
「いろいろな情報を合わせながら新しいプラットフォームづくりの動きを加速させたい」
チャレコミでは、プラットフォーム「地域ベンチャー就職」づくりに先駆けて、現在、2つのプロジェクトを広く展開しています。
1つめは、地方で就職し、自分のキャリアを築く若者たちのロールモデルを通して、ローカルキャリアの足元に光を当てるコンテスト「ルーキー・オブ・ザ・イヤー in LOCAL 」。第2回大会は、2025年1月18日に長野県上田市で開催予定です。
2つめは、新しい挑戦を続ける地域企業やNPOの経営者・リーダーの右腕となり、仕事の体験を通して地域や自分を知る実践型インターンシップ・プログラム「地域ベンチャー留学」です。2025年2月に春休みのインターンシップがスタートするこのプログラムでは、今後も取り組みをアップデートさせるために議論を重ねています。チャレコミでは、今後も地域で生き生きと働く若者が増えるための取り組みを続けていく予定です。
地域コーディネーターを中心とした、地域と若者をつなぐ新しい文化を醸成していく挑戦に今後もご注目ください。
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