ある晴れた月曜の午後、いつもどおりDRIVEの定例ミーティングをしていたところ、突如抜き打ちで井上英之さん(写真右)が、ETIC.オフィスに来訪。現在スタンフォード大学でソーシャル・イノベーションを研究している井上さんは、2002年に社会起業家育成プログラムを一緒につくりあげるなど、ETIC.が社会起業家支援に取り組むこととなった契機となった人でもあります。
その後、SVP Tokyoを立ち上げ、慶應義塾大学大学院において続々と社会起業家をうみだす仕組みをつくりあげるなど、多くの社会起業家の育成に関わってきた先駆者です。
今回は、「ちょうどいいところに来たね!」ということで始まった、DRIVE担当ディレクター鈴木と井上英之さんによるDRIVEにまつわるあれこれのお話をお伝えしつつ、「DRIVEが実現したいこと」や「何を思ってつくったのか」をダイジェスト版でご紹介したいと思います。
■自分と仕事と社会がつながる、働き方を増やしたい
鈴木:DRIVEについて、改めて説明するね。今回こうしてソーシャルベンチャーの求人サイトを始めた理由は、「自分と仕事と社会を一致させていく、そんな働き方を増やして行きたい、そして自分の思いを思いきりDRIVEさせて働く生き方を増やしたい」っていうこと。
あと2,3年すると、今、世の中で当たり前とされている働き方が、変わっていくんじゃないかなぁっていう感じがしてる。社会がひっくり返るような、見えやすい変化ではないかもしれないけど、今「社会起業家」っていう言葉や、それに近い現象に反応しているような人たちがどこかで求めているように、働き方とか仕事の持つ意味合いが思い切り変化するんじゃないかなって。
「自分のおかれた環境や他人のせいにせずに、自分の人生かけて仕事は自分で創っていくんだ」っていう人が世の中に増えたらいいなって思っている。
井上:それをDRIVEを通して実現しようと。
鈴木:そう、昔はこの業界の求人情報ってとても少なかったけど、ETIC.とご縁のあるソーシャルベンチャーも、事業を成長させて求人をfacebookで出しはじめている。一方で、特に震災以降、「自分の生き方、時間の使い方これでいいのか?」と感じて、「こういう職場で働いてみたい!」という人が増えてきている。でも、求人の情報を知る機会が少なかったり、どういう風に働いているのかわからなかったり、情報のギャップがあったりして、うまくマッチングしていない。
井上:確かに、過去にNPOやNGOに関わったことがある人は転職しやすいかもしれないけど、まるっきり初めてソーシャルベンチャーで働く場合は、もうちょっと情報やアレンジが必要だよね。
鈴木:そうね。今はソーシャルメディアを使って、ETIC.や掲載しているソーシャルベンチャーの周辺コミュニティにいる人達へ求人情報を届けている。それでも、結構、その仕事に対して思いをもった素敵な人たちから応募が来て、いいご縁が生まれているんだよね。
■ビジネスパーソンの、「働き方」のマインドの変化を促す
井上:今回は転職ということで、たぶん、これまで、比較的大きな企業や組織で働いてきた人たちにも情報を届けるのだから、ソーシャルベンチャーに転職後、必要なマインドセットの変化をどう捉えていくのか、伝えていくことも大事だよね。
例えば、大きな組織でいちスタッフとして働くことと、ベンチャーでかつ、仕事の先にミッションが明確にある組織でアントレプレナーシップをもって働くことは、コミュニケーションの作法、必要なスキルが違ってくる。僕がこれまで、大学や大学院の授業で扱い学生たちに伝えてきたことも、突き詰めれば、このコミュニケーションの話だったようにおもいます。
鈴木:そうだよね。
井上:企業で働く習慣としては、自分のプレゼンに対するコメントに対し、「それももちろん分かっております」みたいな対応をしたり、いたずらに論破を試みたり、上手に切り抜けようとしたり、まずは自分を守ろうとしてしまうことが多い。でも、実は、ビジネスでもソーシャルベンチャーでも、そういう時に、すごくあり方が問われる。
もちろん、よい意味での競争に勝てる力も必要。同時に、「こんな夢やビジョンを持っています」とこのプロジェクトの先にあるものを伝え、でも「ここが課題で、それをクリアできたら、こんなことが起こるんです!」と、共有できること、協力を引き出すこともすごく大切。そうすると弱みも強みになる。一人や一社では成し得ないことを、コレクティブ(集合的)につくっていく。これがないと、今、新しいイノベーションを生み出しにくくなっている。
鈴木:そうだね。私もコミュニケーションのあり方の違いについては問題意識を持ってる。例えば、なんか変だよね、今の一般的な採用面接って。自分もETIC.の事務局長としてよく採用面接するんだけど。履歴書とか職務経歴書とか出して、スキルやこれまでの仕事の話をする、でも本当はそればかりじゃなくて、個人として何を考えているのか、どんな人なのかをもっと知りたいなとか、そういうのあるじゃない。
井上:一緒に働くんだからね。キャラ出してくれないと困る(笑)
鈴木:ベンチャーだとさ、個人としてのパーソナリティでガンガン仕事をするって大事だからね。だから、DRIVEも、出会い方から変えられるようなデザインを組み込んでいけるといいなあと思っている。エントリーシートのデザインも工夫して、出会った時から面接の会話が弾んじゃうみたいなこともできないかなあ、って。これからやっていきたい。
■大企業とソーシャルベンチャーのキャリアを行き来できる未来
鈴木:あと、これまで転職する人側の話ばっかりしたけれど、人材を受け入れるソーシャルベンチャーの団体側も、進化していくことも大事だよね。
井上:うん。応募する側と、組織側のキャパシティ・ビルディング(組織の力の強化)みたいなものが、両方大事なんだよね。その2つを通じて、人材育成についてちゃんと考える基盤を作っていくのは、これまでも、ETIC.が取り組んできたことだと思う。
鈴木:そう、ETIC.はそれをやって来たし、これからもやっていきたい。
井上:今後、もう何年かかかるのかな?5年とか?もっと早い?より自分と仕事と世の中がつながる働き方を生み出しながら、事業の成果をだしていく。まだまだ、NPO/NGOやソーシャルベンチャーに入ってきて、この分野を成長させていくリーダーシップを持った人たちがたくさん必要だし。そういう人たちが企業に戻っていって、新しい流れを生み出すのもいい。
「いったん企業のコースを降りたらもう戻れない」という片道切符のようなキャリアじゃなくて、行き来できるといいよね。ここから、社会起業とか呼ばれている分野だけでなくて、世の中全体での、働き方や人材に対する考え方、ビジネスのあり方についての進化のきっかけになって欲しいと思っています。
その後、SVP創業当時の思い出話などで盛り上がりつつ、おにぎりを食べ終わった井上さんは次の予定へと旅立っていかれました。今後はスタンフォードから、アメリカ西海岸の「新しい働きかた」のトレンドを寄稿してくださるということで、今から記事が楽しみです。
井上さん、多忙な来日スケジュールの中、ご来訪ありがとうございました!
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科特別招聘准教授/井上英之
1971年東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、ジョージワシントン大学大学院に進学(パブリックマネジメント専攻)。ワシントンDC市政府、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、NPO法人ETIC.に参画。2002年より日本初のソーシャルベンチャー向けビジネスコンテスト「STYLE」を開催するなど、国内の社会起業家育成・輩出に取り組む。2005年、北米を中心に展開する社会起業向け投資機関「ソーシャルベンチャー・パートナーズ(SVP)」東京版を設立。2009年、世界経済フォーラム(ダボス会議)「Young Global Leader」に選出。2010年鳩山政権時、内閣府「新しい公共」円卓会議委員。2011年より、東京都文京区新しい公共の担い手専門家会議委員、など。慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科特別招聘准教授。2012年秋より、日本財団国際フェローとして、スタンフォード大学にVisiting Scholarとして滞在。
ETIC.事務局長/鈴木敦子
1971年生まれ。ETIC.創業期(学生時代)より参画。早稲田大学第二文学部卒業後、自分で起業→ETIC.事業化により、ETIC.の経営に参画。多くの大学生のインターンシップコーディネート業務、ベンチャー起業、社会起業支援などを通じて、20代の起業家精神の育まれる現場をプロデュース。 メッセージ「仕事は面白いと思うことを一生懸命やるべし!」
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