「NPO」「ソーシャルメディア」という2つの軸で、NPOスタッフの養成プログラムの運営や、NPO向けのソーシャルメディア活用の講演などを行っているNPOサポートセンターの笠原孝弘さん(28)。
前回のインタビューではNPO業界に入るまでの経緯を伺いました。今回は、ソーシャルメディア活用に着目したきっかけや、どんな問題意識を持っているのかについて伺います。
孫泰蔵さんと出会って、ソーシャルメディアに着目
石川:そもそもソーシャルメディアに着目したきっかけって何だったんでしょうか。
笠原:孫泰蔵さんとの出会いです。2010年の3月頃に、本郷の旅館に起業家が集まるミッドナイトセッションがあって、「モバイルインターネットの展望」についての孫泰蔵さんの話を偶然聞くことができました。日本でtwitterやfacebookなどのソーシャルメディアがそんなに生活に浸透していない時期に、PC出荷台数をスマートフォンが抜くだとか、とにかくiPhoneがこれから流行って、モバイルインターネットがヤバいみたいな話があって。
もっとも衝撃的だったのは、海外ではfacebookをNPOやソーシャルアントレプレナーがどんどん使っていて、さらにfacebookアプリの人気BEST5に社会貢献系のアプリがランクインしているということでした。ソーシャルアントレプレナーこそ最新技術を使い倒すべき。ニッチでマニアックな活動こそ、どんどん人に伝えなきゃいけないって話をされていて。それに感銘をうけて、翌日にはもっとtwitterをやりたいがためにiPhoneを買いました(笑)
石川:行動が早いですね(笑)
笠原:それがスタートなんです。仕事終わるのが終電ぐらいだったから、そこから最寄り駅の近くの深夜2時まであいているモスバーガーで、国内のソーシャルメディアの記事を読んだり、海外の事例を調べはじめて、毎晩夜な夜なtwitterで情報発信を2年くらいやってました。それは今も続けています。
石川:NPOサポートセンターでやっている本来の業務とは別に、自分でリサーチと発信を繰り返してるってことだよね。すごいなあ!
笠原:泰蔵さんの話を聞いて、そういう未来が来た方がいいって、信じられたんですよね。その地道な背景があったので、NPOサポートセンターはソーシャルメディアが普及した瞬間にすぐ使えたんです。
石川:ソーシャルビジネスへの興味もそうだと思うけど、「これだ!」って思った時のスピードやストイックさってどこから来てるんだろうね。好きだから?
笠原:誰もやっていないからです。ITツールの活用とかソーシャルメディアの活用は、正直なところ、お金の匂いがする業界、芸能界とかの方がちゃんとビジネスになると思いますが。でもNPO業界では、ちゃんと誰かが取り組まなきゃソーシャルメディアが普及しない可能性があるなと思っています。
石川:パイオニアスピリットですね。
笠原:僕は「フリーにならないの?」って、よく言われるんですけど。どっちかっていうと、今の組織にいて講師をやったりカリキュラムを組んだりした方が、ちゃんとNPO業界に広がるだろうし、僕個人の力よりも日本に浸透するだろうなって思ってるので。だから今、組織にいるんです。
(2010年に行われたミッドナイトセッションの写真。手作り感に溢れる熱い場だったよう)
NPOの中間支援組織は、ソーシャルメディアの進化に勝たなきゃいけない
石川:プロの視点から見て、ソーシャルメディアを使わなくてNPOが逸している機会ってなんだと思いますか?「もっとこうしたらいいのに…」っていう問題意識を、いっぱい感じていると思うんですが。
笠原:NPOの特に、中間支援組織のこれからって話でいうと、僕は個人的に、「ソーシャルメディアを使い倒すのは前提で、NPOがつくるプログラムはソーシャルメディアに勝たなきゃいけない」と思ってて。それこそfacebookもグラフ検索が始まったんで。例えば、「東京出身で独身でカタリバのページにいいねをしている友人」で検索すると、該当する人のリストが、ばーって出てくるようになるんですよ。
石川:今そんなのあるんですか!
笠原:アメリカでは既に始まっていて、日本でもこれから利用できるようになると思います。そういうITサービスに勝てるサービスを開発して提供しなきゃならない。そこはすごく大事だと思っていますね。
石川: ITサービスに勝てるものを提供しないと、中間支援としてのポジションは危ういというか。
笠原:海外のNPO×ITのカンファレンスも行きましたけど、活用においてはそんなに日本と進み具合に差はないんですよ。群を抜いているレベルのNPOになると、とてもうまく活用しているところもあるんですけど、まだ導入が進んでいない団体も沢山ある。それこそ活用どうこうよりも、ツールを提供している会社がすごいサービス作っちゃう方がインパクトになるし、そこに勝たなきゃいけないなって思いますね。
たとえば、LinkedInが本気を出したら、プロボノ希望者が一覧で出てきたり、直接連絡をとりあえたりと、将来的には膨大なボランティアマーケットプレイスとして機能するかもしれません。そこで人材とNPO団体が自動マッチングされたら、中間支援組織としては単純なマッチングだけでは存在意義を問われますよね。
石川:そういった動きがすでに起きつつあるんですね。。
笠原:あとは、オンラインのコミュニティのマネジメントなどを、ちゃんとできるようになるとかは大事です。イメージしやすい例だと、メーリングリストのファシリテーションをするみたいなこと。ツールはどんどん新しくなるけど、それに振り回されないようにしないといけない。
プロボノと一緒に、NPOへの理解を深める時間が必要
石川:今はクラウドファンディングなんかも盛んになってきて、ソーシャルメディア活用が重要視されるシーンはいっぱいありそうですよね。たとえばプロボノの募集とかも、マッチングを行う中間支援団体ももちろんあるけど、自社でもやるようになっていますし。
笠原:ソーシャルメディアを使って自社で集めて、プロボノマネジメントするところも増えていますね。ITサービスの「CollaVol」とかは細切れにしたマイクロタスクとボランティア希望者を、オンラインでマッチングするサービスを行っています。でも、プロボノのマッチングって結構難しいですよね。NPOの文脈をないがしろにしたプロボノも出てきているなと思います。
石川:というのは?
笠原:たとえばWEBサイトや広報コンテンツを作るのに、NPOの要素が全部そぎ落とされた普通の企業と変わらないサービスサイトになっている場合があるんです。NPOの組織運営や事業に理解のある人がWEBや情報発信のプロデュースとして入らないとダメなのかもしれないと感じています。「これ何?NPOなのかな?」というものになってしまう。
石川:なるほど、そうなんですね。
笠原:NPOサポートセンターでも、NPO支援の現場にビジネスパーソンに関わってもらっています。彼らを「社会人サポーター」と呼んでいるんですが、社会人サポーターはNPOに理解がある人になってもらうんですよ。仮に理解が浅かったとしても、サポートセンターでやっている「NPOマーケティングプログラム」の研修に、NPOの人たちと一緒に全部参加してもらう。
さらに研修後の別日に、支援しているNPOの理解を深める勉強会を繰り返していて。そうやって社会人サポーターのみなさんが取組んだ宿題や感想に対して、僕が赤ペン先生みたいな形になって、メールで丁寧にやりとりしています。NPOのプロボノという文脈で、社会人向けの夜間大学のようなレベルに持っていきたいなって思って取り組んでいます。
石川:自社で導入するプロボノに関しても、丁寧なプロセスを経てから受け入れるんですね。
(続き)「NPOキャリアカレッジ」をつくり卒業生の4割をNPO業界に送り込む
■ NPOサポートセンター・笠原孝弘さんインタビュー一覧
(本稿)孫泰蔵さんがきっかけ!ソーシャルメディア×NPOに着目
(続き)「NPOキャリアカレッジ」をつくり卒業生の4割をNPO業界に送り込む
特定非営利活動法人 NPOサポートセンター/笠原孝弘
1985年生まれ。大学で法律を学ぶ傍ら、アントレプレナーシップに触発される。事業型NPOのWE21ジャパンでインターンしながら、NPOマーケティングを学ぶ。大学卒業後、起業家支援NPOのETIC.で有給インターンを経験し、次世代の社会起業家と、先輩ベンチャー起業家の連携を生み出すプラットフォーム「イノベーション・グラント」事業を担当。2009年よりNPOサポートセンターに入職。主にNPOを対象としたインターネットツールの活用、ソーシャルメディアの講演や導入支援を務める。「NPO」×「IT」をキーワードにした海外トレンドをNPO/NGOスタッフや日本のビジネスパーソン、社会イノベーターに紹介することに取組む。
NPO法人ETIC. 聞き手/石川孔明
1983年生まれ、愛知県吉良町(現西尾市)出身。アラスカにて卓球と狩猟に励み、その後、学業の傍ら海苔網や漁網を販売する事業を立ち上げる。その後、テキサスやスペインでの丁稚奉公期間を経て、2010年よりリサーチ担当としてNPO法人ETIC.に参画。企業や社会起業家が取り組む課題の調査やインパクト評価、政策提言支援等に取り組む。2011年、世界経済フォーラムによりグローバル・シェーパーズ・コミュニティに選出。出汁とオリーブ(樹木)と自然を愛する。
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