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長期インターン→新卒採用→中核人材へ。若者と2社の社長が10年間でつくった“未来”──実践型インターンシップの未来展【チャレンジコミュニティ20周年記念(6)】

2025.08.19 

1997年に日本初の「長期実践型インターンシップ」を開始したNPO法人ETIC.(エティック)は、2004年から日本全国に挑戦の生態系をつくることをミッションに、全国のコーディネート団体と一緒に「チャレンジ・コミュニティ・プロジェクト」(以下、チャレコミ)をスタートさせました。

このネットワークは「成長意欲のある若者」と「本気で新規事業に挑みたい中小企業やベンチャー企業」を、インターンシップや副業の実践型プロジェクトでつなぎ、地域の中で挑戦が生まれやすい生態系を築く仲間として全国に広がっています。

チャレコミは2024年に20周年を迎え、これまでの感謝を伝えるために「地域コーディネーターサミット2024」を開催しました(2024年11月9日)。

本記事では、前段として行われたオンラインイベント「実践型インターンシップの未来展 -インターン生から新卒入社した人材を活用する企業-」(2024年10月21日開催)から編集してお届けします。

 

チャレコミの大阪のパートナーであるNPO法人JAE(ジャイー)は、2004年から学生を対象にした長期実践型インターンシップを展開。半年間の各プロジェクトに取り組んだ学生は約1,000名となっています。

 

学生の大学時代に挑戦した経験は、その後、学生と企業にどんな影響を広げたのでしょうか。本記事では、約10年前、当時大学生だったインターン生をのちに新卒採用し、現在は中核となる社員として活躍の場を共に広げる株式会社青木光悦堂の青木隆明さん、有限会社トリニティ 代表取締役の添田優作さんからお話を伺い、改めて、学生と企業、それぞれの成長や進化を振り返ります。

 

<登壇者>

青木 隆明(あおき たかあき)さん

株式会社青木光悦堂 代表取締役社長 

創業約130年、金平糖を中心に煎餅やカリントウなどのお菓子の販売を手掛ける青木光悦堂の4代目社長。長年受け継いできた品質へのこだわりを持ち合わせた新製品開発に力を入れ、会社の成長を牽引している。

 

添田 優作(そえだ ゆうさく) さん

有限会社トリニティ 代表取締役 

美容師・バックパッカーを経て父親より在宅医療器レンタル事業を受け継ぎ、有限会社トリニティを設立。「歳を重ねる毎に人生の価値が増す世界」を創り出すことを目指し、シニア向けアパレル商品の企画・製造・EC販売事業を立ち上げ、新しいシニアファッションのかたちを提案している。

 

坂野 充(ばんの みちる)さん

NPO法人JAE 代表理事

大学を卒業後、NPO法人JAEに入職し、2013年代表理事に就任。これまでに学生約1,000名のインターンシップやキャリア教育プログラム開発を行う。大学主催インターンシップのプログラム開発・運営を担当し、地元の中小企業と連携したインターンシップの構築も手がけている。

 

販路開拓の新規事業立ち上げに大学2年生が営業担当として参加──株式会社青木光悦堂

京都府で120年の伝統を誇る和菓子屋・株式会社青木光悦堂の青木社長は、2014年頃、長期実践型インターンシップの受け入れに挑戦しました。当時、青木社長は、高齢者施設を対象とした新規事業立ち上げに向けて、特に新しい発想を持った若い人材の確保に大きな課題を感じていました。

 

「ある高齢者施設で、2種類のお菓子が365日間繰り返し入居者の方に出されている話を聞いたのです。私はすぐ、『常時、約2千種類のお菓子を販売しているうちなら毎日日替わりで、入居者の方の嗜好に合わせたお菓子の提供ができる』と提案しました。そうすると、手ごたえのある答えが返ってきて。そのとき、すぐにでも新規事業立ち上げと営業力の強化を進めたかったのですが、人材不足のために何もできないでいました。

 

そんな中、経営者仲間の勉強会で一緒になった友人を通して、JAEの長期実践型インターンシップを知りました。すぐにJAEを紹介してもらい、翌月、大学2年生(当時)だった河村さんをマッチングしてもらいました」

 

目標は2つ。新規事業の収益化と、学生にひとりの社会人としてどう活躍してもらうか

インターン生だった河村さんが担当したプロジェクトは、新規事業の営業でした。河村さんが携わったのは、高齢者施設にお菓子を届ける宅配システムの確立と、新しいメニュー開発です。

 

また、青木社長が大きな目標に掲げたのは、新規事業を軌道にのせること、それに、インターン生の河村さんをひとりの社会人としてどう育てるか、でした。

 

河村さんには、社会人としてのマナーだけでなく、受注・発注・商品の知識や営業のノウハウも伝え、青木社長が現場で一緒に手を動かしながら、河村さんの意欲に合わせて少しずつ任せるタスクを増やしていったそうです。一方、河村さん自身は、2千種類に及ぶ自社製品を試食するなど、顧客のニーズ把握やマーケティングのスキルを実践から身につけていきました。

 

「最初の頃は、正直、インターン生が毎日出社してくれるか不安で、『明日も頑張ろう』と日報にメッセージを書くなど前向きな言葉かけを心掛けていました。ただ、結局、彼はプロジェクトに参加してくれた1年間で、自分から様々なチャレンジを申し出てくれ、立ち上げ初期でも彼自身の熱量の高さや瞬発力にとても助けられました。

 

青木光悦堂のインターンシッププロジェクトは2014年の地域若者チャレンジ大賞で審査員特別賞を受賞した

 

さらに心強かったのが、学生と事業をともに成長させるために、JAEの板野さんが一緒に、毎月1回、私とインターン生との三者面談を行ってくれたことです。不安に感じていた若手の育て方も、三者面談を通して、仕事の振り返り、事業推進と人材育成で抑えるべきポイントなどを共有し合う度に、インターン生だけでなく会社自体の成長にもつながったと実感しています。

 

現在、面談は全従業員に対して行っています。働くメンバー全員が、定期的に必ず立ち止まり、より向上できる点や改善点などを、経営者、従業員の双方向の視点で話し合う機会が一番大事だと確信しています」

 

インターンの2年後にアルバイト雇用→新卒採用へ

インターン生だった河村さんが大学2年のときに営業を担当した新規事業は改善を重ね、3、4年後、3回目のモデルチェンジで軌道に乗ったと、青木社長は話します。

 

河村さんは大学4年生になると、「アルバイトでお世話になれないか」と申し出てアルバイト雇用に。就職活動中のときには、面接の度に「ものづくりに携わることは難しいのだろうか」と、理想とのギャップに迷いを感じていたという河村さんから、青木光悦堂に対して「新卒募集はしていていませんか?」と再度申し出たそうです。

 

そんな河村さんに、青木社長は、「ものづくりを大切にしたい会社の方針を理解し、気心も知れている河村くんが、うちの会社の仕事にやりがいを感じてくれているなら」と、翌年、大学卒業とともに新卒社員として迎え入れることに。

 

入社後は、新規事業にまだ収益面で課題を感じていたこと、また、「入社するからにはインターン生ではなく社員として長く働いてほしい」という思いから、主力事業である小売り卸売事業の営業担当に配属。5、6年ほど営業担当として勤務した後、インターン時代から10年後の現在は、かつてインターンとして関わっていたプロジェクトを担当し、大きな戦力となって働いています。

 

中央が青木社長、左隣の男性が河村さん(2024年11月撮影)

 

青木社長は、インターンを経て新卒入社となった河村さんとの経験から、「自分の考え方が変化した」と話します。

 

これまで、伝統的な菓子販売業では知識面や経験面で高いスキルが必要なため即戦力が求められがちでしたが、河村さんとの経験によって、マーケティングや社内の面談など、事業と組織の両面で新しい変化が社内に起きたと実感できたそうです。「たとえ未経験でも、熱意と行動力のある若者が事業に関われば事業は成長できる」と、新たな考え方が生まれたといいます。

 

「また実践型インターンに挑戦したいです。学生たちが事業に参画する6ヵ月間は、事業を推進していくことはもちろん、双方の相性のよさを判断するにもちょうどよい期間。長く一緒に働き続けられる仲間と出会うためにも良い仕組みだと思います」

 

社長の挑戦に共感した大学生3人とゼロイチで事業を立ち上げ──有限会社トリニティ

兵庫県を拠点に、シニア向けアパレル商品の企画・製造・EC事業を主軸とした事業展開を行っている有限会社トリニティの添田優作社長が、インターン生を迎えることを決めた大きなきっかけは、既存事業のビジネスモデルに危機感を抱いたことでした。

 

父親から受け継いだ介護用品の販売事業に行き詰まりを感じていた添田さんは、前職の美容系キャリアを活かして、高齢者向けアパレルへの事業転換を真剣に考えていたといいます。しかし、もともと会社では自分とパート勤務のメンバー2名のみで、大きな挑戦をしたくても人材不足で暗中模索状態に。そんなとき、たまたま参加した経営者同士の勉強会で、JAEの大学生インターンシップ事業の話を聞いたことを思い出したそうです。

 

「勉強会の場で、東北の復興支援事業で大学生たちが活躍している話を聞いたんです。そのとき、学生たちも来て一緒に話をしたのですが、以前、僕自身もインターン生たちが働く現場に行って一緒に活動したことがあって、そのとき、彼らの熱意に胸を打たれていました。『サークル活動でも有給の仕事でもないのに、若い彼らがなぜここまで一生懸命になれるのだろうか』と。勉強会ではそのことを思い出して、もしかしたら、同じように熱意ある大学生が自分の挑戦に興味を持ってくれるかもしれない、と、JAEに相談しました」

 

その後、3つの大学から3人の女子学生が集まり、彼女たちは、まだ構想段階だったシニア向けファッションブランド「COCOWAKU(ココわく)」の立ち上げ、母の日商戦に向けたギフト商品の開発、マーケティング・商品開発・プロモーション企画立案と実施・改善など、企画から戦略的な業務まで幅広く携わりました。

 

 

その1年後、添田社長は、インターン生の大学卒業とともに1人をスカウトし、新入社員として正社員雇用しました。彼女はトリニティにとって初めての大卒人材の採用でした。

 

新入社員との2年間があったから事業化できた

「彼女は、自分にとって創業メンバーに近い存在です。右腕として現場で一緒に仕事をしてきましたが、変化が激しい中、よくついてきてくれたと思います」と添田社長は当時を振り返ります。

 

「インターン生だった彼女たちとは、『高齢者向けのアパレルを事業化する』ことを約束していました。でも、当時はまだ介護用品の販売業でご飯を食べていて、シニア向けのアパレル商品は、売り上げが立つ見込みが持てない状態でした。しっかりと事業化できるまでに2年を要したのですが、初期の頃、インターン生がいなかったらたどり着けなかったかもしれません。ただ、特に正社員として雇用した後は、『新規事業で新入社員の給料を稼ぐ』ことを大きな課題に試行錯誤をして、ようやく事業を軌道に乗せることができました。今では主力事業になっています」

 

今では重要なパートナーに。中長期を見据えた事業の方向性や悩みも共有

現在の女性社員について、添田さんは「成長は今でも常に感じます。とても優秀です」と高い評価を表します。活躍を広げてきた理由としては、「彼女は考えを曲げないなど、自分とは正反対のタイプだったので、たくさん意見をぶつけあいましたが(笑)、その結果、会社の成長にプラスになる方向性を開拓できたと思います」と語っています。

 

「彼女は、枠組みの中で事業を作ったり、細かい業務を丁寧に進める能力に長けているんです。代表の僕が道を切り拓いた後は、その先の環境整備を彼女にまかせるという役割分担が奏功したように感じます。また、僕は彼女に『やりたいことをやろう』と声をかけてきたのですが、そのうち彼女から少しずつ『こういうことに興味があるんです』と話してくれるようになりました」

 

 

添田さんは、最近、女性社員に責任ある役職を任せ、中長期的な事業戦略や経営を意識した議論に参加させるなどコミュニケーションを変化させたと話します。その積み重ねから、彼女の新たな一面が見えてきたそうです。

 

「僕は経営者として、結論から話すことが多いのですが、そこに至るまでのプロセスを見える化して悩みも共有し、意見を求めることも増やしています。そうやってコミュニケーションの密度を高めていきたいし、これからは、彼女が僕の思考をわかりやすく翻訳してほかの従業員に伝える役割としても活躍してくれそうだと期待しています。

 

今後、新卒採用の予定はありませんが、また長期実践型インターンシップに挑戦したいと思っています。当時は、大きな苦境に立たされていた中、インターン生たちがいてくれたからこそ、会社がふたたび息を吹き返してたと感じています。代表の事業や考え方に共感してくれる人と一緒に仕事ができると、お互いにとって働きやすい関係性が育つと思える経験でした」

 

「実現したら面白そう」ワクワクする感触が原点

青木社長と添田社長の話を聞き、JAEの坂野さんは「長期実践型インターンシップがお役に立てたようでよかった」と笑顔を見せます。それを見ていた添田さんは、こう一言。

 

「あの頃は、JAEの板野さんたちの熱心さにも圧倒されていました。学生たちと働くことを、『失敗してもいい。やってみませんか?』と、自分たちのためにたくさんの時間を費やしてくれました。それに、まだ事業になるか予想もできないシニア向けアパレルの構想に共感してくれ、『学生とだったらこんなことができそうですね』と意見をくれたことも、一緒に事業を進めてくれていると、励みになりました」

 

青木さんは「未来の若者たちによい影響を与えられるのは自分達だと思っています。仕事や人生の楽しさを若い人たちに伝えていきたい」と、新たな抱負を語ります。

 

坂野さんは、最後にこう話しました。

 

「『実現したら面白そう』という感触は大事にしたいですね。今回のイベントでは、『インターンシップの未来展』というタイトルを受けて、『未来とは?』と自分なりに考えましたが、『面白そう』が原点なのかもしれません。このワクワクする感触から、人材、事業、と先につながっているような気がしています」

 

編集後記

「実践型インターンシップの未来展」というタイトルについて、最後に司会を務めた瀬沼がこう説明を加えました。

 

「今回のタイトルにつけた『未来』とは、『今』を表しています。

 

つまり、約10年前にインターンシップを採用した株式会社青木光悦堂と有限会社トリニティの2社では、新規事業が成長を遂げ、当時インターン生だった学生たちが新卒入社し、現在は重要な戦力として活躍をしている──。

 

約10年前にはまだ見えなかったそんな未来を、ともにつくってきたという意味をタイトルに込めています。その原点は、長期実践型インターンシップだったと信じたいし、長期実践型インターンシップが生み出した未来を一緒に見つめ直し、またここから、この先10年を進んでいきたい。そんな未来をまた共にみられることを楽しみにしたいです」

 

次の10年が想像できるような今回のイベントを一つのスタート地点に、さらに新しい歴史が加わるように、若者たちと企業のチャレンジは続きます。

 


 

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たかなし まき

愛媛県出身。企業勤務を経て上京。初めて書いた西新宿のホームレスの方々への取材ルポが小学館雑誌「新人ライター賞」入賞。食品業界紙営業記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。主に子育て、教育、女性をテーマにした雑誌やウェブメディア等で企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在は、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターと兼業。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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