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関係人口が地域プレイヤーを輝かせる。和歌山県田辺市にUターンして始める「TANABEES」の挑戦──株式会社TODAY 山田かな子さん

2025.08.18 

少子高齢化、人口減少といった現代的な課題を抱える和歌山県田辺市。この地で、地域の未来を拓く新たな挑戦「TANABEES」が始まろうとしています。「関係人口」を軸に、地域活性化に取り組むのは、株式会社TODAYの山田かな子さんです。

 

NPO法人ETIC.との協働を通じて、これまで多くの人々と新しい試みを形にしてきた山田さんに、このプログラムへの熱い思いを伺いました。

 

山田 かな子(やまだ かなこ)さん

株式会社TODAY 代表取締役

大学時代に東日本大震災を経験し関西女子大生ネットワークMydogirlsを立ち上げ東北の復興支援に関わる。「情報発信する立場に立ちたい」と考え都内のイベント広告制作会社に入社。その後再び東北復興支援に関わるべく福島県の一般社団法人に転職。高校生のProjectBasedLearning、大学生の実践型インターンのコーディネートを行う。2017年から、NPO法人ETIC.にて大学生インターンシッププログラム運営、副業兼業コーディネートなど地域企業の面白さに魅入られ、企業と人材のマッチングを行い続けてきた。2022年5月、田辺市に家族でUターンし、7月に教育プログラムを運営する株式会社TODAYを設立。

 

復興支援から始まり、地域コーディネーターとして伴走支援

──現在も関わっているNPO法人ETIC.(以下、エティック)への参画の経緯ときっかけは?

 

もともと、東日本大震災で被災した福島県福島市にある復興支援を行う一般社団法人Bridge for Fukushimaで2年間、仕事をしていました。エティックとの関わりは、福島での1年目、復興庁から受託した大学生インターンシップ「復興・創生インターンシップ事業」の担当になったことがきっかけです。

 

初めてのことで右も左もわからない中、エティックの研修を受け、インターンシップコーディネートのノウハウを学んだことが、エティックとの本格的な関わりの始まりになりました。

 

2018年に福島県福島市の松島屋旅館にインターン生をマッチング。修了時の様子

 

この「復興・創生インターンシップ事業」では大きな学びがあり、やりがいも感じていましたが、次第に、環境を変えたい気持ちが芽生えました。というのも、いずれは出身地である和歌山に戻り、インターンシップ事業を始めたい気持ちが強まっていったためです。ただ、資金確保の難しさや和歌山にインターンシップ文化がないことなど、課題がありました。

 

そんなとき、エティックが主催する、「地域ベンチャー留学」のプロジェクトマネジメントの仕事にご縁をいただきました。Bridge for Fukushimaを退職して、東京でエティックに参画することになったのです。

 

エティックではプロジェクトマネジメントのほか、地域コーディネート団体の育成や資金繰りに関する養成講座の運営も兼任し、伴走支援の現場で貴重な経験を得られたと思います。

 

大学生が暮らす地域をつくり、地域課題を解決したい

──田辺市で株式会社TODAYを設立した理由と経緯は?

 

2022年、新型コロナウイルスの流行と子育てを機に、東京から和歌山へUターンし、地元の田辺市を拠点としました。株式会社TODAY設立の理由で最も大きいのは「大学生がいる状態にしたい」というシンプルな思いです。

 

ご家族で田辺市の扇ヶ浜にて

 

というのも、田辺市での事業立ち上げを考えたときにまず、地域に大学生がいないという課題に着目しました。大学生がいないことで、地元企業は新しい挑戦に必要な、前例のない若者のアイデアやトレンドを取り入れにくいといった問題が起きていたんです。

 

田辺市に大学生がいる状態にすることが、まず着手しやすい解決策だと感じました。福島の復興支援の経験から人口が少ない地域に大学生を招き入れてきたことが、この発想に大きく影響しています。

 

もうひとつの理由には、自分が生まれ育った田辺・紀南エリアで、顔見知りの地域の人々が、人材不足や新しいことへの挑戦で困っている状況に対して、何か役に立ちたいと考えていたこともあります。

 

──山田さんにとって、エティックでの経験は大きな支えになっているのではないでしょうか。

 

エティックでの起業プログラムの企画・運営を通じて、プログラム構築と実行が自身の強みだと認識できました。エティックでは同じ思いを持ち行動する人たちとの関わりが持てたことも良かったです。全国の地域コーディネーターと密に情報共有し、互いの活動が見えることも励みになりましたね。

 

2023年9月、和歌山県田辺市で開催された「チャレコミギャザリング」(主催 : エティック)

 

2024年、和歌山には地域コーディネーターが少なかったため、経験を活かして、和歌山県で地域コーディネーター養成講座を立ち上げます。結果、25人の仲間を増やせたのは大きな一歩です。この活動で、地域単体で学生を集めることの難しさを理解し、全国のコーディネーターが連携して大規模な集客を行う手法の有効性も知りました。

 

エティックとの関わりから学んだことは、会社を立ち上げた後のさまざまな行動につながっていますね。

 

2024年に和歌山県で開催したコーディネーター養成講座での打ち上げの様子

 

「人とのつながり」を重視するビジネスを学んだ「たなべ未来創造塾」

──田辺市主催「たなべ未来創造塾」の修了生だと伺いました。入塾の理由と、印象的だったことは?

 

移住と会社の登記直後の2022年7月、たなべ未来創造塾に入塾しました。入塾の直接的なきっかけは、インターンシップの受け入れを通じて、受け入れ先の経営者から勧められたことです。

 

たなべ未来創造塾は、地域課題をビジネスで解決する人材育成とビジネスモデルの創出を目指し、田辺市と熊本大学が主催する実践的なプログラム。地域の人々の感覚が都市部と異なること、特に「人との繋がり」が重視される商売のあり方を深く学びました。

 

たなべ未来創造塾での集合写真

 

ワークショップやディスカッションを通じて、地域の人々の金銭感覚、ビジネス感覚、生活レベルの感覚が、東京や福島とは全く違うことに気づいたんです。

 

田辺で商売をしている人の中には、マーケティングやターゲット設定について考えたことのない人がいる事実にも衝撃を受けました。自分が出したいから世に出すプロダクトアウト思考でも、「あなたが売るから買う」の意識で商品が売れる傾向が、田辺市にはあります。

 

たなべ未来創造塾では地域で事業を行う上で重要な視点を学べたと思っています。

 

田辺市で開催した高校生の探究プログラム「START LINE」。高校生が産直市場の看板づくりに取り組んでいる様子

 

関係人口は、地域プレイヤーの思いを後押しする存在

──2025年8月から始まる「TANABEES(タナビーズ)」を生み出した背景を教えてください。

 

「TANABEES」は、田辺市の関係人口創出を目的とし、5つのプロジェクトを、プロジェクト担当者と参加者が一緒になって達成する取り組みです。スタートにあたって、そもそも「関係人口とは何か」を考えるところから取りかかりました。

 

「TANABEES」では関係人口を、地域のためにある言葉だと考えています。地域外の参加者がもつ客観的視点と挑戦へのエネルギーが、田辺市で事業を営む地域プレイヤーを目標達成へと後押しする存在と捉えているからです。「TANABEES」では関係人口が地域に具体的な影響を及ぼし、地域側にメリットをもたらす存在として設計しています。

 

 

「TANABEES」の最大の特徴は、地域プレイヤーをプロジェクトの責任者として置いていることです。5人の地域プレイヤーは、地元の企業の若手経営者や田辺市の社会課題解決を目的に起業したばかりの方など、それぞれ個性的で魅力的です。テーマを定めてプログラムを組んだ理由には、先ほどお話した関係人口は地域のためにあるべきとの考えに基づいています。

 

参加者が、思いは強いがまだ形になっていない未完成のプロジェクトに関わることで、地域プレイヤーと共に達成するおもしろさを提供します。私たちはこれを「未完の補完」と呼んでいます。地域で何かをやりたいと思っている地域プレイヤーを加速させるために存在するのが、参加者と位置付けているからです。

 

もうひとつの特徴は、各プロジェクトにコーディネーターがつくことが挙げられます。地域外の人が地域プレイヤーと協働する際に意見の相違や違和感が生じますが、コーディネーターを間に置くことで、円滑なコミュニケーションができます。

 

そして、プログラム終了後も、参加者がまた田辺を訪れ、会いたい人が増えることで、地域との縁を深め、関係人口の創出になることを目指しています。移住を強制するといったゴールは設定せず、自由度と余白を残す工夫もしています。

 

──エティックでの経験が活かされていることはありますか。

 

参画してから今までの8年間、多数のプログラムを見てきたことが、広報や打ち出し方に活きていると思います。この経験から学んだのは、地域コーディネーターを増やすことで、参加者の数や多様性が増え、人との接点が広がることです。多様な人材を巻き込むことを「TANABEES」でも実践していきたいですね。

 

「TANABEES」に興味を持っている人へ

山田さんとTANABEESの地域プレイヤー

 

──「TANABEES」に期待する成果や出会いは?

 

地域プレイヤーが求める成果が出ることを期待しています。5人の地域プレイヤーがより自信を持ち、輝くことがベストですね。自ら事業を動かしたりできる未来を望んでいます。さらに地域プレイヤーは、田辺に飛び込めば自分も輝けるかもしれない、と感じさせられるようなロールモデルになってほしいです。

 

そのためには、参加者との素敵な出会いにも期待しています。人の役に立ちたい人や、地方から新しいものを生み出したい人、その立役者になりたい人はぜひ来ていただきたいです。参加者が地域プレイヤーに感情移入し熱意を持ってサポートに関わったり、参加者の「やりたい何か」が田辺で明確になり、目的に向かって探求したりする人が増えるといいなと思いますね。

 

田辺市には、訪れた人に好きになってもらえる要素がたくさんあります。田辺市を全く知らない人でも構いません。

 

―最後に、このプログラムに関心を持っている方へ、メッセージをお願いいたします。

 

田辺にあるのは、陽気で呑気、朗らかな空気感です。私はこれを良くもあり悪くもあると認識しています。この感覚を閉じ込めてしまう進め方ではなく、うまく取り入れつつ共に楽しんでくれる人に来てもらえたらうれしいです。目標を達成して結果を出すことにブレずに取り組める人はぜひ来てください。

 


 

Webサイト : https://brown983415.studio.site

TANABEES公式LINE : https://line.me/R/ti/p/@632fciqp (※プログラム情報や説明会申込フォームをご案内します。)

 


 

「TANABEES」の挑戦を、地域プレイヤーと参加者、コーディネーターで共に育んでいきましょう。

次回からは、その最前線に立つ地域プレイヤーたちの挑戦を紹介していきます。

 

この記事を書いたユーザー
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西原 ちあき

和歌山県白浜町在住のWebライター。SEO記事やインタビュー記事、SNSなど、幅広く執筆活動を行う。地域の営みや人の挑戦を、等身大の言葉で伝えるのが得意。ラジオパーソナリティとしても活動しており、声と言葉で、さまざまな事物の魅力を届けています。

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