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絶望か、希望かー。英国発・幻の女性二人芝居『Air Swimming』セクシャルマイノリティや未婚出産が精神異常者として扱われた時代をどうコミカルに描くのか。

2018.12.21 

月に一度は舞台を観に行っている。単なる趣味の延長ともいえるが、仕事柄、起業や転職など「人生における大きな選択」を取り扱う場面も多いので、そこで起きる人の感情や思考には、敏感でいなければならないという思いもあり、最近はなかば職業訓練的な習慣になっている。

 

そんな観劇を習慣化してしまった私が、終演後しばらく立ち上がれなくなるほど胸を揺さぶられたのが、タイトルにある英国発・幻の女性二人芝居『Air Swimming(エア・スイミング』だ。

 

『Air Swimming(エア・スイミング)』公演チラシ

『Air Swimming(エア・スイミング)』公演チラシ

【あらすじ】 1920年代イギリス。女性たちに様々な"社会的不適合"の烙印を押し、監禁するための精神病院があった。「女なのに男のように振る舞っている」として2年間監禁されていたドーラの元に、「未婚で好きな人の子どもを産んだから」という理由で収監されたばかりのペルセポネーがやってくる。独房に閉じ込められている二人は1日1時間、日課の磨き掃除の間だけ顔を合わせることになったのだ。 家族からも社会からも葬り去られた二人は、やがて互いの存在に唯一の希望を見出し、力を貸し合ってもう一人の自由な自分自身を想像し始める。そのファンタジーを通して監禁という名の"無感覚世界"を必死に生き延びていこうとするのだがーーーーー。

【作品解説】 ローレンス・オリヴィエ賞ノミネート歴を持つイギリス人女性作家シャーロット・ジョーンズのデビュー作(97')で、近年ロンドンやニューヨークで上演され再脚光を浴びている女性二人芝居「エアスイミング」の日本初演。 自分らしく生きる自由を社会に奪われた二人のやりとりは、時に血の滲むようなユーモアと慈愛に溢れ、時に哀しく、観る者の心を掴む。実話を基に書かれた本作は 「自分のあり方は自分で決める」というメッセージを21世紀を生きる私たちにまっすぐに訴えかける。 渾身の英国ユーモアで書き上げられた、魂のサバイバルストーリー。

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まっすぐに生きたことで社会からはじき出されたしまった二人の女性

まず強烈なのが作品の設定。軍隊が好きで男性の格好をしタバコをふかしているドーラのもとに、未婚で好きな人の子どもを産んだという理由で収監されたばかりのペルセポネーがやってくる。突然知らない場所に連れていかれ、恐怖に怯えるペルセポネー。いま、二人がいるのは完全に社会から隔離された精神病院。ここで彼女たちは、毎日同じ場所で、“奉仕”と呼ばれる磨き掃除をしている、それもただひたすらに。

 

家族からも完全に見放され、二度と社会に戻ることはないだろう彼女たちは、この閉ざされた空間のなかで生きるすべとして、もう一人の自分をつくりだす。

 

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涙なくしては見れないシーンがいくつかある。その一つが、まさに自分たちがつくりだした妄想の中でダンスをするシーンだ。これを見たら「数奇な運命」という言葉では、絶対に片付けてはならないと怒りにも似た思いが湧いてくる。『エア・スイミング』というタイトルにも、じつは深い意味が込められているので、ぜひ見てほしい。

 

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芸術作品としての徹底したこだわり。すべては必然のなかに。 

キャスト、脚本、演出の素晴らしさはさることながら、舞台美術、音楽、音響効果、照明と、どれをとってもアート作品としての徹底的なこだわりも見える。舞台に彩りを添える…なんてものはひとつもないし、かといってそれぞれが飛び出してもいない。『エア・スイミング』が伝えようとしているメッセージや世界観を実現させるべく、それぞれのアクトが絶妙なバランスで、複雑かつ緻密な計算の上で成り立っている。そのすべてが必然としか言えない舞台もなかなか珍しい。

 

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会場である絵本塾ホールのキャパシティは60名。演者との距離も近く、恐怖におびえる細かい目の動きや、不安定な気持ちを表す指先や息づかいまでリアルに感じられる。時間軸を超えるキャストの演技力も鳥肌もの。そこにもぜひ注目してほしい。

 

価値観の多様化でわかりあうことが難しい今、注目される芸術の可能性

演劇というツールは、観る人(観客)がいて成立するメディアである。伝えたいテーマにしたがい、演者との対話や演出によって、観客に「問いかける力」を持っている。こうしたアプローチは、なかなか理解されにくいマイノリティな問題や、受け入れがたい社会問題を伝えていくひとつの方法として可能性を感じる。

 

人間は進化・進歩の過程で芸術を発展させてきた。言葉だけでは伝えられない感覚や、目には見えないけれど“確実にある”感情を伝えていくためにもアートが用いられている。価値観が多様化しすぎて、わかりあうことが難しくなってきた時代に生きる私たちにとって、芸術やアートは、理論や理屈を超えた相互理解をうみだす装置になるかもしれない。

 

* * * 

英国発・幻の女性二人芝居『Air Swimming』は、偏見だらけの時代に人生を抹殺された二人の女性のストーリー。「生きる力」なんて生易しい話ではないし「勇気が湧く」なんて他人ごとのような感想は言えなくなる、衝撃的な作品です。

 

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四谷・絵本塾ホールにて12月23日まで。わずかながらお席があるそうなので、興味あるかたは、以下のアドレスまでご連絡してください。観た人はぜひ、感想をシェアしましょう!

《チケット予約》Corich!舞台芸術 https://stage.corich.jp/stage/94907

《お問合せ》エア・スイミング事務局 airswimming2018@gmail.com

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野田 香織

1974年兵庫県生まれ。短大卒業後、印刷会社でグラフィックデザインの仕事に携わり、不動産広告やCIなどを担当。2006年からマドレボニータに参画、人生賭けて挑みたいテーマを見つける。2009年にNPO法人ETIC.に参画。社会起業塾、アメリカン・エキスプレス・アカデミーなど起業支援のプログラム運営の後、求人サイト「DRIVEキャリア」のコーディネーターに。個人のキャリア相談の他、さまざまな組織の採用、人事の相談にも乗っている。