ビールにワインに、ウイスキー。お酒の種類はたくさんあるけれど、われらが誇るはお米から生まれた日本酒です! そんな日本の酒蔵文化を守る「Naorai inc.」。代表・三宅紘一郎さんのお酒好きが高じた事業なのかと思いきや、そこには日本文化へのふかーい愛がありました。
Naorai inc. ・三宅紘一郎さん
「酒蔵」そのものに価値を感じて
- 10年後のために、どんな未来をつくりたいですか?
「多様で豊かな日本酒文化を未来に引き継ぐ」というのが僕たちの事業テーマで、つくりたい未来はまさにこのテーマ通りです。 日本酒の価値を、もう一度僕たちが再定義していこうという気持ちで事業をスタートさせました。「Naorai」という社名の由来は、神事の言葉です。神さまにお酒を奉納して、奉納したお酒をみなで飲むことを「直会(ナオライ)」というんですよ。今チームは4人で、クラウドファンディングで資金調達したりと大変さも味わいながら、事業を行っています。
- 日本酒の価値、ですか。実はわたし、お酒が一滴も飲めなくて。そんなわたしにもわかるように教えてください(笑)
おまかせください(笑)。具体的には、三つの事業をしています。 一つめは、地方の酒蔵と企業をマッチングさせて、酒蔵に今までなかったB to Bの市場を作る「YAOROZU」。今、この事業のために日本各地の酒蔵を回っているんですけど、その土地の水・米・人、風土とか歴史によって、酒蔵それぞれが持つ文化ってまったく違うんですよ。その酒蔵が奉納している神社の特色とか、そのお酒が使われているお祭りだとか、そういうことも含めて、あらためて「日本酒」といってもそれぞれに個性があることを多くの方に知っていただきたいなと思っています。
二つめの事業は、僕たちが海外で売れると思う日本酒を企画して、酒蔵に提案して一緒にブランド作っていく「MIKADO」。この初めての案件は広島の酒蔵で、広島のレモンを使ったスパークリングレモン酒の開発を行っています。 三つめは、自分たちの酒蔵を育て上げ、日本酒文化を未来に引き継ぐという活動に共感してくださる方に対して、酒を通した場作りをする「KAGURA」という事業。日本酒を介してこんな意義ある場所や機会ができるんだということを体験していただき、日本酒の価値をあらためて感じていただけたら、というのがねらいです。
- “お酒”という部分よりも、日本の文化としての日本酒を大切にされているんですね。お酒が飲めないわたしでもとっても共感できました。
それはよかった! そもそも、根底にある思いは、たとえ日本酒が売れなくても酒蔵そのものに存在価値があって、それを大事にしたいということなんです。 衰退産業といわれてしまっている日本酒ですが、何もしないでそのまま衰退させるのか、それともちょっと違うやり方を加えてこの多様性を守れるのかという点に、すごく関心があるんです。
- ものを売ってると商品に目がいきがちですが、その背景はほんとにさまざまですよね。
僕の親族は広島で酒蔵を159年営んできたんですね。そんな環境に育つと、身近なところで潰れてしまう酒蔵も結構あって、当時からその状況に違和感を持っていました。なかには150年以上の伝統ある酒蔵でも潰れてしまったケースもあって。「これって、本当にもったいないな」と感じてたんです。 そんなとき、売る場所さえ変えれば、まだまだ日本酒は必要とされるんじゃないかという気持ちが芽生えて。結果的に、20代のあいだは日本酒の海外展開をテーマにして、親族の酒蔵の海外展開を私が担当するかたちで上海で事業を行ってきたんです。この経験が自分の原点にもなっています。
よそ者の生存戦略は新しいことをすること
- 上海での事業に加え、Naorai inc.を立ち上げようと思われたきっかけは何だったのでしょうか?
上海での経験でわかったのは、やっぱり売れるためにはいい商品を作らなきゃいけないということだったんです。すごくシンプルですけど(笑)。 そこで、さまざまな酒蔵さんともっと距離を縮めて、一緒にものを作っていけたらと思いまして。このNaorai inc. を立ち上げたというわけです。
- Naorai inc. で、いま向き合われている壁はありますか?
いま一番の課題は、酒蔵の方に喜んでもらえるような事業を作りたいという思いがある一方で、酒蔵の方たちからは見極められる立場にあるということです。これは、一番辛いですね。駆け出しの事業ですから、「本当にできるの?」と思われることは避けては通れません。
- 地域で新しいことをはじめようとしている方からも、同じような悩みを聞くことがあります。ずっと酒蔵を守ってきた方たちにとって、自分たちがほんとうに頑張ってできなかったことに挑戦しようとしているからこそ、最初は難しいのかもしれませんね。
そうですね。けど一方で、当事者では気がつかないような、僕らからしか見えない視点があると思うんですよ。一歩引いて見ることができる立場だからこそ、「酒蔵という存在そのものが十分尊い」ということを伝えていけますし。何より新しい顧客とのマッチングを実現して、「実はこんなにたくさん買いたい方がいらっしゃるんですよ!」と伝えていくのが、一番大事なことだと思っています。
三角島で立派なレモンを収穫中!
- 外からの存在だからこそできること、ですね。そうした視点を活かして、これまで色んなことを乗り越えてこられたんですね。
そうですね。やっぱりいままでとは違う視点で販売数を伸ばしたり、これまでとは違う新酒をつくったりと、実績を作っていくことが一番大事なことだと思っています。 僕たちが事業として行うことは、「酒蔵はまだ行っていないこと」だと決めています。つまり、提案することすべてが、基本的にはこれまでにない、新しい可能性を秘めたことになると思うんですよね。
- まだ誰も挑戦していないことを突き詰めていくことが、事業の生存戦略になるんですね。これから酒蔵がどんな活躍をしていくのか、楽しみにしています!
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