”Requests for Startups”から見える世界の未来
起業家やスタートアップを支援するアクセラレーションプログラムや、未来に向けて投資をしたいベンチャーキャピタル。彼らがどんな分野の、どんな事業を特に支援したいと考えているかを知ることは、社会がこれからどうなっていくのか、未来をどうしていきたいのか、を知るためにとても有益な視点を与えてくれます。
たとえばスタートアップに関わる数々の名エッセイを残しているポール・グラハム率いるY Combinatorは、”Requests for Startups”として、「こういう分野や視点のスタートアップをわれわれは支援しますよ!」ということを適宜表明しています。
眺めてみると、エネルギーやAI、VR/AR、教育などは、「ですよねえ」という感じのリクエストですが、”ハリウッド2.0”、”民主主義の改善”、"働きかたの未来"といった項目が混ざっていて、彼らの新しい視点を知らせてくれます。こうしたスタートアップへのリクエストは、事業のヒントでもあり、社会課題のありかを知らせてくれるものでもあります。
SUSANOOの”Requests for Social Startups”
ETIC.のSUSANOOプロジェクトは、”ソーシャルとビジネスの領域を繋ぎ合わせることで、「ソーシャルスタートアップ」を輩出する”プロジェクトです。ではソーシャルスタートアップとはなにか?
“今までにないイノベーションを通じ、人々の生活と世の中を変える取り組みや組織。
特に「市場の失敗」分野に果敢に取り組む人々。”
SUSANOOではこう定義しています。“社会課題の解決”、とこれまで捉えられてきた、様々なソーシャルビジネスやソーシャルセクターの活動を、「市場の失敗」分野への挑戦として捉えなおすことで、新しいアプローチと新しい市場を創出することができる、とSUSANOOチームは定義します。
では、SUSANOOの”Requests for Startups”はどういったものでしょうか? その要件から見える社会の喫緊の課題、そして未来の姿とは?
スサノヲから起業家たちへのリクエストは以下の4つです。
1 :「市場の失敗」領域に挑む取組
2:Think Big! または、Make it Cool!
3:対症療法より根本治療をめざす挑戦
4:10のテーマに挑戦する取組
このうちの1と4について、SUSANOOチーム渡邉賢太郎の言葉を交えながら紐解いてみることにしましょう。
「市場の失敗」領域に挑む取組
SUSANOOでは、「市場の失敗」領域というものを設定しています。
「現在あるいは将来にわたって、当事者の基本的な人権や社会的な自由を脅かしかねない重要な問題のなかでも、現時点でその当事者がサービスの対価を支払える可能性が低い領域」
たとえば、虐待をうける子供たち向けの居場所づくりや教育事業。その子どもたちの状況をほうっておくと将来的にその子どもたちの社会的・経済的に困窮する可能性は高く、その結果、長期的にみれば社会全体で負担するコストも増大させます。通常このような領域は行政が公共サービスとして行うものです。しかし、個別の家庭状況はもちろん、法律、行政区分など取り巻く背景が複雑すぎて状況ごとの柔軟な対応は難しい。結果として最低限、あるいは明らかな緊急事案への対応に注力するしかありません。
「市場の失敗」領域の例
・子どもむけ事業 (虐待をうける子どもの居場所、貧困家庭に教育を届ける仕組み、発達障害を抱える方との共生 など)
・困窮している人々むけ事業(避難民むけ、独居の高齢者むけ、薬物依存症の方々むけ など)
・課題自体が複雑巨大・専門的で、認知しづらい領域(防災意識の低さ、AEDの到達率の低さ、水インフラの老朽化 など)
ここで求められるのが、「その手があったか!」を具現化するソーシャルスタートアップです。ソーシャルスタートアップに求められるものは、多様で難易度も高いものになります。
まず、「その手!」という革新的なソリューションを見つけ、実装し、サービスとして提供することが求められます。
そして次に、サービスをうまく提供できたとしても、直接に価値をうける子供たちには、現時点での支払い能力はありませんし、両親や親類もそれらに対して積極的に費用負担をしようとしないことも多いでしょう。そこで、第三者に資金提供を求めるしかない。すると、今度は第三者にとっての価値はなんなのかを説明し、共感をよび、その価値を継続的に感じてもらえるための仕組みも構築しなければなりません。
さらに、「市場の失敗」に挑む場合には、事業の長期的な展開手法も変わってきます。たとえば、通常のスタートアップの場合は、「株式上場」や「大企業への売却」などの資金調達が、事業展開を加速させます。しかしソーシャルスタートアップの場合は、
「行政制度化」
「オープンソース化」
「資格制度化」
「ムーブメントづくり」
などが重要な選択肢として現れてきます。
ビジョンを実現するために取りうる展開手法はより多様になります。だからこそ、「市場の失敗」領域に挑む場合は、ソーシャルスタートアップならではの、「ビジネスモデルデザインの手法」や「行政、NPOを含めた協力者のネットワーク」などに特化した切磋琢磨の場が必要になる。SUSANOOではそういった場を用意することで、ソーシャルスタートアップの展開を加速させていこうとしています。
「「市場の失敗」は、ほぼ「社会課題」への挑戦という意味でもあります。しかし、そういう領域に向き合うからこそ、逆に、自由な発想や、楽しみながら向き合うことも大切だと思っています。そうすることで、誰もが思いつかなかった「その手!」の創造性に富んだアイデアが思いつくはずです。社会にあふれる「課題」を「機会」に変える面白いチャレンジを、みんなで楽しみながらやっていきましょう!」(SUSANOO渡邉)
SUSANOOがリクエストする10のテーマ
第五期SUSANOOでは、とくに注力したい10のテーマをあげ、その方向性を具体的に示しています。それ以外のテーマももちろんエントリー可能ではあるというものの、そこで示されている現在の課題のありか、そして未来へのビジョンは参考にすべき視点です。
「まず、わたしたちは革新的な事業は、”大きなビジョン”を掲げることで生まれると考えます。たとえば、
“社会全体のモノや人の移動をもっと自由にする”
というビジョンを持つことで、個々人のための移動手段であった自家用車が、新たな仕組みの一要素にみえてくる。そこから生まれたのがUberだと思います。」(SUSANOO渡邉)
では「大きなビジョン」はどうしたら描けるのか?
「「◯◯は△△だ」という、わたしたちの頭の中にこびりついた、常識や固定観念に囚われない視野が必要です。
たとえば、テーマの軸として出している、「生活・教育・働き方・公共・一次産業や自然」は、どれも人間の社会生活には欠かせないもので、長い歴史を経て大きな社会システムが築かれてきました。
しかしだからこそ、「◯◯は△△だ」という常識や固定観念も根強くなっているのではないでしょうか。
そこで、領域を越境する10テーマの視点にたつことで、わたしたちの常識や固定観念を超え「Think Big!」に考える。その先に、誰もがワクワクするような革新的な未来のビジョンとアイデアが見えてくるはずです。そんな思いから、この10のテーマを掲げています。」(SUSANOO渡邉)
10のテーマはどれも現在の課題を踏まえながら、未来に向かって良いパスを出していこうという意志が含まれたものばかりです。とかく「日本の未来....」となるとネガティブにな発想になりがちですが、このテーママップを見ていると、不思議と楽しく前向きなものに感じられます。SUSANOOというコミュニティや目指している未来が、そうしたあっけらかんとした明るさやポジティブなものだからでしょうね。
興味をもった荒ぶる魂をもった人は是非、コンタクトしてみてください。
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