太陽、土、風。地球には、たくさんのエネルギーとなる自然があります。そんな自然からうまれる再生可能エネルギーを、世界の主役に抜擢しようと挑戦しているのが「株式会社チャレナジー」の清水敦史さん。
世界ではじめて「台風発電」を実現するため、プロペラのない風力発電機「垂直軸型マグナス風力発電機」の開発に取り組んでいます。超巨大エネルギー・台風で発電ができるようになったら、わたしたちはどんな未来をむかえるのでしょうか?
株式会社チャレナジー・清水敦史さん
台風一つで日本の50年分の電力が生み出せる!?
- 3.11以降、「このまま原発を使っていくの?」という疑問は多かれ少なかれたくさんの方が抱いてきたと思います。でも、それをどう乗り越えたらいいの? というところまで考えるのは、すごくパワーのいることですよね。
そうなんですよ。だからこそ、僕自身はこの問題に真っ向から向き合う必要があると思っています。僕は今、この問題を再生可能エネルギーの普及によって解決したいと思っているんです。
今までは再生可能エネルギーを原発と置き変えるほどの実績ってほとんどなかったけど、実は90%以上再生可能エネルギーになっている国もあるんですよ。ウルグアイという南米の国です。日本だと考えられないですよね?
- そんな国があるのですね。90%以上が再生可能エネルギーにできるなんて、想像したこともなかったです。勝手に「それは無理なことなんだろう」と思い込んでました。
そうですよね。けど、日本だからこそ持っているポテンシャルも実はあって。それが「台風発電」なんです。ただ、今までのプロペラ型の風力発電機では、台風の風力に耐えきれずにしばしば壊れてしまうことが課題で。おまけに台風自体も、「スーパー台風」なんて言う大型台風が発生したりしているじゃないですか。
だからこのままプロペラ型の風力発電機をどんどん建てていっても、いずれ全部壊れてしまうことも考えられます。台風をエネルギーに変えるためには、新しい風力発電機を実用化することが必要なんです。僕らは今、その新しい風力発電機をつくるチャレンジをしています。 - 台風からなんて、すごい量のエネルギーがつくり出せそうです!
実は、台風一個のエネルギーって日本の50年分の電力を生み出せるほどのエネルギーを持っているとも言われてるんですよ! これを活かさないのはもったいない。そこで、僕らがつくろうとしているのは、台風にも耐えられるプロペラのない風力発電機。
従来のプロペラ型の風力発電機は、先ほどもお伝えしたように構造的に台風で壊れやすいんです。その理由は、プロペラが飛行機の翼みたいな形をしているので、強風が当たると必要以上に力が出ちゃって、暴走するから。暴走して過回転して燃えたり、折れたりすることで壊れる。ならば、プロペラのない風力発電機をつくればいいと思ったんです。
野球のカーブボールと同じ物理現象を使って
- プロペラがない風力発電機…(ポカーン)
……なるべくわかりやすく説明しますね(笑)。まず、僕らの風力発電機はプロペラのかわりに円筒がついていて、風の中で円筒を回すことで発生する「マグナス効果」という物理現象を使っています。野球のカーブボールやサッカーのバナナシュートなど、ボールに回転をかけると曲線を描きながら動くでしょ?
あれがマグナス効果で、風を受けながら飛ぶボールに横回転をかけると、風向きに対して横向きに力が発生しているんですね。実はこのマグナス効果は、回転が速いほど強くなり、飛行機の翼の揚力よりも力を大きくすることもできます。逆に、回転を止めてしまえば力を0にすることもできます。この現象を活用することで、今までのプロペラ風力発電でできなかったことができるんですよ。 - その力を電力にする仕組みって、具体的にどのようなものなのでしょうか?
風力に合わせて円筒の回し方を制御して、風車の発電量をコントロールするのが大きなポイントです。たとえば風が弱いときは円筒を速く、風がすごく強いときはゆっくり回すわけですよ。そうすると理論上、どんな風でも同じように風車を回して電力を生み出すことができるはずなんです。それって、従来のプロペラ型だと難しいんです。風が強いとビュンビュン回っちゃうし、風が弱いと回らないから。
それに加えて、プロペラ型の風車と違い、地面に対して垂直に回転する「垂直軸型」にしています。垂直軸にすると、あらゆる向きの風に対応できるようになるのが大きなメリットなんです。
プロペラ型の風力発電機って、風向きに対して常に正面を向け続けるのが難しいんです。垂直軸であれば、阿修羅像のようにどんな風向きに対しても正面となりますし、その上、例え左右から同時に風が吹いたとしても問題ありません。
つまり、私たちが考案している「垂直軸型マグナス風力発電機」は、どんな強さの風でも、そしてどんな方向からの風でも発電できる構造なので、強風で、しかも風向きがころころ変わる台風でも発電ができるという発想なんです。
- それはすごい! これまでの常識を覆しますね。
そうでしょう(笑)。福島第一原発の事故が起きた当時は、普通に大手企業のサラリーマンでエンジニアをしていました。そのままいれば一生安泰だったかもしれませんが、あの原発事故が自分にとってあまりに衝撃的で。
やっぱり原発はなくさないといけないと思ったし、でもなくすためには、原発に代わるものが必要だなと。そこでいろいろ調べて行き着いたのが、再生可能エネルギーでした。その中でも、太陽光発電は半導体だから自分で作ることはできないけど、風力発電機ならどうにかなるんじゃないかと考えたわけです。
風洞実験用の試作機
- 「今夜はクリスマスだから鶏の丸焼きつくってみるか」くらいのノリに聞こえますけど、つくるのは風力発電機(笑)。
火がついたら、前のめりになっちゃって(笑)。いろいろ風力発電について調べた結果、様々な課題がわかり、最終的に今実用化に向けて動いている「垂直軸型マグナス風力発電機」のアイディアをひらめいたときには、「あ、俺このために生まれてきたんだな」って思って、そこからはもう、勢いが止まりませんでした(笑)。
休日に独力で開発を進めて、ありがたいことに特許を一発OKで取得できたので、会社を辞めて、自分で会社を立ち上げたという流れで今にいたります。
それに、このエネルギーの問題は、日本の未来にとって本当に重要なことなんです。福島原発事故の問題は、僕らの生きているあいだに終息することは不可能ではないかと思います。後に続く世代のために代わりになるような技術を残しておかないと、日本人として世界に顔向けができなくなるじゃないですか。
すごくでかいこと言いましたけど、でも実際そうだと思うんです。元々日本は原発に依存しすぎていて、再生可能エネルギーの普及も遅れています。だから自分が取り組むことで、世の中のエネルギーシフトに貢献できるんじゃないかなって。
チャレナジーが日々実験を積み重ねている、東京都墨田区の町工場・株式会社浜野製作所の一角にあるガレージ
2016年夏、いよいよ沖縄で実証実験
- しかしながら、特許を一発で取られたなんてすごいですね。
いえいえ、正直これは自分でも驚きました。普通は一度は突き返されて、修正してやっと取れることがほとんどですから。日本だけでなく、国際特許を取得しようとアメリカとかヨーロッパとか、いろんな国々へも自腹で出願して、車1台分は資金をつぎ込みました。
それでいよいよ当時勤めていた会社を辞めて、東京へ出てビジネスコンテストに参加して優勝したり、経産省の関連組織である国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の起業家候補支援に応募して採択されたりと、話が現実的になってきたのが2014年の秋ごろです。
- それから2016年までに、どのようなことがあったんですか?
NEDOからの資金を得られたので、僕らの開発した風力発電機の性能についてコンピューターシミュレーションを行うことになったんです。しかし、実際やってみたら1%以下の発電効率しかないことがわかって。この結果、悪いにもほどがあるんで、びっくりしちゃいましたよ(苦笑)。普通のプロペラ型の発電機は、発電効率30〜40%くらいなんです。
最初に「1以下」という結果を見たときには、てっきり「%」に換算されていないんだと思い、「数十%あるなら何とかなりそうですね!」ってシミュレーションしてくれた専門家に言ったら、単位は「%」だよ、と言われまして。ひっくり返っちゃった。それが2014年の12月だったんですが、翌年の7月にはNEDOに中間報告が必要で、そこからは本当にドタバタですよ。
垂直軸型マグナス風力発電機の、風洞実験用試作機実験動画
- それは……本当にとてつもない壁でしたね(汗)。
でしょ?(笑)。根本的な問題なので普通はそこであきらめるし、実際やめたほうが良いと言われることも少なくなかった。学会に参加したときも、専門家に「なんでプロペラ使わないの? 台風はレアケースなんだし」と鼻で笑われたこともある。
けど、そこはねばりました。とにかく実験を重ねて、円筒の表面の形状を変えたことでマグナス力が向上して、さらに円筒の横に板を設けることによって風の抵抗を減らし、ようやく事業化が現実的になる発電効率を叩き出せたんです。これができたのは、中間審査の直前のことでした。
- 清水さんのあきらめない力に感動です…! 今は本格的に実用化が視野に入ってきているということでしょうか?
今年の夏、いよいよ沖縄の南城市に設置して、台風発電の実証実験を予定しています。設置場所は、ご好意で巡り会ったんですよ。偶然僕らの取り組みを新聞で見た方が連絡をくれて、「別荘用に土地を買ってるんだけど、まだ別荘建てないので当面更地です。ここでよかったら実験してください」といってくださったんです。
- 素晴らしいご縁。沖縄の台風はすごそうですが、実験うまくいきますように!
車が吹っ飛ぶって言いますしね、沖縄の台風(笑)。けどもしこれで成功したら、人類がはじめて台風っていう災害をエネルギーに変えた瞬間になるんですよ!これはもう、ドラえもんの世界ですよ。実は、ドラえもんにそういう道具があるんです。「台風トラップ」っていう。で、ドラえもんが言うわけですよ。「台風のエネルギーはものすごいんだ。少しでもつかまえとけばいろいろ使い道がある」って。僕らはそれを実現して、22世紀の常識をつくります! 夢があるでしょ?
- ありまくりです! そんな清水さんは、10年後でいえばどんな未来をつくりたいですか?
10年後には、一基でもいいから原発をこの世界からなくしたいですね。既に動いているものを止めるのは難しいかもしれませんが、新たに原発を建設する代わりに僕らの風車で賄えるようにするとか。全部を止められるのはそれこそ22世紀になるかもしれない。それでも、とにかく一基ずつなくしていきたいと思ってます。
- 清水さんが実現される未来、今からとても楽しみにしています!
ありがとうございます。最後に、現在この沖縄県・南城市で行う実証実験のためにクラウドファウンディングを行っています。実験は決定しているものの、その費用が1,500万円以上かかります。ぜひ新しい電力の常識をつくるために、みなさんのお力をお貸しいただけたら幸いです。
>>チャレナジーのクラウドファウンディングはこちらから!
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