andu ametは、世界最高品質といわれているエチオピアの羊の革をつかったバッグブランド。ひと目で記憶に残るこのバッグをデザインし、単身アフリカの大地でタフで豊かなコミュニケーションをとりながら現地法人を立ち上げ、世界に向けて新しい価値観を発信しているのが、鮫島弘子さんです。 彼女がバッグを通して実現したい世界はなにか? 仕事をする喜びの源泉は? そして起業から現在に至るまでのご自身の変化についてお聞きしました。
ほんとうの豊かさをつくるバッグを
——まずandu ametの事業について教えてください。
鮫島弘子さん(以下敬称略):andu ametは、"MADE IN AFRICA"のハイブランドです。エチオピア産の羊革(エチオピアン・シープスキン)は、世界最高品質と言われていますが、それを使用した製品の企画・製造・販売を行っています。そして企画から資材調達、製造、販売まで全ての過程においてエシカルなものづくりを徹底しています。
——事業を通して、どんな未来(たとえば10年後に)をつくろうと考えていますか?
鮫島:andu ametのミッションは、本質を追求したものづくりを通じ、作るひと、使うひと、贈るひと、贈られるひと…手にする全てのひとにHAPPY!をお届けすることです。弊社は、エチオピアに高いレベルの技術を移転し、現地ではかつてなかったほど高い付加価値のものづくりを実現し、新しい産業のジャンルを作り出したことなどで国内外から大きな評価をいただいています。
ですがそれと同じくらい、あるいはそれ以上に、事業を通じて実現したいことがあります。それは、途上国である生産地だけではなく、先進国である市場において「人々がなにかを手に取るときに、目の前の物のデザインや値段だけでなく、その裏側のストーリーにまで想いを馳せることができるような社会を醸成していくこと」です。ひとりひとりがそういう価値観を持つようになることで、私たちの生活はよりみずみずしく彩られ、精神的な豊かさに満ちたものになるでしょうし、いきすぎた大量生産と大量消費、それによる産業の空洞化 など、今の日本のものづくりが抱えるいろいろな問題の解決の一歩にもつながるものと信じています。
自分と同じような目線で、同じくらいの情熱で働ける人と
——バッグを通して考え方やものの見方、価値観を変えたい、そういった問題意識が事業をスタートした根底にあるんですね。2012年に創業されて、エチオピアで現地生産を立ち上げて軌道にのせるまで、かなり困難なことが多かったのではと想像しますが…?
鮫島:初期のころは、日本の品質や仕事の進め方などを理解してもらえず職人とのやりとりに苦労しました。それから、エシカルの理念を追求するためにこれまでの生産体制を抜本的に見直し、新しい現地法人を設立した時も本当に大変でした。生産ラインの再構築のため販売を中止し、また工房をゼロから作り直すことになり…。andu amet史上というか人生で一番大変でした…。 それでもなんとか突破することができたのですが、それによって次のステージへの移行期に入り、もう1人で全てを回すのは難しくなってきました。
自分とと同じような想いを持ち、自分と同じくらいの情熱を持った人に参画してもらい、今よりもダイナミックに、社会へのインパクトもより大きく出せるように育てていきたいと思っています。会社としてはスタートアップですが、すごい勢いで成長しており、販路開拓、マーケティング、海外事業立ち上げなど、やらなくてはいけないことはたくさんあります。
事業を拡大してはいくけど、マスにはならない
——事業が次のステージに来ているんですね。
鮫島:はい。事業のファーストステージは、会社としての基盤をつくるということでした。これまでずっと供給できる量よりも多く需要があって、お客さまにお待ち頂いている状況でしたが、今やっと安定した生産体制ができてきて、次の段階に行けそうです。次のステージでの挑戦としては、安定して売れるようになること。具体的には、店舗の開設とオンライン販売の拡張、海外での展開などです。
これまではロイヤリティの高いお客さま、ファンになっていただいたお客さまに買っていただくことが多かったんです。取引先にも恵まれていて、ブランドを愛し、一緒に育てようと思ってくださるバイヤーさんとばかり仕事をさせていただいてきました。でもこれから次のステージに事業を拡大していくと、これまでとは違うお客さまやバイヤーさんたちとも接することになるでしょう。 夢や理想だけではなく、今まで以上にシビアに結果が求められていきます。でも、だからといって売れるならどこに卸してもいいというわけでもない。事業を拡大していくけれど決してマスにはならないというか。これまでにはなかった市場を作る難しさとやりがいがあります。
——なるほど。そこでの譲れない価値というか、andu ametのコアコンピタンス、価値の中心にあるものはなんなのでしょうか?
鮫島:一つはデザインですね。実はいわゆる「売れるデザイン」というのはあるんです。流行りを抑えつつ、でもシンプルで悪く言えば無難なものとか・・・。でもそれをandu ametで作ろうと思わない。嫌いな人には嫌われちゃうけど、好きな人にはandu ametじゃなきゃダメと言ってもらえるような、そんなオンリーワンのものを作りたい。 それから、どんなに時間や手間ヒマがかかっても構わないから、自分が心から納得できるようなアートピースのようなものを作っていきたいと思ってます。それって、使う人にはもちろんデザイナーにとっても職人にとっても贅沢なことですが、ゆっくりとした時の流れのエチオピアだからできることだとも言えます。
——たしかにandu ametのバッグのデザインは心に残りますね。抱きしめたくなるようなあの独特なデザインのインスピレーションはどこからやってきたんですか?
鮫島:エチオピアの生活とか自然がインスピレーションの大きな源ですね。弊社の人気製品「Big Hug」のカラフルなレイヤードは、エチオピアのチマキというフルーツジュースからインスピレーションを得ました。
「自分のインスピレーションが信じられる」
——数年前にお会いしたときと比べて、一回りも二回りもタフになられたような印象を受けました。ここ数年でどういう変化がご自身の中でありましたか?
鮫島:迷ったり悩んだりすることが以前に比べ無くなってきました。いっぱいいっぱい悩んで悩んで。。。ということを何度も繰り返して、自分の中がクリアになってきたのかなと思っています。「これはいまやることだな」とか「これは10年後だな」とか、いまするべきこと、そうでないことの優先順位がクリアになったので、結論を出すのが早くなりました。それとかぶりますが、自分のインスピレーションや勘を以前よりもっと信じられるようになりました。 以前は、たとえば人にお手伝いしてもらうときもすこし遠慮がありしましたが、いまはしたいことがクリアになってるので、他人に対しても「これをやってください」、「やりなおしてください」というのがはっきり言えるように強くなりました(笑)。
——なるほど。では仕事をしていて楽しいのはどんな時ですか?
鮫島:エチオピアの工房で、美しい製品ができあがってきて、それを手にしたときです。もう何年も、何十回も経験してるけど、それでも毎回感動しますね。 あとは、店頭での接客も楽しいです。はじめていらした方が、ハッと目をとめ、興味深そうに近づいてきて、触って驚いて、また眺めて…どんどん魅了されていく過程を見られるのが嬉しいです。すでにファンになってくださっている方が、バッグと一緒にやってきて、どんなにご自身が愛用しているかを話してくださるのを聞くのもとても嬉しいです。 あとは(笑)、職人が成長しているなあと感じる時も。困難も大きい分、達成感や喜びもまたひとしおです。仕事をすることの喜びを以前より強く感じることができるようになりましたね。
——鮫島さんが、前に勤めていた世界的なラグジュアリーブランドを辞めた後、転職というかたちで既存の仕事を選択するのではなく、自分の仕事を自分で”つくろう”と思ったのはどうしてだったんでしょうか?
鮫島:それは、やりたいと思っていたことが既存の会社でみつけられなかったからです。実はもともと起業自体には全く興味がなかったんです。今も実はそこはどうでもよくて、andu ametのミッションを実現できるのであれば、自分自身のポジションはなんでもいいんです。
——そうなんですね。起業するときはなおさらたいへんなこともあったのでは。事業をはじめる時、どんな人に相談しましたか?
鮫島:「こんなことがやりたい!」というのを、会う人会う人に言っては相談していました。そのおかげで、思わぬところからどんどんネットワークやチャンスをもらえましたね。そんな中でもとくに参考になったのは、起業していた友人です。大企業で結果を出している人の意見と、小さくても起業経験のある人の意見では、何を相談しても答えがだいたい正反対でおもしろかったですよ(笑)。
「そのまま好きなように、自分が感じるままに、生きていいよ」
——これまでの人生の中で、自分が「変わった」「成長した」と最も実感した時のことを教えてください。
鮫島:なにか晴天の霹靂のようなできごとがあって自分が変わった、というよりは、少しずつ色々な経験をして変わってきたんだと思います。普段は、予定どおりにものごとが進まなかったり、自分のふがいなさや能力の低さに憤りを感じたり、悲しくなったりしてばかりなんですけど、でもなにかのタイミングでふと、起業したばかりの頃のことを思い出したときなどに、やっぱり少しずつでも自分は成長しているんだなあと感じますね。
——いまなさっていることは、誰かの、何かを、受け継いでしていることだと感じることはありますか?
鮫島:父も祖母も絵を書いたり、自分でなにかを作ったりするのが好きだったんです。子供のころからそういう風景を見て育ったことは、影響しているかもしれませんね。
——最後の質問。いま18歳の自分に会ったら、どんなアドバイスをしますか?
鮫島:そのまま好きなように、自分が感じるままに、生きていいよ、かな?今の時代は情報がありすぎて、逆に迷ってしまいがちですが、誰に何と言われようと自分の信念を信じて進めば、物事なんて意外と何とかなるものなのかもしれません。
——ありがとうございました!
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