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#スタートアップ

老若男女、パンクもポップも、おなじ夜行列車に乗っていく。むかう先には美術がある! (くま美術店・荒木了平さん)

2016.02.29 

美術を楽しんでもらえる方法を真剣に考えて実践する、「くま美術店」。店主は美術大学で日夜彫刻をつくっていたという、荒木さんです。「くま美術店」なんてかわいらしい名前とは裏腹に、ちょっとイケイケ(死語ですかね…)な感じの荒木店主。

そんな店主が夢見る10年後は、とってもパンクで幸せな美術の未来でした! 荒木さん

荒木さんと三沢厚彦さんのクマ

クスッと笑えるのが、美術。アーティストのことばを翻訳する

- 10年後のために、どんな未来をつくりたいですか?

 

私は美術を、ディズニーや野外フェスみたいに、いろんな人が楽しめるようなエンターテイメントにしたいと思っています。というより、近いうちにはそうなるだろうと思っています。 たとえばイタリアだと、でっかい美術のイベントがあったときに、おじいちゃんやおばあちゃん、パンクな若者たちが同じ夜行列車で駆けつけて、美術を楽しむっていう状況が今もあります。イタリアだからとか関係なく、楽しいことがあれば人は集まります。

日本でも、きちんと美術の楽しさを伝えられれば、見に行きたいと思ってくれる人は増えるはずです。 ですが、現状の日本の美術館には、スラックスを履いたおじいちゃんや、花柄帽子のおばあちゃんが並んでいます。それはそれで悪いことではないですが、若者が気軽に楽しめるような状況ではありません。美術館からご老人を追い出したいわけではなく、年齢や性別や思想信条をこえて楽しめる美術のかたちをつくっていきたいと思っています。 びじゅツアー

 

なんだか偉そうに見えてしまう美術ですけど、本当はクスッと笑えるものも多いです。だって美術をつくっているのはアーティスト。彼らは、「普通」には生きられない人たちで、コミュニケーションも上手ではないから、会話のかわりに作品をつくります。

そのため、美術品を見ることに慣れていないと、アーティストがなにを言いたいのかわからず、ことばの通じない人としゃべるようなフラストレーションがあると思います。 ですが、きちんと彼らの言いたいことを理解できれば、まったく違う異国で生まれ育った人と話をするような、とんでもなく面白い世界がそこにあります。

私は、アーティストと見る人をつなぐ通訳のような役割をしたいと思っています。そのために今は、ウェブサイトを活用しながら、美術を上から目線で見る「びじゅツアー」や、名画「ダ・ヴィンチの最後の晩餐」のごはんをみんなで再現するイベントなどを開催しています。

普通のことばで美術のことを話したら、心の中のクマがあばれだす?!

- おじいちゃん、おばあちゃん、パンクなお兄ちゃんお姉ちゃんが同じものを楽しむために夜行列車に同乗している未来なんて、とっても幸せですね! ちなみに、挑戦にはつきものと言われる「壁」ですが、これまでにどんな困った出来事にぶつかったのか教えていただけますか?

 

なんでそんなこと聞くの…(笑)。そりゃいろいろありますが、まずは絵が売れないことですね。本当は、イベントは無料で絵を売ることを収益の源泉にしたいんです。そうすればアーティストも自立できるし。ただ、すごく難しいっていうのが今の実感です。 だからいろいろやっていきます。

今年の春ごろから、絵を買ってくれる人とアーティストと僕の間に「キレーター(造語。美術の通訳や紹介者のような意味)」をつくろうと思っています。お客さまとアーティストをつなぐ存在を作っていきたいなと思っていて。実はこれ、お客さまからいただいたアイディアなんです。そういうのやりたいって。

 

- すみません(笑)。でも、これから起業したい人たちのために一肌脱いでくださってありがとうございます! それにしても、お客さまとそんな関係性が築かれているというのは嬉しいですね。くま美術店を支える仲間たちが続々と集まってきているのですね。

 

ありがたいことに。「絵をいきなり買うのは賃貸の家を借りている現状から難しいけど、絵を買ってくれる人を紹介することはできる。でも、そうなると自分が納得のいくアーティストを紹介したいから自分で選ばせてほしいし、くま美術店が仲介してくれたら、僕はキレーターになって自分が素敵だと思うアーティストの作品を発信して売りたいな」って。

イベントを通してお客さんからそういった声をたくさんもらえて、本当に助かっています。自分だけでは出せるアイディアが限られているし、なんもできないけど、こういうことしたいって言い続けていると、ゆっくり前には進めます。

 

- 本当に素敵な循環ですね。くま美術店のやっていくことは場作りなのかなと思っていましたが、いろんな方面からチャレンジされていくんですね。

 

うーん、場づくりだとは思うんですけど、1番大事なのは箱ではなく中のソフトの部分だなと思っています。どんなことばを投げかけたら、フラットに美術の話ができるようになるのかというところですね。

 

- それはなかなか難しいことですよね?

 

そうですね。私はできますけど。

 

- ……すごいですね!! どんなことばを投げかけるんですか?

 

ふつうに説明しています。「この作品は、こういう人が、こういう気持ちで作っています」って。 アーティストは普通じゃないと言いましたが、街中見渡しても普通なだけの人なんていないです。みんな心に「凶暴な熊」を飼っていると思うんです。ただ、多くの人は熊を檻の中にいれているけれど、アーティストは野放しで暴れさせている。

美術をきちんと楽しめると、みなさんの熊も檻から出てきて、暴れ出します。それはワクワクする体験です。そこには、ちょっとしたきっかけがあればよくて、ふつうの言葉で作品のことを話すだけでいいんです。まあ、わけわかんないですよね。 ともかく、私がやりたいことは、社会状況はこうなってニーズはこうだからというような、対処療法的なことじゃなくて、日本のアートに対する雰囲気を1回ぜんぶ壊しちゃいたいんですよね。 美術を楽しむ - 「くま美術店」って、そんな背景があってつけられた名前だったのですね! わたしのなかの熊もいつか暴れ出す日がくるのでしょうか……そんな自分、ちょっと出会ってみたいですね。 今は、イベントやパトロンの仕組みづくりに奮闘されている荒木さんですが、このふたつ以外に今後たくらんでいることはありますか?

 

いや、それがいろいろあって。でも、私もあんまり説明するのが上手くないし、行動力も人並み以下、頭はもちろん悪いですから、できることは限られています。「ウェブで一気に! 」みたいな人はすごいと思うけれど、自分はそんなことできないし、地道にやっていきます。

 

- 地道に、ですね。

 

地道に。美術はながい歴史のうえにあります。それに比べれば私のやっていることなんて一瞬ですから。地道にしっかり進んでいきます。

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桐田理恵

1986年生まれ。学術書出版社にて企画・編集職の経験を経てから、2015年よりDRIVE編集部の担当としてNPO法人ETIC.に参画。2018年よりフリーランス、また「ローカルベンチャーラボ」プログラム広報。