もはや途上国だけの問題ではないと言われる「貧困問題」。今回はイギリスにおけるフードバンクを取り上げ、先進国に拡大する貧困問題の現状を紹介します。
イギリスで急増するフードバンク利用者
フードバンクとは、「包装の傷みなどで、品質に問題がないにもかかわらず市場で流通出来なくなった食品を、企業から寄附を受け生活困窮者などに配給する活動およびその活動を行う団体」のことです。近年イギリスでは、フードバンクの利用が急激に増加しています。
イギリス全土で活動する代表的なフードバンクである「トラッセル・トラスト」の利用者は2008-09年にでは約2.5万人でしたが、2015-16年には、約44倍の約110万人と信じがたいほどに膨れ上がっていることがわかります。 トラッセル・トラストでは、主に3日間の緊急フードパッケージ(非生鮮食品で栄養のバランスが取れた食料の詰め合わせ)を無償で提供していますが、このフードパッケージは誰でも簡単に受け取れるわけではありません。 医師やソーシャルワーカーなどの専門家が、危機に瀕した人にのみ発行する「フードバウチャー」が必要となります。にもかかわらず、フードバンクの利用者がこれほど急増しているのです。
なお、トラッセル・トラストのフードバンクはイギリス全土に424拠点あり、10,573トンに及ぶ食糧寄付、39,201人の専門家(医師やソーシャルワーカーなど)、40,000人のボランティアがその活動を支えています。
なぜイギリスで貧困問題が拡大しているのか
2014年末、イギリスの超党派議員のグループが「Feeding Britain」という報告書を発表しました。それによると2003 年以降の 10 年間で、食料47%、家賃30.4%、光熱費153.6%と生活費が上昇しています。それにもかかわらず、収入の伸びは28%に留まっており、生活が年々苦しくなっていることが報告されています。 さらに、下位20%の貧困層の平均収入は、フランスで12.7ドル、ドイツで13.4ドル、ベルギーで12.4ドルにもかかわらず、イギリスの平均収入はたったの9.5ドルと他の欧州先進国で圧倒的に低く、低所得者層がさらに困窮している現状を報告しています。 収入は上がらず、家賃や光熱費などの生活費が上昇し続け、政府の緊縮財政により低所得者向けの社会保障は削減される。その結果として多くの貧困世帯がうまれています。そうした人たちにとって、今やフードバンクは生死を分けるライフラインとなっているのです。
他の先進国でも拡大する貧困問題
イギリスだけではありません。先進各国において、高止まりする失業率や、職にありついたとしても十分な収入が得られないワーキングプアなどの問題が注目されつつあります。1990年以降、途上国における極度の貧困が半分以上削減されてきたのとは対象的に、先進国における「貧困問題」は拡大の一途をたどっています。
引用:日米欧の先進国で「貧困」拡大 非正規雇用など原因か (2016/5/19)
日本でも広がりをみせるフードバンク
日本にもフードバンクは存在し、28の事業者が活動をしていますが、食料の無駄をなくす食料廃棄、食品ロスなど、環境的側面でフードバンクが語られている印象です。日本のフードバンク「セカンドハーベスト」によると、児童養護施設、福祉施設、シェルターなど一部の貧困に陥ってしまった人への支援が行われていますが、まだ認知度や取組みの規模は小さいのが現状です。 貧困世帯の増加は、日本においても他人事ではありません。終身雇用が崩壊し、非正規雇用が増加し、かつひとり親世帯が増加している現代においては、生活費や物価の上昇が発生すれば、普通に仕事をしていても容易に生活苦に陥る可能性があります。食事にありつけないという状況は他者からはみえづらく、課題として表面化しにくいという問題もあります。 日本においてもイギリスのようにフードバンクが普及することで、施設やシェルターで生活する人たちだけでなく、広い意味での貧困状態にある人達にもサービスが広がっていくことが期待されます。
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