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“幸せのものさし”を見つけよう―鎌倉投信・新井和宏さん×MAKOTO・竹井智宏さん対談「会社と地方の幸福論」 vol.2

2016.10.03 

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連載対談「会社と地方の幸福論」は、一般社団法人MAKOTONPO法人ETIC.ローカルイノベーション事業部の共同企画です。この秋、わたしたち2団体は、東北で生まれている移住・起業の火種を東京で体感するイベント「TOHOKU IGNITION」を、4回にわたって開催します。第2回のテーマは「東北の食・一次産業」。10月26日(水)19:00から銀座ファーマーズラボを会場に、パネルディスカッションと懇親会を予定しています。「食」「一次産業」というキーワードにピンと来た方は、ぜひご参加ください! 詳細・ご応募はコチラから。

 

現代の日本は、ストレス社会だと言われます。その大きな要因となっているのが、「お金」や「仕事」に関する悩みです。

なぜ、お金や仕事がストレスの原因となってしまうのか。これらとどう付き合えば、わたしたちは幸せに近づくことができるのか……。そんな疑問から、それぞれ仙台と鎌倉を拠点に“いい会社”をふやすことに取り組む、一般社団法人MAKOTOの竹井智宏さん、鎌倉投信株式会社の新井和宏さんに、話を聞くことにしました。

連載対談「会社と地方の幸福論」の第2回は、“幸せのものさし”についてです。

※第1回も合わせてご覧ください。

●「“いい会社”の条件とは?-鎌倉投信新井和宏さん×MAKOTO竹井智宏さん対談「会社と地方の幸福論」vol.1-」

竹井智宏さんのプロフィール

一般社団法人MAKOTO 代表理事

1974年生まれ。東北大学生命科学研究科博士課程卒。仙台のベンチャーキャピタルにて、ベンチャー企業への投資に従事していた際に東日本大震災が発生。震災後の2011年7月に一般社団法人MAKOTOを設立し独立。日本初の再チャレンジ特化型ファンド「福活ファンド」を組成し、起業家の投資育成活動を展開。2015年、日本ベンチャーキャピタル協会より「地方創生賞」を受賞。起業家育成の環境作りにも力を入れ、東北最大のコワーキングスペース「cocolin」を仙台市内で運営。東北随一のクラウドファンディングサービス「CHALLENGE STAR(チャレンジスター)」も展開。2016年、日本財団「ソーシャルイノベーター支援制度」によりソーシャルイノベーターに選出。東北大学特任准教授(客員)。

新井和宏さんのプロフィール

鎌倉投信株式会社創業者・取締役資産運用部長・「結い2101」運用責任者

1968年生まれ。東京理科大学工学部卒。現・三井住友信託銀行、ブラックロック・ジャパンに在籍し、ファンドマネージャーとして数兆円を運用する。2007年、大病を患ったこと、リーマン・ショックをきっかけに、10年近く信奉してきた金融市場・投資のあり方に疑問を持つ。2008年、同志と、鎌倉投信株式会社を創業、以降投資信託「結い2101」の運用責任者として活躍。経済性だけでなく社会性も重視する投資哲学の下、「結い2101」は、個人投資家1万6千人以上、純資産総額230億円超(2016年8月時点)の支持を集め、2013年には第3者評価機関の最優秀ファンド賞も獲得。特定非営利活動法人「いい会社をふやしましょう」理事も務める。

 

悲しみが利益につながる構造

--現代は「お金」との付き合いがストレスにつながってしまうことがあるように思うのですが、竹井さんが代表を務める一般社団法人MAKOTOのサイトでも「資本主義のゆがみ」という言葉が使われていますね。「資本主義のゆがみ」とは、どういったことでしょうか。

 

竹井:そうですね。お金は、もともとは物々交換を仲介するためのツールでしかなかったはずです。でも現代は、多くの方がお金に左右されて人生を決めてしまったり、自分を殺めてしまったりすることさえあります。「それって、本末転倒なんじゃないかな? 」と思っているんです。

 

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--単なる手段であったはずのお金に、いつの間にかわたしたちは振り回されてしまうことがあると。そのように考えるようになったきっかけは、なにかあるのですか?

 

竹井:個人的な話になってしまいますが、わたしの妹が自殺したのです。妹自身は「世の中の役に立ちたい」と思って、いろいろ模索はしていたんですが、なかなか活躍の場がなく、居場所もなかったようです。社会に目を向けてみても、日本にはたくさんほんとに自殺する方がいて。

 

--年間約3万人とも言われていますよね。

 

竹井:ええ。やっぱり「この社会はどこかおかしいんじゃないかな」っていうのは、直感的に感じましたね。繊細な人ほど、その「おかしさ」に思い悩んでしまうんじゃないか。だから、そんな社会の「おかしさ」を放置するわけにいかない。変えていかなくちゃいけないと思ったんです。

 

新井:その「おかしさ」のひとつが、「悲しみが利益につながる構造」だと思っています。

 

--悲しみが利益につながる構造とは?

 

新井:はい。「復興需要」という言葉があるように、なにか不幸なことが起こるとその後の需要が増えて、結果的に会社の利益や、国のGDPが増えることがあるんですよ。それがいまの資本主義のしくみなんです。

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--どうして、悲しみが利益につながってしまうのでしょう?

 

新井:だって、いまの経済はストック(一定期間に貯まった量)ではなく、フロー(一定期間に動いた量)を主な評価基準にしてますから。

現在経済を評価する「指標=ものさし」になっているGDPは、1年間でどれだけの取引がされたか、(お金が動いたか)を測るものでしょう。だから、たとえば震災が起きて復興需要が生まれ、多くのお金が動くようになれば、経済は成長したと評価されてしまうんです。

 

--なるほど。そう考えると、GDPが増えたとしてもわたしたちの幸福度が下がる、ということが起こりうるのですね。

 

最小資本の最大幸福をめざす

竹井:GDPのように、ひとつのものさしだけが大きな力を持つことは、社会にゆがみを生みますよね。本当は、ものさしはもっとたくさんあった方がいい。

 

新井:ええ。「国はGDPを増やしましょう」「企業はROE(株主資本利益率)を上げましょう」っていう、ひとつのものさしに縛られる状況からは抜け出した方がいい。

 

--個人にとっても、ものさしがひとつしかないことは辛いですよね。わたし自身、受験生の時は「偏差値」、就活生の時は「内定した企業の規模」、社会人の時は「年収」といったものさしに縛られていたように思います。どうすれば、そうしたものさしに縛られてしまうことから抜け出せるのでしょうか。

 

新井:まず、「競争する」ことから抜け出すことが大事です。

 

いまは、「より年収を高くするために、東京に行って、一番優秀な大学に入って、一番大きい会社に正社員で入って……」という、ひとつの価値観のもとでみんなが競争することによって、多様な価値観をつぶしているように思います。

 

最近、高校生に向けて講義する機会があって、そこで僕が伝えているのは、「実は、お金(収入)が少なくても幸せになれる状態をつくれれば、全体として幸せになれる確率が高くなる」ということなんです。考えてみれば、当たり前じゃないですか。少ないコストで幸せになれるんだから。

 

だから、「大企業で高いお給料をもらうことを目指してもがき続けることに、本当に意味があるのか?」と、立ち止まって考えてみよう、ということを高校生には言っています。

 

"幸せのものさし"は、自分で見つけるもの

竹井:大事なのは、自分が幸せになるために大切な指標=ものさしを、自分で見つけることなんですよね。

 

新井:ええ。例えば僕にとっての幸せのものさしは、2つありましてね。ひとつは、愛されたい人から愛してもらうこと。別に万人に愛される必要はないんですよ。

 

あともうひとつは、自分が尊敬している人から、「お前のやってることは素晴らしい! 」って褒められること。この2つなんですよ、基本的には。

 

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去年のことですが、伊那食品工業という、いい会社の経営者である塚越会長に初めて褒められて。もうね、すごくうれしかったですよ。直筆のお手紙をいただいてね。

 

4年前ぐらいに初めて個別にお会いした時は、「ファンドなんて、人として間違ってるようなことやるやつは絶対に会わない」って、僕らに対して言っていた方ですからね。その方から褒めていただけるって、人生でこれほど幸せなことないですよ。

 

竹井:すごくわかります。

 

さらに幸せのものさしということに関して、違う観点を付け加えると、「逆張り」を考えるのがいいんじゃないかって気がします。

 

--「逆張り」とは?

 

竹井:つまり、多くの人が「東京の大企業の正社員」という、誰もが並ぶ列の後ろに並ぶことばかりを考えている。それはもったいないなと思うんです。みんなが並ぶから、そこに幸せがあるというわけではないんです。飲食店で言えば、誰も並んでいない隠れた名店のようなところは必ずある。

 

これまでわたしも、「みんながこちらに並ぶなら、自分は逆を行こう」と常に考えてきましたね。日本人は画一的な思考におちいりがちなので、「人の行かない道を行く」ということをもっと意識した方がいいと思います。

 

--どうして、人の行かない道を行くこと、つまり「逆張り」をすることが大事なのでしょうか。

 

竹井:たくさんの人が競争相手になる「東京・大企業・正社員」のようなフィールドよりも、他のフィールドを人生の選択肢として選んだ方が、競争相手が少ないぶん、チャンスもありますよね。

 

たとえば、わたしは仙台で起業家の支援をしていますが、起業を考える方にとって仙台のような地方で起業することって、すごくメリットがあるんですよ。

 

どういうことかというと、地方ではチャレンジャーが少ないので、すぐに地域代表として注目して頂くことができます。注目されればチャンスも増え、メディアにも取り上げて頂きやすくなりますし、販路拡大や大企業との連携に結び付けている人も何人もいます。

 

その他にも、例えば仙台ではMAKOTOが運営するコワーキングスペース「cocolin」など、環境も整っていますし、起業家応援イベント「SENDAI for Startups 」を毎年開催するなど、市としても起業をバックアップする姿勢を打ち出しています。

もし、自分の幸せが「起業」によって叶えられそうなら、仙台のような地方を選んでみると、その幸せを実現するチャンスが増えるかもしれません。

 

続きはこちら 

>> 地方で“いい会社”が生まれる理由―鎌倉投信・新井和宏さん×MAKOTO・竹井智宏さん対談「会社と地方の幸福論」 vol.3

 

この連載の他の記事はこちら

>> “いい会社”の条件とは?―鎌倉投信・新井和宏さん×MAKOTO・竹井智宏さん対談「会社と地方の幸福論」 vol.1

 

>> 地方はゆたかで、めんどくさい―鎌倉投信・新井和宏さん×MAKOTO・竹井智宏さん対談「会社と地方の幸福論」 vol.4

 

>> “人生の有限性”と向き合う―鎌倉投信・新井和宏さん×MAKOTO・竹井智宏さん対談「会社と地方の幸福論」 vol.5

 

 

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山中 康司

働きかた編集者。「キャリアの物語をつむぐ」をテーマに、編集・ライティング、イベント企画運営、ファシリテーション、カウンセリングなどを行う。ITベンチャーにて人材系Webメディアのコンテンツディレクション、NPO法人ETIC.で地方の人材採用に関わるプロモーション業務を担当。東京大学大学院情報学環学際情報学府修士課程修了。国家資格キャリアコンサルタント。