コロナ禍で先行きが分からず、なかなか行動できない……ここ数年、こういった声をよく耳にします。今回ご紹介する中山望さんは、そんな中でもちょっとしたことをきっかけに動き出し、様々な新しい可能性を開いていった方のうちのひとりです。
3人の子育てをしながらフリーランスの映像ディレクターとして活動している中山さんが、故郷の長野で「NAGA KNOCK!(ナガノック)」というプログラムに参加し、その後、長野市内の企業と関わり続けながら大学院にまで進学するようになった経緯を伺いました。
※NAGA KNOCK! : 長野市で社会課題解決に向けた取り組みを行いたい経営者と共に新規事業を起こし、長野市で起業する人を生み出す9ヶ月間の実践型プログラム
中山 望(なかやま・のぞみ)さん
映像ディレクター/動画販促コンサルタント/NAGA KNOCK!1期生
東京工芸大学芸術学部メディアアート表現学科卒。 映像制作会社を経てNHKに勤務。 テレビ制作歴10年以上、100本以上の番組制作の経験を持つ。 フリーランス映像ディレクターとして独立後、子育てをしながら行政や企業向けの動画制作や、動画マーケティングなどの講師・コンサルタントとして活動。現在は仕事の傍ら、長野県立大学大学院で経営を学んでいる。
先行き不透明なコロナ禍1年目。ちょっとした一歩が地元での仕事につながる
元TVディレクターで、学生時代から20年にわたって映像制作のお仕事に携わっていた中山さん。現在は、企画構成やディレクションの他、自ら撮影・編集もできるフリーランスの映像ディレクターとして、行政や企業の動画制作を多数手がけています。その他、スマートフォンを使った簡単な動画制作や、動画配信、メディアリテラシー等、動画制作に関連する様々なセミナーの講師やコンサルタントとしても活躍中です。
更にはYou Tuberとして「動画学校」というチャンネルも開設しています。すでに映像関係の仕事で忙しい中、長野での仕事に挑戦したのはなぜなのでしょうか?
「私が長野での仕事を始めた2020年当時はコロナ禍1年目。人の行き来も制限されているような雰囲気で、先行きがわからない混沌とした時期でした。私も夫も長野県出身なので、そういった状況下で、子育てするなら地元がいいなという気持ちが強まっていました。
『長野 移住 補助金』といったキーワードで検索していて、たまたま見つけたのがNAGA KNOCK!という、長野市で社会課題解決に向けた取り組みを行いたい経営者と一緒に、新規事業を立ち上げながら起業を目指すというプログラムのページだったんです。
締切5日前だったんですけど、人材を募集している企業の動画は全部チェックしました。祖母に手作りしてもらった思い出の味であり、子どもの頃から大好きなおやきに関われたら……という思いで、最終的にはいろは堂への応募を決めました。
生まれ育った長野が大好きなので、仕事として販促プロモーションのお手伝いができたらうれしいし、月に1回は帰省する名目が立つのも私にとっては魅力的でした」
プロジェクトとして打ち出されていたのは新工場の立ち上げスタッフの募集でしたが、面談の結果、本社の方でおやきの集客動画プロモーションができる人材、SNSに強い人材がほしいということで採用。約7ヶ月のプログラムがスタートしました。
NAGA KNOCK! 参加中の中山さん(写真中央)
現業で築いたスキルを活かし、リモートベースで打ち手を模索
中山さんが任されたのは動画制作・S N S 運用サポート・人材育成です。基本的にはオンラインでミーティングを行い、月に1回は現地へ足を運んで、SNSの運用やメディア対応に当たりました。期間は半年程度と限られているため、Instagramに媒体を絞り、いろは堂の担当者と共に基本的な対策をコツコツと実行していきます。
「おいしい食べ方がわかるレシピ動画や、おやきが作られる工程を見せる動画、7年に1度の善光寺御開帳に合わせた『#おやきパカッとムービー』キャンペーン等、必要に応じて現地で一緒に撮影したり、プロモーションを提案したり……ユーザーに役立つ投稿にしていけるよう意識しました。
いろは堂のスタッフのみなさんと、どうやったらおやきが売れるかとか、人材不足やメディア対応等、その時々の課題についてかなり頻繁にやり取りしていましたね。おかげで新工場が立ち上がる時には採用情報に関する動画を投稿する等、SNSでも課題に応じた打ち手を実行することができたと思います」
いろは堂スタッフと中山さんの施策の効果もあり、Instagramのフォロワー数は800人程から2,600人余りへと増加。おやきの売上アップにもつながり、NAGA KNOCK!のプログラム期間終了後もいろは堂との契約が継続することになりました。
いろは堂Instagramより
意外と少ない、県外から地元のために行動する機会
プログラム終了後も、いろは堂とは困ったときの相談役のような関係が続いているという中山さん。プログラムに参加してみてどのような変化があったのでしょうか?
「いろは堂の成果も含めて、長野の他の会社からも販促コンサルタントの依頼をいただけるようになりました。そこはNAGA KNOCK!に参加したおかげですね。
高校生までは長野にいましたし、ディレクター時代にNHKの長野放送局で3年、出産後に2年と、生活者として長野で暮らしていた期間は長かったんですが、会社名は知っていても、これまではダイレクトに関わる機会というのはほぼありませんでした。
今回プログラムに参加したことで、経営者の方がこれほど真剣に地域のことを考えているんだと肌で感じることができ、改めて関われて幸せだなと感じました。
長野のため地元のためと口で言うのは簡単ですが、実際に県外からそんな機会を作ろうと思うとなかなか難しいですよね。今すぐUターンというのは難しいんですけど、遠隔でもふるさとのために何かできるというのはやりがいがありますし、大好きな土地で大好きな人と一緒に仕事ができてうれしいです」
長野でのひとときを楽しむ子ども達(右は中山さんのお父さん)
NAGA KNOCK!がきっかけで大学院生に!?広がるキャリア
中山さんには、NAGA KNOCK!への参加をきっかけにもう1つ大きな転機が訪れました。昨年4月から、生活拠点を埼玉に置きながら、長野県立大学大学院のソーシャル・イノベーション研究科の学生として勉学にも励んでいるのです。
「コロナ禍なので、オンラインで大学院の授業を受けられるのは本当にありがたいです!
これまで、ディレクターとして制作はできるけど、マーケティング領域については専門外でそこまでのアドバイスができないというもどかしさを感じていたので、MBAを取りたいとは考えていました。
経営大学院の情報も集めていたんですが、子どもが3人いるので母の私にそこまでの学費はかけられないので、国公立で通えるところはないかと探していました。そんなときに、NAGA KNOCK!のアドバイザーの先生から長野に新しく大学院ができると伺ったんです。しかも世の中をどう変革していくかに焦点を当てた、ソーシャル・イノベーション研究科。
元々テレビディレクターを目指していたのも、学生時代にカンボジアに行ったことをきっかけに、子どもの貧困といった社会課題に関心をもったからでした。長野だし、公立だし、ソーシャルだし、授業も夜だしと、いろいろとドンピシャだったので、まるで私のためにできるような大学だなと感じました(笑)。
学生時代にカンボジアへ行ったことが社会課題に目を向けるきっかけに
距離に関しては、それまで長野に1年通っていたのも大きかったですね。オンラインもあるし、月に1回はいろは堂に行っていたので、もう1回行けば月2回のスクーリングもなんとかなるかな、と。
それに、首都圏ではない長野でソーシャル・イノベーションを起こすって考えたらワクワクしませんか?これも経営者の方と関わる中での変化だと思います」
長野市の起業支援プログラムNSSでの受賞の様子
3人の子育てをしながら、映像関連のお仕事だけではなく、長野でのお仕事、さらには大学院まで、パワフルに活動されている中山さん。昨年は、長野市の起業支援プログラムNSS(長野スタートアップスタジオ)にも参加し、ピッチ大会で受賞し事業化支援金を得たそうです。中山さんのように、ローカルへの挑戦がキャリアや活動の幅をぐっと広げるきっかけになるかもしれません。
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NPO法人ETIC.(エティック)では、NAGA KNOCK!以外にもあなたとローカルをつなぐプログラムを運営していますので、関心のある方はぜひチェックしてみてください!
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