今回のインタビューでは、「ソーシャル・イノベーション・パイオニア(以下パイオニア)」プログラムの仕掛け人であるデロイト トーマツ コンサルティング合同会社(以下デロイト)のお二人にお話を伺います。パイオニアプログラムは、国連が採択した持続可能な開発目標(SDGs)に関連する特定の課題分野において、高いビジョンを掲げ、革新的な取り組みを行っている非営利団体に対して、デロイトが通常のビジネスと同等の品質とコミットメントを持ち、専属チームによるコンサルティングを無償で提供する取り組みです。
コンサルティングファームが、社会の問題を解決するということを真剣に考え続けた結果、どのような世界が見えてきたのか。パイオニアプログラムの生みの親であるデロイト執行役員の金山亮さんと、事務局として牽引してきたCSR・SDGs推進室シニアマネジャーの小國泰弘さんに、同プログラムの企画・推進をサポートするNPO法人エティック(以下、エティック)の佐々木健介が問いかけます。
我々自身も、社会イシューに取り組む当事者である
NPO法人ETIC.佐々木(以下、佐々木):2016年5月に開始したパイオニアプログラムの第1回では、認定NPO法人ACE(以下、ACE)さん、認定NPO法人育て上げネット(以下、育て上げネット)さんへの支援に取り組まれてきました。なぜこの2団体との協働に踏み切られたのでしょうか。
デロイト金山さん(以下、金山):パイオニアプログラムには、通常のビジネスと同等の品質とコミットメントを約束するなどいくつかの特徴がありますが、最大の特徴は、2つのテーマ(社会イシュー)を掲げて、参加団体をオープンに公募していることです。
(1)サプライチェーン全体を視野に入れた持続可能でエシカルな生産・消費の実現
(2)女性・若者・外国人を含む多様な人々の就業・経済的自立支援
この2つの社会イシューは、日本として諸外国からみて必ずしも解決が進んでいない、むしろ遅れている領域、かつ我々のクライアントである企業あるいはデロイト単独では比較的解決に取り組みにくい領域です。そこを、ACEさんや育て上げネットさんのような、現場の最先端で知見をお持ちのNPOと組むことによって、課題解決が多面的に進んでいくのではないか、という仮説をもって設定しました。より重要なことは、単に2つの社会イシューに取り組む団体を募集するのではなく、デロイト自身も当事者であることです。デロイトは、今回選ばせていただいたNPO(パイオニア団体)を、我々のコンサルティングのクライアントでありつつ、同じ社会変革を目指すパートナーと捉えています。
このような社会イシューの旗を立てることによって、社内に対しても、なぜデロイトがこの2つの団体を応援するのかを伝えるコミュニケーションがしやすくなります。それにより、社会貢献の専門部署などの限られたメンバーだけでなく、経営層や事業部門、社外のステークホルダーをも巻き込んだ取り組みへと進化させていくことが可能になります。
ビジネスのアプローチで社会の問題に取り組む。その企業姿勢が問われている
佐々木:第1回のプログラムを終えて、どのような所感、学びがありましたか。
金山:嬉しい驚きだったのは、コンサルティング期間終了後も、当初の想定を越える次元で、パイオニア団体とデロイトの継続的なパートナーシップ、協働の可能性が生まれてきていることです。どうしてこのような結果が生まれたのかと考えたときに、一つはパイオニア団体の課題解決への熱量がすごかった。これまでCSRに関わっていなかった羽生田や藤井、そしてチームのメンバーたちも、彼らの熱量をじかに体感しながらコンサルティングを進める中で、どんどんコミットメントを深めていくのを感じました。
※羽生田:デロイト執行役員/パートナー・レギュラトリストラテジー リーダー羽生田慶介氏
※藤井:デロイト執行役員/パートナー・ストラテジー リーダー 藤井剛氏
そしてもう一つは、やはり社として注力する社会イシューを掲げたことにあると思います。パイオニア団体とデロイト、そして我が国にとって重要な社会イシュー、Whyが明確にあることで、その課題解決の先端を走るACEさんや育て上げネットさんのような団体からご応募をいただけるし、思わぬ支持者が社内外からたくさん現れてきました。
デロイト小國さん(以下、小國):期間終了後もビジネスベースでの協働が生まれてきていることはとてもうれしい一方で、もともと当社がCSR活動としてプロボノを始めた2011年当初から掲げていた、「社会市民としての責任を果たすこと」「ビジネスで得た知見や経験を社会に無償還元することで、社会や経済のさらなる発展に貢献すること」という目的に対してどう捉えるかは難しいところです。ビジネスとしてやるということは、社会の課題解決を大きく加速させる一方で、ビジネスにならない分野が取り残される可能性も合わせて考える必要があります。私自身は、例えビジネスにならなくても、社会的な責任としてNPOを支援すべきであると考えています。
金山:いまとても難しいのは、「今日のビジネス」と「今日はビジネスではないが、明日はビジネスになるかもしれない社会課題」の境界があいまいになってきていることです。社会貢献とビジネスは、切り分けて考えなければならない。一方で、白か黒かわからないグレーの部分をも誰かが開拓していかなければ、社会貢献の発展も、ビジネスの発展もその先にはないわけです。そのグレーの部分にこそ、社会に必要なイノベーションの種がある。
佐々木:おっしゃる通りです。ただ、企業がすべての社会課題を解決しなければならないわけではないでしょう。東京以外の地域や被災地に行くと特に感じることですが、経済が右肩上がりで「余った利益で社会に貢献しよう」という時代から、地域の存続そのものが問われているいまは、「ありたい地域や社会の未来に向けて、それぞれができる貢献をしよう」という時代です。そこに、社会貢献かビジネスかという議論はありません。NPOはNPOの、企業は企業の強みを最大限生かす形での貢献が求められます。
小國:それは自分たちが儲かるか、儲からないかということではなく、「このまちを、どげんかせんといかん」という尺度で測っていますよね。NPOと行政、そして企業との関係性もフラットなものになる。
佐々木:そのように考えると、あらためて、社会イシューが活動の先頭に立つことは重要です。
小國:我々コンサルティングファームは、ビジネスのアプローチで社会の問題解決に取り組む。ただ、仮にそれがすぐに利益を生まないものだとしても、社会的な責任として社会問題の解決に立ち向かう必要があるという矜持を、コンサルタント一人ひとりが、どこかに持っておかなければならないのだろうと思います。
重要なのは、パイオニアプログラムに参画すると本当に課題解決が加速すること
佐々木:パイオニアプログラムの今後について。2020年をひとつのマイルストーンと捉えたときに、デロイトさんとしてどのようことを社会に仕掛けていきたいと考えておられますか。
金山:まず、第1回で掲げた2つの社会イシューは、2017年度の第2回プログラムでも継続します。企業のサプライチェーンの問題や、若者支援の問題は、1年で何かが大きく変化するようなものではありません。
2020年から見た僕のビジョンであり妄想は、パイオニアプログラムを4年、5年と続けることによって、結果的にこの2つの課題領域でシステムレベルの変化が生まれてくること。これまで想像もしなかったようなNPOと企業のコラボレーションだったり、人々の課題に対する当事者意識の向上や、ソリューションへの共感の渦が巻き起こっている状態です。コンサルティングを通して得られた課題領域に対する知見は、今後デロイトからも発信していく予定です。
小國:「この課題を本当に解決するために、我々がやらなければならないことは何だろう?」という議論を、もっと社内でも進める必要があると思っています。第2回に関心を寄せてくださる団体のみなさまに、「パイオニアプログラムに参画すると、本当に自分たちの課題解決のスピードが飛躍的に上がりそうだ」と思ってもらえるように、我々自身も進化する必要があります。そのうえで、何らかのレバレッジをかけていかなければいけないと考えています。パイオニアとして選ばせていただくのは1年間で2・3団体かもしれませんが、それだけではやはり、目指す社会課題解決に向けて十分ではないかなあ、と。
佐々木:いまは1つのNPOを強くする支援を通して社会イシューに向き合っておられるわけですが、ゆくゆくはイシューの課題構造そのものの解決に、デロイトさん自身がほかの団体や企業とパートナーシップを組んで踏み込んでいくという展開も、あるのかもしれませんね。
社会の問題を解くことは、すべてのコンサルタントが持っている根源的な欲求
佐々木:最後に、デロイトさんの組織内でパイオニアプログラムをどのように広げていこうとされているのかについても、お考えをお聞かせください。
小國:まずは、これだけ本気で社会の課題解決に取り組んでいるのだということを、社内でももっと多くの人に知ってもらわなければならないと考えています。悩ましいのは、無償でのコンサルティングという形をとる以上、プログラムに直接関与できるコンサルタントの数はどうしても限られることです。
金山:とりわけ若いコンサルタントの中には、今回のようなプロジェクトに関心のある方は非常に多いです。先日ACEさんをお招きして社内セミナーを実施した際にも、若手コンサルタントを中心に30名以上から応募がありました。彼らの熱量をてこに、プログラムへの関与の機会やエンゲージメントをどのように広げていくかは、事務局としての今後の課題です。
小國:もしかしたら、若手は「声を上げやすい立場にある」というだけで、本当はシニアも含めた多くのコンサルタントが、潜在的にやりたいと思っているのかも知れません。今回の羽生田にしても藤井にしても、プロフェッショナルとして仕事を受けたことに加えて、もともと個人として強いアスピレーション、志があったのだと聞いて、改めて社会課題に対する思いを感じました。
金山:日ごろ組織内の役割を前提に接しているとなかなか見えて来ないけれども、個々人のベースでは皆社会への問題意識が非常に高いし、社会課題の解決に貢献できる仕事を本当はやりたいと思っている。
小國:羽生田が言う「コンサルタントは、自分がイシューだと思ったものをやる権利と義務がある」。もしかしたらコンサルタントは、もともとそういうベースを持っているのかもしれませんね。
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社は、第2回「ソーシャル・イノベーション・パイオニア」プログラム参加団体を募集開始しました。 募集するテーマは、下記の2つです。 1) Sustainability: サプライチェーン全体を視野に入れた持続可能でエシカルな生産・消費の実現 2) Opportunity: 女性・若者・外国人を含む多様な人々の就業・経済的自立支援
詳細はデロイトの「ソーシャル・イノベーション・パイオニア」プログラムウェブページに掲載されています。
また、第2回「ソーシャル・イノベーション・パイオニア」プログラムセミナー 「NPO/NGOの新しい企業連携の形」もこちらよりお申込みいただけます。 https://dtc.smartseminar.jp/public/seminar/view/319
<スケジュール> 5/25(木) : 第2回プログラム公募開始 6/20(火) : プログラム説明会(於 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社) 6/30(金) : 公募締切 |
あわせて読みたいオススメの記事
#経営・組織論
#経営・組織論
#経営・組織論
#経営・組織論
#経営・組織論