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新しい地域福祉の誕生へ。「私らしいありかたを探りたい人」に伝えたい西粟倉のこと

2019.10.11 

※こちらは「through me(スルーミー)」掲載記事からの転載です。★4X9A7829

福祉という言葉になじみはないけれど、おじいちゃんおばあちゃんが好きな人。

「まったくの初心者だけれど、地域の福祉や障がい者の可能性を広げる活動に興味がある!」という人。

すでに福祉に関わっていて「もっと私らしい福祉活動がしたい」と考えている人。

資格を持っていて、それを活かせる地域を探している人——。

もしもそんな人がいたら、おすすめしたいプログラムがあります。

 

岡山県・西粟倉村で2018年から実施されている「西粟倉ローカルライフラボ福祉コース」。

自分の思いや興味・関心を大切にし、西粟倉村に住みながら生き方と生業を研究できるプログラムです(https://www.a-zero.co.jp/lllfukushi-nishiawakura)。

 

地域福祉を推進する組織『社会福祉協議会』やNPO法人などで介護・支援の経験を積みながら、最長で3年間「自分×地域福祉」の実現を目指すことができます。

 

いったいどんなコースなのでしょう?

同コースを担当している、西粟倉村役場・保健福祉課の井上大輔さん、運営をしている『エーゼロ株式会社』の高橋江利佳さん、金城奈々恵さんにお話をお聞きしました。

高齢者福祉・障がい者福祉に従事する人を募集

— このコースが始まった経緯を教えてもらえますか。

 

高橋:西粟倉村では『西粟倉村社会福祉協議会(以下、社協)』がヘルパーやデイサービス、小規模多機能型居宅介護を通じて、村内の高齢者の方々の介護を担っています。でも、スタッフの人数的にギリギリの状況だということが問題になっていました。

西粟倉村は全国的に早く2025年に高齢化率のピークを迎えると予測されています。これからの5年間で、認知症になっても、障がいがあっても、誰もが共に生きられる村をつくりたいと考えています。

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西粟倉社会福祉協議会の運営する小規模多機能型ホームひだまりの様子

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西粟倉村役場・保健福祉課の井上大輔さん(右)

 

高橋:そこで、村の福祉人材を増やし、村の福祉に新しい風を入れるためのプログラムを始めることになりました。

2018年秋に新設したところ、反響がありました。特に都心部の福祉施設や介護保険の仕組みのなかで「自分の本当にやりたい福祉ができていない」と考えている人がけっこういらっしゃるようです。村からの支援を受けながら地域で福祉活動ができるプログラムがほかにはあまりないことも、反響があった理由の一つかもしれません。結果として1期では、高齢者介護に従事する2名に入っていただきました。

 

— どのような人が入って、今は何をされているのでしょうか。

 

高橋:2019年4月から『社協』で研修を行い、村を知る期間を過ごしました。5~10月は東京にある西粟倉ローカルライフラボ福祉コースの連携施設で研修を行っていて、多様な介護経験を積むことに注力しています。11月から村に戻り、介護経験を積みながら、“自分のやりたい福祉”にチャレンジしていく予定です。

一人はおじいちゃん・おばあちゃんが大好きな20代の女性で、前職のグループホームで5年間介護を経験し、高齢者のやりたいことを制限せず、いきいき暮らせる福祉がしたい、と村にやってきました。都会にある既存の施設、仕組みでは挑戦しにくいことを、規模が小さく応援体制のある村でやってみたいと。具体的には高齢者が子どもたちと触れ合える駄菓子屋や宅老所などを検討中です。

もう一人は以前に1年間のホームヘルパーの経験を持つ50代の男性です。ご自身と重ねつつ、アクティブシニアの生きがいづくりや、死にたいように死ねる看取りの環境づくりに興味を持っています。今後は介護福祉士や社会福祉士の取得を目指しながら、“自分のやりたい福祉”の活動の実践を始める予定です。

 

—  そういった需要があったのですね。

 

金城:2018年、募集期間中にイベントやフィールドワークを開催したのですが、そこで医療や福祉の従事者から聞こえてきたのは、「学生のときに抱いていた仕事のイメージと実際の現場は違っていた」「本当はこういう風に患者や利用者と接したいという理想はあるが、病院や施設の方針があってできない」という声でした。それが、とても印象的だったんです。そういう思いを抱えている人たちに「西粟倉村だったらそれができる」と伝えたいですね。

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左:エーゼロ株式会社 金城、中央:エーゼロ株式会社 高橋

 

高橋:今期は、高齢者福祉とあわせて障がい者福祉に従事する人を募集します。どちらか一方に軸足を置いて従事していただくことを想定していますが、垣根を越えて両方に携わることもできます。両ジャンルを行き来することで、何かおもしろいことが生まれるかもしれないと思って井上さんに話したら、「やろう!」と言ってくれたんです(笑)。村内で障がい者福祉活動をしている『NPO法人じゅ〜く』にもご賛同いただいています。

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NPO法人じゅ~くの就労支援事業の様子

年齢や資格は不問。自分のテーマがあって移住可能な人

— エントリーについて、条件はありますか?

 

高橋:年齢制限はありませんが、次の3つの条件があります。

①実現したい「自分×地域福祉」のテーマを持っていること。②今、都市地域および政令指定都市にお住まいで、2020年3月までに移住して4月から村内で活動できること。地域おこし協力隊制度を活用して、村からの研究委託費(月額20万円+活動費(予定額))を受けられます。③2019年11月9日(土)〜10日(日)に西粟倉村で開催されるフィールドワークへ参加し、自身の実現したい福祉と村の重なりを見つけられること(申込の〆切は10月31日)です。

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昨年のフィールドワークの様子。村内を巡る。

 

井上:資格は絶対条件ではありませんが、ケアマネジャー(介護支援専門員。以下、ケアマネ)や介護福祉士、看護師、保育士、教員免許の資格をお持ちであれば、大歓迎です。

 

金城:『じゅ〜く』が2018年6月から始めた放課後等デイサービス「Awesome!!(オーサム)」で、教員免許や保育士の有資格者を求めているんですよね。でも、村で福祉事業に携わっている人たちは「村に来てから取れる資格もあるので、やる気や思いがある人だったら初心者でもかまいません」と話しています。

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放課後等デイサービス「Awesome!」

 

— エントリー後のスケジュールはどのようになっているのでしょうか。

 

高橋:エントリー後、12月〜2020年1月の間に選考面談を行います。通過した場合は3月までに移住を完了し、4月から『社協』や『じゅ~く』で「高齢者介護や障がい者支援の経験・スキルを積むこと」と「自分×地域福祉の活動を実践し、精度を上げること」にチャレンジしていただきます。

 

井上:希望があれば、村外にある連携施設などで「介護職員初任者研修」をはじめとする介護・支援関連研修を受講します。

 

高橋:1年目は、言わば“地域とのお見合い期間”としていろいろトライしてみてはどうでしょうか。1年目の冬頃に再び面談を行って、その後について考えます。継続であれば、最長3年チャレンジを続けることができますよ。

資格がなくてもできることはたくさんある

— つまり福祉ジャンルで、自分のやりたいことが実現できるのでしょうか?

 

高橋:はい。どうしたら実現可能か、私たちコーディネーターが橋渡しをしてフォローいたします。1年目は、『社協』と『じゅ~く』で介護・支援の実務研修を受けながら、経験・スキルアップや利用者とそのご家族、関係者とのつながりをつくっていきます。

1年目である程度の方向性は見えると思いますから、あとの2年は、どちらかの施設に軸足をおきながら“自分のやりたい福祉”にチャレンジできます。

 

井上:例えば『じゅ~く』だったら、「『じゅ〜く』の中でこんな新規事業を起こしたい!」といったご希望もウェルカムです。

 

金城:やりたいことが明確にある人はそれ寄りの活動でいいし、『社協』の「こういう役割を担ってほしい」という希望に寄り添う形でもいいんですよね?

 

井上:うん、アリだと思います。『社協』や『じゅ~く』の希望に寄り添う形で活動することによって、自身の「これをしたい!」がより具体的になると思います。

 

— 初心者の場合、「自分にできるのかな」と不安が生まれてしまいそうです。

 

高橋:あまり気負わずに、できることからトライしていただきたいと思っています。

 

井上:初心者でも、資格がなくてもできることはたくさんあります。例えば、はじめは車を運転して送迎をするだけでも十分。『社協』のデイサービスや小規模多機能で働くぶんには、資格は要らないです。とりあえず現場で技術を身につけながら、いろいろな人と関わるのが一番だと思います。

 

金城:『じゅ〜く』の場合、受託作業の指導員として補助などをしたり、「Awesome!!」で子どもたちと一緒に遊んだりするのは資格がなくてもできますよね。実務経験を積めば取れる資格があるので、未経験でも大丈夫です。

また、「やったことはないけど、おじいちゃんたちが喜んでいる姿を見るのがうれしい」とか「障がいがあってもうまく遊べていると自分もうれしい」とか……、そういうことに喜びを感じられる人だったら、現場に入るのもそんなに苦ではないのかなと思います。

 

高橋:そうですね。今『社協』のスタッフは局長以外全員女性なので、特に男性は歓迎されるかもしれません。もちろん女性でも、歓迎です。

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就職や起業など、将来の選択肢は多数

— 最長の3年間が終わった後には、どういう選択肢がありますか?

 

高橋:一つは『社協』や『じゅ~く』など、村内の福祉事業者に就職する道です。新規プロジェクトや新規事業を立ち上げることができます。また、副業もアリですよ。

 

井上:基本的には就職していただくことを想定しています。例えばケアマネだったら、障がい者の相談支援事業を行っている『じゅ〜く』に入って、居宅のケアマネの事業所を立ち上げることも可能です。

あと将来的な選択肢のお話をすると……、西粟倉村にはケアマネの事業所が1つしかなく、保健福祉課が直営で村内のケースを全部持ってやっているんです。もし「自分でやってみたい」というケアマネさんがいれば、すべて提供するので独立してもらってOKです。件数はあるので、それで食べていくことができるはずです。

 

高橋:そのときに独立のノウハウがなければ、起業支援プログラム「西粟倉ローカルベンチャースクール」へエントリーして、起業準備を進めることもできます。村には経営者や起業家がたくさんいるので、お話を聞く機会なども提供できます。

 

金城:福祉事業の設立であれば、『じゅ〜く』という大先輩がいるから(笑)、いろいろ聞けますしね。

 

高橋:村には、起業した助産師さんや、役場と連携して活動している薬剤師さんもいます。

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助産師さんによるベビーマッサージ教室

 

— いろいろな選択肢があり、周囲には福祉や医療従事者もいらっしゃるのですね。

 

高橋:はい。テーマや熱い思いを持っていれば、それを実行できる環境が西粟倉村にはあると思います。興味のある方はぜひ11月のフィールドワークにお越しください。お待ちしています。

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「西粟倉ローカルライフラボ福祉コース」公式サイト

https://www.a-zero.co.jp/lllfukushi-nishiawakura

 

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小久保よしの

編集者・ライター。編集プロダクションを経て、 2003年よりフリーランス。 雑誌『ソトコト』での執筆や北海道・厚真町の情報発信業務など、ローカルやソーシャルジャンルでお仕事中。担当した書籍は『コミュニティナース』矢田明子(木楽舎)、『ローカルベンチャー』牧大介(木楽舎)、『だから、ぼくは農家をスターにする』高橋博之(CCC)、『わたし、解体はじめました ─狩猟女子の暮らしづくり』畠山千春(木楽舎)など。2017年春より、奈良県へ移住。