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ソーシャルセクター入門【第2話】〜アートで拓く、福祉の可能性

2017.11.15 164view 

カラフルなアートカードがはっと目を引く。

パッケージをあけると、中からは焼き菓子が顔を出した。袋から取り出すと、鼻をくすぐる甘い香り。口に入れると、焼き菓子がホロホロと口の中で溶けていく…。

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同封のアートカードは世田谷区の障がい者の方の手によるもの

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1.物語の始まり

(1)地域デザインブランドfutacolab

物語の舞台は、東京と神奈川の境目、多摩川沿いにある世田谷区・二子玉川エリア。冒頭の焼き菓子をプロデュースしているのは、二子玉川で誕生した地域デザインブランド“futacolab”だ。

futacolabを率いるのは、デザイナーとして活躍する磯村歩さん。富士フイルム株式会社でカメラや医療機器のプロダクトデザイン、ユニバーサルデザインに携わってきた経歴を持つ。

(2)2つの衝撃

デザイナーとして、ユニバーサルデザインをより深く追求しようと退職・独立した磯村さんは、2つの衝撃的な出来事に遭遇する。

一つは、独立を機に福祉の現場を知ろうと受講したホームヘルパー二級の実習先でのこと。実習に際して渡されたパステルグリーンのエプロンには、油性マジックで大きく名前が書かれていた。おそらく当時の介護事業所ではごく普通のことだったのだろう。しかしデザイナーとして企業で働いていた磯村さんにとって、それは、圧倒的なデザイン性の不足、誤解を恐れずに言えば“ダサさ、格好悪さ”を感じた瞬間だったという。

もう一つは、二子玉川駅の目の前、ショッピングモールのガレリアで手にした、障がい者福祉施設のお菓子。てかてかしたビニール袋に入ったありふれたクッキー。そして安価な値段。志やコンセプトは理解できる。福祉施設の運営の大変さも背景にはあるのだろう。しかし、そのお菓子は見た目も中身も、あまりにも簡素だった。

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(3)一念発起、そしてブランドの立ち上げ

デザインを軸に多様性を認め合うコミュニティを作っていきたい、と考えていた磯村さんは一念発起。仲間とともに、地域デザインブランドfutacolabを立ち上げた。冒頭に登場する焼き菓子は、futacolabが試行錯誤し改良を重ねて開発した看板商品だ。

2.焼き菓子HOROHORO誕生まで

(1)“美味しい”という価値を中心に据える

焼き菓子HOROHOROの最大の特徴は、口のなかでホロっと拡がる口溶けの良さ。

口に入れた瞬間の豊かな風味とカリッとした食感から、甘さが口いっぱいに広がる瞬間が絶妙だ。この食感にたどり着くまでに、様々な改良を重ね、振り返れば2年の歳月がかかったという。

HOROHOROの製造を担うのは、世田谷区等々力にある就労移行・就労継続支援事業所“パイ焼き窯” (運営:社会福祉法人 はる)だ。レシピ開発は、世田谷区三軒茶屋でパティスリーを開く石橋鈴香さんが協力した。石橋さんは、世界的なパティシエ・辻口博啓氏がプロデュースする自由が丘の洋菓子専門店で修行を積んだパティシエだ。

HOROHOROは、国産小麦、純バター、フランス産の塩など良質の材料にもこだわった。しかし美味しさの追求には、製造する就労支援事業所のスタッフのスキルアップやと、スキルに合わせた製造工程が欠かせない。パイ焼き窯で働くのは、主に精神障害のある人たち。美味しさやクオリティを追求することと、当事者の方が無理なく働くことと。その両者のバランスを取りながらの試行錯誤が続いた。

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(2)アート×福祉で付加価値を生み出す

焼き菓子HOROHOROのもう一つの“売り”は、ビジュアルの美しさだ。

パッケージに使われているアートはすべて、世田谷区内に住む障がい者の方が描いた絵が基になっている。原画に世田谷区内に住むデザイナーがアレンジを加え、商品として仕立てた。

商品は、アートカードが添えられていたり、のし風のギフトパッケージが施されていたりと、アイデアに溢れている。寿、内祝、香典返し、お歳暮、お中元などのシーンに対応する“フォーマルライン”、定番商品であるボックス入りの“アートライン”、ちょっとしたお土産やギフトにぴったりな“カジュアルライン”と、3つのパターンで商品を展開している

HORHOROのギフトセット

HORHOROのギフトセット

3 展開のポイント

試行錯誤を繰り返しながら成長してきたfutacolabと焼き菓子HOROHORO。

展開のポイントは3つにまとめられる。

(1)組み合わせ無限大

焼き菓子HOROHOROは、ビジュアルがとても美しい。アートカードをあしらうなどパッケージには強いこだわりがある。しかし実は汎用資材を積極的に利用しているという。

定番商品である“アートライン”に添えられたアートカードは全部で24種類。世田谷福祉作業所の障がい者の方が作った手すきの和紙に丁寧な印刷が施されている。

しかし、箱は汎用資材。これに紙製のリボンがかけられている。箱もリボンも1つから取り寄せることが可能な製品を利用している。汎用商品の箱やリボンと、オリジナリティが高いアートカード。カードを入れ替えれば、デザインはがらりと変わる。これを組み合わせることで、「箱」というかさばる在庫を抱えるリスクを極限まで減らしながら、オリジナリティとデザイン性が高い商品を送り出すことに成功した。

また、「フォーマルライン」と呼ばれるギフト用の商品で使われている“のし”。のしに描かれている絵は、障がい者アーティストが描いた原画を区内在住のデザイナーやアーティストが加工したこだわりの作品であるが、紙は市販のインクジェットプリンターでも出力できる和紙を使っている。これも同様に、不要な資材を抱えることを最大限抑えながらも、売りであるアート性を維持し、季節や用途に応じた商品展開が可能になるよう、工夫している。

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(2)“地域”というストーリーへのこだわり

地域ブランドとしての独自性も追求している。

焼き菓子の製造と詰め合わせは、世田谷区内の福祉作業所“パイ焼き窯”が担う。紙漉きの製造は、区内の別の福祉作業所が担う。レシピ開発には区内のパティシエが、パッケージデザインには区内のデザイナーやアーティストが協力している。つまり、世田谷区内に存在する様々なリソースを繋ぎ合わせることで、商品を完成させている。

販路開拓やプロモーションの方法もユニークだ。象徴的な2つの出来事を取り上げよう。

一つは、「二子玉川ライズ」の第2期竣工祝賀会・慰労会でのノベルティ採用である。二子玉川ライズは、二子玉川駅のすぐ東側、東急電鉄が中心となった民間の再開発である。同種の開発としては、都内最大級のスケールを誇る。ノベルティ採用にあたっては、活躍する地元の障がい者アーティストの絵を添えた「フタコラボ・プレミアムギフトセット」を準備した。また同商品は、東急グループが運営するショッピングサイト「ポニッツ」でも販売、商品価格の10%が障がい者アーティストの支援金として活用された。

もう一つは、同じく二子玉川駅にある、玉川高島屋内のホールでの展示即売会である。先の二子玉川ライズが東側なら、こちらは駅の西側。デパートの中にある大きなホールでの即売会は、絶交のPRの機会となった。

「地域内のショッピングモールや大型商業施設で販売したい」というNPO関係者の要望や目標を聞くことはあっても、それを実現している組織は案外少ない。futacolabのケースはもともとあった商品力と、人的なネットワークの結果、商業施設での販売が可能となったといえる。人的なネットワークがどうして生まれたか、については、また別稿で詳細を論じたいが、いずれにしても、地域へのこだわりが成長への足掛かりになった例だといえよう。

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(3)柔らかなコラボレーション

futacolabの事業を眺めてみると、商品の製造・販売・プロモーションの全ての段階において、柔らかなコラボレーションが生まれていることがわかる。

レシピ作成面でのパティシエとの協力、パッケージ面での障がい者とアーティストとのコラボレーション。上述した展示即売会は、若手アーティストのグループ展「KENZAN2016」とのコラボレーション企画で、アートカードはすべて手書きの1点もの、書下ろしのもののみとした。展示即売会に出展した180点すべてが売り切れ、好評を博した。

大学との連携にも積極的だ。世田谷区内にある昭和女子大学は、ソーシャルビジネスの体験学習として、HOROHOROの販売に取り組んだ。その後、「卒業式モデル」として、昭和女子大学のカラーである青を基調に、白抜きで校章をあしらった限定パッケージの販売も行った。

また、二子玉川のクラフトビール「ハナミズキホワイト」との共通パッケージも作成。二子玉川発の商品二つがコラボレーションした格好だ。 

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4 コストを抑え、得意を活かす

futacolabの取組みから、何を学ぶべきだろうか。

それは、「製造コストを抑えながらも、得意は活かし、商品価値を上げる」という点だろう。

福祉作業所の商品は、手作りで少量生産が基本だ。製造販売の状況にばらつきがあるケースもままある。また販売ルートも地元のバザーなど限られたシーンであることが多い。

futacolabは、少量生産の強みを活かして、オーダーメイドに対応することを目指した。また、数量限定の商品やギフトユースに対応することで、事前に受注額や納期が明らかな案件を積極的に獲得していった。また、こうした商品は買い取りが基本であるため、販売面での不確実性を抑えることができた。

また、カスタマイズを行うことで、単価を上げ、販売利益を押し上げることが出来た。カスタマイズに際しては、箱などの在庫を抱えずに済むように、汎用資材を活用しながら、「世界に一つだけの商品」にも対応できるよう、工夫を凝らした。

地域発という利点を生かし、販路開拓もその強みを最大限に活かした。コラボレーションを積極的に行うことで、ユーザーの広がりや露出効果も高めた。

地域発の良さ、障がい者の感性、繋がりがもたらす豊かさをしっかり活かしながら、美味しい、楽しい、美しいという、一般の顧客に届く価値を生み出す。そんな世田谷・二子玉川発のチャレンジが続いている。

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この記事を書いたユーザー

水谷 衣里

水谷 衣里

株式会社 風とつばさ 代表取締役/コンサルタント。 UFJ総合研究所(現:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)にて、ソーシャルセクター・市民公益活動に関する政策立案やコンサルティングに従事した後、独立。ソーシャルファイナンス・社会的インパクト投資といったソーシャルセクターの資金還流や、社会起業家養成・ソーシャルビジネスの経営支援、支援者の創出・育成、プロボノコミュニティの運営に携わる。 NPO法人ETIC.とは、「社会起業塾イニシアチブ」やソーシャル ベンチャースタートアップマーケット、中小企業への右腕マッチング事業などを通じて連携・協働。 大学教員として、ソーシャルイノベーション、ソーシャルアントレプレナーシップ等に関する教育・研究にも従事。 各種執筆や講演、コーディネーションを通じて、当該分野への知的貢献を続ける。

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