アメリカン・エキスプレス社の日本事務所開設100周年を記念して開催された、”Social Entrepreneur GatheringCollective Action for the Next 100 years”(主催:特定非営利活動法人ETIC. 協賛:アメリカン・エキスプレス財団)。全体のダイジェストレポート、セッション1のディスカッションに続いて、「セッション2:テクノロジーの進化とソーシャルイノベーション」ディスカッションの内容をお伝えします。登壇者は以下の方々です。(*文中敬称略)
<ゲストスピーカー>
・尾原 和啓 氏(執筆・IT 批評家、Professional Connector)
・溝口 勇児 氏(株式会社 FiNC 代表取締役社長 CEO)
・中村 俊裕 氏(NPO 法人コペルニク 共同創設者 兼 CEO)
・樋渡 啓祐 氏(一般社団法人全国空き家バンク推進機構代表/前・武雄市長)
・若林 恵 氏(『WIRED』日本版 編集長)
<ゲストコメンテーター>
・友松 重之 氏(アメリカン・エキスプレス・インターナショナル, Inc. 個人事業部門デジタルマーケティング 副社長)
※肩書は当時
*当日のダイジェスト動画も併せてどうぞ
ゲストスピーカーのプレゼンテーションを受けて、ETIC.事務局長の鈴木を進行役にディスカッションをスタートしました。
鈴木:テクノロジーというテーマで、たいへんバラエティに富んだ、そして普段の感覚とはまったく別の視点からのお話をたくさん伺うことができました。まずアメリカン・エキスプレス・インターナショナル友松様からコメントを頂けますでしょうか。
AMEX友松重之 氏(以下”友松”):ゲストスピーカーの皆さん、ありがとうございました。私はアメリカン・エキスプレス・インターナショナルの個人事業部門デジタルマーケティングというところで副社長をやっております。個人カードの事業、デジタルのマーケティングなどを担当しています。
ゲストの方々のお話について少しだけですがコメントさせていただきますと、まず尾原さんからは、テクノロジーのハードルがどんどん下がっているというお話でした。難しいことじゃないんだ、ということを尾原さんのような専門家から言って頂いたことに、大きな気付きをいただきました。
溝口さんからは、AIというテクノロジーを使って健康のための予防を事業としてされているというお話。たいへん良いサービスだなと思いました。
中村さんの活動は、満たされていないニーズを、簡易なテクノロジーを使って解決するというものでした。これはマーケッターにとって一番大事なことなんです。例として挙げられていた、販売員の売上をあげたのは難しいデータ解析などではなくバイクだった、というお話は目からウロコが落ちました。
樋渡さんの、図書館での子ども目線を大切にしたというお話、これは消費者目線、ユーザー目線をすることの重要性をあらためて教えていただきました。
若林さんのお話は、テクノロジーは使う方向によっていろんな方向に行く、誰がどう使うかが大事、という重要なお話でした。
鈴木:ありがとうございます。ゲストの中でいうと、溝口さん、中村さん、樋渡さんはそれぞれ、テクノロジーを使って別のことを起こす起業家、プロデューサーとしてご活躍されていると思うのですが、自分が解決したいことやテーマがあったときに、テクノロジーをどういうふうに事業に取り入れているのか、というところから伺えますでしょうか。
溝口 勇児 氏(以下”溝口”):このセッションの途中で退席しなくてはいけないので、ここで少しお話できればと思います。
わたしが取り組んでいるのは予防のヘルスケア事業です。トレーナーの視点から考えると、健康を実現するのは実はあまり難しくなく、健康のためによいことを”続けられる”人が成功しているわけです。”続けられる”というところに一番着目しています。たとえば食事でも、炭水化物ダイエットなどは、比較的続けやすいから浸透している。
では続けるためには、どうしたら良いのか。楽であること、楽しいこと、自分に合ったパーソナライズがされていること、安価なこと、こういうことがあると続きます。いま僕は折り畳み自転車に乗っていて、これは歴代で3台目なのですが、乗り続けられています。10年前に乗っていた最初の自転車は、折り畳むのに3-5分くらいかかっていたのですが、いま乗っているものは10秒でできる。だから乗り続けられている。
テクノロジーは、続けられなかったことを続けられるようにしてくれる可能性があるものだと考えています。別の言い方をすると、ROIが合わなかったところが、合うようになる。1990年代に今のスマートフォンと同じものをつくろうとしたら3.5億円かかると言われていますが、それだと投資をしても回収できないから普及しない。テクノロジーが進化することでコストが下がっていくように、テクノロジーがボトルネックを解決できることで変わる、そういうふうに見ています。
中村俊裕氏(以下中村):テクノロジーがすべての問題を解決するわけではないと思っています。テクノロジー以外の他のピースが絡まってはじめて、いい結果につながる、そういうものだと。テクノロジーの生産性の高さや時間短縮、楽さだけを求めて事業をはじめるのではなく、それ以外の選択肢もあるんだということが大事だと思っています。たとえばビル・ゲイツは「貧困を無くすためにどうするか?」という問いに、「ニワトリを飼う」と言っています。ニワトリは繁殖します。卵を産みます。費用対効果も高い。「僕だったらニワトリに投資する」とビル・ゲイツは言っていました。テクノロジーは多くある選択肢の一つであるということですね。
樋渡啓祐氏(以下樋渡):わたしの場合は最新のテクノロジーをフィジカルに身につけるということはやっていますね。新しいスマートウォッチが発売されたらすぐ使ってみる。OSを最新にする。そういったことです。ロジカルに考えても分からないことも多いので、日常的に体感する。そうするとそれが事業や発想の中で活きてくるように思いますね。
鈴木:テクノロジーを自分たちの活動にどう取り入れていくか、どう付き合っていくのか、示唆に富んだお話をありがとうございます。尾原さんいかがですか?
尾原 和啓 氏(以下尾原):飛行機はどうやって飛んでいるのか? ほんとうのところ、原理はよくわかってないんですよね。でも飛んでいる。事故もあまり起こらないで、隕石が落ちてくるくらいの確率でしか人は死なない。AIに関しても同じで、みんなやたらとターミネーターの物語のような、人間の敵になるのでは、というようなことを気にしていますけれども。たいがいは大丈夫なんだというところだけわかっていたらいい。
若林 恵氏(以下若林):AIについては、他のテクノロジーも同じなんですが、誰の管轄下にあるのか? という点は重要だと思います。例えば中国でAIを使った犯罪者予知のシステムが開発された。「この人は3年後に事件を起こすから逮捕」ということが出てきたときに、人は反証できるのか。「わたしはそんなことやらないです」と言っても、「行動履歴と購買履歴をもとにするとあなたは事件を起します」ということを言われたら反証できない。強力なテクノロジーとなりうるものについて、誰がどのように使うのか。
尾原:たとえばUberは、一回一回ドライバーがどうだったか、利用客がスコアリング、レビューするシステムになっていますよね。レビューの評価が高い人から配車の機会が与えられる。そうするとダメなドライバーが減っていく。
そうするとどういうことが起こるか。最近UberがZopaというP2Pファイナンスをやっている企業が提携しました。
Uberを通して、これまで仕事につきにくかった移民の人や喋ることができない障害のある人でもドライバーになれるので、社会的にこれまで外に置かれていた人たちもたくさん働くようになっています。レビューがずっと4.5以上で3年間、毎日ドライバーをやっている移民のドライバーの人がいたんですね。その彼が中古のカローラからレクサスに車を変えたい、ということで個人からの投資をZopaを通して募ったら、それはとてもいい投資物件になる。つまり人の振る舞いにスコアリングすることで、チャンスが増えているという側面がある。
一方で、ヨーロッパでは個人情報のプロファイルの輸出がNGになっています。スコアリングされることで一部の人がメリットを得られるとき、スコアリングされたくないという人に不利益を与えない、という法律も検討されています。非効率でいるという選択肢も権利として与えるべき、というのがアメリカとは違うヨーロッパの考え方としてあります。
若林:自分のデータはだれのものなのか、という問いですね。デジタルのもともとの理念は、近代の中央集権敵なありようを脱却する、というところにあった。アラン・ケイという人が考えたパーソナルコンピュータという理念や、ジョブスが影響を受けたことでも知られているホール・アース・カタログという雑誌の理念でもあって、AppleやNorth Faceなんかも根っこは一緒です。なにかに依存せずに、自分でやる、サバイブするためのツールとしてのテクノロジーという考えかた。ブロックチェーンもそういった、自分のデータを自分が保有する、ということが可能になるかもしれないテクノロジーです。デジタルのテクノロジーがその理念を後押ししていることは確かなんですが、ある時からそれが巨大な経済空間になったことで格差が出てきている。そういう問題が出てきていると思います。
会場からの質問
鈴木:今のテクノロジーがどういうフェイズにあるのか、これまでの流れも含めてその課題について、興味深いお話を頂きました。ありがとうございます。時間も限られていますが、会場からのご質問も受け付けたいと思います。
———アフリカで支援の仕事をしています。いろいろな管理のためにテクノロジーを導入しようとしているんですが、彼らは紙の資料を書くのも苦手なんですね。管理のために紙の仕組みを導入してからテクノロジーに移行したほうがいいのか、最初からタブレットなどを入れてもいいのか、どう思われますか?
中村:私たちもいろんなデータを集めるんです。もともとはエクセルをプリントして見てました。時間がかかるのでそのうちタブレットとかを試してみるようになって、分析を自動でできるようになって、という感じで進んでいきました。試してみるといいと思います。すべてを解決するわけではないのですが、役に立つテクノロジーというは確実にある。それは試してみることで見えてくる、わかってくることがあると思います。
———今はテクノロジーを使った様々な投資の仕組みが増えていますが、私たちのようなソーシャル分野で活動している団体への投資、資金調達について、テクノロジーの知見のある皆さんはどう思われますか?
若林:ダイバーシティについてのイベントをやったことがあって。間違いなく社会的意義のあることをやってるんですが、ではなぜそれに価値があるのかを定義するのがいますごく困難なんです。企業内ダイバーシティがなぜよいのか? それによって生産性があがりますよ、というロジックがありますよね。でもそのロジックだと、生産性が上がらなかったらダイバーシティはなくてもいいよね、という話にすぐなってしまう。有用性、有益性をお金の指標で判断するのではなく、社会的価値というものをどう成り立たせるかというのはまだ根拠が無いんです。21世紀はそこをどう埋めて、突破していけるかというのが大きな課題だと思います。どういう理念が立ちうるのか、ということを皆さんの活動を通して示していってほしいなと思います。でないと簡単に経済合理性に屈していくことがある。
アフリカに関してですが、WIREDでアフリカの特集をしました。私たちが合理的だと思って導入するテクノロジーによるソリューションが、世界のあらゆるエリアでほんとうに合理的なのかどうか。グローバルにコミュニケーションできるレイヤーはもちろんあるんですが、ローカリティや民族のバイアスというものがあって、全くグローバルにコミュニケーションできないレイヤーもあるかもしれない。もしかしたらそこに近代合理性を突破するヒントもあるかもしれない。そんなことを考えています
鈴木:最後にAMEX友松さまからコメントをいただけますか。
友松:議論を通して2つのことを思いました。本業において、効率の最大化をするためにテクノロジーを使うということ。そして本業ではないところで手間が掛かっているところにテクノロジーを使うことで、本業に専念できること。2つの観点で進めていけたらいいのではないかなと思いました。
鈴木:ありがとうございました。今日はほんとうに広い視点から大きな問いかけとサジェスチョンを頂いた気がします。登壇者の皆さまありがとうございました。
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