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“メシが食える大人”を育てるための塾が、パラリンピック競技”ボッチャ”のスポンサードをするワケ 〜花まる学習会代表高濱正伸さんインタビュー

2018.11.26 

10年後、20年後の未来のために、子どもたちはどんな大人になればいいのか? そのために何ができるのか?

いまでも多くの親たちが考え、悩んでいるこの問いに、30年も前からはっきりとした考えをもって、実践してきた塾があります。思考力、読書と作文を中心とした国語力、そして野外体験の三本柱で、「メシが食える大人」、そして「魅力的な人」を育てるための塾、花まる学習会。

日本の教育の世界に、常に新しい風を送り続けてきたこの塾の代表が高濱正伸さんです。高濱さんが34歳のときにはじめた小さな塾は、今ではおよそ20000人の子どもたちとその親たちのための大切な場所になりました。ETIC.の2020 and beyondのパートナーとしても参画していただいている花まる学習会、高濱代表に、これまでの事業について、そしてパラリンピック競技であるボッチャへのスポンサードの取り組みについてお話を伺いました。

 

世の中でメシが食えない大人を量産しているこの社会の教育と国民を変えるには?

 

ー高濱さんが93年から花まる学習会で取り組まれてきた事というのは、他の塾や他の学びの場所と何が違ったのかということをまずはお聞きできますか。

 

高濱正伸さん(以下"高濱"として敬称略):塾をやる人は子どもが好き、というのはだいたいみんな一緒だと思います。ただほとんどは(中学なり高校なり大学に)合格させたいというニーズに対してできあがっている。

僕はそうではなく、"世の中でメシが食えない大人を量産しているこの社会の教育と国民を変えるには?"という課題を最初に定めて、それを26年ずっと追い続けてきました。

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注目したのは、まずメシが食えない大人になってしまっている彼らは考える力が弱いということ。不幸せな人と幸せな人を見ていると、不幸せな人は、他人が作った枠組みの中で生きている。中間テストや入試でいい点を取らなければいけない、いいところに就職しなければいけない、といったランキングみたいなところで一生けんめい生きている。

そうではなくて、社会に出たときに自分でメシが食えるような考える力をつけるというところに僕は目をつけました。自分の感性を基準にして、ひとつずつ積み上げて考える。そこができていない人が多いんだなということで、"なぞぺー"という「考える力」を育む問題のシリーズをつくりました。

簡単に言うと、"見える力"と”詰める力"の2つを”考える”ことの根源として問題集にしたものです。これをもとにしたスマホアプリの"Think!Think! シンクシンク"も好評で、昨年Google Play Awards 2017 Best App for Kids部門で、日本の教育アプリとしては唯一、ファイナリストに選出されました。

 

思考力を育むたくさんのパズルが詰まったAPP、"Think!Think!"

思考力を育むたくさんのパズルが詰まったAPP、"Think!Think!"

主体的な体験、の総量を増やすこと

 

高濱:もうひとつは、見える力と詰める力をどう伸ばすか。それは主体的な体験の総量だなと考えました。つまりやらされているのではダメだということです。

親の期待というものは、いい面もとってもあるけれど、思春期なりどこかのタイミングで一回、その殻を脱いでゼロベースで考えるほうがいい。そういう経験ができる機会のひとつとして、野外体験などいろいろ揃えていきました。

自然の中で、「あそこに基地つくっちゃおうぜ!」みたいなビビッドに思い出せる経験をたくさんするべきです。その体験の凄みには、大人が何を言ったって負ける。なんでそれが大人たちはわからないのか、と僕は言いたかった。

今は何かというと「この公園ではボール遊びをしちゃいけません」、「この川は入っちゃいけません」とか、学校でも行政も禁止事項だらけです。何か問題が起こったときのアリバイ作りばかり、責任逃れの大人ばかりになってしまった。リスクをとって子どもたちをちゃんと遊ばせることを誰かがやらないといけない、という考えで、野外体験をずっとやってきました。

これは言うのは簡単だけど相当な覚悟がないとできません。他人の子どもを何千人も毎年野外に連れていっているわけですから。野外体験部という安全管理では日本で一番というくらいの軍団ができあがったので、これもやりきったなと思っています。

 

お母さんがニコニコしていることがなによりも大切

 

高濱:3つめは、親を変えること。親に直接手をつっこんだ塾は唯一無二だと思います。魚が生き生きするためには海水を変えないとだめで、親という海水を変えるために、僕は人生の7割くらいのエネルギーを費やしています。今年だけでも200回近くの講演会をやっている。それをずっと続けてきました。

 

子どもがなぜ不安になったり伸び悩んだりするかというと、要はお母さんがイライラしているからです。子どもが家に帰ったときに、お母さんがニコニコしてないと、子どもはすごく不安になるんですよ。一方お父さんはまあまあの存在でしかなくて、お母さんには絶対に勝てない。

ではお母さんがなぜニコニコしていないのかというと、地域がなくなってお母さんを支える人がいなくなってしまったからです。昔はあった、地域のゆりかごのようなものがない。

講演でお母さんたちに言っているのは、「あなたの笑顔が重要だから、自分がとにかくニコニコになることに集中してください」と。自分のニコニコに集中していったら、あとは子どもはだいたい勝手になるようにしかならないですよ、ということを伝えています。

お父さんの役割については、「あなたの子どもにとって重要なのは、お母さんがニコニコでいることなんだから、あなたの妻のニコニコに集中していなさい」と言います。たったひとりの妻を大事にできない男なんて、どれだけ仕事ができてもダメですよ、と。そういう本質を言っていったらだんだん味方が増えていった。おかげさまで毎回講演会は満席になっています。

 

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ーそういった本質に切り込んでいく高濱さんの特質というのは、小さい頃からそうだったのですか。

 

高濱:ある程度あったとは思いますけど、思春期以降の哲学時代とか、3浪4留して迷走した時代が大きく影響していると思います。そのときは遊んでいたけれど、自分なりにめちゃくちゃ真剣に遊んでいたんです。今はぜったいに本を読みたい。映画を見たい。その時々で自分に正直にやっていった。その結論が、本質的じゃないことはやりたくない、ということだったわけです。

 

ー先ほど地域のゆりかごというお話がありました。今日も、塾の中を通ってくる途中にお母さんが先生に相談している様子を拝見しましたが、塾というものが地域でお母さんを支える場所になっている。子どもたちにとっても、親でも学校の先生でもない相談できる大人がいる場所になっているということなのかなと感じました。

 

高濱:そうですね。サッカーのスクールでもなんでもいいんですが、お稽古事や塾というのは、いわば非公認の場所なんです。非公認だからすごく居心地のいい場所だったりする。居場所はすごく重要です。たとえば傷つく時期があってもいいんです。そういう時に、家以外でほっとするような場所があったほうがいい。塾は変わった大人が多いですけど、熱いしあたたかい人が多いので、そこで心を休めたいっていう人は多いんじゃないでしょうか。

 

言葉を鍛えることが人材育成になる

ーそういう場所で働く先生たちの育成については、どんなことに気をつけていらっしゃいますか?

 

高濱:ひとつは言葉を鍛えるということです。僕が直接教えていたときは、6校で300人くらいまで増えたんですが、6校めくらいで「高濱先生は来ないんですか?」という声がでてくる。僕が全部でていたら絶対に広がらない。そうすると、せっかく来てくれた社員たちにもお給料が払えない。

じゃあ、僕ではなく新しく先生として立った人が、親と子どもたちから完全に信頼されるようになるにはどうしたらいいかということで、いろいろ考えたんです。それが言葉を研ぎ澄ましてあげることだなと。

まず、日報システムというのをつくりました。社員は、子どもとやった授業について毎日、日報を書くんです。1回の授業ってものすごい宝の山なんですよ。子どもがわーわーと様々な反応をするので、それらを本当に真剣に感じることができたら、疲れ果てるくらいたくさんの気づきがある。塾に来始めて4か月間ずっとおとなしかった子が、今日はなにか変わってきた、ということがあったとします。そのことを親御さんに電話で話してみたら、「ああ、お父さんが単身赴任から帰ってきたんです」みたいなことがわかったりする。そんな、現場で拾い上げることができた気づきを言葉にするんです。

それを、1か月に1回、全責任を背負ってお母さん向けのコラムにしなきゃいけない。それは、配付前に厳しい厳しい主婦社員たちのチェックがあります(笑)。「何もわかってないのに偉そうなことを書くな」とか言われたりしながら、若い先生たちは、どういう魅力で子どもたちや保護者の心に入っていくかっていうのをわかっていくんです。3年でコラムが36本溜まるので、自分でもミニ講演ができるくらいになるんですよ。

僕も親向けの講演をずっと続けていますけど、気持ちが入るのはやっぱり最初の2年くらいの教室での体験なんです。それぐらい感じるところの多い場所だよ、というのを言ってあげると、彼らは成長していく。ちゃんとしたところからオファーが来るような文章を書けるようになる。それはうち独特の強みですね。

 

ー先生の言葉がしっかりしていると、親との信頼関係ができますよね。自分の子のことを見てくれているなというのがわかる。そういう信頼できる大人が地域にいなくなったというのは感じます。

 

高濱:地域がとにかく崩壊しています。外で遊んでいたら近所の人からうるさいと言われるし。夏とかの長期休みは、本当は自然の中で遊ばせてあげたいんですけどね。

 

ボッチャへの関わり

 

ー花まる学習会という塾が、ある意味で地域の親や子どもたちを支える存在になっていると。教育という分野でビジネスとしてやられてきたことが、結果として社会的な事業になっているところがたいへん興味深いなと思います。

社会的な事業、ということで今回の取材の本題になりますが、11月6日にプレスリリースされた、"花まる学習会、日本ボッチャ協会のスペシャルゴールドパートナーに就任"も、単なるスポンサードではなく、これまで花まる学習会でやられてきた事業としっかり結びついたお考えがあるのかなと。そのあたりのお話を伺えればと思います。

障害のある人たちとの関わりということでは、プレスリリースに記載があったコラム『パートナー力』でも触れられていた、高濱さんの19歳のお子様が知的と身体の重複障害であるということも大きいのではと思いますが、ご関心はそれよりも前からあったのでしょうか。

 

高濱:哲学時代だった20代の問題意識として、そのことは考えていました。オーストラリアでは全身にタトゥーが入っていてガムをくちゃくちゃ噛んでいるような青年が、車椅子に乗って困っている人がいたらさっと助けに行くという。でも日本ではそういう人がいても、若者はそのまま素通りしている。この国は何なんだ、という話をどこかの記事で読みました。

そのとき考えたのは、それぞれはぜったいに優しい人たちなんだろうけど、経験がないだけなんじゃないか、基礎になる経験の総量が足りないんだろうな、というのが僕の見立てでした。

そこで、車椅子の人が先生として来て、子どもたちに教える、ということを初期からやっていました。なにかをしてあげる相手としてではなく、教えてくれる先生として障害のある人が来る。途中からNPOの人たちも関わってくれました。今では、NPO法人むぎぐみという団体で、障がいのある子もない子も気軽に参加できるコンサートを開催しています。

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サマースクールでも、6000人の参加者がいて、その中に一割くらいは何らかの問題を抱えていている子たちがいる。今は発達障害の子が多いですね。

ふつうはお母さんたちがそういう子を外に出させないし、学校も受け入れる仕組みはあるけれど、先生たちはなかなかうまく動けていない。大人たちこそ経験の総量が足りないんです。

たまたま僕は子どもが障害をもって生まれたんですが、学びは多かったですね。本当になってみないとわからないことがいっぱいある。でも正直に言うと、うちの子はすごい可愛いけど、他の同じような子たちのことを、わが子と同じくらいに可愛いとは思わないんですよ。これだけ慣れていても、自分の子だけ可愛い。なんでこんなにいい子が生まれちゃったのかなってずっと思い続けてるくらい(笑)。ということは一般の人たちも絶対そうだなって思うんです。それくらい、心の壁を突破するのは大変なことなんです。だから経験総量を増やすためのふれあいをいっぱい作っていこうということでサマースクールをやっています。

うちの子もサマースクールは10年以上行っているのですが、はじめての子たちと一緒の班にするんですね。すると本当に1日でたちまち家族みたいになるんですよ。最初は「病気なの?」なんて言いながら、「なんでこんな子が入っているのかな?」みたいな感じからはじまるんですが、すぐにみんなで握手したりするようになるんです。

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これはやっぱり寝泊りを一緒にするのが一番いいということ。子どもの時に、障害のある人といっしょになって山ほど寝泊まりしていたら、大人になって「わぁ面倒くさい、できないし」みたいなことを思っちゃう人にはならないと思います。今はなかなか動く時間がとれないですけれども、障害関係はライフワークだと思ってやっています。

 

障害のある人も無い人も混ざって楽しめるゲームがボッチャ

 

ーそういう経緯もあって、今回のボッチャのゴールドスポンサーという関わりに繋がっているんですね。

 

高濱:ボッチャというゲームについてはずっと、相当な可能性があると思っていました。肢体不自由で聴覚障害がある人ともいっしょにやれるし、そういう人たちがふつうに勝つこともある、誰もが対等に戦えるゲームなんです。

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ースポーツも含めてゲームというのは、ルールとゲームバランスの作りかたによって、多様な人が混ざって楽しめる仕組みですね。囲碁や将棋は初心者は上級者に勝てないですけど、たとえば麻雀なんかは初めてやった人でも運があれば勝てたりする。ボッチャもそういう意味でいろいろな人が混ざりやすいゲームということなんでしょうか。

 

高濱:たまたま勝てるってことがよくあるんですね。パラリンピックの選手たちなんかになるとミリを競うレベルの戦いになりますけど、一般の人同士がやるなら最後までどうなるかわからない。本当にドキドキしながらできて、すっごく面白い。

 

ー場所も体育館などで簡単にできますし。

 

高濱:そう。すこしスペースがあればできる。あとはサイバーボッチャ(*)もかっこいいし面白いですよ。

 

(*)ボッチャをプロジェクションマッピングやセンサーなどのテクノロジーで拡張したビデオゲーム版のボッチャ。

CYBER BOCCIA(サイバー ボッチャ)full from 1→10 on Vimeo.

 

全国のゲームセンターやアミューズメント施設などにサイバーボッチャが置かれて、それがきっかけでボッチャが流行らないかなって思っているんです。ボーリングが昔流行ったみたいに、誰でもできるゲームとして。

 

ー「ちはやふる」で百人一首が流行るみたいに、ボッチャのマンガがあったらいいかもしれませんね。ボッチャ、というネーミングも親しみやすいですし。

 

高濱:やっているところは既にいっぱいありますけど、学校でもすぐできます。ドッジボール大会があるみたいにボッチャ大会があるみたいになるといい。

 

ーパラリンピック競技のブラインドサッカーも、地域までずいぶん入り込んで体験できるようになっていますね。花まる学習会としてボッチャのゴールドスポンサーになられて、どんなことをどこまで推進していきたいですか?

 

高濱:想いとしては今お話ししたようなことがあって、でも流行らせるような仕掛けや、働きかけはまだ全然できていません。とりあえず、全社員交流会でボッチャをやったりして、やりながら応援しています。今度社員から希望者を募ってボッチャの大会に出ます!

 

2020年を意識を変えるチャンスとしてとらえる

ーパラリンピックへの企業の関わりとして、社員の方が予選のお手伝いをするという話は聞いたことありましたが、選手として参加するというのはすごくいいなと思いました。競技をして選手として楽しみながら、運営もお手伝いする。単純に「私たちサポートします」というだけではなく、ボランタリーの気持ちもありつつ当事者として参加するというかたちですね。

 

高濱:ETIC.の宮城さんの話を聞いてなるほどと思ったのが、「2020年のような機会は、意識が変わるめったにないチャンスです」という視点でした。1960年にパラリンピックがスタートしたように、2020年もまた意識の改革につながるといいなと。

 

ー2020年をきっかけに、いろいろな機会を通して、障害のある人とない人が混ざっていっしょになにかをするという、高濱さんのおっしゃっていた”経験総量”が増えることにつながればいいですね。

 

高濱:そうですね。3人のうち1人は障害のある人をいれなければいけないとか、そういうルール(*)を設定することでいろいろな人が多様に楽しめるのが、ボッチャの面白いところです。ボッチャを通して、障害がある人も含め、集まっていっしょになにかをすることが「面白いじゃん!」、「みんなでやろう!」というふうに変わるチャンスかなと思っています。

 

(*)ボッチャでは、障害者がプレイヤーとして参加する場合の複数のルールが設定されている。障害の程度によりBC1〜4に分かれており、アシスタントの有無、坂道を使ってボールを投げる勾配具の利用の有無、などが規定されている。

 

ー自分でもボールを手に入れて気軽にボッチャをはじめてみるところからスタートしてみようと思いました。高濱さんと花まる学習会さんの取り組みもたいへん楽しみにしています。本日はありがとうございました!

 

 

 

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DRIVEメディア編集部です。未来の兆しを示すアイデア・トレンドや起業家のインタビューなど、これからを創る人たちを後押しする記事を発信しています。 運営:NPO法人ETIC. ( https://www.etic.or.jp/ )

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