TOP > ビジネスアイデア > 「ビジネスでは解けない課題」に挑むことで、世界を捉える解像度が変わる。塩尻市のMICHIKARAで次世代リーダーが生まれる理由

#ビジネスアイデア

「ビジネスでは解けない課題」に挑むことで、世界を捉える解像度が変わる。塩尻市のMICHIKARAで次世代リーダーが生まれる理由

2019.04.18 

地域において本当に価値のある官民連携とはどんなものなのでしょうか?

官だけでは解決できない課題について、民の力を導入して解決に導いていく。民で磨かれてきたビジネスの手法によって、公的な課題を新しいアプローチで解きほぐしていく。こうした取り組みはこれまで、様々な地域でたくさんの試みが行われてきましたが、本当に継続的に価値を産み出している事例はそれほど多くないのが実情です。

民間企業にとっても、地方創生の活況の中、これまで入り込めなかった公的セクターで一定の利益を上げていく以上の価値を、官民連携のスキームで見出すことはなかなか難しいのが現状でしょう。

そんな中で、塩尻市が民間企業と協働して地域課題の解決を行っていくというMICHIKARAプロジェクトは、2016年にグッドデザイン賞を受賞するなど大きな期待を集めています。自治体には、民の発想による新しい課題解決のアプローチをもたらし、企業に対しては、次世代リーダー人材を育成する絶好の機会という新しい価値を産み出しているMICHIKARA。

前回の記事では、その仕掛け人である塩尻市役所の山田崇さんと株式会社ChangeWAVE佐々木裕子さんにインタビューさせていただきました。今回は、第5期の参加者を募集しているというタイミングで、MICHIKARAメンターである株式会社アルファドライブの麻生要一様と、第2期の参加者でソフトバンク株式会社の加藤有祐様に、民の視点、企業側の参加者の視点からの、MICHIKARAの魅力と面白さについてお話を伺いました。(※本記事はMICHIKARA地方創生のスポンサードにより作成しています)

 

“圧倒的当事者意識”を育む場〜ソフトバンク株式会社加藤有祐さん

加藤有祐さん

加藤有祐さん

「MICHIKARAは人生の転機でしたね」。

と話してくれたのはソフトバンク株式会社の加藤有祐さん。MICHIKARAの前と後とで、視野が広がり、課題解決の意味など自分自身の中がガラッと変わったとのこと。参加のきっかけは会社の人事から選ばれての推薦だったそうです。

 

加藤有祐さん(以下敬称略):MICHIKARA第2期に参加したのは、ソフトバンクとして次世代リーダーの育成をしたいという人事の狙いがあって、そこで私が推薦されたという経緯です。私がそこで取り組んだテーマは“塩尻型新規木材需要創造戦略”というものでした。

塩尻市は7割が森林で、アカマツとカラマツという、反ったり曲がったりしてすこし使いづらい木がたくさんあります。このアカマツとカラマツを1年で5000リューベ(立方メートル)使っていくためにはどうしたらいいか、という課題でした。私自身は森林についてもともと関心もほとんどなかったですし、問題意識を持ったこともない、山の保全のことも知らなかったので、とにかく最初はびっくりしました。短期間でいい提案ができるのかな、というのが正直なところでした。

 

ふだんの業務とは全く違う場、メンバー、そして課題。MICHIKARAが提供する場は都心のビジネスマンにとって新鮮かつ刺激の強いものとして眼の前に現れるようです。実際に課題に取り組むプロセスはどのようなものだったのでしょうか。

 

加藤:まずは『WOOD JOB!(ウッジョブ)』という林業の映画を見て気持ちを盛り上げました(笑)。MICHIKARAではじめて出会った5人のチームで、リサーチをし、集まって何度も議論をして、課題整理、問題の構造化、仮説と検証というプロセスを4-5回くらい繰り返しました。たった一週間で、です。やっぱり東京でつくった仮説、最初の提案というのはとても浅い、課題認識も浅いものでしたね。

森林の事業では、川上(森林)・川中(加工)・川下(販売)でそれぞれ想いも課題も違っていた。ほんとうにどこから手を付けていいのかわかりませんでした。結局、川上から川下まで12の団体にヒアリングをしてお話を伺い、最後は私たちチームの案が提案として通りました。森林公社が新たに立ち上がって、実際にその事業を塩尻市で今も進めています。

地域の人の想いの深さが自分の意識を変える

 難易度の高い課題にチームで取り組み、塩尻市長に提案を行って、実際にその政策が地域に導入され、課題を解決していく。こうしたMICHIKARAでの経験を経て、加藤さんの中で何が変わったのでしょう。

 

加藤:気持ちがガラっと変わりましたね。MICHIKARAの後、会社の自分のチームのスローガンが“圧倒的当事者意識”というものに変わった。

当事者意識”というのは、一生懸命取り組んだりすることである程度は持つことができる。でもそれが“圧倒的”になるためにはどうすればいいか。当事者の想いにふれる、ということが必要だと思ったんですね。

MICHIKARAが貴重なのは、官と民と住民の3つが絡む場があるというところです。そして想いをもった人、悩みを抱えた人が実際に居て、そういう方たちに直接触れることで自分の中の当事者意識がガラッと変わるんです。そのスイッチを入れる仕組みがすごいなと、振り返ってみて思いますね。

 

官と民だけの官民連携の事例はたくさんあるけれど、住民がきちんと絡んだ官民連携というのは多くないのかもしれない。現場で出会う、想いを持った人”というのは、ビジネスでいうところの顧客”というものとは何が違うのでしょう。

190131_michikara-48

加藤:“お客さんの身になって”というところでは本質的には一緒です。でも地域の人の“想い”のレベルはぜんぜん違いました。地域で何十年も解決してない課題があるとか、行政の担当者がずっと取り組んでいるけれども解けない問い。また変えたい人もいるけれど、変えたくない人もいたりします。そういった様々な想いに触れていくと、一人の人間として、自分がなんとかしなくちゃ、なにかできないだろうか、どうすれば解決できるか、という気持ちが頻繁に産まれてきました。ソフトバンクの社員であるということも忘れていましたね。

 

ビジネスの現場から集まって課題に取り組むことになった5人のメンバーたち。MICHIKARAの後も、連絡を取り合うような仲間になったというチームはどんなものだったのでしょうか。

 

加藤:業種もポジションも全く違うところから来たメンバーでしたが、会社名も捨てて、チームリーダーの提案で、会った瞬間からあだ名に変えて取り組みはじめました。他社の人たちと会社名を捨てて課題に突き進むという機会は、ふだんのビジネスではもちろん味わえないものですよね。

しかもいい意味で利益を追わないで取り組むんです。もちろん最終的には事業化して利益を出すということを考えなくてはいけないんですが、このプログラムにおいては、極端なことを言えば課題解決がゴールなので、利益のことを外してまっすぐな想いをチーム一丸となって投入できる。それが自分の限界を超えるきっかけになるんです。チャレンジすることを恐れなくなる。自信になりますよね。

 

加藤さんがMICHIKARAから帰ってきて、チームのスローガンにしたという圧倒的当事者意識”は、そうした経験から来ているのでしょう。

 

加藤:圧倒的当事者意識とはこういう状態だよ、というのを社内のチームで共有するために作ったんです。

人のヘルプに気づける思いやりがあるか(Caring)

人を助ける勇気、変革する勇気があるか(Challenge)

人を助けることのできる力があるか(Can)

その行動をコミットできるか(Commitment)

あなたはどうしたいのですか?(Contemplate)

MICHIKARAにはこれを育む場がありましたね。逆にこれが無いとMICHIKARAではうまく成果を出せない。

 

最後にどんな人がMICHIKARAに来たらいいかを伺いました。

 

加藤:今の自分のカラを脱皮したいと思っている人、くすぶっていてレベルをあげたい人には間違いなく価値があります。地域課題に興味がある人は、MICHIKARAを体感してからじゃないと見えてこないものがあると思います。あとはチームで壁を越えに行くという経験を得たい人。チームで高い壁を越えていく経験は間違いなく次世代リーダーとして行動する、引っ張っていく力を持つことができると思いますね。

バリバリのビジネスパーソンこそが地域で求められている 〜MICHIKARAメンター麻生要一さん

麻生要一さん

麻生要一さん

MICHIKARAのメンターである麻生要一さんは、リクルートでの新規事業統括エグゼクティブとして、社内・社外の多数のベンチャー・スタートアップのインキュベーションを手がけた後独立。企業内インキュベーションプラットフォームを手がける株式会社アルファドライブを創業、医療レベルのゲノム・DNA解析の提供を行う株式会社ゲノムクリニックを共同創業、ほかにも株式会社UB VENTURESではベンチャーキャピタリスト(投資家)として、株式会社ニューズピックスの執行役員として、多岐にわたる分野の第一線で活躍していらっしゃいます。

はじめにご自身が起業するにあたって考えていたことから伺いました。

 

麻生要一さん(以下敬称略):新しい価値の創造ということを考えた時、一つの企業がそれを担うのではなく、セクターを越えていくことが大事だと考えていました。企業の垣根も越えて、非営利団体も、市民活動も、自治体も、互いの垣根を越えていくところに、新しい価値創造のフロンティアがある。それを考えた時に、もっとダイナミックにやりたいなと考えたんですね。

複数の事業を手がけているのは、やりたいことがひとつに絞れなかったからです(笑)。2つの企業でオーナーシップをもっているほか、非常勤執行役員、社外取締役、VCなど様々な立場で同時多発的に仕事をしていますが、いろいろな顔を持ちながら仕事をすることで価値が生み出しやすいなと感じています。

たとえば、とあるベンチャー企業の社長と会って話をしたときに、営業もできるし、投資家としても話ができる。いっしょにやりましょうという提携の話もできるし、ソーシャルアントレプレナーズアソシエーションという社会起業家支援の一般社団法人のフェローもやっているので、純粋にアクセラレーションプログラムとして応援することもできる。あらゆる接点の持ち方ができるので、相手との関係性でなにをやったら一番価値が産めるのかをピュアに考えることができる。新しい価値の創造を生業にしているので、つきつめるとこういうカタチになったんだなと。

地域にはビジネスで解決できる課題とできない課題がある

麻生さんのMICHIKARAとの関わりは、リクルートで新規事業開発室長をされていた時からのこと。人材を送り出す企業の側からの関係でした。当時、ビジネスセクターにいた麻生さんにとって、MICHIKARAには、そして地域にはどういう可能性を感じてらっしゃったのでしょうか?

 

麻生:新規事業の立ち上げにあたっては、課題の根深いところ、“不のあるところ”という言い方をリクルートではしていたのですが、そこにビジネスチャンスがあると考えます。新規事業開発室長としては、地域にはどう見ても“不”があると思っていました。地方創生、地域の課題解決というのは大きなビジネスチャンスのフィールドなんじゃないかなという仮説があったわけです。そこで塩尻市の山田さんとの出会いがあり、MICHIKARAをいっしょにやろうよ、という話になったんですね。

MICHIKARAに関わる前は、地域のことはあまりわかっていなかったんです。地域は疲弊しているので、民間企業がお金とテクノロジーを入れたら解決できるんじゃないか、くらいでしか見ていませんでした。それから塩尻市とのMICHIKARAや、他の地域とも仕事で関わるようになって、いろんなことがわかるようになってきました。

地域には課題がいっぱいあって、かつそれが根深いということ。地方といってもいろんなプレイヤーがいて、行政、議員、首長、外郭団体、経済団体、企業もあれば市民団体もある。多層化されていてダイバーシティのあるものなんだということがわかってきました。同時に、多様なんですが、狭いコミュニティなので、一つの発言とかに気をつけなくちゃいけないとか、お作法的なこともだいぶわかりました。

そしてビジネスの話でいうと、地域の課題には、ビジネスの論理で解決できるものと、解決できないものがある、ということがわかりました。僕は当時、ビジネスの世界でしか生きていなかったので、ビジネスのスキームというものが万能だと思ってきたんです。でもそうではなかった。だからこそ非営利というセクターがあり、アカデミアというセクターがあり、行政というセクターがある。ビジネスセクターはビジネスで解決できそうな課題を扱うべきで、向いてないものはやらないほうがいい。逆に害悪になるものもある。そういうことがわかってきました

 

官民連携で取り組むべき課題とそうではない課題があるということ。ではビジネスで解決しやすい地域の課題というのはたとえばどういうものでしょうか?

 

麻生:一概には言えないんですが、キーワードでいうと、雇用や採用、ヘルスケア、あとはITが入ることで効率性やコミュニケーションコストを下げるといった価値を出せる課題。たとえば防災の連絡とかは、人口が減っていく中でITによってコミュニケーション速度をあげると解決できる。VRがあったり5Gも来る、そういう中で解決しやすいことというのがあったりしますね。

 

逆にビジネスのスキームだけでは解けない難しい課題とは?

 

麻生:プレイヤーがいっぱいいて、どこから手を付けたらいいかもわからないくらいこんがらがっている課題ですね。そういった課題が地域にはあるんです。でもその課題に立ち向かうこと、そこで無理なんだってわかることも、とても勉強になる。東京で働いていると、ビジネスで解ける課題しかないんです。ビジネスの能力があれば解ける課題しかない。でもそれでは解けない課題を与えられるっていうのは、人材教育の場として非常にいいんです。そこで人間が変わるんですよね。

民間企業のエースこそが地域で覚醒する

MICHIKARAに来たら変化し、成長するタイプの人というのはどんな人なのでしょう?

 

麻生:その人にとっても、塩尻市にとっても、どちらにもいいパターンは、民間企業のエースでビジネスのことしか知らない人が参加することだと思います。そういう人が覚醒し、変化する。リクルートでMICHIKARAに人材を送り出す側として関わっていた時、ビジネスセクターしか知らない「ビジネスの権化」だった僕は、

「純粋に課題解決をして世の中のためになれば、“儲けなくていい”というのは凄いですね」

と塩尻市の山田さんに言っていました。つまり、ビジネスセクターにいる人は、売上が上がり、利益が上がらないことはやってはいけない、という制約の中でいつも課題に向き合っている。その売り上げがなくてもいい場、投資回収という概念を取っ払って純粋に課題解決に向き合うという場がMICHIKARAなんですね。

190131_michikara-29

「儲けなくてもいいので、その指標を改善できる施策はなんですか?」

と問われた時に、ビジネスのスキームで生きてきた人にとっては思考停止になってしまうくらい難しい課題なんです。そこにはたくさんの壁が現れるし、ダイナミズムがあって難易度も高い。それがフィールドとして用意され、提案が通った時には実際に施策として市が動き、社会を変えていくところまで用意されているのがMICHIKARAです。

だからこそ、ビジネスの現場でバリバリと成果をあげている人のほうが向いている、と思います。そういう人にとって最高の成長の場。人間が変わります。思考も広がるし、視点も高くなるし、世界をもっと解像度高く捉えられるようになる。逆にビジネスの現場でまだ成果があがらない人がこの場に来ても、課題を解けないし、解けないことがその人にインパクトも与えないでしょう。

 

最後に、MICHIKARAに参加し、民としても官(地域)としても成果を出せるのはどんな人なのか、あらためて伺いました。

 

とにかく都心で働いていて、ビジネスやテクノロジーという分野でのみバリバリの成果をあげてきた人。地域に興味もない、知らない、という人に来てほしい。ふだん解いたことの無い、解けるものなら解いてみろ、という課題がここにありますよ。


 

2019年度MICHIKARA第5期の一般参加の募集が始まっています。

第5期のテーマとしては、塩尻市が抱える次の領域の地域課題、行政課題を予定しています。

1 稼げる観光・インバウンド戦略

2 市民に伝わる広報戦略

3 情報拠点施設の再生

4 地域における多様な働き方の創出

5 地域交通政策

*テーマは7月上旬に確定し公開予定です。

 

プログラム詳細及び募集概要は、下記URLをご確認ください。

企業のリーダー人材が「変革する力」を手に入れる MICHIKARA地方創生協働リーダーシッププログラム 参加者公募!

 

この記事を書いたユーザー
アバター画像

DRIVE by ETIC.

DRIVEメディア編集部です。未来の兆しを示すアイデア・トレンドや起業家のインタビューなど、これからを創る人たちを後押しする記事を発信しています。 運営:NPO法人ETIC. ( https://www.etic.or.jp/ )