起業家にとって、経営的にも精神的にも大切な存在である「右腕」。先輩起業家たちは、いったいどのようにしてそうした人材と出会い、ときには育てていったのでしょうか。
今回お話を伺ったのは、2010年の創業から今年で10年目を迎える株式会社フェアスタート代表の永岡鉄平さん。株式会社フェアスタート(以下、フェアスタート)とNPO法人フェアスタートサポート(以下、フェアスタートサポート)は、児童養護施設や里親家庭出身者の就労支援を、彼らの高い労働意欲にポテンシャルを見出している企業と施設関係者と協働し、マッチングから就職後のサポートまでを一手に担う組織です。
永岡さんにとっての「右腕」とは、フェアスタートのサービスの中でも主にキャリア教育や就職後のフォローを担当するフェアスタートサポートの事務局長を務める西村夏美さん(2019年現在、産休・育休中)と、フェアスタートでコーディネーターを務める青山なつみさん。彼女たちとの出会いから参画に至るまで、そして現在「右腕」として活躍するまでの道のりを語っていただきました。
右腕の採用は、偶然とタイミング!?
――まずは西村さんとの出会いについてお聞かせください。どのように採用に至ったのでしょうか。
フェアスタートは2010年の個人の草の根活動から始まりました。それから2011年8月に500万円の資本金で株式会社化し、西村が入社したのは2012年5月になります。
ただ、振り返ってみても、彼女の場合は意図的に採用した感覚はなく、流れに身をまかせた結果でした。 株式会社となってから半年後くらいには、個人事業主的な働き方も好きではあるけれど、組織のことを考えると今後どこかで人を増やしていく必要があるのだろうと考えるようになりました。そうした準備も兼ねてネットワークを作り出した中で、知人に「永岡さんに会わせたい人がいるのだけれど」と紹介された女性が西村です。
当時彼女は20代半ばで、障害児支援の企業で働きながら転職活動をはじめていた時期のことでした。出会ったときにはすでに転職先が決まりかけていたのですが、フェアスタートの活動に興味があるからと、時々ボランティアでイベントなどの手伝いをしてくれるようになりました。それが、彼女が入社する1年前に当たる2011年春のことです。
そうこうするうちに彼女から相談したいことがあると連絡がきて、客観的に考えたら転職支援の相談だと思うのが普通だったのでしょうが、素敵な勘違いをしてしまいまして、もしかしてフェアスタートに入社したいという連絡なのかと思い込んでしまったんですね。実際に会ってみたら入社するつもりだった企業の話がなくなりそうで文字通り「今後どうしようか」という相談だったのですが、僕はそもそも勘違いしていたので、「じゃあうちで働きますか?」と伝えたんです。その瞬間何をこの人は言っているのだという驚きの表情で見つめられたことで勘違いが発覚したわけですが(笑)、10秒ほど間があって「お願いします」と快諾してくれました。 また、当時は毎月安定した収入があるわけではなく、資本金を食いつぶすような状態で微々たる給料しか支払うことはできませんでしたが、ずっとこの状態が続くわけではないだろうと彼女も思ってくれていたようで承諾してくれたみたいです。
――本当に偶然の出会いだったのですね。これまでの採用は青山さん含め皆さんも同じような流れだったのでしょうか。
正直、採用のための合同説明会には参加したことがないですし、採用自体もオープンにしていませんし、すべて偶然の出会いとタイミングです。
3人目の舘林くんは、彼が大学3年生だったときに「児童福祉に興味があるからインターンさせてくれないか」と連絡をくれたことがきっかけでした。大学生のインターンはホームページでも募集していました。
また、その時点で事務方が2人に営業が自分1人という状態になり、組織としてちょっとバランスが悪いな、売り上げの伸びしろの限界もくるだろうなと感じていた際に採用に至ったのが青山です。
里親家庭出身の青山とは彼女が高校3年生だった2011年には出会っていて、専門学校を中退した後しばらくフリーターをしていたことも知っていました。そのままフリーターとして働き続けるのはもったいないなとは思っていましたが、彼女自身の気持ちがないとマッチングもうまくいかないので様子を見ていました。彼女から就活がしたいと相談をもらったタイミングでうちの事業に興味はないかと聞いてみたところ、2016年12月に入社が決まりました。
経歴重視の採用、「〜すべきだ」という考え方は自分が“燃えない”から
――営業の右腕を採用したいと思われたときに、経験者を雇わず未経験者を採用したのはどういった理由からだったのでしょうか。
営業的な右腕をリクルーティングして売り上げをあげていこうとしたらそれ相応の給料を支払わなければいけませんから、弊社の現状では負担が大きいという実情が一つ。ただ、仮にキャッシュが潤沢にあっても、経歴重視で採用するという組織の作り方を想像したときにあまり楽しいと感じられなくて、興味が持てなかったことが一番の理由です。
また、自分が「どうしたいか軸」と「べきだ軸」があると思うのですが、社会課題解決のスピードを早めるために経験者を採用すべきだという「べきだ軸」は頭では理解できるのですが、どうしても自分が“燃えない”んです。
加えて、自分自身人材系の企業で5年培った社会人スキルがこの業界ではまったく通用しなかったということを散々経験していますから、マーケットとしても経験者なんて滅多にいないこの業界で、施設の方とのコミュニケーションに必要な福祉への理解や、中小企業の親父さんたちとの付き合いを考えたときに、営業未経験とはいえ彼女のコミュニケーション能力が描いていた人物像に近かったということもあります。
――採用後のお二人の育て方、仕事の任せ方についてお聞かせいただけますか。
西村については事務をお任せしていたので、営業を担う自分とは完全に役割が違うことと、基本的に僕自身が事務がとても苦手で、振り返ると懺悔の気持ちですが当初は“むちゃ振り放置”状態でした。西村自身からも「これまではマニュアルがしっかりあり詳細まで管理されていたので、そこからゼロ管理への移行は正直戸惑いました。でも、徐々になれました」といった言葉をもらったことがあります。
青山に関しては、最初の1年間はとにかく現場を見せようとどこにでも同行してもらい、その後は彼女のタイミングに任せて独り立ちを待ちました。最近は自ら積極的に色々なことを進めてくれ、徐々に頭角を現してきてくれていますね。一般的には、これだけ給料を支払っているのだからこの時期までにこれくらい成長してもらおうと考えるのかもしれませんが、僕は完全に待つスタイルです。
――「待つ」ことは、意識的にされていることなのでしょうか。
いえ、もとからそうしたタイプなのだと思います。特に我慢して待っているという意識はなく、期が熟すタイミングは人それぞれだと思っているので。
これからの組織づくりは、右腕のサポートを得ながら
――それでは、過去の職員とのコミュニケーション等について自分自身の行動やリーダーシップを振り返り「ああすればよかったな」と後悔されていることはありますか。
そうですね、僕自身は必要な部分には特に力を入れ、ここは少し肩の力を抜いていいなという部分ではそうできるタイプなのですが、真面目にすべてに全力投球するタイプの職員へは自由に任せるだけでなくサポートが必要だったなと思っていて。自由に任せるスタイルが良く作用する西村のようなタイプの人もいれば、そうでない人もいる。その見極めが甘く、スタッフに任せすぎて消耗させてしまったことがあり、反省しています。その後スタッフとの関係を維持することができ、今も勤務し続けてくれていることが救いです。スタッフ一人ひとりには、心から感謝しています。
――営業されているときのプレイヤー的な側面と、社内で職員と向き合う際のマネージャー的な側面を持つ永岡さんだと思われますが、それらの使い分けで気をつけられていることはありますか?
使い分けという意識は特にないですね。職員にも、外でも中でも変わらないと言われます。
フェアスタート起業前に一般企業で勤めていたときと違うこととしては、割り切ることを諦めたところがあるかもしれません。サラリーマンで営業をしていたときは売り上げを上げるために相手を選ぶことはしませんでしたが、今は無理することはありません。青山に対しても、マナーに関しては注意をしますが、売り上げを上げるためにここは目をつぶれとはほとんど言いません。周囲からはもっと色んなお金の稼ぎ方があると言われますが、そこを大切にするならはなからこの事業をしていませんから。
また、これから職員が増えてきたときのことを考えるともう少し組織開発に取り組んだ方がいいのではないかと、昨年度参加していた「社会起業塾」(※NPO法人ETIC.主催の起業家向けプログラム)で青山からは声があがりました。正直僕自身はどうしても組織づくりに燃えることができずどうしたものかと感じていたのですが、青山は人事に関心を持ち始めたようで、営業である青山が内部調整に偏らないよう意識しながらも、彼女と一緒にそうしたことを進めていけたらと思っています。
――最後に、フェアスタートが目指す組織づくりについて教えていただければ幸いです。
僕自身が個人事業主的な動きが性に合っているということもありますが、管理しない良さというのもあるのかなと思っていて、息苦しくない環境づくりを大事にしています。例えば土日に出張が入っていたとして、週明け月曜には3時に帰るであるとか、今日は用事があるから早く帰るであるとか、そういったことは全部裁量に任せ一切NOと言わないようにしています。決してお給料が高いわけでもない仕事ですし、何のためにここで働くのかと考えると、やりがいに働きやすさが加わることが重要なポイントなのかなと。
ありがたいことに創業時からこれまでに採用した職員は一人も辞めずについてきてくれています。彼らにとって風通しの良い職場であれるよう、これからも調整できる部分は調整して環境を整えていきたいと思っています。
――ありがとうございました!
<編集後記>
永岡さんの、職員の仕事上のキャリアだけではなく、人生そのものを応援する姿勢が印象的でした。「育児や介護、病気などで働けないときは誰にもあるし、元気に働ける時期もある。だからお互いに助け合っていけばいいのだ」という言葉通り、それぞれの働きやすさを目指して自然体で職員の皆さんと向き合っていらっしゃいました。 インタビュー当日も、前日夜遅くまでイベント運営だった青山さんは午後3時に帰られるとのことで、そうした働き方が肯定されるという安心感が自分らしい能力の発揮につながっているのではないかと感じました。
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