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未来の働き方はここにある。「ローカルキャリア白書」が紐解く、新しいキャリアのあり方

2019.06.26 

 「僕らはいま、これまでの普通とは異なるユニークな生き方と安定した生き方との狭間で、自分を位置づけていかなくてはならない時代だと思うんです。一つの会社に定年まで勤めあげるという生き方が変化する中で、例えばSNSを開けば毎日一つは異なる生き方に出会いますよね」

 

自分で会社をつくる、社外でプロジェクトを始める――そういった生き方が当たり前になる中で、安定への欲求を持ち合わせながら一体自分は何をするのか? そう問われているのがいまの私たちだと語るのは、一般社団法人 地域・人材共創機構(以下、地域・人材共創機構)の代表理事であり、先日出版された『ローカルキャリア白書』の立案者でもある石井重成さんだ。

 

石井さんは現在33歳。大学を卒業後コンサルティング会社に勤め、東日本大震災を機に地域でのキャリアを歩み始めた。

一般社団法人 地域・人材共創機構 代表理事 石井重成さん

一般社団法人 地域・人材共創機構 代表理事 石井重成さん

「年間何千人のビジネスパーソンに出会う中で、そのうち半数は都市部の人たちですが、皆さん共通して“自分はこのままでいいのかな?”と悩まれています。ローカルキャリアというのは、そうした安定した生き方と異なる生き方の狭間で悩む人たちがカジュアルに始められる、ユニークな自己定義をしていける新しい働き方だと思うんです」

地方で働くのは、都落ち? ローカルキャリアは本当にキャリアたるのか

「ローカルキャリア」とは、地域・人材共創機構が生んだ造語だ。しかしそれは戦略的に生み出されたわけではなく、同機構に集う地域に関わりながら働くメンバーたちが自分たちの働き方を表現するのに一番しっくりきた言葉を選んだだけであると石井さんは語る。

 

「“ワーク”より“キャリア”の方が自分たちのあり方に近いということ、一方でキャリアという言葉はキャリアアップなど直線的な、出世の階段をイメージさせますが、そうしたことを示したいのではなく、地域と関わることで生まれるキャリアがあるのではないかということを伝えるためにローカルキャリアという言葉を選びました」 2

地域・人材共創機構の始まりは、被災地の行政の人手不足を解決するプラットフォームとして復興庁が立ち上げた「WORK FOR 東北」(2016年3月終了)だ。その後全国へ範囲を拡大した「WORK FOR にっぽん」(2017年3月終了)に活動は引き継がれ、4年間続いた地域と都市との人材マッチング事業から浮き彫りになった、地域課題とその背景・アプローチの多様さ、都市と地域の人材を繋げるために必要な受け入れ地域側の準備の必要性といった課題を解決するため、参画自治体・団体の有志によって生まれたのが同機構である。現在はそのプロジェクト名を「CAREER FOR」と名づけ、地域への人材採用・育成・輩出の包括支援を通じてローカルキャリア人材を創出するというミッションを掲げて活動している。

 

今回、石井さんと共にお話を伺った宇野由里絵さんも「CAREER FOR」メンバーの1人だ。

雲南ソーシャルチャレンジバレー企業チャレンジ事務局 宇野由里絵さん

雲南ソーシャルチャレンジバレー企業チャレンジ事務局 宇野由里絵さん

石井さんと同じく今年で33歳。大学卒業後大手銀行に就職し、勤務の傍ら社会人同士の学び合いの場を作るNPO法人で活動してきたと言う。2015年にはそうした活動の中で縁を深めてきた島根県教育魅力化特命官の岩本悠さんから誘われ、島根県に移住。島根県で働く中で、ご縁が繋がり、ローカルパラレルキャリアを歩み、現在は雲南市を拠点に他地域連携や企業チャレンジの生態系づくりに取り組んでいる。

 

「震災以降、地方で挑戦している人たちの活動はメディアなどを通じて注目を浴びるようになりました。CAREER FORに集っているのも、まさしくそういった人たちです。けれど、地方で挑戦することや、私のように雲南市と他地域など地域間で移動する働き方は、社会的にはまだまだマイナーな選択肢。よく分からないからこそ“都落ち”のようにネガティヴに語られがちでもあるんです」

 

それならば、地方で/地域間で移動しながら働くキャリアは、本当にキャリアたるのだろうか? そうした問いを証明すべく、「CAREER FOR」メンバーは『ローカルキャリア白書』の発刊を決めたのだと言う。

24名の質的調査、700名近くのアンケート調査から明らかになったローカルキャリアの全貌

『ローカルキャリア白書』は、I.実践者へのインタビュー調査 II.東京と地方都市それぞれで働く人へのアンケート調査 Ⅲ.考察 の3部構成になっている。

 

第Ⅰ部のインタビュー調査では、IターンやUターンなどいくつかのポイントによって選定された20代後半〜40代までの男女24名に対し、ローカルキャリアを実践するようになった経緯、障壁、必要なスキル、得られたこと、メリットデメリット、都市と比較しての働きがい・働きやすさなど9つの印象的な問いを投げかけた上で、回答を再度分類し、そこに現れた傾向を地域で磨けた力、キャリアに対する意識などの8項目にまとめてある。

 

第II部のアンケート調査では、東京、岩手県釜石市、石川県七尾市、長野県塩尻市、岐阜県の一部、島根県雲南市から集めた700以上ものサンプルから、現在の職場の働きやすさ、働きがい、仕事への満足度、通勤時間、副業の実際、社会貢献への意識、人間的成長を感じているかなどの回答を回収し統計結果を開示、東京と地域において働きがいや働きやすさに違いはあるのかという視点から考察を加えている。

 

また、随所に散りばめられたコラムでは、「ローカルで活きた一般的なビジネススキルランキング」、「ローカルキャリアの収入」、「地方だからこそ生まれる新しい仕事一覧」など、ローカルキャリアに関心を持つ人なら誰しも興味を抱くようなトピックを扱っていて、実情報告書としての白書という枠を越えて読みものとしても楽しめる構成になっている。

 

しかしながら、気になるのはその英題。『ARTS OF LOCAL CAREER』の「ARTS」とは一体何を指すのだろうか? 石井さんにその心を尋ねると、こんな答えが返ってきた。

2

 

「これは僕の強いこだわりでもあるのですが、ローカルキャリアは“可能性の芸術”だと思うんです。アートという言葉は、絵画や美術品だけではなく、技術や術(すべ)、在りようを指す言葉でもあります。ローカルキャリアの在りようは多種多様で、かつ個人の成長が地域(=そのコミュニティ)の成長に繋がるということを実現できる暮らし方だと思っていて。自己変容と暮らす場所の成長が噛み合う、ある意味で新しい公共の体現の仕方だと思います」

 

とはいえ、ローカルキャリアを実践する全員がうまくできているわけではないし、どの地域に行ってもいいというわけでもない。それでも、一人ひとりが様々な可能性と苦難をまるっと抱きしめて歩む未来が地域の未来に繋がっていく――そんなローカルキャリアというあり方を、「可能性の芸術」だと感じるのだと石井さんは語る。

“ふるさと”は自らつくれる、キャリア・ドリフトが実践される・・・見出されたローカルキャリアの可能性7つ

様々な角度から調査した今回の白書から見えてきた実際は、ローカルキャリアを歩む2人にとっても新鮮なものだったようだ。

「調査で分かったことですが、今の仕事に満足しているか働きがいを感じるかは都市部と地方で大差ないんですよ。多くの人から見たら東京の方が魅力的な仕事が多いだろうし実際にフィーも高いのに、個人の目線で見たら意外と差がないんです。

また、僕自身これまで大企業で働くよりも地方の小さな組織で働く方が“手触り感がある”ということを実感値から語ってきたのですが、とはいえそれは本当なのかずっと疑問に思っていて、今回のアンケート調査でその点が本当らしいと明らかになったことは自信に繋がりました」

該当図表「私の仕事は周りに影響を与えている」(『ローカルキャリア白書』p.48より)

該当図表「私の仕事は周りに影響を与えている」(『ローカルキャリア白書』p.48より)

続けて宇野さんも、こう語る。

 

「これまでローカルキャリアを歩む仲間と協働する中で、阿吽の呼吸で気持ちが通じる感覚があったのですが、蓋を開けてみるとその目的も何を大切にキャリアを歩んでいるのかも実際はこんなにも多様だったということに驚きました。 一方で地域への向き合い方やリスペクトなどその姿勢に共通する部分も浮き彫りになり、企業ではスキルを重視されますがローカルではその人自身が何を大切にしているのかという人間性の部分で関係性が構築されることも改めて見えてきて、多様でありながら人間性の部分で繋がり共存できるローカルの良さを再確認しました」

 

この白書制作を通して明らかになったことをもとに「CAREER FOR」チームが伝えたいローカルキャリアの可能性とは、以下の7つだと言う。

ローカルキャリアの可能性(『ローカルキャリア白書』p.33より)

ローカルキャリアの可能性(『ローカルキャリア白書』p.33より)

 

その詳細はぜひ白書を手にとって確かめてみてほしいが、特に「キャリア・ドリフト」という視点に関して、宇野さんは以下のように語る。

 

「皆さんもイメージを持たれているかもしれませんが、地方って理不尽なことも多いんですよ。都市部では同質性の中で障壁なくうまくいくようなことが、地方だと本当に小さなことにつまずいたり、よく分からない横槍が入ったりすることも多々あります。 ただ、私はそうした偶然起こる、ある種の面倒ごとに対して必然的な意味を見出す中で、人間としての幅を広げられているなと感じていて。しがらみがあるからこそ成り立っているものがあると気づくようになると、キャリア・ドリフトにも敏感になっていくと思っています」

 

都会でもチャンスやセレンディピティはあるけれど、目の前の面白いものに気づいて面白がれる、そこに飛び込んでいける力が磨かれるのが地方だと語る宇野さん。 石井さんも、「セレンディピティと呼ばれるような予期せぬ偶然性から人生をつくっていくという実感値を小さく試すには、ローカルキャリアは適していると思う」と続ける。

 

「例えば釜石の喫茶店に入ったとして、8人中2人くらいは知り合いだったりします。そうすると、残り6人をその2人から紹介されるのがローカルです(笑)。一方で東京のカフェでは30人のお客さんがいても、普段はあまり接点を持たないですよね。コミュニティが小さいからこそ多様な年代・業種が繋がっていくのですが、そうした多様な人たちとの協働経験は特にビジネスの経験値としても得難いものだと感じます」

届けたいのは、異なる生き方をのぞいてみたい人、ローカルキャリアを既に始めている人、地域で移住促進に携わる人

全編を通してローカルキャリアを歩む個人の目線で編集されている『ローカルキャリア白書』。ローカルキャリアに関心のある人はもちろん、すでにローカルキャリアを歩んでいる人たちにもぜひ手にとってもらいたいものだと石井さんは語る。

 

「すでにローカルキャリアを実践している人にとっては、本書はこれまでの事業や活動を俯瞰的に見つめ直し、その意味づけを重ねる一助となればと思っています。ローカルキャリアの実践者たちが自分たちの在りようを語り、まわりに“異なる生き方を選ぶ勇気”を提供していくことで、都市と地域の垣根がなくなって、当たり前のようにもっと行ったり来たりできて、自分で自分の生き方を切り拓くことのできる土壌が耕されていくのではないかと思ってます」

 

宇野さんは、地方で移住促進に携わる人たちにもこの白書を届けたいと語る。

 

「今回の白書では、ローカルキャリアを築けるまちの条件についても考察しています。ただただ移住定住を声高に叫んでも、それは人の取り合いにしかならないということは皆さん薄々気づいているんですよね。そうではなく、自分たちのまちがローカルキャリアを築けるまちだと自信を持って人に伝えられるようになるために、この白書が役立てるのではないかと思っています」

 

『ローカルキャリア白書』の副題は、「未来の働き方はここにある」。異なる生き方をのぞいてみたいというあなたにも、すでに始めているよというあなたにも、ローカルキャリアシティとして自らの地域を育てていきたいあなたにも。新しい気づきや勇気をくれる一冊であることは、間違いないだろう。

 

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この記事を書いたユーザー
桐田理恵

桐田理恵

1986年生まれ、茨城県育ち。医学書専門出版社にて企画・編集職の経験を経てから、2015年よりDRIVE編集部の担当としてNPO法人ETIC.に参画。2017年からはフリーランスのライターとして活動している。

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