Zoom撮影《Photo by Ryota Yasuda》
「私の記事を見て、元気になってもらえれば嬉しいです」
そう語るのは、今回取材をした中澤希公(きく)さん。
高校時代にホスピタルアート(*)のプロジェクトを自身で立ち上げ、アートを通じて患者さんに元気を届けてきました。
(*)病院空間の中にアートを取り入れることで、患者さんの心を癒す取り組み
中澤さんは中学3年のときにお母さんと死別し、医療に興味を持ち始めたとのこと。そして高校1年のとき、海外留学の際に訪れた病院で、今まで出会ったことのなかった素敵な空間に衝撃を受けます。
現在大学1年。ホスピタルアートに続き、新しいアクションにも挑戦しようとしている中澤さんにお話を伺いました。ぜひお楽しみください。
目次
- 「PAIN PAIN GO AWAY」について
- 患者である前に一人の人として過ごせる時間、が提供されていた海外の病院
- 【中澤さん作画】絵本で表現する、ご自身の思い
- 「希公」という名の通り、みんなに希望を届けられる人になりたい。
中澤希公(きく)さんについての紹介
2002年生まれ、現在18歳。慶應義塾大学環境情報学部1年生。建築デザインをメインに、心理学や経営について勉強中。また大学とは別で、カラーセラピストの資格取得に向けて学習中。インテリアデザイナーのアシスタントとしても活動されています。
「PAIN PAIN GO AWAY」(ペインペインゴーアウェイ)というホスピタルアートのプロジェクトも行なっています。「病めるときも、診るときも、いつも心には彩りを」をテーマに、昨年2019年夏、ご自身が高校3年生のときに始めたものです。
また病院の空間デザインに興味を持ってから、30以上もの医療現場を視察されたようです。日本でも病院の空間デザインが重要視されてきているため、成功事例などを吸収できるよう励んでいるとのことです。
「PAIN PAIN GO AWAY」について
──本日はよろしくお願いいたします。はじめに、ホスピタルアートのプロジェクト「PAIN PAIN GO AWAY」についてお聞かせください。
中澤 立ち上げた当時(2019年夏、高校3年)、スキルや人脈もなく、想いだけがありました。ただそれだけでは何もできないので、最初の2ヶ月間、ホスピタルアートに関わる人々や医者の方々のもとを訪れ、アドバイスをいただくインプットの期間を持ちました。
その後、自分たちでも実際にやってみようと、介護老人保健施設で認知症患者の方々と一緒に、紙皿を使ったアート作品をつくりました。今までいただいたアドバイスも参考にしながら、「患者さんが参加型で、野菜スタンプを使って紙皿1枚1枚に描き、それらを並べて、最後に一つの作品が出来上がる」ようにしました。
合計15回以上、介護老人保健施設に通い、患者さんとともに作品をつくっていました。
介護老人保健施設で認知症患者の方々と一緒につくった紙皿のアート作品。写真はその制作風景。《後ろ姿:中澤さん》
──そのときの様子はいかがでしたか?
中澤 最初は「野菜をスタンプにしてつくりましょう」と無理やり患者さんにやらせている感じが出てしまいました。しかし途中から、楽しそうにやりたいように作品づくりの時間を過ごしていただけるようになりました。
私としても、「やりたいようにやってもらい、その人らしく過ごしてもらえるのが一番」だと考えていたので、とても嬉しかったです。
また私自身、初めてのことばかりで最初は精神的に疲れてしまいました。ですが途中からは自然体で楽しめるようになりました。
作品制作の間、順調に進まないことも、「これで本当によかったのかな」と思うことも正直ありました。しかし患者さんたちの笑顔を見る度、「実施して本当によかった」と感じていました。
認知症患者のみなさんということもあり、毎回訪問する度、私のことを忘れていたり、前回つくった作品を忘れていたり。ただそれはそれで新しい体験で、一回一回の訪問を大切にしながら作品づくりができました。
紙皿を使った作品制作とは別のプロジェクト。今年2020年夏オンライン開催。カラーセラピー(色彩療法)を取り入れた参加型アートイベントの様子。ここでつくられた作品は医療現場に届けられました。《上段左から2番目:中澤さん》
病院の空間デザインに興味を持ってから、30以上もの医療現場を視察されたようです。日本でも病院の空間デザインが重要視されてきているため、成功事例などを吸収できるよう励んでいるとのこと。《中央:中澤さん》
患者である前に一人の人として過ごせる時間、が提供されていた海外の病院
──「PAIN PAIN GO AWAY」を立ち上げるきっかけに、アメリカ・ボストンでの病院訪問があったそうですね。その当時のお話をお聞かせください。
中澤 高校1年生のときにボストンに語学留学しました。その中で、ダナ・ファーバー癌研究所という医療機関を見学しました。医療に興味があり、将来癌の治療に携わりたいと考えていたためです。
その研究所の中には病院もありました。そこはガラス張りで木がたくさん植えられていて、森林のような感じでした。小鳥のさえずりも聞こえてきたり。天井が高く、室内なのに開放感があり、とても印象的でした。
──病院がまるで森林のようで、開放感があるというのは興味深いですね。そのほかどのようなことを感じましたか?
中澤 植えられた木の前にベンチが置かれていて、そこに座って、患者とその家族が一緒に話しながら思い出を作っていたり、患者が一人で自分の生涯について考えていたり。その様子が衝撃的で、感動を覚えました。
たしかに日本の病院も──たとえば小児科だったら壁に絵が描かれていたりと、工夫されています。しかし、私が見学した病院は、日本の病院とは「何か違う」と思いました。
「患者である前に一人の人として過ごせる時間」や「人間らしく暮らせる時間」が、患者のみなさんに提供されていました。
ボストンの病院にはほかにも、階段には小児科の患者さんがつくったオブジェが飾られていました。その中にはすでに退院している子や亡くなっている子もいて、「このアート作品をつくった子は、もうこの世にいないんだ」と、私自身もとても考えさせられました。
過去に母が日本で色々な病院を利用し、私も当事者──患者の家族として生きてきたので、この病院に魅力を感じたのだと思っています。人生すべてが繋がっている感覚です。
当時のダナ・ファーバー癌研究所の様子《中澤さん作》
【中澤さん作画】絵本で表現する、ご自身の思い
中澤さんは中学3年のときにお母さんと死別されています。その当時の様子についても取材でお話いただきました。ただ今回の記事では、文章ではなく、「絵本」という形でお伝えいたします。
◆
これから紹介するのは、当時、お母さんの死と向き合うために、中澤さんがご自身で制作されたものです。
今まで外部に公開してこなかったそうです。しかし今回、「同じ境遇の人の救いになりたい」「今まで支えてくれた人に感謝を伝えたい」という理由で、特別に掲載許可をいただきました。ぜひご覧ください。
◆
「希公」という名の通り、みんなに希望を届けられる人になりたい。
──絵本ありがとうございました。さて最後に、今後のビジョンをお聞かせください。
中澤 「希公(きく)」という私の名前は、“誰にでも公平に、公の場で堂々と希望を与えられるような子になって欲しい”という願いが込められています。
その名の通り、「みんなに希望を届けられる人になりたい」です。
また「希望が溢れる世界をつくりたい」とも考えています。
今まではホスピタルアート──生きている人に対してどうアプローチしていくか、闘病生活を過ごしている方々にどう彩りを取り入れていくか、ということをメインに活動してきました。
そして最近あらためて「私にしかできないこと」を考え直し、グリーフケア(*)──死別した子に対してケアをするということに興味が出てきました。
(*)大切な人を亡くしてしまった人の喪失感をなくすケア
この領域は、実体験がある人しかケアの場に立ち入れなかったりします。具体的にどのようにアクションしていくのかは現在検討中ですが、今までの私の経験を活かしていきたいです。
──読者の方へのメッセージもお願いします。
中澤 誰しも辛いときや悲しいときがあると思います。そこを頑張れば──といっても頑張るものではないですが、いつかそれがいい方向に持っていけると信じています。私も困ったときに支えてくれる友達がいて、今があります。
今までの自分自身の経験をこれから積極的に情報発信していきます。というのも最近、私の周りの友人から、「親が病気で」と相談をいただくことが増えました。同じような状況の人に対して助けになれたらと思っています。
ぜひお気軽にご連絡いただけると嬉しいです!
<中澤さんの note / Twitter / Instagram>
──ありがとうございました。引き続き、心から応援しています!
※本記事の掲載情報は、2020年09月現在のものです。
慶應義塾大学環境情報学部1年生/中澤希公さん
2002年生まれ、18歳。実践女子学園高等学校卒業。幼い頃からクラシックバレエを習い、中高では創作ダンス部に所属。100BANCH GARAGE Programメンバー。MAKERS UNIVERSITY U-18 5期生。好きな関節はリスフラン・ショパール関節。希望をみんなに届けたい。
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