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“都市で暮らす”を楽しむために ~都市型コミュニティ財団と“私鉄3.0”~

2019.09.20 

待機児童、通勤ラッシュ、学童の不足、家賃や教育費の高騰…。

都市での暮らしは厳しい。地方の自然が恋しくなるのも当然だ。

しかし現実には、東京の人口は増加の一途を辿っている。それどころか、大阪圏・名古屋圏の人口増加が相対的に抑制され、東京だけが局所的な人口増を見せている。

そして都市に忍び寄るのは高齢者の激増。2025年、東京には一気に高齢化の波が押し寄せると言われている。多地域居住や地方移住がもてはやされている一方で、遠距離介護や進む過疎に耐えかねて、地方から親を呼び寄せ同居や近距離居住に踏み切る現実もある。

何より、統計的には東京生まれ・東京育ちは、多くの場合東京に定着すると言われている。価値観が多様化していく中で、この先の社会がどうなるかは誰も予想がつかないが、しばらくの間、都市への一極集中は続き、東京で生まれ、東京で育つ生産年齢人口は増え続けるのだろう。

多摩川にかかる二子玉川駅。ホームには東急田園都市線の車両が見える。

多摩川にかかる二子玉川駅。ホームには東急田園都市線の車両が見える。

だからこそ考えた。“都市で暮らす”を楽しむために、どうすればいいのか。

行きついた答えが、“都市をじぶんごとにする”だ。

財団設立1周年の記念パーティーの様子

財団設立1周年の記念パーティーの様子

筆者は東京都世田谷区にある“世田谷コミュニティ財団”の代表理事をしている。

世田谷コミュニティ財団は、民間発で作ったコミュニティ財団。行政である世田谷区が税金で作った財団ではなく、区内外の一般市民から一人一口1万円のご寄付を頂き、設立した財団だ(発起人は一口10万円~)。

 

世田谷コミュニティ財団のミッションは“まちを支える生態系をつくる”。

世田谷という場所を中心に、コミュニティを豊かにする活動を行う人や組織を応援し、その活動を伝え、まちにかかわる人を増やすことが主な仕事だ。

 

設立時に頂いた寄付額は約1,000万円。400名近い一般市民の皆さんからのご支援を受けた。

「都市型コミュニティ財団をつくる」というコンセプトに共感し寄付して下さった方々が、老若男女を問わず存在したことに、驚きと感謝を覚えた。

寄付者・参加者の皆様に1年間の歩みを説明している様子。 壁一面のカードをはがすと活動風景が浮かび上がる仕組みだ

寄付者・参加者の皆様に1年間の歩みを説明している様子。壁一面のカードをはがすと活動風景が浮かび上がる仕組みだ

世田谷区には推計人口で約94万人が暮らしている。古くから良好な住宅地と言われるこの街は、東急・小田急・京王の私鉄3社の沿線開発によって、街の風景が形作られてきた。区内にある駅の数は8路線41駅。しかし東京23区で唯一、JRと東京メトロの双方の駅も路線も存在せず、まさに「私鉄がつくった街」だと言える。

 

一方で区内を走る私鉄路線は、路面電車の風情が愛らしい東急世田谷線を除けばすべて、東京メトロとの相互直通運転を行っている。都心部へのアクセスが良いことから、港区・千代田区・中央区といった都心三区や、新宿区・渋谷区といった山手線圏内で働く住民も多い。筆者もかつてはそうだった。そこには「地域で暮らす」感覚はない。

 

東京は民間資本にその行方を左右される街だ。人口増加が止まらないため、宅地開発は相変わらず活発だ。世田谷区内でいえば、商業施設のオープンによって街の形がかわった二子玉川周辺、駅前の再開発で周囲が一変した下北沢などがその象徴だろう。渋谷の開発も進んでいる。この先しばらく、世田谷を含む城南エリアの人口集積が続く予兆はそこかしこに存在する。

だからこそ問いたい。

成長と高齢化が同時に進行する都市で、あなたはどう、心豊かに暮らしていきますか?と。

夕暮れの世田谷の街

夕暮れの世田谷の街

世田谷コミュニティ財団では、その答えを探すために、東急電鉄執行役員の東浦亮典さんをお迎えして、次のイベントを開催する。

その名も「東浦さん、“私鉄3.0”ってどうやって実現するんですか?」会議!! ~沿線人気NO.1企業に聞く、企業とローカルコミュニティのつながり方~」である。  

東急電鉄といえば、日本の私鉄の雄である。営業収益は私鉄各社のなかで最高位。常に新しいチャレンジをしながら、都市の文化や暮らしのあり方を提示し醸成してきた存在でもある。そんな東急電鉄は、9月に「株式会社東急」に社名を変更し、鉄道事業を分社化。傍からみると「鉄道の会社」から「都市経営とまちづくりの会社」へとその立ち位置がより鮮明になったように感じる。

前掲書にはこう記されていた。郊外の宅地開発や商業開発で稼ぐ時代から、ICTやAIを活用して沿線顧客のスマートな暮らしを応援する時代へ。ビジネスモデルは転換する、と。こうしたビジネスモデルの転換は、成熟段階に移行した日本の都市近郊の私鉄各社が、大なり小なり模索していることなのかもしれない。

渋谷周辺では再開発がピークを迎えている

渋谷周辺では再開発がピークを迎えている

しかし、「都市のコミュニティ」を考える立場からは、疑問が残った。

「東急電鉄が考える“世界が誇れる街づくり”が実現した時に、都市部のローカルコミュニティはどんな姿になっているんだろうか?」

「技術革新が社会を変える時代に、私たち都市住民はどんな暮らしをしたいのだろうか?」

「その時に、民間資本とコミュニティとの関係性は、どう変化しているのだろうか?」

世田谷区・二子玉川はこの数年で大きく変化した街の一つだ

世田谷区・二子玉川はこの数年で大きく変化した街の一つだ

私たち都市住民は、民間資本の間を泳ぐように暮らしている。利用区分があいまいな土地は極めて少なく、人数が多い分、匿名性も高い。公・共・私でいえば、「私」が極端に肥大しているのが都市だ。商業的なサービスに対価を払い、使いこなしながら自分、あるいは家族という最小ユニットを守る。そしてそれを維持できる稼ぎを何とか確保する。それが都市の暮らしだ。

 

しかし、それだけでは心豊かに暮らせないことがわかってきたのが、平成という時代だった。

だからこそ、「私」を重視する民間資本と、「公共私」を横断し、都市を自分ごと化する「コミュニティ財団」が、どうつながるか、補い合えるかを考えたい。それが今回のイベントを開催する目的だ。

 

既に解決の糸口はある。それが冒頭に記した、「都市をじぶんごと化する」だ。

緑あふれる駒沢公園。東急田園都市線沿線に位置する。

緑あふれる駒沢公園。東急田園都市線沿線に位置する。

みなさんも経験があるだろう。社会に対して、人に対して、斜に構えると情報は遮断され、小さなことでも怒りがわく。しかし物事が「じぶんごと」になれば、能動性がわく。そして新しい世界が開け、人との出会いや繋がりが豊かに育まれていく。

だから考えた。街のことを「自分のこと」だと考える人を増やしたい、と。

 

世田谷コミュニティ財団は「まちをじぶんごとだ」と感じた人々によって生み出され、支えられている。設立時の寄付はもちろん、多様に生まれているプロボノ(社会人によるボランティア)の関わりもその象徴だろう。財団の取り組みは多くの都市住民のボランタリーな意思に支えられている。かくいう筆者もその一人だ。対価性がなくともエネルギーが維持できるのは、このチャレンジが「じぶんごと」だと感じているからではないか。

 

私鉄による沿線の都市開発は「狩猟型」ではなく「農耕型」「林業型」だという。狩りつくしておしまいではなく、長期的な目線で見て、育てて使って、また育てる。その繰り返しで、沿線価値を向上させる。

しかしこれからの時代、それはおそらく民間資本だけでは実現しない。なぜならば、高齢化と人口減少、価値観の多様化が進むまちで、「居場所と出番」をつくり、「消費の街からクリエイティビティあふれる生産の街へ」転換するには、コミュニティの中のつながり、そして都市を「じぶんごと」と感じる人が必要だからだ。

 

都市近郊の街で、民間資本、とくに電鉄会社は特に重要な役割を担う。だからこそ、その先の未来を共に考えたい。“私鉄3.0”の未来、ぜひ皆さんと共に語ることが出来ればと思う。

本稿に掲載されているイベントについての詳細はこちら。

「東浦さん、“私鉄3.0”ってどうやって実現するんですか?」会議!!

~沿線人気NO.1企業に聞く、企業とローカルコミュニティのつながり方~

▼イベント申し込み

https://scf.tokyo/3623/

 

日付:9月28日(土)14時~17時

場所:二子玉川カタリストBA

(東急田園都市線・大井町線 二子玉川駅すぐ)

https://catalyst-ba.com/access.html

 

▼世田谷コミュニティ財団 ウェブサイト

https://scf.tokyo/

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水谷 衣里

株式会社 風とつばさ 代表取締役/コンサルタント。 UFJ総合研究所(現:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)にて、ソーシャルセクター・市民公益活動に関する政策立案やコンサルティングに従事した後、独立。ソーシャルファイナンス・社会的インパクト投資といったソーシャルセクターの資金還流や、社会起業家養成・ソーシャルビジネスの経営支援、支援者の創出・育成、プロボノコミュニティの運営に携わる。 NPO法人ETIC.とは、「社会起業塾イニシアチブ」やソーシャル ベンチャースタートアップマーケット、中小企業への右腕マッチング事業などを通じて連携・協働。 大学教員として、ソーシャルイノベーション、ソーシャルアントレプレナーシップ等に関する教育・研究にも従事。 各種執筆や講演、コーディネーションを通じて、当該分野への知的貢献を続ける。

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