10月19日(土)東京都渋谷区にて、日本初のダイバーシティに関するキャリアフォーラム「RAINBOW CROSSING TOKYO 2019」が開催されます。このキャリアフォーラムでは、 LGBT、ジェンダー、障がい、エスニシティなど、属性・特性にかかわらず「自分らしく働く」ことについて考えます。学生や就職活動中の方、就労支援を行う方、ダイバーシティに興味のある企業や一般の方、どなたでも参加可能です。主催者の、教育機関や企業向けにLGBTやダイバーシティの授業や研修などを実施する認定NPO法人ReBit代表・藥師実芳さんにお話を伺いました。
LGBT→ダイバーシティにテーマを拡大。だれもが自分らしく働ける社会へ
ー今年で4回目を迎えるRAINBOW CROSSING TOKYO 2019、いよいよ来月の開催となりました。まずはじめに、どのようなキャリアフォーラムなのか伺えますか?
藥師「RAINBOW CROSSING TOKYOは、もともとLGBTに特化したキャリアフォーラムとして2016年にスタートしました。第4回目の今年から、LGBTだけでなく、ジェンダー、障がい、エスニシティにテーマを広げ、ダイバーシティに関する日本初のキャリアフォーラムとしての開催が決まりました。自分らしく働きたい学生や就活生、ダイバーシティに取り組む企業、大学やハローワークなどの就労支援者が一同に会し、属性にかかわらず、自分らしい働き方について考えるきっかけになることを目指しています。」
ーもともと、2016年にこの企画を始めたきっかけはどのようなことだったのでしょうか?
藥師「トランスジェンダーである私自身、学生時代は、 ダイバーシティに取り組む企業やロールモデルの姿が見えず、自分らしく働ける職場なんてないんじゃないか・・・と不安に思っていました。2013年からReBitのキャリア事業を通してLGBTの学生や就活生のみなさんと接してみると、多くの方が同じような悩みを抱えていて、自分らしく働くことをを諦めるケースが多かったのです。
その一方、ReBitで200社以上の企業のみなさんとお仕事をするなかで、ダイバーシティに積極的に取り組まれる企業様や、熱い想いで推進をしてくださる担当者様と多く接し、心を打たれました。また、さまざまな多様性を持つ学生や求職者を支援したいと願い、行動されている就労支援者のみなさんもたくさんいらっしゃったのです。
そうすると、必要なのは、情報や想いが交流し合える場所なのではないか?学生や就活生・企業・就労支援者のコミュニケーションの滞りを解消できれば、少しでも実態を前に進められるのではないか?と考えるようになりました。それがこの企画を始めたきっかけですね。」
ー今回から、LGBTからダイバーシティ全般にテーマを広げたのはなぜでしょうか?
藥師「当たり前ですが、誰もが”ちがい”を持っています。ジェンダー、年齢、エスニシティ/カルチャーのちがい、子育てや介護の経験、がんとともに働く人、障がいがある人など、一人一人が多様です。考え方やコミュニケーションの仕方、得意分野も人それぞれです。私自身トランスジェンダーであり、発達に凹凸があり、帰国子女で日本語がほとんど話せなかった経験があります。一人の人間の中に、複数の軸があります。
そんな多様な背景を持つ人々の集まる企業では、誰もが「ちがい」を持っていることを前提としたコミュニケーションやチームづくりが大切なのではないかと思うのです。それは就活生のキャリア支援をするときにも同様で、様々なテーマを横断することが一人一人の働きやすさに繋がるのではないかと考え、今回からRAINBOW CROSSING TOKYO 2019のテーマを拡大しています。」
「自分らしく働けない」のはなぜ?
ー多様な背景を持つ方々が「自分らしい働き方」を諦めてしまうのには、具体的にはどんな背景があるのでしょうか?
藥師「LGBTの方々を例にとると、ReBitの調査では、”企業との面接時に、性自認、性的指向に関するハラスメントや困難を経験したことがある”LGBTの新卒就活生の割合は、トランスジェンダーで87%、LGBで42%にのぼります。
たとえばトランスジェンダーの場合は、履歴書の性別欄と、見た目の性別が異なることも多く、自分がトランスジェンダーであることを面接時に伝えざるを得ない状況になります。面接官から”身体はどうなっているの?”など、選考に不要な質問やハラスメントを受けたり、面接のほとんどの時間をLGBTの説明に費やされたという学生も少なくありません。また、企業説明会等で、LGBTの施策の質問をしたら採用に不利になってしまうのでは・・と心配し、自分が安全に働ける職場であるか聞くことをためらうこともあります。
この数年でLGBTの社会的認知は進み、状況は変化していますが、一方ではまだ、そんな状況を経験する就活生は少なくありません。その結果就活すること自体諦めたり、自分を受け入れてくれるところであればどこでもいいと、積極的なキャリアを描くことを諦める学生がとても多いのです。」
ダイバーシティへの企業姿勢の変化、課題
ーこの数年で、LGBTなどさまざまな背景を持つ方々への理解や、ダイバーシティ&インクルージョンという考え方に関する社会的認知が以前よりは広がったようにも感じます。企業の姿勢になにか変化は感じますか?
藥師「2014年、オリンピック憲章に性的指向による差別禁止の条項が加えられ、2018年には東京都が性的指向や性自認に関する差別を禁止する条例を制定しました。そういったことも後押しになり、東京オリンピック・パラリンピックのスポンサー企業や大企業を中心に、LGBTの取り組みはたしかに以前より普及しています。
2018年からは、ReBitの事業全体としてもダイバーシティ&インクルージョンにテーマを広げています。様々な専門を持つNPOと連携し、テーマを横断したダイバーシティ&インクルージョンの研修やワークショップを展開しています。」
ー企業によるダイバーシティ推進の事例を教えていただけますか?
藥師「導入制度例としては、LGBTの分野であれば、”法律上の家族”に限定していた福利厚生などの制度を同性パートナーにも適応する”同性パートナーシップ制度”の導入、企業の行動指針や差別禁止規定のなかに性的指向や性自認を含めるケースも増えています。
トランスジェンダーが性別を変える手術を受けるための休暇を取得できる企業や、働く性別を移行する際にサポートをするためのガイドラインを作成している企業もあります。
また、誰にとっても働きやすい施策として、テレワークの導入等の在宅勤務制度、フレックスタイム制度や短時間勤務制度、副業や兼業の推進などもあります。配偶者の転勤、留学などの自己啓発、社員それぞれの理由で、企業に在籍したまま数年間の休職ができる制度を導入した企業もありました。」
ーいろいろな制度事例が生まれているのですね!そういった取り組みはどの程度普及しているのでしょうか?
藥師「やはりまだ大企業が中心です。国内企業の99%は中小企業なので、これからは、まだあまり取り組みが進んでいない企業への働きかけも重要です。
以前、中小企業の社長さんとお話したとき、”ダイバーシティは自社でも進めたいけど、どこから始めたらいいのかわからない”とおっしゃっていました。企業の導入ハードルを下げるには、企業側の意識だけではなく、わたしたちソーシャルセクターからの提案の工夫も必要です。まずは新卒研修や管理職研修など、既存の枠組みに入れられるような”第一歩目”の提案をするなど、導入しやすい形も考えたいです。
また、”LGBTへの施策”、”女性の活躍”、”障がい者の活躍”など、ひとつの課題ずつ取り組むことも重要なのですが、職場でのインクルージョンを進めるためには、企業と一緒にダイバーシティ&インクルージョン全体の戦略を考えることが出来る、様々な専門を持つNPOなどの団体がネットワーク化されたプラットフォームが必要なのではないかと考えています。RAINBOW CROSSING TOKYO 2019をきっかけに、そんな試みにも挑戦したいと考えています。」
ーなるほど。これから日本全国にダイバーシティ推進を普及するにあたって、どんなことが課題になりそうですか?
藥師「社会的認知が広がり、制度導入事例が以前よりも増えてきたからこそ、制度導入の”その先”の、文化醸成が非常に大切だと考えています。一番必要なことは、制度導入だけではなく、多様な他者と働くことに寛容性のある文化や風土をつくることです。そのような文化があれば、困っていることや、必要な配慮を、誰もが互いに伝えやすいチームが生まれます。」
ー文化醸成というのはとても本質的なトピックですね。制度導入を超えて、文化醸成に重点を置いているような推進事例はありますか?
藥師「まず大事なことは、社内で主導する推進役がいることと、推進役が活動しやすい仕組みをつくることだと考えています。海外企業の制度例ですが、社員がダイバーシティに関する社内ワーキンググループを立ち上げられる仕組みがあります。
ワーキンググループのテーマは、ワーキングペアレントチーム、エスシニティチーム、ジェンダーチーム、LGBTアライチームなど、様々です。チームのメンバーは、社内の啓発イベントや研修の実施、社外連携プロジェクトなど、多岐に渡った活動を行います。
ワーキンググループを継続しやすい仕組みとして、グループへの予算配分、担当役員からのサポート、業務時間内での活動の許可、他の社内グループとのネットワーキングの場の提供などがあります。さらに、ワーキンググループの活動を業務の年間目標に設定でき、業績評価の対象となる場合もあります。そのように、社員ひとりひとりが企業のダイバーシティ&インクルージョンの文化醸成の担い手であるという企業の意識が反映された仕組みは素晴らしいと思います。シンプルにやりたい人が率先して行動することを応援できる仕組みはもっと広がって欲しいですね。日本でも、社内部活動のような感覚でそういったことができないかなと思います。」
10/19(土)開催!RAINBOW CROSSING TOKYO 2019でできること
ー自発的な活動が支援される取り組み、ぜひ日本でも広がってほしいですね!RAINBOW CROSSING TOKYO 2019に集まる企業の取り組みもとても気になります。イベントではどんなことが体験できますか?
藥師「今回は第一部(12:00〜13:10)と第二部(13:30〜18:10)に分けています。第一部では、渋谷区長など、後援をいただいている行政・団体からのご挨拶や、職場でのダイバーシティ推進に関するキーノートを予定しています。第二部では、ダイバーシティに取り組む企業が30社以上参加しブースを出展するなど、対話型のブースやセッションを中心に企画していて、ご自由に会場を回っていただけます。
企業ブースでは、人事やダイバーシティのご担当から直接取り組みについてお話を伺えます。導入制度について気軽に質問していただけることはもちろん、企業によっては、その企業で働く先輩社員と直接交流することができます。また、経験談ブースでは、LGBT、障がい、エスニシティ等のマイノリティ性のある社会人が自身のキャリアをどう描いてきたかなど、就活や就労についての経験談をきくことができます。ぜひいろいろなロールモデルを見つけるきっかけになればと思います。
ブース以外にも、ダイバーシティ経営企業100選を受賞された中小企業のポスターセッションもあり、自社の取り組みについて、担当者の方から発表いただきます。
また、自身の就活/就労についての困りごとについて相談のできるキャリアカフェや、大学やハローワークで働く就労支援者向けに、ダイバーシティを意識した就労支援を行う大学のブースもあります。とにかく様々な可能性に触れることで、新しい発見や希望が見つかる場になることを目指しています。」
ーテーマを拡大した今回は、どんな団体と連携しているのでしょうか?
藥師「引きこもりや無業者、発達障がいなど幅広い若者の就労支援を行う認定NPO法人育て上げネット、産後の女性支援を行う認定NPO法人マドレボニータ、中国など海外の留学生支援を行うNPO法人永徳堂のみなさんと連携させていただいています。企画段階でアドバイスをいただいているほか、当日は各課題の現状を知ることのできる相談ブースをご用意いただく予定です。」
ー最後に、参加を検討されているみなさんへ、メッセージをお願いします。
藥師「出展企業のみなさんは、ご自身の取り組みをもっと伝えたいという気持ちを持った方々ばかりです。”一人で心配なんですが参加しても大丈夫ですか?”というご連絡をいただくこともありますが、当日は、様々な年代やバックグラウンドを持つイベントスタッフがお待ちしています。ぜひ気軽にお越しいただければ嬉しいです。
また、就活生や学生のみなさんはもちろんですが、それ以外の方でも、ダイバーシティ&インクルージョン全般に興味を持つ方であればどなたでも大歓迎のイベントです。いわずもがなですが、マイノリティ性があっても、なくても参加いただけます。また、遠隔地にお住いの皆さん向けに、当日は一部コンテンツをオンライン配信も行う予定です。詳しくは公式サイトをご覧ください!」
ーありがとうございました!
>10月19日(土)渋谷にて開催!「RAINBOW CROSSING TOKYO 2019」詳細はこちら
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