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人生は不測の事態があった方が楽しい。台所研究家・中村優さん(前編)

2017.03.29 

仕事を“つくる”女性のライフストーリーを届ける連載、「彼女の仕事のつくり方」。3人目は、台所研究家・中村優さんです。

世界中をめぐり「ばばハント(中村さん命名)」をし、名もなきおばあちゃんの日常から生まれたレシピ、そのロックな生きざまを集めた中村さん。先日、初の著書である『ばあちゃんの幸せレシピ』を出版されました。

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今回のインタビューにあたり、中村さんに想い出の1品を作っていただけることに。

台所で料理をする中村さんのそばで、家族と会話するようにお話を伺った今回のインタビュー。鼻をくすぐるおいしい香りも、台所を囲む安心感や楽しさも、一緒に届けられたら何よりです。

スペインの母・カルメンに教わったスパニッシュオムレツを

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桐田 何かお手伝いすることはありますか?

 

中村 うーん、いや、特にないかなあ。

 

桐田 では、お言葉に甘えて、ちょっとお話をさせてもらいながら。今日のメニューはなんですか?

 

中村 今日は、よく作るスパニッシュオムレツを。

 

桐田 おお、嬉しい! スペインは留学されていたのですよね?

 

中村 そうそう、大学生のころですね。3か月ちょっとくらいで、短いです。でも、その後も好きで何回も遊びに行っていて、今ではスペインでの家族がいるくらいで。これはその家族のカルメンというお母さんに教わったスパニッシュオムレツ。

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桐田 ホームステイしていたわけでなく、旅で出会った家族ですね。

 

中村 そうそう。わたしが住んでいたのはサラマンカっていう学生の町みたいなところだったけれど、お母さんはマドリッドに住んでいて、マドリッドには毎年くらいの勢いで滞在していて。

 

桐田 今もですか?

 

中村 スペインには、毎年。今年も4月に行って来ます。

 

桐田 スペインの何に、そこまで魅力を感じるんでしょう。気質が合うんでしょうか。

 

中村 料理作りながら、お酒飲むところとか。

 

桐田 あはは(笑)。キッチンドランカーですね。

 

中村 お酒飲みながら料理するのが一番好きで、キッチンドランカーです(笑)。

 

桐田 お酒は何が一番好きなんですか?

 

中村 やっぱりワインが好きですね。それもあってスペインが好きなのかな。

シンプルなものに人それぞれの味が出る。それが、家庭料理の醍醐味。

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中村 まず、イモを切ります。そんなに手順があるものではないけれど。サックリ、サックリ。

わたしが初めてスパニッシュオムレツを教えてもらったのは、カルメンからで。トルティーヤ・デ・パタタスというスペインの定番料理で、バルとかに普通に置いてあるんです。誰もが作れるという感じの料理で、材料は、イモとタマネギとタマゴだけ。でも、本当に人によって味が違うんです。

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桐田 味つけは塩だけですか?

 

中村 塩だけですね。

 

桐田 塩の量だけではなくて、油とか? 何が違うんでしょうね……。

 

中村 そう、それが面白くて。きっとちょっとした作り方の違いなんでしょうけど、それで随分と味に差が出るんですよね。こんなにシンプルなものでも、人それぞれの味が出るって面白い。それが家庭料理の醍醐味なんだろうな、と思います。そういうことを感じたきっかけとなった料理が、これなんです。

言語を越えたことがしたかった。

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桐田 自分の味を例えるとしたら、どんな感じですか?

 

中村 どんな感じなんだろうね、うーん。なんか、どこかで食べた味だと思うかもしれません(笑)。 同じものじゃないのに、「どこかで食べたかも」って思うような味が作れるといいなと思っていて。わたしは異国の料理ばかり作るんですけど、それをエキゾチックとして作っているわけではなくて、違和感なく生活に取り入れられる感じを目指しているんです。違う国の料理でも、自分らしい料理を見つけられると一番いいのかなと思っていて。

よく旅をするんですけど、自分では自分のこと旅人じゃないと思ってるんですよ。いろんなところには行くけど、どの国でも、気に入った人と仲良くなって、その人自身の生き方に触れたくて、人のところに行っては料理をしたり一緒にご飯を食べたり、何もやることは変わらない。実はわたしは、食べること自体がものすごく好きというわけではなく、食べる量もそんなに多くないです。

けれど確実に、「食べる」の周りには、すごくいい笑顔が生まれるから。それが見たくてやっている感じです。

 

桐田 「食べる」の周りには笑顔があるって気づいたのって、いつ頃ですか。

 

中村 大学時代に、国内外問わず料理するからタダで泊めてプロジェクトをやっていて、その当時から「そうなんじゃないかな?」とは思っていたんだと思います。あとは、泊めてもらったときのお礼で、自分ができそうなことが料理だったという。音楽も運動もそんなに得意じゃないけれけど、料理ならできそうっていう、すごく安易な感じですよ(笑)。

ただ、何かしら言語を超えることがしたかったんですね。外国へは言語を学びに行っていても、背景には絶対同じようなものがあると感じていて。おいしいものは、もちろんちょっとずつの好みの違いはあるけれど、基本的には万国共通だから。

チャスカール。一人ひとり味が違う背景

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桐田 今日はオリーブオイルで?

 

中村 たっぷり使って、揚げ焼きみたいな感じにします。

 

桐田 イモには切り方とかもあるんですかね、人によって違うとか。

 

中村 スペインでは特徴的な切り方がありますよ。今日はやっていないけど(笑)。

チャスカールといって、イモに包丁を入れてパキッて折るという切り方。たぶん素材の表面積の問題で、ちょっと大きくなるから味が染み込みやすくなるんだろうなと。こうして切り方一つひとつに名前がついているって、すごくいいですよね。 それに、カルメンママは今日みたいな薄切りにしていたけど、他にもさいの目だったり、大きな塊でゴロゴロさせたりそれぞれ。切り方で、味もちょっとずつ違うんだろうなとは思うんだけれど。

 

桐田 おもしろいですね。たとえば、このタイミングで食べたカルメンのスパニッシュオムレツが一番おいしかったとかありますか?

 

中村 彼女は、毎回帰るたびに作っていてくれるんです。優はこれが好きだから、って。

着いてから一緒に作るのももちろん楽しいですけど、その人を思って作っておくという行為がすごく素敵だなと思っていて。カルメンは実際にそういった感じの人で、人柄がすごく表れるなあと。 あと実は、スパニッシュオムレツは基本的にはちょっと時間が経ってからの方がおいしいんですよ。だから、だいたいの人は朝作って夜食べるくらいの感じですね。

毎年、「今年はこうなったか」と自分に驚くことを楽しんでいる

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桐田 旅人ではないとはいえ、中村さんは世界中を飛び回っていますね。大学時代には留学もされていたようですが、昔から世界で働こうという気持ちがあったのですか?

 

中村 英語のテストの成績がよかった覚えはあんまりないけれど、昔からなぜか喋れると思っていて(笑)。きっと海外で働くようになるんだろうなとは、思っていたんですよね。そうすると、やっぱり言語ぐらいは喋れるようにならなきゃなと思って、まずは英語を学んで、ただ英語を喋れる人はたくさんいるから、スペイン語もやろうかなって、スペインに行きました。

 

桐田 そうなんですか。海外で働く姿を、もう思い描かれていたんですね。

 

中村 いや、そのときはそんなに想像力はなかったから、こんなに飛び回れるとも思ってなかったし、それが現実的だともあまり思っていなかったし、特に将来の夢とかどんなふうになりたいとかも、あんまりなかったですよ。 わたし基本的に、夢ないんです。

 

桐田 夢、ないんですか(笑)。今もですか?

 

中村 今もないです。毎年、「今年はこうなったか」みたいな感じですよ(笑)。だから、まさかタイに住むなんて思っていなかったです。たぶん今年は、また何かまったく違うことをやると思うし、「あ、こうなったんだね」って、自分で驚くことの方が多いから、それを楽しんでるかもしれない。

人生は不測の事態があった方が楽しい

桐田 先日発売された書籍の中では、「計画して頑張ろうとしたけれど、もう身を任せよう」といったエピソードがありましたが…。

 

中村 そうなんです。自分でできることなんて、大したことがないという感覚で。限られているし、こんなにね。 たとえば旅では、コントロールしようと思ったってそんなにできないです。できたら楽しくないだろうな、とも思う。だから人生もそうだろうなと思っていて。不測の事態があった方が楽しいんじゃないかな?って。

うちのばあちゃんも、いつも人生はなるようにしかならないからって言うんです。なるようにしかならないんだったら、もう好きに生きたほうがいいんじゃない?って。 そこからなのか、どーんと受け入れるメンタリティで生きようっていう気持ちはあります。

新卒入社では、3日目にじんましん、2か月目には退社。

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桐田 大学を卒業されて初めての職種は、コンサルでしたね。

 

中村 そうですね。入社して3日目にじんましんが全身に出て、これはもう辞めたほうが身の為だと思って辞めましたけど(笑)。

 

桐田 3日目に! 何に対してそんなにじんましんが出たんでしょうね。

 

中村 同じ場所に、同じ時間に行くことですかね。 今だったらもう少しうまくやってたと思うんですけど、そのころはまだ若いし、自分で何かをやりたいみたいな時期で。会社が悪いとかではなくて、タイミングがよくなかったんでしょうね。

 

桐田 コンサルを選んだ理由は何だったのでしょう?

 

中村 まずは東京に行くっていうのと、完全に就職活動が遅れていたから、それでも行けそうなところと、どこかで内定をもらっておけば就職までの期間、何やっててもいいかなと思って、とりあえず内定を一個取ろうと思って、その一か所しか受けてなかったですね。 何かの記事を読んで面白そうだなと思った企業でした。だから社員さんたちはみんな良い人たちだったし、辞めてからもとても良くしてくれて、外注で仕事をいただいたりしてました。

……改めて考えると、本当に良い会社ですよね(笑)。

東京で、ふたりの師匠との出会い。

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桐田 わっ、なんですかそれは。コンロで直接焦がすんですか?

 

中村 いいですよね。わたしもこれ初めて見たときに、そんな雑な調理法があるんだと思って。自分に向いてるな〜って(笑)。もちろんオーブンに入れるという美しい方法もあるんですけど、なんかこういうほうが楽しいですよね。

 

桐田 うんうん、楽しいです。 お話変わりますが、中村さんは、なぜ東京に行きたかったんですか?

 

中村 広い世界をまず見たくて。だから海外っていうのもあったんでしょうね。でもやっぱり海外に行くと、自分が生まれ育った日本の首都を知らないのもなんだかなあと思って、東京に。 最初は楽しかったですね、やっぱり。ふたりの師匠と出会ったのが、一番大きかったです。

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桐田 編集と料理の師匠ですね。きっと素敵な方なんでしょうね。

 

中村 めちゃめちゃ素敵ですよ。

 

桐田 毎日、同じ時間に同じ場所に行けない中村さんが。

 

中村 いや、意外と同じ時間じゃなかった。夜中に呼び出されたりとか。

 

桐田 あはは(笑)。夜中に呼び出されて、サバ100匹さばくのを手伝わされたそうですね。

 

中村 そうそう、サバ100匹問題。でも、それでもイヤじゃなかったんですよね。楽しかったし、毎日が。新しいことだらけだったですし。やっぱり、良い人と働くっていうのは、いいですよね。

 

桐田 ほんとにいいと思います。ただ、書籍に掲載されているお師匠さんたちのエッセイを読むと、ご本人たちは「こんな乱暴狼藉を働いても、中村さんはいつも楽しそうで、この子は何だろう」という感じで語られていますね。ご本人たちは乱暴狼藉を働いているという意識があるらしいですが?(笑)

 

中村 あはは(笑)。実際はそんなことも無いんですけどね。 今でも「キッチンわたりがらす」へ行くと、なんだかもう子どもみたいに「飲んでく?」とか「食べてく?」って受け入れてくれたり。

この立ち位置についたのはあの頃のおかげらしいんですけど、わたしからしたら本当に感謝しているんです。 あのころの自分は、本当に何もなかったから。ゼロの人に何かを教えるって、すごく大変だし、根気がいるし、よくやってくれたなーって思います。

不思議と、学びたい気持ちがなくなった。

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桐田 そういった教える大変さって、どこで知りましたか?

 

中村 あんまり自分がそういうタイプじゃないから、ですかね。この年になって、やっと年下と何かをしたいと思ってますけど、今までまったく思ってなかったですから。

 

桐田 そうなんですか。中村さんは、ご自身をどんなイメージだと捉えてますか?

 

中村 あんまり関わってほしくない人(笑)。気が合う人と合わない人の差が激しかったり、奔放だったり。最近は、ちょっと丸くなりました。

 

桐田 あはは(笑)。書籍でも、視点が変わったって書かれてましたよね。

 

中村 そうですね。書籍の中の3年でも、どんどん変わっていて。だからか、自分の状況もどんどん変わっていいくものなんだと思っている節があります。実は、自分が学びたい欲求もまったくなくなって。かといって、成長が止まるかと思えば、自然と成長していくものなんですね。

後編では、中村さんの結婚観、新しい仕事観に迫ります。結婚してバンコク暮らしをはじめるまでに、どのような心の変化があったのでしょうか。

>>後編はこちら

>>「彼女の仕事のつくり方」連載一覧はこちら

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桐田理恵

1986年生まれ。学術書出版社にて企画・編集職の経験を経てから、2015年よりDRIVE編集部の担当としてNPO法人ETIC.に参画。2018年よりフリーランス、また「ローカルベンチャーラボ」プログラム広報。

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