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女性が出産後も働き続け、充実したキャリアを重ねるために企業・個人ができることは?マドレボニータからの提言

2019.10.23 

ここ10年間ほどで出産後も働き続ける女性は増え続け、現在約7割いると言われています。ただ、働く母たちを取り巻く環境は、まだまだ多くの課題を抱えているのも事実。「マタハラ」「ワンオペ育児」「マミートラック」などの言葉をメディアで見聞きする機会も増えてきました。

 

認定NPO法人マドレボニータでは、「すべての母が自らの力を発揮できる社会へ」という理念を掲げ、20年以上も産後の女性のケアに取り組んできました。近年は「すべての家族に産後ケア」を目指し、企業・自治体と連携して、働く女性とそのパートナーも一緒に取り組む産後ケアにも力を入れています。

今回はマドレボニータの代表の吉岡マコさんと理事の林理恵さんに、その取り組みについて伺いました。

 

聞き手:DRIVEメディア 編集長 佐藤茜

マドレボニータの代表の吉岡マコさん(右)と理事の林理恵さん(左)

マドレボニータの代表の吉岡マコさん(右)と理事の林理恵さん(左)

海外の「ダブル・シフト」と日本の「ワンオペ」。「女性は家事・育児」という無意識の偏見

――マドレボニータの産前・産後ケア、私も出産の際にお世話になりました。改めて、どのような取り組みをされているのかお伺いしてもよろしいですか?

 

吉岡マコさん(以下、吉岡):マドレボニータでは、産前・産後の女性が赤ちゃんを連れて参加できるエクササイズやセルフケアを行うプログラムを全国で展開しています。認定のインストラクターが指導する教室という形で、女性の心と体に必要なケアを届けてきました。私自身が出産した際に心身に大きなダメージを受けたことがきっかけで、もっと出産「後」の女性をケアする仕組みが必要だと思ったんです。

参考記事:「25歳出産時のボロボロ体験が『産後リハビリ』を生んだ」NPO法人マドレボニータ代表・吉岡マコさん

また、夫婦で出産準備に取り組むためのアプリ「ファミリースタート」を運営したり、イベントや交流会を通して産後ケアの認知度を高めるといった活動も行っています。

 

――最近では働く女性の産後ケアにも力を入れていらっしゃいますね。

 

林理恵さん(以下、林):働く女性が増えていく中で、社員の育休からの復帰や復職後のサポートをしたいという企業も増えてきました。そういった企業に「産前の準備講座」と「産後ケア教室の受講料補助」をパッケージにした復職支援プログラムを提供しています。最近は、こういった産前の準備講座をオンラインで受講できるシステムもリリースしました。

 

――吉岡さんは、海外に行かれる機会も多いとお伺いしました。日本の出産後の働く女性を取り巻く環境と、海外のそれとの違いは感じましたか?

 

吉岡:ここ数年、NPO向けの研修プログラムなどで海外に行かせていただく機会が重なりました。イギリスのロンドン、アメリカのボストン、ワシントンDC等に行ったのですが、様々な国籍の男女と会話していると「出産後の働く女性が感じるジレンマは、どの地域でもあまり変わらない」と感じました。つまり、まだ多くの文化において家事育児は女性の仕事、というアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)が根強く残っているということです。

イギリスでは「子育てなどで時間に制約があるけれど高い能力を有する人」が、そのスキルを活かして短時間働きたいけれど、そういう仕事がなかなかなくて力を活かせていないというミスマッチを解決するために、よりフレキシブルな働き方を用意してより多様な人を雇うように企業を啓発する団体に話を聞きました。アメリカは産休が短く、心身の回復が不十分なまま、1〜3か月ほどで復帰する人も多いということでした。各国様々な課題があるようです。

 

英語圏には「ダブル・シフト」という言葉があり、そのジレンマにイライラしながらもその状況を仕方なく受け入れているという女性も実は多いようです。男性は「シングル・シフト」で仕事だけすればいいけれど、女性は家事・育児もして仕事もして、両方完璧にこなして一人前だとみなされる、という状況を表すフレーズです。日本でいう「ワンオペ」に近いですね。

北欧などの一部地域は家事・育児の分担が進んでいますが、基本的には海外でも日本でも、まだまだ「女性は家事・育児」というアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)があると思うんです。「そういう状況を続けていくのは、絶対ムリ」と誰かが言わなくては目が覚めない。

日本の20代〜30代前半くらいの人たちは、夫婦で一緒に仕事も育児・家事も分担する人が増えてきていますが、そうではない人もまだまだ多く、二極化している印象です。海外でも、10代の子どもたちは、仕事に邁進して家のことをやらない父親に批判的だという話を聞きました。若い世代は変わりつつあるようです。

 

女性に関すること以外で印象に残ったのは、NPOや社会課題解決の現場にいるリーダーたちが「オーセンシティティ」という言葉をよく使っていたことです。日本語でいうと「自分らしさ」という意味になるんですが、日本語のふわっとした雰囲気よりも質実剛健で、「いかに自分に嘘がないか」という感じのニュアンスです。その人や組織の存在理由・目的を常に追求して、自分らしく、自分たちらしく働いていくにはどうしたらいいのかを考え続けるのがリーダーの役割なんだということを学びました。

また、日本だとリーダーは特別な人という認識で、自分をリーダーと認識していない他の人たちはリーダーに対して、賞賛したり、文句を言ったりする、という構図があるけれど、海外に行って、どんな立場の人でもひとりひとりがリーダーシップを持って活躍する、力を発揮していくのがかっこいいという考え方に触れました。

 

この考え方から影響を受けて、マドレボニータの運営も変わりました。合宿などを通して、ひとりひとりがその人の持ち場で発揮できるリーダーシップを探してくというのを意識的に考え始めるようになったんです。役職・役割に関係なく、みんながリーダーシップという言葉を使うようになってきたと思います。

マドレボニータさん

女性の継続就業・キャリアップに向けての提言を作成

――ロンドンに行ったのは、このメディアを運営しているETIC.と取り組んでいる「インパクト・ラボ」のプログラムの一貫でしたね。「インパクト・ラボ」について詳しく教えていただけますか?

 

林:インパクト・ラボ」は、海外・国内の先端の支援の現場に触れ、参加団体がお互いに学び合い、自団体の経営を次のステージへ進化させる1年半のプログラムです。今回は8つの団体が参加していました。ロンドンの視察の後は、中長期的な経営戦略を各団体で持ち帰り検討する期間があり、その後、グループに分かれて自分たちが取り組む社会課題について関係者にヒアリングしたりしながら、調査レポートにまとめていきました。

私たちマドレボニータは、NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむさんと一緒に、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社さんに協力いただきながら、女性の就業継続とキャリアアップについて調査を行いました。最終的に、企業に向けた「女性の継続就業・キャリアップに向けた提言」としてまとめ、公開しています。

 

吉岡:女性の継続就業・キャリアップに関する「課題マップ」として可視化したものを見て、私たちの方にもアンコンシャス・バイアスがあったと気づきました。デロイトさんに企業の社長や管理職の方、中央省庁の方にもヒアリングをしていただき、私たちは女性の課題を中心に作成したのですが、その課題マップを作るなかで、自分たちに潜む無意識の偏見にも気づくことができました。私たちはやはり女性の視点・個人の視点に偏りがちだったなと。

 

――調査結果で一番意外だった、驚いたところはどこでしょうか?

 

林:想像以上に「家事や育児と仕事の両方を完璧にこなす女性がいい」という社会のスティグマ(負の印象・レッテル)が強いなということです。会社の制度をつくる上で、また家庭でパートナーとそれぞれが果たす役割を考える上で、そのスティグマが大きな影響を持っていて、それが根深いということが分かりました。メディアの影響、働く職場の慣習……様々なことにまだまだ男性中心の考え方が背景にあるようです。

 

吉岡:文化と価値観が一番変えにくいところですよね。

 

林:女性が就労を継続するためには、女性だけではなく企業や行政、またパートナーである男性も含めて、みんなで共通認識をもって推し進めていかないと全然解決しそうにないぐらい、たくさんの課題があるということを、調査をしてみて改めて実感しました。

また今回、デロイトさんに、私たちのように女性活躍をテーマとする企業やNPOなどの団体を一覧にまとめた図を作成いただいたのですが、こちらもとても興味深い資料になっていると思います。事業対象が女性個人の団体は多いけれど、企業や女性のパートナーを対象とした働きかけをする団体あまりないと分かったり。

女性活躍に取り組む団体のマップ。「女性の継続就業・キャリアップに向けた提言」より。

女性活躍に取り組む団体のマップ。「女性の継続就業・キャリアップに向けた提言」より。

 

――今回、再就職ではなく継続就業をテーマに選んだのはなぜでしょうか?

 

林:日本は女性活躍推進のために、「女性管理職を増やす」という目標を掲げています。ですが、日本の女性の管理職比率はまだ低く、そもそも管理職候補となる母集団が少ないため、母集団を増やす必要があります。平成30年11月時点で第1子出産後に就業を継続する人の割合は53.1%です。数字だけみると着実に増えていますが、「ぶら下がり」と呼ばれる現象が起きていて、就業を継続する女性が意欲を持って働けているとは言い切れない状況です。ただ就業を継続する女性を増やすのではなく、意欲的に就業する人を増やす必要があります。

また、女性自身の意欲の問題は周囲の環境と強く関連していて、特に決裁権者として意思決定する企業の中間層のところに女性がいないかぎりは、女性が当たり前に子育てしながら働いてくという環境にも近づきにくいと思っています。

昇進・昇格や評価において男女差を感じている女性が多い。「女性の継続就業・キャリアップに向けた提言」より。

昇進・昇格や評価において男女差を感じている女性が多い。「女性の継続就業・キャリアップに向けた提言」より。

 

一番変わるべきはなのは中間管理職?カギは「柔軟な働き方」

――働く女性にとってベストな環境ってどういうものでしょうか?

 

林:やはり「柔軟な働き方」がカギになっていると感じました。企業側は、柔軟性高く働ける文化や制度を根付かせること、そのための配属・育成・評価が女性の出産後のキャリアパスを加味して行われていること、家庭側はそのための夫婦の協力体制や、家庭外からの育児と家事の支援体制を築くこと。その両方が実現しない限りは、女性管理職を増やすといったことは現実的ではないと感じています。これは女性活躍だけではなく、若者や介護をしている人なども含めて「少ない人数で仕事をどう回すか?」というところを考える際にすごく重要です。

調査を進めていくと、柔軟な働き方を導入しようと経営層が頑張ろうとしても、その次の事業責任者や部課長というレベルが変わっていかない構図がよくあるということが分かってきました。現場の裁量はやはりそこの層が持っているので、企業が産後の女性の就労継続や管理職登用に力を入れようとする際には、管理職の層が変わっていくことが必要不可欠だと改めて実感しました。

 

吉岡:経営者は、社会からの評価にさらされたり、業界全体の視点に触れる機会もあり、社会の変化に対するアンテナが高い場合が多いです。一方、事業責任者や部課長は、目の前の事業や組織を推進させることに時間を取られていて、なかなかそういったところに目がむきにくい。

 

林:中間管理職は「多様な人たちと一緒にチームとして働く」という経験をしたことのある人が少ないです。子どもを育てていて一番困るのは、不測の事態。病気だったり、急に学校行きたくないと言い出したり……そういった時に「在宅勤務にさせてください」と言ったり、「遅れて出社させてください」と言ったりできる、そういうちょっとしたことで解決可能だったりすると思うんです。大企業ほど人数が多く、例外が認められないということで、そういうことが実現しにくかったりします。大企業でなくても、チームに迷惑をかけてはいけないと感じて、言いにくかったりする。

 

吉岡:優秀な人材を「つなぎとめる」ために、いろんな施策を実施する企業が出てきていて、メディアで取り上げられたりしていますね。数としてはそこまで増えてないんですが、注目はされてきていると感じます。

 

変わりつつある働く女性の価値観。企業も個人もまずは「知ること」から

林:私たちはずっと産前・産後の女性を見てきたんですが、女性の価値観は変わってきていると思います。

 

吉岡:育休を利用する女性は、10年で倍になりました。

 

林:育休中に自分ができることを考えたり、「ママボノ」や「育休プチMBA」のような育休中の学びに取り組んだりする女性が増えてきたのは、大きな変化です。私たちが法人化した10年ほど前は、働く女性に対するコンテンツがほとんどありませんでした。ただ、キャリアアップしたいという女性が増えたのと同時に、働いているけれど意欲的ではない、といういわゆる「ぶらさがり」志向の働く女性も増えてきているようです。

 

吉岡:10年前は「オール・オア・ナッシング」だったんですが、いまはその中間の女性が増えているんですね。

 

林:「バリキャリ」でもない、仕事を辞めるのでもない、でも働き続けたいという女性の層が出てきたのがこの10年ですよね。出産や子育てにも前向きでありながら、自身のキャリア形成にも前向きな女性を指す「フルキャリ」という言葉も出てきました。女性活躍も、次の段階に移りつつあることを感じています。先をいっている企業は、もう復帰は当たり前で、女性たちの持っている力をどう活かしていくかというところに視点があります。そういった企業にもみられる傾向ですが、女性が抱える仕事と家庭の両立不安を早い時期から継続的に解消すること、女性に限らず「能力」に基づいた業務の差配や多様な「能力」を評価できる評価基準の定義をするといったことが重要と考えます。

企業は、自分たちの社員がどんな状態にいるのかということと、社会はいまどんな状況なのかということをしっかり理解した上で、自社の女性活躍におけるポジショニングを把握し、現状を改善していくにはどういう手をうつべきなのかを考えていく。それが求められていると感じます。

 

吉岡:企業も個人もまず知ることが大切ですよね。私たちの復職支援プログラムを受けると、皆さん「先に知っておけばよかった」とおっしゃいます。男性も女性も年齢も関係なく。これから出産する当事者の女性ですら、自分の心身に起こる不調やパートナーとの関係性の変化、働く上で出てくる困難についてあまり自覚的ではないんです。「産めばなんとかなるでしょ、復帰すればなんとかなるでしょ」と、根拠なく楽観的というか、大事なことは見て見ぬ振りなカップルは意外と多いです。そうやって丸腰で出産してしまって、現実に直面すると、しんどいことが多くて、くじけてしまう。やっぱり仕事続けるのは無理かなあとか、そこそこで続ければいいかなあとか。

 

出産の前後の女性は、ホルモンバランスが変化して正気じゃないこともありますよね。だからこそ、まわりにいるパートナーや上司、同僚がそういった女性の変化を理解して、「ちゃんと休まないとね」とか「早く帰って」と声をかけ、早く帰れるようにミーティングの時間を調整するなどの協力を惜しまないことが大切です。出産前後の女性の仕事を、出産する女性本人だけの自己責任にするではなく、それをとりまくあらゆる人が励ましたりサポートしたりすることが大切です。

そういったまわりのサポートを経て活躍できた女性は、子育て期を抜けたあとにまた別の女性をサポートできるようになります。そういう循環がでてきいったら、女性活躍の実現も早いのかなと思うんです。いまはみんな、リテラシーがなさすぎて、お互い遠慮しあって、コミュニケーションが不足するがために、躓いてしまっている。そこでうまくコミュニケーションが活発になり、知識や知恵が循環して、伝承されていくようになればいいですね。それが「文化」ということだと思います。

 

――私も子育てをしながら働く女性として、とても共感できるお話ばかりでした。今日はありがとうございました!

 

マドレボニータさん2

 

マドレボニータが提供している企業・自治体向けの復職支援プログラムにご興味のある方は、こちらから詳細をご確認ください。

https://www.madrebonita.com/corporate-services

 

「育休の意味と結果」が変わる/マドレボニータの復職支援プログラム「産前講座」オンライン版リリース

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000036840.html

 

今回発表した「女性の継続就業・キャリアップに向けた提言」はこちらから。

https://docs.wixstatic.com/ugd/201ff2_5967e175e1dd42ed92ba1cd18ef255b9.pdf

 

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佐藤茜

当メディア(DRIVEメディア)の前編集長。男の子2人の子育てをしながら編集・マーケティングまわりで活動中。 福島県生まれ。大学卒業後、人材系ベンチャーで新規事業立ち上げやマーケティングを担当。ニューヨーク留学、東北復興支援NPO、サンフランシスコのクリエイティブ・エージェンシーでのインターン、衆議院議員の広報担当秘書等を経験。 Twitter:https://twitter.com/AkaneSato