今回お届けするのは、2021年1月に開催された「副業・兼業を活用したい企業向けのセミナー(第3回)」の開催レポートです。「地域経済を支える中小企業の経営革新に社長×副業人材で挑戦!」というタイトルで、3名のゲストが登壇。
- 昨年度の「横浜市イノベーション人材交流促進事業」を通じて、副業・兼業人材を募集した株式会社太陽住建の代表取締役・河原勇輝さん
- 太陽住建に副業として関わっている荻上 健太郎さん
- 副業人材の受け入れを行なっている株式会社ユニキャストの代表取締役・三ツ堀裕太さん
両方の視点(副業を受け入れる側・参画する側)から語られる事例。副業・兼業の今後の可能性とは──
副業人材たちと一緒に立ち上げた新事業。
はじめに登壇したのは、株式会社太陽住建(神奈川県横浜市)の河原さん。太陽住建は神奈川県横浜市の住宅用・産業用太陽光発電、リフォームの施工会社。副業人材を3年ほど前から受け入れています。
現在は新事業「solar crew」(ソーラークルー)について、昨年度の横浜市イノベーション人材交流促進事業でマッチングした副業人材4名の方々と一緒に事業を作り上げています。
河原 勇輝さん(株式会社太陽住建 代表取締役)
中学卒業後、建設業の職人として修行。その経験を活かし24歳で建設会社(株)太陽住建を設立。本業を通した地域貢献に取り組み、平成29年1月に横浜市住宅供給公社との共同プロジェクトにより開設した「井土ヶ谷アーバンデザインセンター」では、多様な人と地域をつなぐプラットホームとして同センターの運営を担っている。また、NPO法人green bird横浜南チームリーダーとして横浜市内4拠点でゴミ拾いを通じて、ゆるやかなコミュニティ活動を展開している。
◆
横浜型地域貢献企業に認定され、2019年にはプレミアム表彰(*)を受けた太陽住建では、「地域の居場所づくり」に力を入れ、地域の空き家を活用した取り組みを行なっています。
(*)“自社のCSR活動が、それぞれのステークホルダー(顧客・従業員・仕入先・地域・株主など)の期待やニーズに沿っており、かつ経営の持続可能性や成長性を生み出す経営戦略的観点を持った取組みを実践する企業”が表彰されるもの《横浜企業経営支援財団のWEBサイトより抜粋》
以前から会社の半分を地域に開放しており、地域課題として「空き家活用について、困っている」という声を聞き、「住宅リフォーム会社として、何かできないか」と考えた結果、空き家活用事業を約4年前からスタートさせたそうです。
具体的には、横浜市磯子区にある空き家を太陽住建の管理の下、1階をコミュニティスペース、2階をコワーキングスペースにしているとのこと。
地域のみなさんと一緒に使う場所ということもあり、壁の一部を一緒に塗ったり、机を一緒に組み立てたりするDIYイベントを開催したところ、好評だったそう。しかしその時に「どうせやるなら、壁を壊すところからやってみたかった」「設計のデザインに関わってみたかった」という地域の方々からの声も。
「これは興味深い」と捉えた河原さん。「地域のスペースを作ってから、地域のみなさんをお呼びしよう」と当初考えていたようで、「作り上げていくストーリーから関わりたい人が多い」ことに気づき、「solar crew」を新しく立ち上げることに。
solar crewでは、街に点在する空き家をDIYで工事する段階から地域のみなさんも関わってもらい、出来上がった場所は「シェアリングスペース(みんなで、遊んだり、学んだり、働いたりするスペース)にしていきましょう」と、会員を募って活動を続けているそうです。昨年、環境省 第8回グッドライフアワード「環境大臣賞地域コミュニティ部門」も受賞し、活動がさらに加速しながら進んでいるとのことで、今後にも注目です!
さて実は、このsolar crewという新規事業の立ち上げの時期に、太陽住建では昨年度の「横浜市イノベーション人材交流促進事業」を通じて、副業・兼業人材を募集。計203名の応募があり、河原さん自身が書類選考や面談する中で、「副業を通じて、社会貢献・地域貢献したい」という想いを持った方々が多いことを実感したそうです──
◆
次章では、選考の末、solar crewに副業として参画している荻上さんが登場。「なぜ太陽住建を副業先として選んだのか?」「具体的にどのようなことに取り組んでいるのか?」などをお話されました。
ちなみに、選考の様子やマッチング後の詳細について気になる方もいらっしゃるかと思います。河原さんへのインタビュー記事に詳しく書かれていますので、あわせてお楽しみください(以下URL記載あり)。
新規事業の立ち上げは副業人材と。中小企業にとって副業の受け入れはチャンス。【株式会社太陽住建の事例紹介】 (河原さんへのインタビュー記事、DRIVEで昨年末に公開)
自分の好きや得意を活かしながら、チームで挑戦する副業。
続いては、前章で紹介したsolar crewの副業人材チームメンバーとして活動している荻上さんが登壇。
ライフワークとして、「地域づくり」「社会課題解決への貢献」を生業にしていきたいという想いのもと、昨年春、転職のタイミングとも重なり、本業あっての副業というよりも、パラレルキャリアの流れの中で太陽住建とご縁があったそうです──
荻上 健太郎さん(株式会社ツクリエ コミュニティマネージャー / こむすびと代表)
本業として起業支援施設の新規立ち上げプロジェクトのマネジメント等に携わりながら、個人事業主として複数の企業やプロジェクトに副業人材として参画。今は、株式会社太陽住建のsolarcrewプロジェクト、株式会社plan-AのIXIIPORTなど横浜市とのご縁も多い。地域や社会の課題解決に、様々な関係者をつなぎ、共創を生み出すコーディネーターの役割をライフテーマに活動中。
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2019年にニューヨーク国連本部で開催された「持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム(HLPF)」で、SDGsの活動に関する発表を行なった河原さん。荻上さんにとって「地場の地域密着の企業が国連で発表しているということへの衝撃」が太陽住建を副業先として選んだ理由の1つ。
次に「やんちゃさと社員愛」。太陽住建のWEBページでは社員一人一人のことも紹介されていて、社員を大切にしていることがひしひしと伝わってきたそうです。
最後に「チームを作りたいという内容の募集要項だったこと」。荻上さん自身、「一人でなんでもできますというタイプではなく、チームで仕事をしていくのが好きなタイプ」だったこともあり、魅力に感じたとのこと。
太陽住建のWEBトップ。確かにやんちゃさとアットホーム感が伝わってきます。
副業人材のチームメンバーは現在4名。主な活動内容は「月3〜4回のチームミーティング」「現場活動(月2〜3回)と個別活動(随時)」で、荻上さんの役割は「各拠点のある地域のコミュニティ形成」。コミュニケーションやコーディネートが好きであり、得意ということで、チームからも期待されているそうです。
さらに、「チームビルディングへの貢献」も意識。オフィシャルなミーティングとは別に、個別でチームメンバーとコミュニケーションをとったりしているそうです。
荻上さんのライフテーマと関連性の高い活動のため、副業としての仕事に関わらず、休みの日に拠点に遊びに行ったりすることも。自発的に動くことを大切にしながら、同時に自分をしっかりと律しながら、日々を過ごされているとのことでした。
最後に紹介するのは、荻上さんが考える「中小企業にとっての副業人材の活かし方」。
- 一人よりも多様性のあるチームで導入 : チームになると多様性が高まるようで、「副業人材を一人獲得するやり方より、複数名獲得してチームを作るやり方」の方が向いているのではないかということでした。
- 社員も巻き込んだ共創チームへ : 副業人材だけでチームを作るのではなく、社員も巻き込んだチーム作りにすることで、社員の方々にも刺激が。
- 社長のビジョンと思いが原動力 : 社長には常にビジョンや想いを発信し続けて欲しいとのこと。副業人材やチームにとっての原動力になるそうです。
第一線で活躍する副業人材だからこその信頼感が、そこにはある。
最後に登壇したのは、株式会社ユニキャスト(茨城県日立市)の三ツ堀さん。
ユニキャストは2005年に当時茨城大学の学生だった三ツ堀さんが創業したITベンチャー企業。クライアントワーク事業・ロボティクス事業・ITインフラ事業、地域貢献型シェアハウス「コクリエ」運営などを行なっています。
現在23名(正社員18名、インターン5名)で、「組織・事業の成長のため、マネジメント人材が必要」ということで副業人材の受け入れを開始。導入の経緯や組織面での変化、副業人材の可能性についてお話されました。
三ツ堀 裕太さん(株式会社ユニキャスト代表取締役)
1982年茨城県神栖市出身 2005年茨城大学在学中に株式会社ユニキャスト設立。茨城大学、茨城キリスト教大学で非常勤講師も務め、茨城県のIT戦略会議の委員としても活躍中。
◆
三ツ堀さん曰く、組織・事業の成長を考えた際、当時のユニキャストにとってマネジメント人材が必要だったとのこと。しかし「マネジメント人材を社員から育成するには時間がかかること」「キャリア採用だと期待しているレベルのミドル人材がなかなか市場に出てこない」という理由で、キャリア採用を進めつつも、副業人材の導入に注目し始めたそうです。
なぜ三ツ堀さんが副業人材にフォーカスしたのかというと、以下の4点。
- 未経験者よりも勝ちパターンを知っている人 : 未経験者にイチからトライしてもらおうとすると、誰も答えを知らないため、迷走してしまう。それぞれの専門分野で勝ちパターンを知っていることが大事。
- 期待している内容はフルタイム勤務がMUSTではない : 副業人材に求めていた内容が教育面やマネジメント面だったため、フルタイム勤務が必須の内容ではなかった。
- 茨城への移住はハードルが高い : 会社が茨城県日立市にあり、キャリア採用・雇用だと地理的な事情でハードルが上がってしまう。
- 最前線で活躍している人材に力を貸していただくことの意義 : 様々な分野・世界の最前線で活躍している方に副業として参画してもらうことについて、三ツ堀さん自身、意義深いと考えていたそうです。
社会人歴20年で老舗SIerに在籍している方がユニキャストに副業で参画し、社内の「リーダー(プロマネ)育成」や「社員としての行動指標の策定」などに関わっているそうです。
具体的にどのように関わっているのかは、「プロに徹する」「自分の価値観を再認識できる」―副業経験者のリアルな声という記事に詳細が載っていますので、あわせてお読みください。副業人材目線で語られた内容です。
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さて副業人材を導入後、組織の中に現れた変化として、「社内のリーダー人材が相談相手として、副業人材を頼りにするようになった」ということを挙げていました。理由としては、「社外の人だからこそ言える安心感」と「第一線で活躍する経験者だからこそ、アドバイスを受けた時に素直に聞ける信頼感」があるのではということでした。
また組織改革においての副業人材の活躍として、以下3つを挙げていました。
- 経営者だけでは社員の理解を獲得しきれないところもある : 三ツ堀さんが社員に対して「困ったことがあったらなんでも言ってくれ」と伝えても、社員はなかなか言えないという状況がどうしても避けられない中、副業人材が情報を集めてきてくれるとのこと。
- 専門家として「この仕組みはアリ」と後押し : 三ツ堀さんが進めていきたい内容に対して、そっと後押しをする役割も副業人材が担っている。
- メンバーから出てくる意見を定期的にフィードバックしてくれる : 三ツ堀さんが社員に対して情報を発信した際に、「受け取り側がどのように理解しているのか」「そもそもとしてどのように発信したら良いのか」などをフィードバックしてくれるそうで、ユニキャストの中で重要なポジションを占めているとのこと。
副業人材の可能性として、「改善すべき領域ごとに副業人材を活用できる」ことが大きな強みであると語る三ツ堀さん。
- 改善内容・予算・期間が見える : 「副業人材に何をお願いするのか(=改善内容)」「どのぐらいお金をかけるのか(=予算)」「いつまでやるのか(=期間)」を、募集する際に決める必要があり、可視化される。
- 外部からお尻を叩いてくれるので嫌でも進む : 改善すべき領域を社内のメンバーで取り組むと、たとえば本業が忙しくなるとどうしても後回しになりがち。外部からスケジュールを引き、毎週のオンラインミーティングで進捗確認があることで、目標に対して物事がしっかりと進む。
また「雇用ありきではないので、はじめやすい(おわりやすい)」ということ。何かやるべきことが発生した時に、専門の方を雇用するとなるとオーバーヘッド(間接経費)が大きくなるため、臨機応変にスキルを補充できることはありがたいそうです。
最後に「雇用するよりも、ハイスキル人材の傾向」。キャリア採用だと副業人材ほどのスキルを持っている方に巡り合う確率が低いと感じているそうで、副業を募集することでハイスキル人材と出会える傾向が強いとのことでした。
働き方が多様化する中、組織や領域を越えて、新しいイノベーションが生まれる──
以上、開催レポートでした。
【開催概要(参考)】
▼日時 :
2021年1月27日(水)17:00-19:00
▼場所 :
オンライン(Zoom)
▼テーマ :
「地域経済を支える中小企業の経営革新に社長×副業人材で挑戦!」
・副業人材が語る、本業のスキルを副業現場で活かす経験
・副業人材導入による経営課題へのアプローチ
・中小・スタートアップ企業にとって「副業・兼業人材の受け入れはチャンス」
▼タイムライン :
17:00-17:20 イントロダクション
17:20-17:35 副業・兼業制度について理解しよう
17:35-18:35 ゲストによる事例紹介&トークセッション
18:35-18:50 副業・兼業マッチングサービスの紹介
18:50-19:00 クロージング
19:00-20:00 個別相談会(任意)
▼登壇者 :
副業・兼業制度について理解しよう :
・伊藤順平(NPO法人ETIC.)
ゲストによる事例紹介&トークセッション :
・河原 勇輝さん(株式会社太陽住建 代表取締役)
・荻上 健太郎さん(株式会社ツクリエ コミュニティマネージャー/こむすびと代表)
・三ツ堀 裕太さん(株式会社ユニキャスト代表取締役)
▼備考:
「副業・兼業制度について理解しよう : 伊藤順平(NPO法人ETIC.)」の内容については、副業・兼業、「レンタル移籍」―多様化する働き方の最新動向をお読みください。
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働き方が多様化する中、組織や領域を越えて、新しいイノベーションが生まれる──
その兆しが横浜市にあります。
同市は、2019年1月に「イノベーション都市・横浜」を宣言。その理念の下、副業・兼業を活用した人材交流によりスキルを持った人材が関わりあうことで、自社の経営課題の解決や組織の垣根を超えた人材の交流・成長機会の獲得を支援するための事業──「横浜市イノベーション人材交流促進事業」を、昨年度に続き、2020年度もスタート。
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今年度は、NPO法人ETIC.(エティック)が委託を受け、実施します。副業・兼業に関する相談窓口(企業・人材向け)がWEBに設置されています。また以下からセミナーのアーカイブもご覧いただけます。
【セミナーアーカイブ】
・企業向け(第1回)
大手企業の人材とベンチャー・スタートアップとの協働事例紹介!
・企業向け(第2回)
ベンチャー企業のスタートアップ期にも副業人材を!社長の右腕としてイノベーションを加速する
・企業向け(第3回)
地域経済を支える中小企業の経営革新に社長×副業人材で挑戦! (※近日公開)
・人材向け
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「横浜市イノベーション人材交流促進事業」関連記事はこれが最終回。今までお読みくださったみなさま、本当にありがとうございました。まだお読みでない方も、ぜひ以下から各記事をお楽しみください。
※本記事の掲載情報は、2021年1月現在のものです。
【連載・第1回】
160年前の開港から、物語はずっと続いている―横浜から新たなイノベーションを
【連載・第2回】
副業・兼業人材を受け入れ「今までにない発想」が社内に【株式会社テレビ神奈川の事例紹介】
【連載・第3回】
新規事業の立ち上げは副業人材と。中小企業にとって副業の受け入れはチャンス。【株式会社太陽住建の事例紹介】
【連載・第4回】
【連載・第5回】
誕生したのはオンラインコミュニティ!採用・不採用ではない副業人材との関わり方とは?【株式会社plan-Aの事例紹介】
【連載・第6回】
「プロに徹する」「自分の価値観を再認識できる」―副業経験者のリアルな声
【連載・第7回(最終回)】
本記事
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