人が行動を起こすとき、人にはそれぞれその原動力となるような体験や経験による想い (原体験と呼ぶこととする)が内にあるものだと思っている。その体験や想いがどのようなものであってもいいが、自分にとって大きなもの・確固たる物であればあるほど、起こす行動にとって力をなり、人を巻き込む力も大きくなるのだろう。
ただ、中には行動を起こしたいと考えつつも、何の体験や想いが自分をそう考えさせているのか分かっていない人や、体験や想いがまだ自分には無いという人もいるのではないか。
なりより私がこのような考えを持っており、そこで今回、フィリピンへ行き、現地で活躍する起業家のお話を伺うことで感じた「原体験は自らつくるもの」について記してみようと思う。 フィリピンでは現地で新規事業の活動を行っている2人の日本人の方とお会いした。日本という母国を離れ、異国で新規で事業を立ち上げるような人には、なにか特別な体験があってこそ、ではないかと推測していたからである。
フィリピンの地方にて、モバイルで求人情報を発信
今回お会いしたお二方はアプローチこそ違えど、フィリピンの貧困問題解決のために活動されている。一人目の方はリレーションズ株式会社で働いている高橋さんだ。
リレーションズ株式会社は「人が地球とともに歩み豊かさを分かち合える未来を想像する」というミッションと「マイナスを+にする瞬間の連続を作り出す」という意味をこめた、”b++”というビジョンのもとに様々な領域で事業を展開している会社だ。
写真:高橋直也さん
高橋さんはその中で初の海外事業としてフィリピンの地方でフィリピンでは安く、広く普及している携帯電話を使い、求人情報を提供する新規事業の立ち上げのために日本とフィリピンを行き来しながら活動中だ。
フィリピンでは日本のように求人情報を手に入れることが難しい。特に首都マニラからはなれた地方では、求人情報はほぼ人づてか、張り紙などアナログな手段でしか手に入れることが出来ない。そのため、求職者・雇用主ともに条件に合った職業・人材を見つけることに多大な時間やコストがかかり、貧困問題を拡大する一因となっている。
そこで、フィリピンでは一般的に広く普及している携帯電話のSMSを求人の媒体とすることで、情報へのアクセスを容易にし、問題の解決を図ろう*1としている。
*1:フィリピンの携帯電話は日本に比べとても安い。プリペイド式が主流で、電話とSMSのみの簡易な物であれば本体とSIMカード含め1500円以下で購入できる。通話は13円/分程度、SMSは一通なんと2円程度で利用でき、普及率は2011年のデータで92.0%とほとんどの人が所持している
高橋さんの活動のキッカケ
高橋さんは、大学生時代にホームレスの社会復帰に貢献するビッグイシューに出会い、社会的な事業に興味を持つ。そこから手がけたい社会的課題についての模索するようになり、やがて、リレーションズでのコスト削減コンサルティングの仕事を行う中で出会ったクライアントからゴミの問題に関心を持った。
ゴミの問題について海外の事例を調べる中で、フィリピンのスラム街であるスモーキーマウンテン(ゴミの廃棄場であり、廃品回収で日銭を稼ぐ人々が周辺に住み着くことによりスラム化した)を知り、実際に赴くことでフィリピンの貧困問題へと関心が広がり、その体験が現在の活動へと繋がっている。
学生の時の想いを持ち続け、その関心を忘れずに日々の中で自分の手を動かすことで、解決したい問題を見つけることが出来たそうだ。大学生時代に関心を抱いた社会的な事業への活動を行っていることに対して、「もちろん満足はしていないし、ホームランを打てるか(この事業が大きく成功するか)どうかは分からないが、打席にたてていることが嬉しい」という言葉が印象的だった。
フィリピンの若者に、未来へつながるキャリアを提供
二人目の方は「理不尽な環境化にある人でも、自分の真価を問うことの出来る世界の実現」というビジョンを持ち、フィリピンの首都マニラで現地の人へ向けたトレーニングプログラムと英語を学びたい人へ向けた語学学校を提供するPaletteを運営する倉辻さんだ。
フィリピンは日本以上の学歴社会であり、一定以上の学校を卒業していないと職に就くことが難しい。 だが、アメリカの植民地支配を受けていた影響で英語が公用語であり全国民の約56.63%の人が扱うことができる。
これを活かし、そのままでは職に就き辛い現地の人々に対してのトレーニングプログラムを提供し、オンライン英会話の講師やコールセンターの代理人、ITエンジニアなどの英語を活かした職業選択を可能にする取り組みや、そのトレーニングプログラムを受講した人々の就職先や効果測定の場として自ら語学学校の運営を行っている。
倉辻悠平さん(写真左端)
倉辻さんの活動のキッカケ
倉辻さんは、大学進学の際に過酷な状況にある世界の子供たちを取材したドキュメンタリー番組を通じ子供兵の存在を知り、国際関係の学部へ進学する。そして課外活動でスタディツアーに行き、スラム街の家庭へのホームステイを通じてフィリピンの貧困問題に関心を持ち、NGOで国際協力の活動をするようになった。
きっかけとなったスタディツアーに2回目以降はスタッフとして参加するようになり、3回目のツアーで初めての試みとなるスモーキーマウンテンでのゴミ拾い体験を企画した。倉辻さんも自ら行うことで問題の深刻さを強く感じ、将来この問題の解決のために起業することを決意する。
そして活動の中で知り合った仲間と、就職後3年経ったのちフィリピンで起業することを誓い、その三年後である去年、起業を実現し、現在活動中だ。スモーキーマウンテンでの体験の話は自ら実際に行ったことによる言葉の重みが強く感じられ印象的だった。
原体験は内に求めるのではなく、外で作るもの
私は冒頭に述べた「異国で事業を立ち上げる方にはどんな強烈な想いがあるのだろう」といった関心のもと、今回のお二方のお話をうかがう中で強く感じたことがある。
それは高橋さんがおっしゃった「原体験は内に求めるのではなく、外で作るもの」ということだ。 二人ともに問題を解決せんとする強い想いがあることがひしひしと伝わってきた。しかしその想いは偶発的な1つの出来事による物ではなく、自ら経験した中での心の引っかかりを持ち続け、それをさらに深めるべく行動したことによって強い想いとなっている。
既に強烈な原体験を持っている人は、それに対して行動を起こすか起こさないか自由に選択をすればいいが、そう言える物が無く、だが想いをもって自分の人生を歩みたいので考えるのであれば、その基となる体験を自らの中に探し求めたり、無理に組み立てたりするのではなく、自らの経験の中で少しでも引っかかりを持てた出来事を大切にして、この先の原体験を作り出していくことに目を向けることが重要である。
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