みなさんは、「家業イノベーター」と呼ばれる方々をご存知ですか?
「家業を持つ者として生まれたアイデンティティを生かしながら、周囲や社会を豊かにするための事業成長に取り組む人」と定義された、家業の後継者たちのことを指します。
そんな家業イノベーターたちが学びと実践を繰り返しながら切磋琢磨するコミュニティ、それが「家業イノベーション・ラボ」(以下、家業ラボ)。
家業ラボ
https://kagyoinnovationlabo.com
今回、このラボのイベント「事業ブラッシュアップ会」(5月24日開催)を取材しました。家業イノベーターたちがそれぞれの家業特有の問題や事業課題について、メンターと議論しながら事業を磨き上げていくイベント。新型コロナウイルスの影響もありオンラインで実施されました。
【当日タイムラインと参加者内訳】
《当日タイムライン》
13:00-13:30 開会のあいさつ
13:30-15:00 事業ブラッシュアップ 第1ターム
15:00-15:30 休憩
15:30-17:00 事業ブラッシュアップ 第2ターム
17:00-17:15 休憩
17:15-18:40 振り返り、家業ラボ未来ブレスト会、アクション宣言
18:40-19:00 休憩
19:00-21:00 懇親会
《参加者総勢54名》
・家業イノベーター:14名
・メンター:6名
・地域コーディネーター:6名
・オブザーバー:13名
・事務局メンバー:15名
北は北海道から南は大分県まで!オンラインで集う、家業イノベーターたち!
全9地域14名の家業イノベーターや6名のメンターなど、総勢54名がオンライン上で勢揃いした、事業ブラッシュアップ会。
冒頭では主催団体として、宮治勇輔さん(NPO法人農家のこせがれネットワーク)と、遠藤哲輝さん(エヌエヌ生命保険株式会社)が開会のあいさつ。続いて参加者による自己紹介などを経て、事業ブラッシュアップが始まりました。
開会のあいさつの様子(宮治さん)
開会のあいさつの様子(遠藤さん)
家業ラボの説明(1)《当日スライドより抜粋》
家業ラボの説明(2)《当日スライドより抜粋》
ビデオ会議ツール「Zoom」のブレイクアウトルーム機能で、3グループに分かれ事業ブラッシュアップ実施
ビジョンをしっかり掲げることが大切。そのビジョンで会社の魅力が変わっていく(事業ブラッシュアップ密着取材1社目)
岐阜県で1991年に創業した、タイル釉薬(ゆうやく)の研究・製造・販売を行なう株式会社玉川釉薬。家業イノベーターは井戸尋子さんと玉川幸枝さんです。メンターはインキュベイトファンド株式会社HRマネージャーの壁谷俊則さん。
事業ブラッシュアップの時間は90分で、家業イノベーターから企業説明や課題共有がプレゼンされた後、メンターとのディスカッションが始まります。
玉川釉薬は、姉妹である尋子さんと幸枝さんの父が創業した会社です。父の玉川氏は、職人であり現役社長です。姉の尋子さんは職人として玉川氏の後を継ぎ、妹の幸枝さんは新規事業担当として会社を盛り立てています。世代交代の時期を見据えながら、忙しさが売り上げと比例しない現状を打破すべく、利益を生むメカニズムを一緒に考えてほしいという相談がメンターの壁谷さんに共有されました。
プレゼン後にさっそく壁谷さんから、組織体制や銀行交渉の質問、何を実務として引き継ぐことになるのかといった家業特有の質問がありました。また事業が成功している状態をイメージすると、その時に自分たちの周りにはどんなリソースがあるのか、そしてその理想の状態を目指すために今何を実践すべきかなど、多岐にわたる切り口から議論が展開していきました。
その中で、今後会社を引き継ぐ上で、社外の人と出会う必要性を尋子さんは感じながらも現場が忙しく思うように動けず、一方で、社外で精力的に活動する幸枝さんが人材を紹介しようとおもっても遠慮してしまっているという課題が浮き彫りに。
それに対して壁谷さんから、「今後、会社のビジョンを掲げた時に必ず必要になるのが、外部の優秀な人材のサポート。そのため、外部の人材と知り合うことを『仕組み化』『納期化』すること」「たとえば3ヶ月で何人会うといったことを仕事として捉えて、必ず行なうようにすること」という提案がされました。
また「ビジョンをしっかり掲げることが大切で、そのビジョンで会社の魅力が変わっていき、共感する人たちがおふたりや玉川釉薬のもとに集まってくる」というメッセージもおくられました。
事業ブラッシュアップ中の様子(写真左:妹の幸枝さん、写真右:姉の尋子さん)
メンターの壁谷さん(写真中央)
拡大することを手放せると、小回りが利き、身軽で、やりたいことがやれる(事業ブラッシュアップ密着取材2社目)
大分県で1970年に創業した、衣服の製造を行なう有限会社竹田被服。家業イノベーターは三代目の大塚雄一郎さんです。メンターは株式会社エリオス代表取締役の杉浦元さん。
竹田被服は大塚さんの祖母が創業し、大塚さんの父が二代目。創業当時は女性に向けたブラウスなどを、現在はカジュアル系メンズ・レディース服、企業ユニフォームなどを製造しています。大塚さんご自身は大学卒業後、東京のSE会社に就職し、2012年に帰郷、現在は竹田被服の専務取締役を担っています。
そんな大塚さんのもとに企画相談に訪れる、社外の方々とのコミュニケーションの中で、大塚さん自身も企画に参加したくなった際の報酬の配分方法について、まず話し合いが進みました。
その中で杉浦さんから、「大塚さんが一番やりたいのは、自らアイデアを出すというより、友人や周りの方々との出会いの中にあるアイデアの種を一緒に育ててものを作っていくプロセスに、いくつも関わっていくことではないか」という言葉が大塚さんにかけられました。それをきっかけに議論はさらに深みへ。
最後に、杉浦さんから大塚さんへ、「組織を大きくすることを目指すならそれでもいいが、家業で小さいことというのは実はものすごいメリット。多くの人々は小さいことや規模が小さいことをデメリットと感じているが、拡大することを手放せると、小回りが利き、身軽で、やりたいことがやれる」というメッセージもおくられました。
事業ブラッシュアップ中の様子(写真中央:大塚さん)
画面共有しながらプレゼンテーションする様子(写真右:大塚さん)
メンターの杉浦さん(写真中央)
家業ラボのコミュニティがさらに盛り上がるために!
事業ブラッシュアップ終了後には、未来ブレスト会と題して、このコミュニティの今後について、参加者同士でディスカッションが行なわれました。
「参加している家業イノベーター同士で商品開発、企画ミーティングを実施したい」「コラボレーション事例やロールモデルを作り、コミュニティ内を活性化しながら外にも発信していきたい」「お互いの強みも弱みも共有しあえる場でありたい」といったアイデアが生まれ、コミュニティを大切に育てていきたいというそれぞれの想いが伝わる時間になりました。
その後、アクション宣言と題して、家業イノベーターたちが次に取り組むアクションを発表。最後に記念撮影があり無事終了しました。
アクション宣言を掲げる家業イノベーターとメンターたち
参加者全員で記念撮影
事後インタビュー(1):家業イノベーター
ーー株式会社玉川釉薬の玉川幸枝さん、井戸尋子さん(以下敬称略)に、感想や家業イノベーターを志したいみなさんに向けてメッセージを伺いました。
幸枝:「なんとなくいいとおもってやってきたことを、大事だから仕事化する」というアドバイスが興味深かったです。またこの会を姉に紹介できてよかったです(*)。ひとりじゃないよと感じられる、みんなと切磋琢磨できるコミュニティです。
尋子:自分の知らない方々からアドバイスをいただけるのは新鮮でした。壁谷さんからは的確で新しい視点をいただきました。最近は孤独に悩んでいた時期だったので、視界が変わりパッと明るくなりました。
*妹の幸枝さんは以前にも家業ラボに参加経験があり、今回は姉の尋子さんと一緒に参加。
ーー続いて、有限会社竹田被服の大塚雄一郎さん(以下敬称略)に、感想や家業イノベーターを志したいみなさんに向けてメッセージを伺いました。
大塚:「小さいこと・小回りが利くことが武器」という杉浦さんの言葉で、背中を押して、肯定してもらえる感じがしました。既存のものではなく今まだ見えていない景色をつくろうと挑戦する人たちがこのコミュニティには集まっています。個人的には繊維業に関わる家業イノベーターの方々にも入っていただき、今後コラボレーションを生み出せると嬉しいです。
事後インタビュー(2):メンター、地域コーディネーター
ーー今回メンターとして参加した宮治勇輔さん(以下敬称略)に、感想や家業イノベーターを志したいみなさんに向けてメッセージを伺いました。
宮治:事業ブラッシュアップでは、メンターやオブザーバーなどが複数いることで、1対1で実施する以上に、家業イノベーターは色々な視点を得られたのではないでしょうか。参加者全員が家業の後継者の中で、表面的な話だけではなく腹を割って話をしながら、今後の事業に活かしてコラボレーションしていくために、ぜひ多くの方々にご参加いただきたいです。また日本の文化・伝統・歴史をどのように次に繋いでいくのかというのが家業ラボに対しての私の想いです。
ーーまた、有限会社竹田被服・大塚さんの地域コーディネーター、佐藤直子さん(以下敬称略)にも、感想や家業イノベーターの伴走支援をしたい地域コーディネーターのみなさんに向けてメッセージを伺いました。
佐藤:「拡大していくことを手放したらやりたいことができます」という杉浦さんの言葉が印象的で、専務(=大塚さん)と同じく私もエールをいただきました。メンターの方とご一緒することで、自分が伴走支援している企業さんの良さを再認識でき、なぜ自分がコーディネートしているのかと初心にかえることができます。ちなみに今回オンライン開催でしたので、専務をお誘いしやすかったです。
事後インタビュー(3):運営メンバー
ーー最後に、家業ラボ運営メンバーのNPO法人ETIC.高橋健に、今後の展望を聞きました。
高橋:家業イノベーターのニーズに寄り添いながら、オンラインイベントを今後も企画していきます。事業ブラッシュアップ会は次回10月を予定しています。Facebookページで情報発信していきますので、ぜひいいねを押してチェックしていただければ幸いです。
家業ラボ Facebookページ
https://www.facebook.com/kagyoinnovation/
家業ラボ Facebookコミュニティ(*)
https://www.facebook.com/groups/864442990556830/
(*)家業後継者および地域コーディネーター限定のコミュニティのため事前の承認審査があります。あらかじめご了承ください。
【参加企業一覧(都道府県順)】
一鱗共同水産株式会社(北海道)
有限会社高橋食品(茨城県)
http://tofuseller-takahashi.com
株式会社成島(茨城県)
https://www.ningyoya-honpo.jp/
御菓子司風月堂(茨城県)
株式会社セブンハンドレッド(栃木県)
株式会社フルプロ(長野県)
株式会社玉川釉薬(岐阜県)
美濃加茂ガス株式会社(岐阜県)
https://www.minokamo-gas.co.jp
マツオカ建機株式会社(三重県)
http://www.matsuokakenki.co.jp
中尾食品工業株式会社(大阪府)
喜多商事株式会社(岡山県)
社会福祉法人吉備福祉会(岡山県)
有限会社竹田被服(大分県)
※本記事の掲載情報は、取材を実施した2020年05月現在のものです。
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