昨年度のピッチコンテスト終了後の集合写真 (写真提供:Youth Co:Lab)
移動したり、人に会ったりといったことが難しくなってしまったコロナ禍の日常。新しいチャレンジがしにくくなっていると感じる方も多いかもしれません。
世界に広げたい、社会がよくなりそうなアイディアがあったのに、なかなか人に相談もできないし、宙ぶらりんな状態……そんな方にぜひオススメしたいビジネスアイディアのコンテストがあります。
アジア太平洋地域の25の国と地域で開催されてきた、若者によるソーシャルイノベーションやアイディアを支援するプログラム、「Youth Co:Lab(ユース・コーラボ)」。
国連開発計画(UNDP)とシティ・ファウンデーションが共同で実施し、これまでにアジア太平洋地域で開催されたシンポジウム、地域サミットやソーシャル・イノベーション・チャレンジなどのイベントに約75,000名が参加しました。7000名以上の若手社会起業家が支援を受け、650の社会的事業の立ち上げやアクセラレーション(事業拡大)に繋がっています。去年に引き続き、今年も日本で開催予定。本年はオンラインでの実施です。
昨年のYouth Co:LabのファイナリストのCoffee FREAK Productsの青木望(あおき・のぞむ)さん、ShareRo(シェアロ)の三原尚人(みはら・なおと)さん、そしてUNDPの大阿久裕子(おおあく・ゆうこ)さんに、Youth Co:Labの魅力や、プログラムを経てどのような変化があったのかお話をお伺いしました。
左:Coffee FREAK Products 青木望さん、右:ShareRoの三原尚人さん
Youth Co:Labをきっかけに事業や人脈、新しい挑戦が広がっていく
――まずはお二人の事業概要について教えてください。
青木さん:普段は工業デザインや3D CADを使った仕事をしています。元々ラテアートが好きでラテアートの練習をしていた時に、沢山の量のコーヒーかすが捨てられているのを見てもったいないと思いました。そこからコーヒーのかすをリサイクルできないかと考え始めました。コーヒーのアップサイクル※のプロジェクトの仕事をし始めて、去年のYouth Co:Labに応募し、最優秀賞をもらって今があります。
※アップサイクル:不要になったものに付加価値をつけて、新しい製品として生まれ変わらせること。リサイクルとは異なる概念。
三原さん:普段は、ガイアックスのスタートアップスタジオの一社員として、ShareRo - ルームメイトマッチングの事業化に向けてプロダクト開発と検証を進めています。新型コロナウイルスの影響もあり、Youth Co:Labに応募したときのビジネスモデルからは大きく事業内容が変わりました。2020年3月に東京外国語大学卒業後、ShareRoを進めながら、先輩のつてで、名刺管理のSansanでインターンをして暮らしていました。今はガイアックスのシェアリングエコノミーに特化したスタートアップスタジオの中で投資を受けながら事業を進めています。
――Youth Co:Labを通して、様々な人やチャンスの出会いがあったと聞いています。どんなことがありましたか?
青木さん:シティグループの役員や様々な部署の社員の方にメンターとしてサポートをいただきました。投資銀行・法人金融部門や、法務部門の方とお話しさせていただく機会をいただき、損得勘定なしに詳細にアドバイスをいただけて、とても感謝しています。また、上場飲料企業の方と繋がるなど、人脈も広がりました。
三原さん:Startup Impact Summitというグローバルのテクノロジー・スタートアップが集まるオンラインカンファレンスでピッチをする機会をもらいました。そこには同じくYouth Co:LabのファイナリストのMyMizu(マイミズ:日本全国の無料給水スポットが探せるアプリ)さんもピッチをしていて、Mymizuさんのどんどん進んでいく姿を見て、「全く業種は違いますが、負けてられないな」、と思っていました。ある中国出身の方は「アジアに出ていくためにお金が必要だから投資してほしい」、とピッチしていて、中国の規模で満足していないハングリー精神や熱量に刺激を受けました。
――どういうきっかけでYouth Co:Labに応募しましたか?
青木さん:本当に偶然でした。facebookを見ていたら、たまたまYouth Co:Labのお知らせが流れてきて目に入りました。コーヒーかすのアップサイクル事業を進めたいと考えていた時期だったのと、SDGsという事柄が被るところもあり、ピッタリだと思いました。
初舞台としては大きい場かと思いましたが、締め切り3日前に見つけたので、とりあえず出しとけ!と勢いで応募しました。応募年齢制限が35歳で、ちょうど自分自身が34歳だったのも後押しになりました。
三原さん:僕も偶然でした。Youth Co:Lab締め切りの3か月前まではソフトバンクのイノベンチャー(ソフトバンクグループで新規事業を手掛ける社内ベンチャー)でゼロから事業を作っていました。事業のプランを発表できる場を探していて、ソフトバンクイノベンチャーの社員の方から、Youth Co:Labの存在を聞きすぐに応募しました。
昨年のピッチの様子:青木さん(写真提供:Youth Co:Lab)
昨年のピッチの様子:三原さん(写真提供:Youth Co:Lab)
事業ブラッシュアップの機会―アイディア段階・事業を始めたばかりの人にも
――Youth Co:Labの受賞者はスプリングボード・プログラムというビジネスプランのブラッシュアップサポートを受けられますよね。いかがですか?
青木さん:スプリングボードの内容は基本的には英語なので、まずその解読から始まります。Google翻訳を駆使したり、UNDPの大阿久さんにもフォローしていただいたりしています。アイディアベース、事業を始めたばかりの方にもプログラム内容がフィットしていると思います。
アイディア実現のための詳細なロードマップが描けるのもとても良いです。また、新型コロナウイルスで社会情勢が変わっている中で、課題の内容も変化しました。事業のリスク管理の課題が出るなど、その時その時に一番必要なプログラムが提供されています。
三原さん:最初はモジュール(社会起業家のビジネスアイディアとビジネス化するために様々な角度から検討する課題)の数が多いなあと思いました(笑)。ですが、考える機会をもらっています。僕も青木さんと同じように、アイディアを実現するためのロードマップを描けたのはとても良かったです。また、スプリングボードで学んだことを他のコンテストでも活かすことができています。
――特に印象に残っているモジュールはありますか?
青木さん:自分が話している動画を送るというモジュールが一番印象に残っています。毎回、大阿久さんに英語をみてもらっています。自分の想いを伝える時に、英語でどういう表現をするといいのか、という伝え方の部分も学んでいます。今後に活きる課題でした。
三原さん:特に印象に残っているのは、月1で10人に事業のアップデートを伝える戦略的コミュニケーションのモジュールです。そこからマンスリーレポートを始め、勝手に青木さんと大阿久さんに送りつけました(笑)。文字化することで頭の中が整理されるので、やって良かったと感じます。
プログラムを経て変わった事業内容。広がる可能性と今後の展望
――改めて応募前と今を比べて、どのような変化がありましたか?
青木さん:ピッチしたときは、コーヒーかすを固めて、再利用して燃料にするというプランでした。スプリングボード・プログラムを進め、自分なりに咀嚼していく中で、コーヒーかすを燃料にするといっても具体例がないと思いました。
だったら、その燃料でコーヒーを焙煎するのが良いのではないかと考えました。既存の製造プロセスにコーヒーかすの再利用を組み込むサイクルをつくれば、局所的ですが、コーヒーかすの廃棄量をゼロにするモデルができます。そのモデルケースの実現として、コーヒーロースター(焙煎所)をつくることを目標に今動いています。最初の一歩として、今ある焙煎機を改造して、専用の焙煎機を作っていくことを考えています。
三原さん:ピッチで話した事業は、血縁関係のないおじいちゃんの家に間借りして住んだ経験から、高齢者の家の空き部屋に学生をマッチングするというビジネスモデルでした。パイロットとして4ペアを既に作っていましたが、新型コロナウイルスの影響もあって、事業を再考することにしました。
自分自身がおじいちゃんと住んだことを思い出して深堀りすると、一緒に住む人の年齢はもしかして関係無いのかもしれないと思い始めました。ビビッとくる人であれば、同世代で一緒に住んでもいい、年代に関係ないと気づき、世代の枠をとっぱらうことにしました。
初期のターゲットとして、モノを持たない価値観や本質的なモノやコトにお金を使う傾向の強いミレニアム世代やZ世代に、ルームシェアマッチングに需要があるのかどうか、100人に1対1のインタビューをして情報も集めました。
今は東京外国語大学、慶応義塾大学の学生周りで小さくローンチしています。今は60名くらいがパイロットとして入っていて、出会いも増えています。まさに今動き出した段階です。最近では、一級建築士、そして一級建築士を目指す若手建築士と学生の3人のルームシェアがマッチングして、とても良いマッチングをしたなと思っています。
コーヒーかすを入れて、エネルギー燃料を作る機械のイメージ画像
ShareRoのウェブページ
――今後どのように事業を羽ばたかせていきたいですか。
青木さん:私たちが考えるロースターが地域にできれば、地域で出るコーヒーかすをゼロにすることができます。消費者にとっての消費行動を変えることなく、消費と生産のより良い持続可能な循環が実現できます。やっていく中で、コーヒーかすに貴重な成分がふくまれているということも分かってきて、例えばそれを取り出して別の事に使う、という可能性もあると思っています。今はコーヒーかすを燃料にする事を目標に動いていますが、違う形にアップサイクルすること等、可能性は無限大です。
三原さん:僕が経験したおじいちゃんとの関係は、今ある言葉では表現できません。恋人でもないし、家族でもない。
事業を通して、これまでにない人間関係を創っていると思っています。バディというか、まだうまく言葉にできていないのですが、新しい言葉をうみだして、5年後にはそれが誰もが知る言葉になっていたら嬉しいです。
ルームシェアは空間だけではなく、人間関係をシェアしています。例えば、人生100年時代、配偶者が先に亡くなるということがありますよね。第二の人生で定義される、新しい人間関係とは何なのかとか、5年後に定義されてると良いなと思います。
ZOOMでのインタビューの様子/左上から時計回りで、UNDP大阿久さん、Coffee FREAK Products青木さん、著者、ShareRo三原さん
このチャンスを活かして、世界に、自分自身に挑戦してほしい
――最後に、応募を考えている方へのメッセージをお願いします!
大阿久さん:改めてお二人の話を聞いていて、Youth Co:Labはきっかけ作りでしかなく、主人公はお二人だと強く感じていました。アイディアを形にしてきたい人に、Youth Co:Labを通じて実現へのお手伝いができるといいなと思っています。
今年はオンライン開催で場所や移動の制限も無くなったので、私たちのオフィスのある東京から離れた地域の方にもご参加頂きたいです。
また、Youth Co:Lab受賞者から2チームが、アジア太平洋サミットに招待されます。サミットでは各国のYouth Co:Lab受賞者、投資家、スタートアップの先輩、政府関係者など1000人以上の方が集まる機会です。2019年度は新型コロナウイルスの影響で延期となってしまいましたが、2021年春にアジア太平洋でサミットを開催予定です。
アイディアレベルから事業始めて3年までの方、まだ形になっていない方、ぜひ応募してください。お二人のように色々な人と話して事業が変わったり、発展したりなど、チャンスが溢れています。
青木さん:とりあえず出してみると良いと思います!やりたいことがあって、アイディアを共有したい、一歩進めたいと思ったときに、UNDPとシティグループという、日常生活では関係を持てない組織の人を介して自分の意見をプレゼンできる場は、他には無いです。物怖じすることが損!どんどん応募したほうがいいんじゃないでしょうか。
三原さん:Youth Co:Labは世界にアクセスできる場です。日本から世界に発信してください!
写真提供:Youth Co:Lab
――力強いメッセージありがとうございました!
<編集後記>
青木さん、三原さんから出る言葉の1つ1つに、この1年間の経験や考え続けてきた事が凝縮され、溢れ出ていました。事業の話を楽しそうに話す傍ら、その裏にある強い想いや願いにとても惹かれます。Youth Co:Labを経て掴んだ沢山のチャンスを1つ1つ自分の物にして、目の前の課題や自分自身の想いに向き合っていく力があるからこそ、大きな変化が生み出されたのだと感じました。
◇Youth Co:Labの概要はこちらから
◇応募締切:2020年10月5日(月)正午
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>> 世界と繋がりたいイノベーターを募集!国連開発計画とシティグループによる若者の起業支援プログラム「Youth Co:Lab」
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