みなさんは、コロナ禍で寄付をしましたか?
長年、寄付に関する取り組みをしてきた専門家の方々によると、今回のコロナ禍を含めて、近年、お金の流れに変化が表れているようです。
今回はこうした話が引き出されたセッションを紹介します。今、必要とされるファンドレイジングのすべてが学べる場として9月に開催されたイベント、「ファンドレイジング・日本2020オンライン」。「寄付・投融資の価値観の変容を捉える」をテーマにした場では、4人の専門家たちがそれぞれの実体験から感じたこと、10年後、20年後を見据えて挑戦したいことについて語りました。
スピーカーは、コロナ給付金寄付プロジェクト実行委員会代表の佐藤大吾さん、READYFOR株式会社代表取締役CEOの米良はるかさん、株式会社大和証券グループ本社 取締役 兼 執行役副社長 (海外担当 兼 SDGs担当)の田代桂子さん、プラスソーシャルインベストメント株式会社代表取締役会長の深尾昌峰(ふかお・まさたか)さん。
ファシリテーターは、認定NPO法人日本ファンドレイジング協会代表理事の鵜尾雅隆(うお・まさたか)さんです。
日本の寄付、また投融資の価値観がどう変化しているのか。それを踏まえて、自分たちが今考えるべきこと、すべきことは何なのか。ぜひ参考にしてください。
20代の「寄付してもいい」意識が高まる
鵜尾さん(以下、敬称略):テーマ「寄付・投融資の価値観の変容を捉える」について感じることを教えてください。
佐藤さん(以下、敬称略): 今年、コロナの問題が発生してから大変困っている方々が一気に増えてしまいました。一方で、政府による一人10万円の特別定額給付金をはじめ、お金を「寄付したい」という声がたくさん上がりました。そこで僕たちはその受け皿として「コロナ給付金寄付プロジェクト」をスタートさせました。
これは強い声を受けて生まれたプロジェクトです。僕が寄付業界に足を踏み入れたのは12、13年前ですが、「寄付に興味がない」といった声が多かった当時と比べると驚きがあるし、文化が変わってきたと感じます。
また、コロナ禍の中でいろいろとアンケートリサーチをしました。そのうち、「特別定額給付金を何に使いますか?」という質問に対して、なんと20代の方の「寄付してもいい」という声がとても多かったのです(約4割)。30代、40代の方は高くなかったのですが、彼らは責任世代といわれるように、固定した生活費や教育費などを抱えているといった事情があるのかなと思っています。
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佐藤大吾さん
米良さん(以下、敬称略):クラウドファンディングの事業を立ち上げて9年たちました。認知度がとても低かった当時と比べると、コロナ禍ではたくさんクラウドファンディングがあったから自分の事業を存続できたという人がいたり、寄附ができてよかったと言ってくださる支援者さんがいて、粛々とやってきてよかったなと感じています。
今回のコロナ禍では、多くの人にとって、よく行く飲食店さんが経営の危機に立たされたり、応援しているスポーツチームが大変な状況にあったりしたと思います。その中で寄付が、「社会の自分の大切なものを守りたい」という想いを証明する手段になっているのかなと感じています。
私たちもいろいろな施策を打ち出しました。一つが、医療従事者やフロントワーカーの方々にお金を届けるプロジェクト「新型コロナウイルス感染症:拡大防止活動基金」です。現時点で約9億円のお金を集めることになり、「何かを応援したい」という人の気持ちが寄付につながったのはとてもよかったと思っています。
米良はるかさん
世界金融危機をきっかけに投資の世界に変化
田代さん(以下、敬称略):コロナ禍は大きな流れの変化のきっかけになっているとは思いますが、グローバル的には2008年頃の世界金融危機の時に大きく変化したのではないかと思います。
それまでは年金や保険などを運用しているプロの機関投資家にとって、一番大事なのは収益を上げることでした。でも、金融危機によって「それだけでいいのだろうか」と考えが変わったと思います。世の中が格差社会になっているのを背景に、「(この状況を)放置していいのだろうか」と思うようになったのです。また、自分の年金のお金をそういうもので運用してもらいたいという人々の希望が合わさって変わっていったと思います。
もう一つは2006年、アメリカの副大統領だったアル・ゴア氏が「不都合な真実」という映画を作り、ノーベル平和賞などを受賞したことも影響の一つとして考えられます。その時に地球温暖化や脱炭素の問題について話すきっかけになりました。
この2つが同じタイミングに起こったので、そこから投資の世界には少しずつ社会的責任投資(SRI)や国連のSDGs、責任投資原則(PRI)などの要素が入ってきました。
今回のコロナ禍でも、コロナ対策のための国際機関の債券については日本の機関投資家が購入するなど早いタイミングで動きが現れたと思います。そういう意味ではすごくこの約10年の間に変わったなと思います。
もう一つ、証券会社として身に染みて感じるのが、若い人の参加です。最近、ネット証券や1株単位から株が買える商品など、アクセスしやすいものが増えました。今後、若い人たちの声が年金や保険を運用しているプロに届けば、さらに大きなお金のうねりが生まれていくのではないかと思っています。
田代桂子さん
深尾さん(以下、敬称略):僕は2009年に地域のコミュニティ財団を作りましたが、当時はまわりから「無理だ、やめておけ」と言われていました。それが最近は財団に遺贈寄付が増えるなど、自分の想いや志をのせたお金の使い方をしたいと望む市民が増えているのを感じます。ソーシャルや共通価値の創造といったところにお金の流れが加速度的に進んできていると実感しています。
たとえば大学が社会的投資を始めました。龍谷大学(京都市)は2013年に10億円を超える規模で行い、立命館大学(同市)は今年、15億円規模のインパクトソーシャルファンド(基金)を創ってソーシャルの領域に行っていくことを始めました。
学校法人の資金運用を、特にソーシャルな領域のインパクトファンドに投入する、そういう運用にチャレンジをすることは実は公益法人のあり方を表しています。これはとても大きな変化だと思っています。ほかの大学や機関投資家からも問い合わせが多いので、そういった領域はこれからもどんどん広がっていくのかなと思っています。
深尾昌峰さん
若くして成功した経営者からの大口投資が増加
鵜尾:大口寄付と社会的投資は成長しているのでしょうか。経営者や富裕層による寄付などの流れはどうなっていくのでしょうか。
米良:コロナの基金を立ち上げた時に、若くして経済的に成功した方々から「何かしたい」という声と大口のご支援をたくさんいただきました。自分が事業で得たお金を社会に還元する動きがより起こっているのではないでしょうか。
鵜尾:株式会社ミクシィの創業者で取締役会長の笠原健治さんが今年4月に「みてね基金」を設立しました。他にも著名人が基金を創るなど、いろいろなことがこの雰囲気の中でありましたね。
佐藤:私たちが立ち上げた「コロナ基金給付プロジェクト」も、経営者をはじめ200人を超える方々が共同発起人となっています。みなさん、寄付もしてくださっているんですよ。約10年前には大口の寄付をすると叩かれていたんですね。それが最近は堂々と大口寄付をする方がいてて、それに対して拍手が起きている気がします。約10年前は「寄付業界に近づくとやけどする」といった雰囲気があったのですが、今は「物ともせず行こうぜ」という雰囲気になってきたと思います。
田代:今は、遺贈などへの富裕層の関心が高まっているなと感じます。
深尾:大きなお金を出そうとする寄付者は確かにいるけれど、そのお金できちんと社会を変えてくれるのか、課題解決に向き合って成果を出してくれるのかが強く問われていると思います。寄付を受けるソーシャルセクターももっと強くなって、価値や変容をどう促していくのかしっかりと伝えていく必要があると感じています。
ファンドレイザーは金融のスキルが求められる時代に
鵜尾:では、今の状況を踏まえて、これからの10年、20年、どんなことにどう取り組みたいですか?
深尾:これから社会性を支える資金を多様にしていくためのソリューションづくりが必要になってくると思います。今、全国の地域の金融機関と共同で推進していますし、価値基準の創造なども一緒にチャレンジしていきたいです。
田代:国と地方の公共団体と協力をしながらどう商品を作っていくかが私たちの大きな課題だと思います。また、今、若い社員たちに10年後のビジョン策定作りに関わってもらっているのですが、社内でもジブンゴト化していかないとお客様に伝わりません。そういった活動はこれからも手探りながらいろいろやっていきたいです。
米良:お金を社会的なものに流していきたいという潮流は続く一方で、お金の出し手と受け手がマッチしていないという感触が拭えません。そこに向けて、私たちはプラットフォームとしてまず透明性を上げていきたいです。自分が出したお金がどう使われたかがわかるように。
もう一つは、お金を集められるところとそうでないところの格差を解消したいです。誰も取り残さない社会づくりを目指して、考えながら取り組んでいきたいと思っています。
佐藤:今、ソーシャルセクターと呼ばれるところにはNPOや社団法人、財団法人などだけではなく株式会社が入ってきています。
そのため、株式の世界では一般的な投融資という選択肢がNPOにも門が開かれ始めています。お金も借りられるようになりました。
お金の出し手には経済のど真ん中にいる人たちが多いので、寄付にリターンを求める、よいコミットを求めることは日常的です。受け手である撲たちも、金融の知識などを持って寄付に臨まなければいけないと思っています。特にファンドレイザーにはスキルとして求められる時代がもう始まっているのかもしれません。
また、NPO業界、または寄付市場全体のデジタイズはまだまだ進んでいません。しかし、コロナの問題でDX(※)はこれから不可欠だと思うんです。そこに真剣に取り組みます。
深尾:内容がわかりにくいものを社会に届けていくことを、今まではどちらかというと当事者に押し付けてきたように思います。トランスレーター(翻訳者)のような役割が必要です。
地域の金融機関と市民セクターが協働でお金の流れを創り出す
鵜尾:最後にみなさんから参加者の方々へメッセージをお願いします。
佐藤:12月末までふるさと納税が注目されることになると思います。ガバメントクラウドファンディングといった形で、使途が前面に出てそこに寄付が集まるという動きが始まろうとしています。
たとえば、沖縄の首里城が火災に遭った時には、返戻品がないにも関わらず、首里城の再建のために1か月で9億円ほどの寄付が集まりました。
米良:私はやはりコロナは大きな問題だと思っています。あらゆる学者からパンデミックは起こると言われていたはずなのに、対策ができていませんでした。その中で一番つらい立場になったのは、はもともと弱い立場の人たちで、とても大変な思いをされています。人類を守るためにもソーシャルセクターにしっかりとお金を流していくことが大事だし、使命感をもって取り組んでいきたいです。
田代:実はみなさん、無意識に投資をしています。年金や保険などです。自分のお金がどこに投資されているのかを少し意識して考えると、その声が束になって、プロの機関投資家を動かします。気に留めて、質問をしていただければ、そこから大きな動きが生まれると思いますので、ぜひお願いしたいです。
深尾:地域の金融機関や市民セクターが一緒になって、地域の持続性を高めるお金の流れを創り出すフェーズにきていると感じます。域内通貨などの取り組みもダイナミックで有効な手段になると思います。これからはファンドレイザーのみなさんを中心に、そういったものをつなぎあわながら地域に編み込んでいく挑戦をしていければと思っています。
鵜尾:今回の話を聴きながら、我々自身の役割についての価値観を変容させないといけないと思いました。ファンドレイジングとは現場と社会のパイプラインで、我々はその中で何の役割ができるのだろうかと。たとえば光が当たってない分野に注目を集めることができれば、大きな社会変革を生み出したことになります。
(生活困窮者への支援を行う)認定NPO法人抱樸(ほうぼく)は、1万人から1億円を集めました。クラウドファンディングを始める前は、「日本ではホームレスになかなか支援をしない」と多くの人が思っていました。でも、チャレンジをした結果ドアが開きました。そういう意味では、ここに私たちの大事な役割があると思いました。
声を束にすることで声を力にしていく。その感覚がファンドレイザーとして大事な役割なのだろうと思いました。
<参考>
(※)DX:デジタルトランスフォーメーション。「デジタルによる変革」の意味。日本では、2018年12月に経済産業省が「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」を出した。そこで経済産業省はDXの定義を、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」としている。
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