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「フリーランスは自己責任」の時代は終わった。持続化給付金実現の裏にあった、フリーランス協会の働きとは

2020.11.26 

新型コロナウイルスの流行で苦境に立たされたフリーランスのために奔走し、国の制度整備に大きな影響を及ぼした「一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会(以下、フリーランス協会)」。小さな声を大きな声にしていく、ムーブメントを起こしていくことを大切にしてきたと語る、代表理事の平田麻莉さんにお話を伺いました!

 

緊急事態宣言下3〜4月の2ヶ月間、メディア露出51件、記者会見1件、議員・政府高官ヒアリング6件、さらに毎日政府担当者と調整を重ねていたという平田さん。その働きは持続化給付金などの制度設計に大きな影響をもたらしました。平田さんはこのコロナ禍で、いつ頃から何を思い、どのように行動されていったのでしょうか。

 

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平田 麻莉/一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会 代表理事

慶應義塾大学総合政策学部在学中にPR会社ビルコムの創業期に参画。 リンクアンドモチベーション、リクルートスタッフィング、インテリジェンス(現パーソル)等の広報経験を通じて企業と個人の関係性に対する関心を深める。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院への交換留学を経て、2011年に慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。同大学ビジネス・スクール委員長室で広報・国際連携を担いつつ、同大学大学院政策・メディア研究科博士課程で学生と職員の二足の草鞋を履く(出産を機に退学)。

現在はフリーランスで広報や出版、ケースメソッド教材制作を行う傍ら、2017年1月にプロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会設立。 プロボノの社会活動として、政策提言や実態調査、フリーランス向けベネフィットプランの提供などを行い、 新しい働き方のムーブメントづくりと環境整備に情熱を注ぐ。

政府検討会の委員・有識者経験多数。日本ビジネススクール・ケース・コンペティション(JBCC)発起人、初代実行委員長。パワーママプロジェクト「ワーママ・オブ・ザ・イヤー2015」、日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2020」受賞。

最初にフリーランスを直撃したのは、全国一斉臨時休校、イベント、ライブハウスやフィットネスクラブの自粛要請

 

――まずは、コロナ禍におけるフリーランスの状況について教えてください。例えば新型コロナウイルスの流行が報道されるようになった頃、平田さんはどのようなことを考えられていたのでしょうか。

 

そうですね、日本では1月末ごろから中国での流行が報道されるようになりましたが、その段階ではまだポジティブな側面に着目していて、「これで難しかったリモートワークの推進が一気に進むのでは」なんてFacebookに投稿していました。地方と首都圏のロケーションによる不公平感も薄まり、首都圏のフリーランス・副業人材が地方で活躍する場面が増えるきっかけになるかもしれないと感じていたんです。

 

けれど2月下旬、国内の状況が一層深刻になり、政府が全国一斉臨時休校、イベント自粛、ライブハウスやフィットネスクラブの運営自粛を要請し、フリーランスにとって状況が深刻化しました。

 

例えば、フリーランスの中には子どもを相手にしている習い事の先生が多くいらっしゃいます。その先生たちがまず大打撃を受けました。また、子育て中のフリーランスも打撃を受け、会社員には補償が出ましたが、当初フリーランスには補償が出されなかったため(※現在、新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応支援金など補償有)、不公平感を叫ぶ声が協会に届いてきました。

 

また、ライブハウスやフィットネスクラブについてはその多くがフリーランスの集まりです。イベント運営も、演者にスタッフに装飾、ケータリングと、ありとあらゆるフリーランスで構成されています。これらの分野で自粛が要請されたことで、多くのフリーランスの収入がいきなり絶たれる事態となりました。

持続化給付金実現の鍵になった、フリーランス協会の動き

 

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フリーランス協会のコロナ禍での動きをまとめたもの

 

――3月2日に発表された全国一斉臨時休校要請に伴う休業補償では、フリーランス(個人事業主や小規模事業経営者)は対象外で、その当日にはフリーランス協会より新型コロナウイルス感染拡大によるフリーランスの不安や課題についての緊急アンケートが開始されました。そうした迅速な対応が可能だった背景には何があったのでしょうか?

 

フリーランス協会は2017年1月に設立して以来、様々な政策提言活動を通じて、少しずつ関係省庁との信頼関係を構築してきました。そのため新型コロナウイルス感染拡大においても、諸々の自粛要請によるフリーランスへの深刻な影響が予測できた段階ですぐに関係省庁の担当者と話し合いを始めることができました。

 

まずはフリーランスの実態把握のため緊急アンケートを実施し、集まった回答は関係省庁の担当者にリアルタイムで共有できるよう体制を整えました。一方で現場の担当者が様々な問題意識を持って一緒に考えてくれていても、事業者への休業補償や現金給付は前例がないことですし、今ある法制度の微修正で対応できる状態ではなかったので、3月9日には総理・官房長官宛てに緊急要請を公開しました。

 

この緊急要請は9日のうちに各報道機関で取材や拡散をしていただき、翌10日に発表された新型コロナウイルス対策第2弾内では、個人で仕事を請け負っている人も含めた特別融資や、休校理由で休業せざるを得ない人向けの給付金を用意していただくことができました。

 

ただ、その段階の対応だけでは救われない方もいらっしゃるということで、そこからも引き続き総理や大臣、議員らにフリーランスを取り巻く状況を伝える機会を作っていただいたり、メディアを通じて苦境に立たされたフリーランスの実態を広く知っていただいたりということを続けて、4月7日の緊急事態宣言時には持続化給付金などフリーランス向けの支援策のパッケージをご用意いただいたという流れになります。

 

――想像以上に関係省庁との丁寧なコミュニケーションを重ねられ、大きな成果を生み出されていますね。

 

関係省庁とは立ち上げた3年前からコミュニケーションを始めていたので、今年3月の段階ではフリーランスの詳細についてしっかりご理解くださる担当者が相応数いらっしゃいました。今回の緊急事態においても、そうした理解者のご協力があってこそ政府に動いていただけたので、本当に感謝です。

 

もう「フリーランスは自己責任」の時代ではない

 

――コロナ禍において、協会の動き方として意識していることはありますか?

 

私たちはいつも「小さな声を大きな声に」を活動のスローガンとして使っているのですが、コロナ禍で改めて実感したのは本当にこのスローガンの通りの役割を自分たちが担っているなということでした。

 

一方で、せっかく政策ができても使われなかったら意味がないので、政府の動きや支援策をフリーランスに伝える役割も使命感を持っていました。お互いの翻訳者的な役割に立ち、好循環を生み出していくことを意識しています。

 

――フリーランス協会を立ち上げられた時点では、国のフリーランスにまつわる政策に対してどのようなお考えをお持ちだったのでしょうか。

 

私がフリーランスになったのは、それで何か問題が生じても「好きでその働き方を選んでいるから自己責任だ」と言われる時代のことで、フリーランスである私自身もその考え方を甘んじて受け入れきました。

 

けれど2015年、一億総活躍社会を目指すと政府が宣言しました。それはつまり、多様な状況にいる人々が働ける選択肢を増やさないといけないということで、以前のようにスキルに実績、覚悟がある人が好んで独立するから自己責任でいいという時代ではなくなったのだと感じました。

 

ただ、当事者の私たちがいくらフリーランスを取り巻く環境に問題意識を持って、一部の仲間同士でお互いの大変さを共有していても、なかなかその実態が社会に周知されない状況がありました。そんなとき自分の専門分野である「小さな声を大きな声にしていく」「ムーブメントを作る」PRの力を活かして政府に働きかければ、フリーランスの環境整備が促進されるのではないかと考えたんです。

 

一人一人は小さな存在でも、フリーランスというまとまった市場が可視化されれば、福利厚生や保険も作ることができるだろうとも思い、そこから仲間に声をかけてフリーランス協会を立ち上げることになりました。

with/afterコロナで挑戦するのは、フリーランスや副業人材の活躍の場の拡大と関係人口創出

 

――with/afterコロナのなかでの今後の動きについて教えてください。

 

フリーランス協会では、2020年度の活動テーマとして「with/afterコロナのキャリアを支える」というのを掲げています。仕事や生活について不安を感じているフリーランスもたくさんいる中で、私たちができることは何なのだろうと考えて、いま動いているテーマが2つあります。

 

1つ目は、スキルアップやキャリアアップの支援です。IBMが社会貢献プログラムの一環として提供するオンライン学習プラットフォーム「SkillsBuild」をフリーランス協会の会員は無料で使えるようにしたり、セルフブランディングやライティングなどの講座を企画運営したり、なんとなく選択肢やロールモデルを提示することに留まらず、具体的に実務に活かせる情報や学びを提供することを意識しています。

 

もう一つは、2017年の設立以来ずっと動いているテーマでもあるのですが、フリーランスや副業人材の受け皿を増やすための、企業向け啓発活動やサポートです。柔軟な働き方や副業に挑戦したい人が急増している一方で、業務委託の人材を受け入れている企業はごく僅かでした。しかし、コロナを機に、これまでテレワークでの仕事は難しいと言っていた企業も考え方が変わっていたり、with/afterコロナに合わせてビジネスモデルや販路、組織の評価体制の変革を迫られていたりします。

 

そこにフリーランスや副業の専門人材がサポートに入るだけで問題が解決することがあると思いますので、そうした多様な人材活用をしっかり進めるべく、企業向けに講演・セミナー活動を行ったり、「求人ステーション」というフリーランス活用の無料相談窓口を提供しています。

 

フリーランスや副業人材の活躍の場を拡げることは、地方における関係人口創出にもつながります。フリーランスにはワーケーションや2拠点居住など場所にとらわれずに働くことができるという醍醐味があるので、地方で働くことをテーマにしたセミナーやワーケーションツアーなどこれまで地道に続けてきました。

 

昨年度策定された第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」では関係人口創出が柱に据えられましたが、私たちが事前に内閣官房に提出した調査結果で、地方における副業やボランティアに興味を持つ会社員やフリーランスが8割以上いることが明らかになったことも背景にあったようです。その調査結果は『フリーランス白書2020(詳細、ダウンロードはこちらから)』に載っています。

 

今年はコロナ禍でテレワークが進み、都会の密を避けて地方に行きたいという人も増えてワーケーションが注目されています。

 

私も少し前に、視察を兼ねて沖縄でワーケーションをしたのですが、地方の観光業・飲食業の方たちは小規模事業者が多く、観光客がこないことで深刻な打撃を受けている状況を目の当たりにしました。沖縄以外にも観光で成り立っている地域は全国に多数ありますから、しっかりと感染症対策をしたうえで少しでも力になれるようなワーケーションの動きを生み出していきたいと思っています。

 

――ワーケーションや副業、私もいちフリーランスとして気になっています。

 

そうですよね。ただ一つだけ、私自身も感じているのですが、子育て世代の方はワーケーションをするにしても子どもの教育の面などで長期間滞在は難しいんです。そこで今年は、子どもを受け入れてくれる学校もセットで探せるワーケーションの推進に取り組めたらいいなと思っています。

 

例えば去年訪れた長崎の五島では、地元の小学校や保育園が特に複雑な手続きも必要なく子どもを普通に受け入れてくれたんですよ。子ども自身そこでの新しい出会いを楽しめたようで、とても可能性を感じました。ワーケーション招致に取り組む自治体と、ワーケーションできる「箱」だけではなく、そこで何をするのか、働ける時間をどう捻出するのかというソフトの設計について、一緒に企画していけたらと思っています。

 

フリーランスは「Time is Money」な人がほとんどなので、そうした方々に訪問して知恵をかしてもらうためにはワーケーションもしっかり作り込まないといけないだろうなと思ってます。そうした部分を、当事者団体として力になっていけたらと思っています。

 

――ありがとうございました!

 

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桐田理恵

1986年生まれ。学術書出版社にて企画・編集職の経験を経てから、2015年よりDRIVE編集部の担当としてNPO法人ETIC.に参画。2018年よりフリーランス、また「ローカルベンチャーラボ」プログラム広報。