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中小企業こそ、社内を「ざわつかせる」副業人材を。第一フォーム株式会社が受け入れたオンライン副業の成果と裏側

2022.03.01 

第一フォームサムネイル

 

自分の「枠」を超える。

しがみつきたくなる成功体験、無意識につくってしまう自分の限界。そうした過去の経験は、自分の選択に「枠」をつくる。幅広い世界が見えなくなる。

イノベーションは、一人ひとりが自分の「枠」を超えることで生まれるのかもしれない―。 

第一フォーム株式会社代表取締役・澁谷正明さん(54)と副業人材の黒田 翔一さん(31)の話は、イノベーションの源泉を教えてくれるようでした。

◇◇◇

横浜市は、企業や大学等との連携により、街ぐるみで人材交流やビジネス創出などに取り組む「イノベーション都市・横浜」を宣言しました。これまでに、みなとみらい地区の研究開発拠点をはじめ、様々なイノベーション人材の交流機会が形成されています。その一つとして、スキルを持った副業・兼業人材の活用による、市内のスタートアップや中小企業の経営課題の解決、組織の垣根を超えた人材交流・成長機会の獲得を支援する「横浜市イノベーション人材交流促進事業」を行っています。この事業を通じて副業・兼業人材を受け入れた第一フォーム株式会社の事例を取材しました。

 

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社内をざわつかせてほしい

 

澁谷社長が、副業人材に期待したのは、具体的な作業ではなく「従業員の変化」でした。

 

「一番の狙いは、従業員の変化と、自分に気合を入れること。何かしら波風が立つことによって行動の変化が起きたらいいな、と。新しい人が入ることで、社内をざわつかせるというイメージだったんですよね。」

 

その背景には、同族会社の2代目であるという澁谷社長 のキャリアがあります。第一フォーム株式会社の「フォーム(foam)」とは、発泡体(発泡プラスチック・発泡ポリウレタンなど)のこと。発泡スチロールを加工して、ありとあらゆる顧客のニーズに応える会社です。

 

1986年に父、英雄さんが創業し、2003年に澁谷社長が継承しました。その後、多額の借金が発覚しますが、発泡スチロールの軽さや加工のしやすさ、素材の安さを活かし、大量生産から少ロットのオリジナル品製造に方針転換。5年で借金を完済します 。

発泡スチロールを使ったアーチ。チョコバナナの売店を装飾しました

発泡スチロールを使ったアーチ。チョコバナナの売店を装飾しました

 

イベントや展示会などで使うロゴやオブジェも多く作っています

イベントや展示会などで使うロゴやオブジェも多く作っています

顧客のニーズにこまやかに対応して危機を乗り越えてきた同社ですが、澁谷社長は「同族の2代目社長なので、ワンマン経営になりがち」と課題を語ります。

 

 「ほとんどのことは『社長が決めて、社長がやる』という状態。僕は、会社の将来を考えて、『従業員が考えて、従業員が行動する会社』にしたかった。

 

従業員数は4名で平均年齢は、40~50代。メンバーの入れ替わりもないので、社内の空気がマンネリ化していたと言います。外から新しい視点を持って関わってほしい、とかねてから副業人材に興味があった澁谷社長 。学生のインターンシップ仲介で付き合いのあったNPO法人ETIC.(エティック)から、「横浜市イノベーション人材交流促進事業」の存在を知り、副業人材を募集することになりました。

まるで、ノウハウのサブスクリプション

 

「若輩者ですが、“濃い”ビジネス経験をしてきていると思います。」

 

第一フォーム株式会社に副業人材として参画したのは、30歳(当時)の黒田さんでした。食品メーカーでの営業、コンサルティングファームでの業務改善、EC事業の新規立ち上げなどを経験しています。

 

黒田さんは、最初の1~2ヶ月で澁谷社長と議論を重ね、3ヶ月目以降は従業員の皆さんが主導して進める課題解決をサポートしてきました。2021年2月から9月までの、全7ヶ月のプロジェクトです。

プロジェクトの流れJ

黒田さんが入ったことで、どのように社内は「ざわついた」のか。澁谷社長は、黒田さんが従業員に与えた影響をこう話します。

 

「スケジュールを立てるとか、目標を設定するとか、わりと普通の会社が当たり前にやっているようなものとかが、中小企業はできてないことが多い。黒田さんに、そういう仕事のやり方を示してもらって、考え方や行動変化を植え付けてもらえたと思う。」

 

黒田さんのような、経営を任せられる人材を中途採用するのは中小企業の場合はとても難しい、と澁谷社長は話します。正社員として採用しようと思ったら、給与面で折り合いがつきません。

 

副業人材を雇うのは、ノウハウのサブスクリプションみたいだと思いました。こういうのが出来るのは本当にすごい。こういう人が1人いると会社は本当に変わるんだなっていうのはすごく思いましたね。」(澁谷社長)

行動が変わる、意識が変わる、結果が変わる

会社は本当に変わる―。何がどのように変わったのでしょうか。

 

「爆発的な変化っていうのはないんですけどね。」と、澁谷社長 。社内の行動の小さな変化を教えてくれました。

 

例えば、ミーティングの内容を文字で残すこと、やるべきことを可視化して責任者を決め、進捗を確認すること、売上や経費のデータを社内全員が見られるようにしたこと、などです。

 

それらにより、「本業を効率よく進めて、新規事業のための時間をつくろう。」とか「今月はあと100万円売上が必要だから、あの案件は絶対今月にやっちゃおう。」とか、従業員の方々の意識も変わってきたように見える、と澁谷社長は話します。

 

「みんな課題は分かっていたけれども、どうやって解決すれば良いかっていうのが分からなかったと思うんですよね。約4ヶ月間、黒田さんがプロジェクトリーダーの立場で、前から引っ張ったり、横で伴走したり、後ろから支えたり、いろんなアプローチで従業員に関わってくれて。各従業員が納得して業務改善できる状態まで持っていってくれたと思います。」

 

プロジェクトの終了後、偶然なのか行動の変化のおかげなのか、受注が増えて忙しくなっていると澁谷社長は言います。

副業は、すべてオンラインで完結

第一フォームの皆さん(澁谷社長 含む)が実際に黒田さんに初めて会ったのは、何とプロジェクトの打ち上げで行った焼肉屋だったそう。つまり、副業中はすべてオンライン。

 

「会ってみたら意外と細いなって(笑)もっと大きい人かと思ってたのに。」(澁谷社長)

第一フォーム様_2ショット

 

相手に変わってもらうのは、対面でも難しいコミュニケーションです。黒田さんは、副業中に気をつけていた点をこう話します。

 

「丁寧な言葉を使うことや、相手の否定はできるだけしないってことは気をつけています。相手に何かを変えてほしい時は、『会社方針だから従って』と上から目線にならないように、『きつい部分はあるけど、この変化は意義があることですよね』と相手と合意しながら進めるようにしています。

あとは、あまり論理的に攻めすぎない。熱くなると、相手を論破したくなるタイプなんです。でも、副業のプロジェクト中は、絶対にそうならないよう、気をつけていました。」

ビジネスは『やり切る』ことが大事

そんな黒田さんのことを、澁谷社長は「軽い哲学者」と言います。仕事に対する哲学を感じる、と。「何かあるでしょう、哲学」と切り込む澁谷社長に、黒田さんは自身のターニングポイントになった仕事について話してくれました。

 

「もともと全然自信がなく、石橋をたたいて渡るタイプの人間だったんです」

 

しかし、仕事で発生するさまざまな無茶ぶりに応えていくうちに鍛えられたそう。「3年以内に数十億の事業つくって」と言われたときは、胃が痛くなりながらも必死に乗り越え、1年目の目標をクリア。3年経った今は当時想定していた数十億の事業規模まで成長していると言います。

 

「東大卒の外資戦略コンサルの方とか、頭の良い方とも仕事しました。でも、ビジネスは勉強と違って、『やり切ること』が大事。諦めなかったら、何か起きる。1年目で駄目であっても、2年3年諦めずにやっていくと、また環境が変わっていくことを実体験しました。」

 

頭の良さより『やり切ること』が大切、という信念が、相手の気持ちを尊重したコミュニケーションにつながっているのを感じます。

 

黒田さんは、「1人でこれだけやれるのなら、いろんな企業さんに何かしら影響を与えられるのではないか」と副業を始めたそう。これまで、第一フォームさんを含めて6社の企業で副業しています。

社長の孤独が、一番良くない

「副業人材の募集で16人面接したんだけど、全員に共通して言えたのは、『副業の目的はお金じゃない』ってところなんですよね。」(澁谷社長)

 

今の会社でやっている仕事が、果たして他社でも通用するのか。自分の力を試したい、という人が多かったと澁谷社長は言います。黒田さんもその一人。第一フォームの事業内容にも惹かれましたが、小規模の会社経営に関わったことがなかったので、経験を積んでみたかったそう。黒田さんは、この7ヶ月での自分の変化をこう話します。

 

当たり前ですが、社長は常に会社のこと、従業員のことをめちゃめちゃ考えられているということを、再認識しました。厳しい言葉であったとしても、その裏では従業員の成長や幸せを考えている。

昔は、『何も分かってないから、こういう指示を出してくるんだろうな』と、上司や社長の指示に不満を思ったこともありました。でも、今は『自分はできる力があると思うから、任せられている』と思える。そういう背景を理解できて、自分の視座が高まったと思います。」

 

初めて副業人材を受け入れた第一フォーム株式会社。澁谷社長にも、この7ヶ月を経ての感想を聞いてみました。

 

「中小企業の社長って、自分で苦労もしているし、悩みもあるし、孤独感もあるし、プライドもある。みんな、成功体験ってなかなか忘れられないじゃないですか。すると、業績が悪くなったり、会社の雰囲気が悪かったりすると、どうしても昔に成果が出たことをやろうと思っちゃうんですよね。自分の体験にこだわって、なかなか他の人の話を聞かなくなる。すると従業員とも話ができなくなっていく。」

 

澁谷様

 

「この社長の孤独が、一番良くないと僕は思っていて。大企業だったら4年ぐらいで社長は代わるけど、僕らは基本的に引退するか死ぬまでやらなきゃいけない。過去の成功体験に固執していると、時代遅れになるんですよ。副業がすべてを解決してくれるとは思わないんですけど。有効な時間とお金の使い方を、客観的にみてくれる人と壁打ちできるのは、とても有意義。中小企業の社長は、(副業人材の受け入れを)やるべきだと思う。」

 

今現在は、黒田さんの副業期間は終了しているそう。しかし、皆さん忙しいながらも、課題解決に向け工夫しながら歩を進めています。澁谷社長、従業員の皆さん、副業の黒田さん、全員が少しずつ自分のコンフォートゾーンを抜け出し、新たなチャレンジをした成果なのだと、お話を聞いて思いました。

【案内】令和3年度の「横浜市イノベーション人材交流促進事業」について

今年度の「横浜市イノベーション人材交流促進事業」は、NPO法人ETIC.(エティック)が委託を受け、実施しています。

 

また、当事業のWebサイトでは、副業・兼業の利用の流れや、副業・兼業に関する相談ができます。ぜひご覧ください。

【7】バナー

 

※本記事の掲載情報は、2022年2月現在のものです。

※本記事は、令和3年度 横浜市イノベーション人材交流促進事業で横浜市から受託し作成したものです。

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乗越 貴子

1982年埼玉県生まれ。早稲田大学卒業後、塾講師、ネットサービスベンチャー企業を経て、NPO法人ETIC.参画。2児の母。志ある人と組織をつなげる求人サイトDRIVEキャリア(http://drive.media/career)で、事務局業務を担当しています。モットーは、「書くことと人をつなげることで、一歩踏み出す勇気を生み出せる人になる」