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「今は前代未聞の楽しい時代」。教育の再定義を目指す青春基地が見据える“ネクストステージ”とは?

2020.09.07 

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「教育は知識を詰め込むことではない」

「子どもたちが自分のやりたいことに挑戦できていない」

 

誰しも教育を享受し、抱えてきた違和感。「主体的な学び」や「アクティブラーニング」の重要性が叫ばれているのは、皆さんもご存知ではないでしょうか。

 

そんな中「教育の再定義」をミッションに掲げ、生徒1人ひとりの “やりたいこと” を起点に探究を深める学習「PBL(Project Based Learning)」の授業を届けているのが、NPO法人青春基地(以下、青春基地)です。

 

今回お話を伺ったのは、青春基地の代表理事である石黒和己(わこ)さん。

 

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NPO法人青春基地 代表理事 石黒和己さん

 

学校教育の現場に入ってから4年。PBLを通じた実践に手応えを感じつつも、石黒さんは「今の活動とミッションとの間には、厚い壁がある」と語ります。

 

生徒や先生と深く関わってきたからこそ見え始めた、学校現場の根本的な課題。そして青春基地が 「壁」を乗り越えた先に見据えるものは何なのでしょうか?

 

「発達」と「生成」。教育哲学から見た、2つの教育の在り方

 

まずお話を伺ったのは、青春基地が目指す教育の在り方について。

 

 

石黒さんは東京大学大学院で教育哲学を研究し、今年修士号を取得。教育哲学とは、教育の原理・原則、つまり「何のために教育をするのか」を探究する学問です。

 

研究のなかで石黒さんは、現在の学校教育を紐解くキーワードとして「発達」と「生成」に着目します。

 

「『発達』としての教育とは、あるべき姿にむけた準備期間として捉えられます。子どものことを未熟な存在と捉え、大人というあるべき姿になるための準備期間として、学校という場の存在意義を捉える考え方です。」

 

そして石黒さんが、「発達」をのりこえるコンセプトとして着目しているのが「生成(generative)」という概念。直接的な記述はありませんが、ジョン・デューイやジョルジュ・バタイユなどの教育哲学者による哲学から浮かび上がってきたものだそうです。

 

この「生成」というコンセプトのなかに、青春基地が目指す学びの根幹があります。

 

「『生成』としての教育は、準備期間ではなく『現在』として教育を捉えています。子どもたちが未熟だから導くのではなく、大人や子どもといった立場にかかわらず、学ぶことそのものの場として学校をとらえ、“今ここ” から学びをつくる姿勢を持っているんです。」

 

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“今ここ” から学ぶ。具体的にはどのような学びが生まれるのでしょうか?

 

「自分自身が “やりたいこと” に沿って動いてみる。そうすることで、経験から何かを感じ取ることができます。何を感じるかは、人それぞれ。『自分が感じること』という固有性の中から学んでいきます。

『未来』のために教えられる教育ではなく、一人ひとりの “やりたい” をスタート地点にして、『現在』のなかで世界を知っていくんです。」

 

青春基地が現場で届けているPBL(Project Based Learning)は「生成」の一つの手段です。

制度や授業内容よりも深くに存在する問題

 

青春基地が学校現場に学びを届け始めて4年。時間を経るにつれて、高校生の変化を感じとるようになります。

 

「新しい学びづくりをすることで、高校生たちの変化があちこちで起きるようになりました。当初はやらされ感しかなかった生徒たちが、放課後も使ってトライする姿や、授業中に話すことのなかった生徒が楽しそうにグループワークする姿、自分の将来の夢を見つけた生徒もいます。」

 

しかし、自分たちの取り組みに手応えを感じつつも、同時に「壁」にも直面していました。

 

「だんだん気づいたことは、先生たちの状況でした。閉鎖的になっている組織の状態や目の前の仕事に追われていく多忙感、そういった余裕や余白のない状況のなかで、先生自身が『変えることは難しい』『無理ではないか』と考えていることが見えてきました。新しいものをつくり出すことや、変わること自体に拒否感をもつ先生たちも少なくありません。」

 

生徒だけでなく、先生の方々が抱える問題に着目しはじめるも、石黒さんはある前提を強調します。

 

「先生に対して批判をしたいとか、課題を突きつけたいとか……そういうことは微塵も思っていないんです。」

 

先生を批判しない理由は、青春基地が大切にしている、ある思考法にありました。それは「システム思考」。

 

問題の一面だけを取り上げるのではなく関係性(=システム)を俯瞰し、問題の構造や前提を問い直す思考法です。

 

「いま公立高校は変化できるか、できないか、という帰路に立っていると感じます。だからこそ、ただ『学校が悪い』と批判するのではなく、『なぜ今こうなっているのか』を考える必要性があると思いました。すると、起きている様々な課題が、個々のスキルや能力ではなく、『近代』 というシステムの限界として現れていることが見えてきました。」

 

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システム思考で考えた先にたどり着いた一つの答えが「近代というシステムの限界」。石黒さんは近代のシステムを規定する特徴をこのように説明します。

 

「教育における近代のシステムとは、加速度的な効率化と量的なスケールアウトのなかで、日本全国どこにいても平等に、均質な授業を受けることを可能にしたシステムです。それは裏を返すと、誰がどこにいても同じものを届けられるということ。なので先生は一人ひとりの個性よりも、役割をまっとうする必要性が強くなりました。」

 

より平等な機会を届けようとするほど、先生の役割は細かく、分化されていきます。しかし役割を全うすることが思わぬ弊害を生んでいる可能性を指摘します。

 

「先生と生徒が、なかなか交わらないんですよね。」

 

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どういうことなのでしょうか。同じ教室という空間を共有しているし、生徒と熱心に向き合う先生は多くいらっしゃるはず。

 

「先生という役割範囲のお仕事が承認されることはあっても、構造的に、その人自身について認められることがすごく減ってしまう。そこに『代替可能性』 が生まれてしまっていると思うんです。

実際、学校は先生自身の個がとても薄い場になっていると思います。ほぼ毎日一緒に過ごしていても、先生がどんな趣味があり、どんな人生を過ごしてきたのか知らないままの方が多いですよね。」

 

役割が定義されることで生まれる「代替可能性」。生徒と向き合うことよりも自分の役割を守ることに意識が向いてしまう。制度や授業内容のさらに深くに存在している「近代的な考え方」から問い直す必要性を、石黒さんは強調します。

 

青春基地が「教育の再定義」というミッションを掲げている理由。それは、学校教育の問題の根底に「近代的な考え方」が存在していることと、深く関係しています。

学校の役割は「コンテンツデリバリー」だけではない

 

「教育の再定義」を目指している青春基地には、いまどんな手がかりがあるのでしょうか?

 

 

現在、世界中で猛威をふるっている新型コロナウイルス。その状況を鑑みて石黒さんは語ります。

 

「私たちに問いかけていますよね。『先生って必要なの?』『学校って意味あるの?』と。」

 

緊急事態宣言の発令中には、生徒は自宅待機を余儀なくされ、多くの学校は課題の配布しか手立てがない状況でした。しかし「課題を配ることが、果たして学校の役割なのか?」という疑問が湧いてきます。

 

今回の事態が、私たちに気づかせてくれたことがあると言います。

 

「学校は、学びを届ける『コンテンツデリバリー』の機能だけではなくて『コミュニティ』としての機能がある。

コロナウイルスは『コミュニティ』としての機能の大切さを、逆説的に教えてくれたのだと思います。」

 

授業を届ける「コンテンツデリバリー」の機能だけであれば、先生がその人自身である必要はない。それに、動画プラットフォーム上に良質なコンテンツの蓄積があります。

 

しかし、毎日生徒と顔を合わせ、悩みに寄り添いながらやりたいことに向けて伴走する。「学校」が必要な理由、「先生」が必要な理由が、ここにあります。

 

「先生のみなさんは『もっと生徒と対話をしたい』と口を揃えて仰っています。それが実現できるところに、いま立っているよ!と伝えたいです。

今はチャンスだと思うんですよね。」

 

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先生と生徒がそこにしかない関係性を築き、対話を重ね、コミュニティがつくられていく。そこには「代替可能性」は存在しません。

 

「『人間に代替可能性はない』という前提に立ったシステムを実現することが、 これからの社会をつくっていく人間の大きなチャレンジだと思います。」

 

「代替可能性」の上につくられた近代のシステムを乗り越える。大きな難題に、青春基地は立ち向かおうとしています。

教育の理想に、社会が追いついてきた

 

学校教育の変革の難しさに直面しながらも、石黒さんに悲観的な装いは全くありません。むしろその目は常に前を見据えています。

 

その理由を聞くと「いまはラッキーな時代なんです」という、思いもよらぬ答えが返ってきました。

 

「『教育がつくりたかった場所』と『社会が向かうべき方向』がようやく一致したという、前代未聞の楽しい時代だと思うんです。」

 

教育思想を研究した石黒さんだからこそ持っている、時代を横断した俯瞰的な視点。

 

「今までは、教育の先進的な思想を社会が受け入れられなかったと思うんです。知識詰め込み型ではない教育のあり方は、実は、18世紀ルソーによる子ども中心主義から大正新教育など、数百年に渡って哲学者や実践者によって批判されてきているんです。

しかしその当時は、戦争や経済成長といった大きな物語のために、個や一人ひとりの自由を尊重することができなかったのだと思うのです。」

 

これまでは、教育の思想と社会のニーズが合致していなかった。しかし、過去は批判されるべきものではなく、人間にとって必要なプロセスだったのではないかと、石黒さんは語ります。

 

「近代という時代や経済成長の先にこそ、現在の豊かさがあります。なので批判というよりも、私たちが批判する権利はない。過去をリスペクトした上で『じゃあ次の社会へ向かおうよ』というのが私の考えです。」

NPOだからこそ、一直線に創りたい未来へ

 

「教育の再定義」を目指すなかで、目の前に現れた壁。その壁を乗り越えるために必要な「近代的な考え方の変革」という手がかり。

 

学校現場で直接学びを届けるだけにとどまらず、より広く深く教育変革のムーブメントの創出を目指す青春基地は、社会の中でどんな存在でありたいのでしょうか。

 

「NPOは利害関係がないので、この時代で最も身動きが取りやすい。なので一直線に『創りたい未来に向かえる』ことが、最大の価値だと思います。」

 

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「壁」を乗り越えるための新しいプロジェクトも動き始めています。それは「探究総合研究所(通称TANKEN)」。

 

教育関係者だけでなく、企業人や学生など様々なステークホルダーが集まり、多角的な視点から「教育の再定義のためにどんな『問い』に答えたらいいのか?」を見つけていくことを目指しています。

 

大切にしているのは、多様なステークホルダーが集まる場をつくること。まずは知見を共有するだけでも、学校にとってのインパクトは大きいと語ります。

 

「企業は自分たちの営利に関わる問題として危機感を持って実践と研究を行ってきています。なので、学校にとっての先行事例がたくさんあります。

学校の問題を、学校の人たちだけで考えることには限界があります。 違う業界・セクターの人たちが持っている知見が、学校教育の中においては貴重なものになります。

まずは、知見をシェアしてもらうことに、ものすごく価値があると思っています。 」

 

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教育の問題を、教育内の人だけで考えない。教育現場での問題の構造は、社会の他の領域の問題と似ていて、すでに解決策が見えているかもしれない。

 

領域を横断して知見をシェアすることが、壁を乗り越える第一歩になると考えています。

まずは自分たちが「想定外の未来をつくる」を体現する

 

多様なバックグラウンドを持った人たちと共に未来を考える。それは、青春基地が掲げる「一人ひとりが想定外の未来をつくる。」というビジョンの意味と繋がっています。

 

「その人しか持っていない知見や感情、ものの見方があります。だから、1人ひとりが『どう感じたのか』を集めた先に、一番無理のない答えが出てくるんじゃないかなと。自分の感情を素直に伝えること。それが『社会を考える』ことだと思います。」

 

対話の場を生むために、「思考」だけでなく「感情」を大切にすること。

 

「社会を考えることは、一見勇気のあることで理性的なことに見えるんですが、それだけでは社会は変わらない。感情を大切にすることが、対話の場を生むのだと思います。」

 

対話の場を生むために、「思考」だけでなく「感情」を大切にする。その考えの背景には、石黒さんが大学3年生の頃に立ち上げた青春基地が辿ってきた、苦い経験がありました。

 

「立ち上げ期では、創業者である私が最も教育や組織について考えていると思っていました。立ち上げ期なので、そう思っちゃうのは当たり前のことかもしれません。しかし、やがてメンバーが誰も発言しなくなってしまいました。

自分の考えや感じていることを発言することに意味を感じられなくなってしまったのだと思います。そんな場所にはいたくないですよね…。メンバーが少しずつ離れていきました。

絶対に大事にしなきゃいけないものを、その時に教えてもらいました。」

 

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創業期に直面した組織の課題。そのときに石黒さんに刻まれた「絶対に大事にしなきゃいけないもの」は何だったのでしょうか?

 

「その場に『想定外の未来』が起きること。それに尽きると思います。自分が考えていること以上のものが生まれなかったら、誰かと一緒にやる意味はないです。

『想定外の未来』が起きていなかったら、チームとして課題が生まれている…といつも自分に言い聞かせています。」

 

まずは青春基地が「想定外の未来」を生み出す場となる。その道は教育の変革に通じ、社会をよりよくすることに繋がると、石黒さんは信じています。

 

 

NPO法人青春基地に関連するWebサイト

>> NPO法人青春基地

>> NPO法人青春基地|note

 

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>> 経営者のあたまのなか。先の見通せないコロナ禍で、考え、動く経営者たちにインタビュー!

 

 

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教育新型コロナ
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中村怜生

中村怜生

フリーランスのライター・編集者。慶應義塾大学文学部中退。複数の組織・プロジェクトに参画中。関心領域は心理学・教育・スポーツ・SDGsなど。 Twitter:https://twitter.com/rei_nakamura_02

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