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スイーツで地域経済にインパクトを。お菓子で日本各地の魅力を表現する、パティシエの挑戦

2021.02.01 

「2020年の3月の売り上げは前年比150%、5月は200%ほど、6〜7月も120%前後で推移していましたね」

 

そう語るのは、パティシエの小澤 幹(おざわ・もとき)さん。世界的なパティシエのもとで和スイーツブランドの企画開発、製造責任を経験され、日本各地の素材の魅力とそれを活かしきれていない地域の実情を知ったことで起業されました。現在は日本各地の魅力をスイーツを通して発信することを目指すパティスリーを経営しながら、様々な地域と協働し、その土地を活かすお菓子を生み出し続けています。

 

今回は、コロナ禍でこれまでの堅実な積み重ねと業界動向に合わせた挑戦で業績を伸ばしている経営者のケースをお届けします。

 

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小澤 幹(おざわ・もとき)/パティシエ、株式会社スイーツスタンダード代表取締役

1979年長野県松本市生まれ。19歳でパティシエの道へ進み、山陰地方の名店にて8年間研鑽を積む。その後、世界的パティシエのもと和スイーツブランド「和楽紅屋」や豆スイーツブランド「フェーヴ」などのスイーツブランドのほか、様々なスイーツの企画開発や製造責任者など10年間の経験を経て2018年株式会社スイーツスタンダードを創業。知育をテーマにした体験型デジタルテーマパーク「リトルプラネット」の「しゃべるARクッキー」をプロデュース。また同年8月、日本各地の魅力をスイーツを通して発信することを目指す「パティスリーmoa.」を東京都大田区にオープン。日本の素材を活かし、子供からお年寄りまで安心して楽しめる、優しい味わいのスイーツづくりをおこなう。

通販を主戦場に、ECサイトリニューアル&商品改良で売上増に

 

――小澤さんのお店「パティスリーmoa.」は、新型コロナウイルス感染拡大にどのような影響を受けられましたか?

 

パティスリーmoa. 」は東急電鉄池上線の雪が谷大塚駅が最寄りなのですが、東京では都内の商業施設で今まで買い物していた人たちが近隣エリアで買い物をするようになり、街場のケーキ屋・パン屋は全体的に売上が増加傾向でした ※。「パティスリーmoa.」も2020年3月は前年比150%、5月は200%ほど、6〜7月も120%前後で推移していました。

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――ご自身のパティスリー経営以外には、どのようなことをされているのでしょうか。

 

2019年に「ローカルベンチャーラボ 」という半年間の地域での事業創造を学ぶプログラムに参加したのですが、そこで出会った高知県の地域商社「株式会社四万十ドラマ (以下、四万十ドラマ)」で、商品開発、経営に営業とコンサルティング的に関わらせていただいています。

 

また、地方・都市部ともに商品開発の依頼がとても増えていて、特にサブスクリプション(定期購入型)サービスとしてお菓子のネット通販をしているメーカーさんからは非常に多くのご依頼をいただいています。都市部メーカーとのオリジナル菓子開発の大口案件も決まり、委託というよりは協働する機会も増えています。

 

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パティスリーmoa.では四万十地栗を使ったモンブランも販売 ※2019年撮影

 

――パティシエとして「本当に美味しい」と感じた地域資源で商品開発をして、さらに事業者と連携して事業改善まで取り組まれていることが小澤さんの特徴だと思いますが、四万十ドラマでは実際どのような取り組みをされているのでしょうか?

 

関わり始めた当時、商品の原価率が高すぎることなどが原因で、会社の経営にはいくつか課題がある状態でした。素晴らしい成果を地域にもたらしている会社なので、持続可能性のためにまずは利益体質を作らないといけないと思い、組織構造を作り直すことに着手したんです。

 

利益を上げるためには同一商品を大量に作るのが鍵になるので、まずは商品の構成比を洗い出して、何が年間何個売れているのか、そのうえで今後何を何個つくるべきで、売れるはずが原材料の不足で生産できない商品はレシピを改良・サイズ変更して、それに伴うブランディングの変更、原価率の調整、機械の導入、年間労務費の計算をしました。結果、生産効率が激変して、ある商品は1日800個から6000個まで生産できるようになりました。

 

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小澤さんが監修した四万十ドラマの商品プチ・ポン 。四万十川に架かる沈下橋をヒントにされたそう

 

――素晴らしいですね。一方で、コロナ禍で百貨店の催事の中止やその他イベントの中止、観光客のお土産需要や外食機会の減少などで、地方の物品を扱う事業者の多くは非常に厳しい状況にあるかと思います。四万十ドラマのコロナ禍での状況はいかがでしょうか。

 

四万十ドラマの売上は、これまで実店舗、催事が多くを占めていたのですが、ちょうどEC販売を強化しなければとオンラインショップのリニューアルに着手したタイミングで新型コロナウイルスが流行し出しました。3〜4月は前年比ー40%近くまで落ち込みましたが、これをタイミングに商品改良に取り組み、ECでの売上を伸ばし、結果的に前年度1年間の売上を超える結果を出すことができています。

 

――こうした危機的状況において、変化に対応するため素早く取り組まれたことが現在の売上増の結果に繋がられているのですね。

パティシエとして地域の“本当に美味しいもの”を届けていく

 

――一方で、小澤さんご自身は新型コロナウイルス感染拡大による環境の変化に課題を感じている部分はあるのでしょうか?

 

これまでパティシエとしてお菓子づくりをしてきて、お客様に直接手渡したときに喜んでもらえること、美味しかったよという言葉を聞けることがモチベーションに繋がっていたのですが、これからは非接触コミュニケーションへビジネスのあり方がスライドしていくと思っています。今後はどうお客様とコミュニケーションを取っていくのかが課題になるだろうなと。

 

今は、通販が中心になったとしてもリアルな体験の場の共有が価値になるような事業づくりはできないだろうかと模索している最中です。具体的にどういう形にしていけるかはまだまだ見えてこないのですが。

 

――そのような課題も踏まえつつ、今後どのような方向に事業を進めていこうと考えていますか?

 

2018年3月に設立した会社は3年目に突入したところですが、一昨年去年と種まきを続けていたこともあってこれまでの丸2年間売り上げは倍々で伸びてきました。売り上げの核がなく実店舗の売り上げに頼りながらの種まきはとても厳しかったのですが、売上の核ができてきた今、パティシエも雇用できて、ある程度自分が自由に動けるようになって新しい挑戦をしやすくなれば第2ステージに入ったと言えるかなと思っています。

 

卸が売り上げの核にはなるので、自社製造含めて協力先工場をうまく運用しながらスケールさせていけばいいのかなと思うのですが、一方で自分が本当にやりたいのはそこではなくて、四万十ドラマさんのような地域にインパクトをもたらすメーカーを全国各地に作っていきたいということなんですね。そのためにまずは四万十ドラマさんの商品で成果を作っていかなくてはと思っています。

 

また、これから代表の畦地(あぜち)さんに同行させていただく機会も増え、地域との関わりが増えていきそうではあるので、様々な地域の商品開発をさせていただく機会を得られるよう頑張っていきたいです。2021年には、宮城県気仙沼市と長野県小布施町での新規商品開発をスタートさせることができました。

 

こうして徐々に仕事が増えていった先に、本当にやりたい商品の“出口づくり”に取り組めるようになるのではないかと思っているんです。今は実店舗に、四万十ドラマでは催事での販売が中心ですが、自分が商品開発して自信を持って勧められる地域の本当に美味しいお菓子が集まるサイトを出口として作ることを最終目標としています。

地域にインパクトを生むことを目指す、本気のプレイヤーと出会っていきたい

 

――これからどのような地域の人たちと出会っていきたいですか?

 

こんな商品を作りたいのだというお話は様々な地域からご相談いただけるようになったのですが、作り手や販路の話になったときに、どこかに作ってもらいネットショップや店舗のレジ前で販売していきたいと言われることが多いです。

 

地域にインパクトを生みたいという本気のプレイヤーがいない、「誰がやるか」という部分が弱い地域が多いなということを感じていて、その状態で自分が商品を開発しても事業として成り立つわけでもないですし、地域素材は使っても地域にインパクトを生むことはできないと思うんですね。前向きで熱量の高い本気のプレイヤーと出会いたいですし、そんなプレイヤーとでないと話が進まないなとも実感しています。

 

また、新しくお話をいただいた地域で新商品を作ろうとしても、採算がとれるロット数を考えると資金面が課題になるケースが多いです。そのとき、たとえばそれぞれの地域に補助金・助成金の制度があって、申請に必要なノウハウを蓄積しながら四万十ドラマは上手に活用しているので、今後は色んな地域が補助金・助成金を有効活用できるようそうした部分のコンサルティングができる人とも一緒に動いていけたらいいのかなとも思い始めています。

 

―これからのご活躍が楽しみです。本日はありがとうございました!

 

現在、自分のテーマを軸に地域資源を活かしたビジネスを構想する半年間のプログラム「ローカルベンチャーラボ」2022年6月スタートの第6期生を募集中です!申し込み締切は、4/24(日) 23:59まで。説明会も開催中ですので、こちらから詳細ご確認ください。

 

 

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桐田理恵

1986年生まれ。学術書出版社にて企画・編集職の経験を経てから、2015年よりDRIVE編集部の担当としてNPO法人ETIC.に参画。2018年よりフリーランス、また「ローカルベンチャーラボ」プログラム広報。