自分の会社のカルチャーを「いぶし銀」と、社長は例えました。
雨が降っても、雪が降ってもちゃんと商品を届ける。何なら、自分じゃなくて商品の方に傘をさす。堅実な職人集団だ、と。
1974年創業のグランコーヨー株式会社は、学校や幼稚園に文房具や事務用品を販売しています。昨年、この会社に初めての副業人材が参画しました。グランコーヨー株式会社代表取締役 大庭公善さん(47)は、副業人材導入の一番の目的を「社内に化学反応を起こすこと」と話します。いぶし銀カルチャーに、どんな化学反応が起きたのでしょうか――。
横浜市は、企業や大学等との連携により、街ぐるみで人材交流やビジネス創出などに取り組む「イノベーション都市・横浜」を宣言しました。これまでに、みなとみらい地区の研究開発拠点をはじめ、様々なイノベーション人材の交流機会が形成されています。その一つとして、スキルを持った副業・兼業人材の活用による、市内のスタートアップや中小企業の経営課題の解決、組織の垣根を超えた人材交流・成長機会の獲得を支援する──「横浜市イノベーション人材交流促進事業」を行っています。この事業を通じて副業・兼業人材を受け入れたグランコーヨー株式会社の事例を取材しました。
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茹でガエルにならないために
なぜ化学反応を起こしたいのか。その理由を「茹でガエルのようになりたくない」と、大庭社長は語ります。
「毎日、学校を1軒ずつ回ってお客さんの細かな要望にきちんと応えていく。『色画用紙何箱持ってきて』と言われたら、指示どおりにやる。そういうことが求められている会社です。でも、同じお客さん相手に、同じことをやり続けていると視野が狭くなりがち。
ある日突然仕事が無くなる可能性だってゼロではありません。でもこれはうちのメンバーに全く罪はありません。事業構造上致し方無いし、そもそもうちのメンバーは本当に粒ぞろいですよ、自分で言うのも何ですが(笑)。業績の堅調な推移がそれを証明しています。
だからこそ、仕事に対して受け身になるのではなく、『こんなことやってみようよ』という動きが常に会社の中で起こってほしいと思っています。」
そこで、「学校の課題解決プラットフォーム」をつくるという新規事業を立ち上げ、その推進を手伝ってくれる副業人材を募集することにしました。
参画したのは、伊藤 基明さん(35)。新卒から大手サービス業企業に勤め、各種サービスの法人営業を経たのち、営業戦略の責任者を担っています。「一緒に手足を動かしてくれる実務者として、時に軍師としても力を発揮してくれそうな方」という点で、伊藤さんに白羽の矢が立ち、お願いすることになりました。
伊藤さんは、副業参画の理由をこう語ります。
「将来自分で起業することも選択肢として考えています。その中で、自社で通用することが、よその会社でも本当に通用するのか分かりませんでした。社外に出て自分の力量を知り、これから何を勉強すればいいのか分かりたくて始めたって感じですね。」
グランコーヨーの従業員は、「体操のお兄さん的要素が強い方が多い」と大庭社長は言います。朗らかで真っすぐな人。学校や幼稚園のルートセールスで求められる資質です。一方、伊藤さんはビジネスの嗅覚がある戦略家で、既存の従業員の方々とはタイプが異なります。「どっちが良いという話じゃないんです。ただ、従業員に『こんな風に活躍している人がいるんだな。世の中広いなぁ』と知ってほしい。」と、大庭社長。
一方、伊藤さんは「自社とカルチャーの違いは感じましたけど、営業で中小企業の社長さんにはよく会ってきたので、違和感はありませんでした。」と、グランコーヨーの印象を話します。
FAXを電子化。在宅ワークができるように。
実際に伊藤さんが参画すると、従業員の皆さんは、伊藤さんのプレゼンを見てプレゼンスキルと、資料作成の上手さに衝撃が走ったと言います。
「ゴール、課題、施策の整理が上手。僕が言っていることを『こういうことですよね』とまとめてくれる。スーパー優秀ですよね。」と、大庭社長。
伊藤さんがグランコーヨーの仕事をする時間は、土日と平日の夜です。そんな中、どのようにして会社の課題を突き止めていったのでしょうか。
「最初に、1日有給休暇をとってグランコーヨーの営業の方に同行しました。クライアントが学校や教育委員会なんですが、注文方法はFAXか電話。オフィスまでFAXを見に行かなきゃいけないから、リモートワークの効率が悪かったんです。さらに、案件がデータ化されず、ちゃんと発注できているかのチェックが難しい。社長さんと話し合いながら、クライアントの信頼担保という意味でも、生産性向上という意味でも、アナログ業務の改善を最優先課題にしました。」(伊藤さん)
もともとは「学校の課題解決プラットフォーム」の新規事業メンバーで参画した伊藤さんですが、進める中で「業務効率化」に仕事内容がシフトしていきます。モチベーションに影響はなかったか。質問するとこう答えてくれました。
「最初は曖昧だったものが、頭の中で具体化していく過程が好きなんです。整理されきっていると、自分のやることはないなって思っちゃうタイプなんですよね。だから、最初に思い描いていたビジョンとずれていても想定どおり。修正していくのがむしろ楽しい。」
伊藤さんは、サイボウズ社のKintone(キントーン)※を使い、クライアントからの問い合わせや注文をインターネット上で管理できる仕組みを導入。届いたFAXは自動的に電子化され、在宅でもチェックできるようになりました。コロナ禍で、従業員が出社できなくても大騒ぎをしなくて済むようになったと、大庭社長は言います。
※Kintone(キントーン)は、開発の知識がなくても業務アプリの作成ができるサービスです。
副業だから、毛色の違う人を入れられた
実は、過去にも「社内文化に馴染む人」ではなく「毛色の違う人」を入れて化学反応を起こそうとしたことがある、と大庭社長。その時は、副業ではなく正社員でした。しかし、結局、定着できずに終わってしまったそう。なぜまた同じことに挑戦したのでしょうか。
「今回は、副業だから踏み切れたっていうのはありますね。正社員は、基本的に雇用は一生続きますが、副業は契約期間が決められる。その分、気楽にチャレンジできました。お互いミスマッチを感じたら速やかに解消できますから。」(大庭社長)
契約解消できる、とは言え、やるからには成功させたいもの。副業人材の応募状況や選考の様子は従業員に逐一報告し、メンバーの納得感にも配慮して選んだそう。参画後は、お互いの人となりや会社のルーツを感じてもらうため、全従業員と伊藤さんとの面談を実施しました。
また、大庭社長は事前にセミナーにも参加し、副業を実際に導入した会社の話を聞いて予習もしています。「モチベーションの維持が一番大変」という課題を分かっていたことは大きかった、と大庭社長は話します。
「お互い忙しくなってくると、仕事が滞っちゃうタイミングがあるんですよね。そんな時に、『伊藤さんの自己実現と、うちのやりたいことはちゃんと一致してる?』と確認しました。うちのメリットだけじゃなくて、伊藤さんの自己実現も遂げてほしいので。」
「外部の人と知恵を出し合う習慣」が生まれた
今、伊藤さんが参画して約1年が経とうとしています。従業員の方の変化を聞くと、「ビジネススキルの高い同世代の方と接したおかげか、前向きにPDCAを回そうとしてくれる若手も出始めた気がします。」と、大庭社長。
最初は、伊藤さんのハイスキルにおののいていた従業員の皆さんですが、最近は、能動的に伊藤さんに相談を持ち込む動きが出てきたようです。
「横浜市で横浜型地域貢献企業認定という制度があるんですが、この認定を目指そうという動きがありまして。担当者が、『認定に向けた勉強会の資料保管アプリをKintoneで作りたい』と言うので伊藤さんと直接やりとりしてもらうようにしました。伊藤さんが、みんなの知恵袋になりそうな雰囲気が出てきています。外部の人と知恵を出し合うという習慣が無かったので、これまでより、一人ひとりの引き出しが増えたんじゃないかなと思いますね。」
学校教育の現場は、文房具からタブレットへと学用品の変化を遂げており、また、エアコンが標準装備されたことでエアコンクリーニングの需要も高まっているそう。変化するニーズに柔軟に応えるには、決まったことを正確にやるスキルだけでは叶いません。
「ノウハウ、人材、情報を自分でコーディネートして、価値をつくっていく。経営者マインドってそういうことだと思うんですけど、その楽しさを従業員にも知ってほしい。」
既存メンバーでは、手の届かない挑戦ができる
グランコーヨーにとっては良いことづくめのように見える今回のプロジェクト。伊藤さんにとっての学びを聞くと、「プロフェッショナルとしての心構え」を挙げてくれました。
「社風や仕事の進め方は、当然ながら会社ごとに異なります。業務改善は本業でもやっているのですが、同じやり方で何となく進めてしまいました。本業だと完成度70%くらいで『使いながら改善していく』のですが、業務委託として期待される納品のあり方は完成品です。改善点を残していることは、きちんと伝えなければ相手は分かりません。副業人材として様々な企業と向き合うことに対する、意識の甘さを反省しました。」
最後に、大庭社長に副業を導入するか迷っている企業にアドバイスはありますか?と聞いてみました。
「アドバイスなんておこがましいことは言えないですけど、既存メンバーだけでは手が届かない領域への挑戦が出来るのは、大きなメリットです。やりたいことがあるなら、試してみる価値は非常に高いと思います。また、それを通して社内文化をDRIVE(ドライブ)させられる――各自のやる気に火をつけられる可能性を感じられたのも、やって良かったポイントです。まだまだ変化は5合目ですが、引き続き取り組んでいきたいです。」
【案内】令和3年度の「横浜市イノベーション人材交流促進事業」について
今年度の「横浜市イノベーション人材交流促進事業」は、NPO法人ETIC.(エティック)が委託を受け、実施しています。
また、当事業のWebサイトでは、副業・兼業の利用の流れや、副業・兼業に関する相談ができます。ぜひご覧ください。
※本記事の掲載情報は、2022年2月現在のものです。
※本記事は、令和3年度 横浜市イノベーション人材交流促進事業で横浜市から受託し作成したものです。
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