ナオライが活動拠点とする、広島県呉市・大崎下島の久比地区
人、自然、微生物、すべての命が尊重され調和されている醸された世の中へ──
日本酒を通じてこの実現を目指すソーシャルスタートアップ(*)が瀬戸内にあります。
(*) 「市場の失敗」に果敢に挑み、高速仮説検証により革新的なソリューションを具現化し、短期間で急成長する取組や組織のことを指します。《ソーシャルスタートアップのススメ1より抜粋》
その名はナオライ。衰退する日本酒業界への危機感から、多様で豊かな日本酒文化を未来に引き継ぐため、2015年に創業されました。そして現在は、「瀬戸内で誕生。日本酒とレモンで造る、ウイスキーのような41度の熟成酒『琥珀浄酎』」というクラウドファンディングに挑戦中《2021年03月29日(月)まで》。
琥珀浄酎のポイントは以下の通り──
- 度数41度。広島県各地域の日本酒のピュアなアルコールを低温抽出した、独自製法の『浄酎(じょうちゅう)』を使用
- レモンの皮に着目。瀬戸内の小さな島で栽培する、皮まで食べられる「ミカドレモン」で贅沢に香り付け
- オーク樽で熟成。日本酒とレモンの風味が時をかけて混ざり合い、ウイスキーのような色合い・味わいへ
今回、ナオライ創業者・三宅さんを取材しました。社会課題を事業で解決しようとしている三宅さんに、クラウドファンディングに込めた想いや、描いている未来などを伺いました。
三宅 紘一郎さん / ナオライ株式会社 代表取締役
1983年生まれ広島県呉市出身。幼いころから日本酒に興味を持ち、大学時代は日本酒を中国で広げたいと上海へ留学。20代の9年間を上海で過ごす。2014年東京でソーシャルスタートアップアクセラレータープログラムSUSANOOと出会いナオライを創業。ナオライ創業メンバーと参加したインドネシア・ウブドのスタディツアーで体感した自然と人が調和した世の中に未来を感じる。「人、自然、微生物、すべての命が尊重され調和されている醸された世の中」を日本酒を通じて表現する。
すべてが生きているものだと捉える。
──はじめに今回のクラウドファンディングに込めた想いをお聞かせください。
三宅 : なぜナオライが事業をやるのか──それは日本酒酒蔵の再生にコミットするためです。『MIKADO LEMON Sparkling』というスパークリングレモン酒を2017年にリリースし、その後、日本酒業界の根本的な原因である消費期限問題を解決したいと思い、『浄酎®』というお酒を生み出しました。
浄酎は「日本酒を原料としピュアなアルコール分だけを抽出したお酒」です。「低温浄溜」という独自の特許製法によって、日本酒由来の豊かな香りと風味をそのまま凝縮させました。さらに木樽熟成・タンク熟成によって時間が経つほどその風味は丸く深みを増すため、日本酒業界の課題である「海外輸出」や「長期保存」にも適した、付加価値の高まるお酒として、大きな可能性を秘めています。
そして3作目が「琥珀浄酎(こはくじょうちゅう)」。瀬戸内の久比(くび)・三角島(みかどしま)で育つレモン「ミカドレモン®︎」と浄酎とのコラボレーションで生み出すことができました。ナオライ6年間の積み重ねの結果であり、自信を持ってローンチできました。
──製品開発する上で大事にしていることは何ですか?
三宅 : 「すべてが生きているものだと捉える」ことを一番大事にしています。
浄酎は限りなく生酒に近いアルコールです。レモンの皮も極力酵素など成分を失活させないようにしています。まさに生きたもの同士を組み合わせています。
また琥珀浄酎の熟成の工程では、タンク熟成に加えて、国産の木材を使った手作りのオーク樽での熟成も行ないます(※一部数量限定)。実はこのオーク樽も息をしています。樽のお腹のところをよく見たら呼吸しているのがわかります。自然との調和を感じられ、「自然と人が一緒に造り出しているところ」に面白さを感じています。
「時をためて、人と社会を醸す」というのがナオライのビジョンなのですが、「時間をかけて価値が高まっていくものを造れていること」も面白いポイントです。「すぐに作って、すぐに消費して、すぐにお金にして」という現代社会の中で、琥珀浄酎は「ゆっくりずっと置いておいてください」と言える商品です──
日本酒と檸檬から発明されたスピリット「琥珀浄酎」
2015年から自社栽培を開始。ナオライが本社を構える人口約20名の小さな離島・三角島の耕作放棄地を活用して、「三角島レモンガーデン」を島内に立ち上げ。その後、三角島対岸の大崎下島・久比地区にもレモン畑を2箇所立ち上げ、現在久比・三角エリアで3箇所のレモン農園を運営しています。《後列一番右 : 三宅さん》
レモン栽培やお酒造りを通じて人と自然が調和するような生き方や企業活動を実現しようとしています。
消費者と生産者の壁を溶かしたい。
──クラウドファンディングに挑戦する中で、どんなことを大切にしていますか?
三宅 : 一番考えているのは、「一次産業の方々や酒造りの人々(極めて一次産業に近い方々)の働き方や生き方を応援すること」です。
琥珀浄酎によって、レモンの単価が劇的に変わります。オーガニックでしっかりと生産すれば買い叩かれることなく、一次産業が付加価値の高い領域になれると考えています。純米酒も日本酒酒蔵に造っていただいています。オーガニックの米をしっかりと発酵させて純米酒にしていただければナオライがすべて買い取りますとお伝えしています。
──クラウドファンディングを応援したい方々に向けて、どんなメッセージを届けたいですか?
三宅 : 「消費者と生産者の壁を溶かしたい」と僕たちは本気で思っています。ナオライのお酒を飲んでくださる方が、「レモンを栽培している久比・三角島や酒蔵の風景を身近に感じ、全員が生産者という感覚を覚えるような世界」を生み出したいです。
生産から完成までに時間がかかる業界にとって、クラウドファンディングによって、構想から出荷までに半年ぐらいお時間をいただけて、皆さんに買い支えていただける状況を造れています。ナオライのブランド像としても、「お客さんが久比・三角島や酒蔵を支えている」という感覚を造っていきたいと考えています。
「だめならしょうがない」という感覚をお客さんと楽しめるようなコミュニティも生み出していきたいです。自然や天候が相手だったりするため、「お金を払ったらいつでも絶対にお酒が届きますよ」ではなく、「今年はレモンが全然収穫できなかった」とか「いいお酒が全然できなかった」とかを一緒に楽しんでいただけるようなイメージです。メーカーですので「信頼を造り続ける」のは当然大前提ですが。
その先にあるのは「究極に美味しい」ということです。「こんな大変な中で生まれたレモンが、こんなに美味しいお酒になったんだ」と思いながら飲むお酒と、「レモンなんて安いもんだろ」と思いながら飲むお酒とでは、味がまったく違います。
──クラウドファンディングの現時点での手応えはいかがでしょうか?《2021年2月27日(土)時点》
三宅 : ありがたいことにリリース初日で応援購入総額が100万円集まり(*)、1週間で達成率100%を超え(**)、2週間弱で総額400万円を突破・サポーター数330名以上という状況です(2021年2月12日(金)〜3月29日(月)、目標金額300万円)。
(*) 【開始初日で目標金額50%突破】日本酒とレモンで造るウイスキーのような熟成酒『琥珀浄酎(こはくじょうちゅう)』が、「Makuake」にて先行販売中。
(**) 【目標金額100%達成】日本酒とレモンで造る熟成酒『琥珀浄酎』、クラウドファンディング最大手「Makuake」にて3月29日(月)まで先行販売中
クラウドファンディングというと、応援してくださる方が自分たちの知り合いだけになってしまうこともあるかと思います。しかし今回、多くの初めましての方々がプロジェクトのコンセプトを見て応援してくださっています。
引き続き、日頃から応援してくださる身近な方々も大事にしていきながら、今まで全然知らなかった方とも想いで繋がれている状況を造っていきたいです。
「自然から感謝されるような人のあり方・企業のあり方」を僕たちは大切にしているのですが、そのテーマで色々な方々と繋がっていきたいですね。コミュニティの醸成という観点で言うと、広げることと深めることを両方とも意識していきたいです。
自然を大事にしたくなる感覚が生まれるお酒を目指して──
──琥珀浄酎の未来や今後の可能性についてお聞かせください。
三宅 : 本当にいいものを使っています。発酵した純米酒と無農薬のレモン。「低温浄溜」により、お客さんに「生きたまま」お届けします。熟成を経て、丸くなって、自然の力も活かしています。体もきっと喜ぶと思います。
「世の中を滑らかにする役割」がお酒にはあります。たとえば、広島で造って東京に流れた時、琥珀浄酎が都市部を滑らかにするといったイメージです。
飲むことで、優しくなる感覚が生まれる──
飲むことで、自然をもっと大事にしたくなる感覚が生まれる──
飲むことで、もうちょっと土に触れてみたくなる感覚が生まれる──
そんなお酒にしていきたいですね。
──ナオライの未来や今後の可能性についてもお聞かせください。
三宅 : 先ほども少しお話しましたが、「一次産業の方々や酒造りの人々、酒蔵のあり方を変えていきたい」と思っています。
ナオライのモデルを全国8拠点に置き、「各地の廃業した酒蔵に浄溜場を造り、近隣の約10蔵の酒蔵やオーガニックファーマーと連携し、浄酎を醸したい」と思っています。結果2025年には80以上の酒蔵、80以上のオーガニックファーマーと連携している状態を目指します。
思い描いているのは「ナオライの事業が広がれば広がるほど、一次産業の皆さんや酒蔵の皆さんにも喜んでいただける世界」です。
また日本酒でも焼酎でもワインでもウイスキーでもない、「浄酎という新しいお酒のジャンル」を生み出したいとも考えています。
──最後に、読者の方へのメッセージをお願いします。
三宅 : 琥珀浄酎やMIKADO LEMON Sparklingは、その売上の一部をレモンの苗木の植樹に還元することで、久比・三角島で増加している耕作放棄地をレモン農園として再活用することを目指しています。2025年までに1万本のレモンの木を植え、地元のレモン農家さんとともに「久比・三角島レモンバレー」を造ることが目標の一つです。
お酒を造れば造るほど、レモン農園が広がれば広がるほど、地球環境や生物多様性の保全に貢献できるような酒造りを目指します。また持続的な経済や暮らしを自分たちで造り上げていくモデルを、瀬戸内から確立させることを夢見ています──
「ナオライがどうやって久比・三角島を醸そうとしているのか」、琥珀浄酎をきっかけにぜひ今後ともご覧いただけると嬉しいです。
──三宅さん、お話ありがとうございました。引き続き心から応援しています!
取材後記
以上、三宅さんのお話はいかがでしたか?
◆
実は私も、2018年に久比・三角島を訪れたことがあります。以下のようなコメントを当時残しているのですが、自然とともに自分の命があることを全身で感じられる素敵な経験だったを今でも鮮明に覚えています。
三角島を散策していると、ふと“生きてるって何なんだろう?”と感じさせてくれる不思議なひとときを過ごすコトができ、三角島はボクの人生にとって、とっても大切にしたい・とっても大好きな場所となりました。
また三角島で時間を過ごしながら自分の眼に映るのは、“海・空のあお”、“山のみどり”、そして“レモンのきいろ”と、本当に色鮮やかで、生き生きとしていて、なおかつ力強さも感じる、そんなステキな印象を受けました。
三角島に出会えたこの素晴らしいご縁に心から感謝しています。
三宅さんご自身が、普段から土に触れ、レモンに触れ、自然に触れているからこそ、生み出すことができているお酒であると私は確信しています。
ナオライの事業を通じて、多様で豊かな日本酒文化が未来に引き継がれていくこと、そして、人、自然、微生物、すべての命が尊重され調和されている醸された世の中が実現されていくことを心から願っています。
「瀬戸内で誕生。日本酒とレモンで造る、ウイスキーのような41度の熟成酒『琥珀浄酎』」 《2021年03月29日(月)まで》
◆
実はこの記事には後編があります。三宅さんと一緒にクラウドファンディングに挑戦しているナオライメンバー4名にもお話を伺いました。
【後編】
「自然とともに時間が動いている」「暮らしの全体感を掴める」―ナオライの4人が語った、瀬戸内の小さな島での暮らしの魅力
◆
【Special Thanks】
写真 : 米山 凱一郎さん
◆
※本記事の掲載情報は、2021年3月現在のものです。
【ナオライ過去取材記事】
「三方よし」だけでは足りない―「未来よし」「自然よし」の商売へ。ナオライ三宅さんが語るwithコロナ時代の暮らし方 《2020年08月24日公開》
稲作時代からの「日本酒」の価値を、現代へバージョンアップ (Naorai inc. ・三宅紘一郎さん) 《2016年02月29日公開》
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