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NPOと関わるビジネスパーソンが感じる、本業へのメリットとは?ベネッセこども基金・青木智宏さん

2021.03.25 

株式会社ベネッセコーポレーションでグローバル教育や学童事業の立ち上げなどに携わったのち、現在公益財団法人ベネッセこども基金へ出向中の青木智宏さん。財団でのお仕事の傍ら、5つの非営利組織の活動にも関わっておられます。 

 

複数の組織を行き来しながら、日本の子どもたちや教育の未来のために活き活きとお仕事をされている青木さんに、ビジネスパーソンがどうして非営利にも関わるようになったか(前編)、そして、後編である本記事では、そこからどんなことを得ているのかについてお話を伺いました。

 

前編はこちら

>> ビジネスパーソンが働きながら5つのNPOに関わるようになった理由とは?ベネッセこども基金・青木智宏さん

 

聴き手・文責:一般社団法人WIT(ウィット)山本未生、 記録:三瓶巧

 

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青木 智宏さんプロフィール

公益財団法人ベネッセこども基金 企画担当リーダー。東京都町田市出身。(株)ベネッセコーポレーションのグローバル部門、学校部門を経て、2018年より現職。助成事業の他、自主事業にてNPO等と連携して、「重い病気を抱える子ども」や「経済的な困難を抱える子ども」の学び支援などを担当。

 

団体と、自分の得意分野や人脈とを「つなげる」

 

――理事として団体にどのように関わっていますか?

 

団体の代表とは、以前から友人関係があることが多いので、理事会ではフラットな立場で発言させていただいています。また、代表だけではなく、職員の皆さんともフランクに交流させてもらっています。イベントでご一緒することもありますし、SNSでも繋がっています。

 

意思決定の場では、賛同ばかりしてしていてはよくないなと反省したことがあります。これでは「名前貸し理事」と同じだなと。経営に責任を持つのが理事の役割なので、議案が定款やミッションと整合性があるかを確認するように心がけています。また、網羅的に検討されたかを確認するための質問を意識的にしています。

 

いろいろな理事の関わり方があってよいと思います。自分の得意分野や人脈で力になれるのが理想ですね。そのためには、代表が何に期待して自分に声をかけてもらったのかを掘り下げる必要があります。例えば、業界への影響力への期待、経営管理への期待、資金調達や支援者づくりへの期待、などがあると思います。

 

私の場合は、社会的な影響力や経営スキルがあるわけではないので、「つなげる」ということで貢献できたらと考えています。団体と支援者を「つなげる」、キーパーソンと「つなげる」、助成財団や他の団体と「つなげる」、役立つ情報や便利なツールと「つなげる」ということでも、力になれることはあるかなと。

 

「つなげる」と言えば、代表とは一緒に旅をすることもありました。仙台の畠山さんとは関西のソーシャルな学習塾を見に行ったり、CFAの勇魚さんとはオランダやデンマークの教育や保育現場を1週間かけて巡ってきました。新しい「つながり」によって代表の刺激になることもあるでしょうし、何よりも非日常的な環境でリフレッシュして話すと、次の構想にもつながります。旅そのものが楽しいし、いいことだらけです。

 

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1つの業界で一生すごすよりも、複数の業界を経験したほうが、本業に役立つ知見が得られる

 

――理事として関わることは、ビジネスパーソンにとって本業にはどんなメリットがあるのでしょう?

 

例えば、教育系NPOの「Teach For Japan」のモデルは、大卒の将来のリーダーたちに学校教員の経験をさせてから各方面の社会に輩出しますよね。このように複数の領域の横断経験は「価値」になります。1つの領域で長く過ごす人よりも、複数の領域に関わり続ける人の方が、知見や経験値は多くなりますよね。つまり複眼的な視点が持てて、より立体的な思考ができるようになるわけです。

 

これは本業にもメリットになります。他の領域で見聞きした成功事例を「抽象化」して、本業で「具体化」したら、良質な提案につながります。逆も然りです。本業での知見を「抽象化」して、非営利の領域で「具体化」すれば、社会課題の解決手法を増やすことにつながります。

 

もうひとつ、若い企業人は経営まで関わることは少ないですが、非営利組織だと経営全体を見る経験を得られます。経営視点を持つ社員が増えたら、本人も企業もメリットだらけですよね。そして非営利組織の経営はとても難しい。上意下達では人は動かないし、報酬もほぼない。それでも人が集まり、動くのは「定款」や「ビジョン」の力です。この力学を理解できる人が増えた企業は、働きやすい職場が増えるはずです。

 

なので、ビジネスセクターの人が、もっとソーシャルセクターとの行き来が増えたら、社会はもっとよくなると思うのです。もちろん非営利組織としても、ビジネススキルを持つ人は大歓迎です。

ガバナンスの3つのモードの話をお互い知っていると、理事同士で話しやすくなる

 

――ビジネスパーソンが理事をつとめる際のポイントはありますか?

 

私は、社会人9年目くらいで最初にNPOの理事になったのですが、組織のお金や人の流れの構造が理解できていれば、大丈夫だと思います。営利企業も非営利組織も人や社会に貢献することは基本的に同じですので。ただ就任時は念のため、利益の分配方法が異なることや利益相反などのルールは確認した方がいいですね。

 

人は誰でも得意・不得意があります。理事会メンバーがある程度の人数いるようでしたら、役割分担があるとやりやすいと思います。企業人であれば、広報・マーケティングに強いとか、業界の人脈が多いなど、得意分野をお持ちだと思います。そこを理事として存分に発揮しやすい体制を考えるとよいでしょう。

 

特に人数が多い理事会だと、異議なし可決ばかりになりやすいので注意です。不正が意図的に行われて気づかなかった時など、理事に責任が伴います。組織が複雑化すると、お金の流れが不透明になりやすくなるので、監事の他にもお金の流れに強い理事を置くなど、役割も考えながらメンバー構成を考えていくべきです。

 

『非営利組織のガバナンス』を読むと、「受託モード」「戦略モード」「創発モード」という3つのモードが出てきます。このガバナンスの3つのモードを理事同士が知っていると、話しやすいなと思いました。通常、理事は自分が関わる団体の理事会のことしか知らないので、こんなものかと思ってしまいがちですが、この3つのモードの枠組みが頭にあると、客観的に自分たちのことが見られて良いなと思いました。

 

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社会や地域の課題に企業人が関わるなんて、もともとはみんなやっていた

 

――ビジネスパーソンをはじめ多様な分野の方が、もっと非営利組織の理事としても関わっていくとよいとWITは考えていますが、どう思われますか?

 

理事としてもそうですが、自分が関心あるテーマに取り組む非営利組織には、もっと多くの企業人が関わるとよいと思います。なぜならすべての社会課題を行政だけでカバーすることは無理ですし、何より自分の地域や社会は、自分たちで心地よいものに改善していくべきものだからです。

 

企業も「社会の公器」ではありますが、残念ながら近年は新しい法制度や経営環境の変化によって、特別対応が難しいことが増えてきました。例えば、ベネッセでは通信教材の文字が小さくて読めないという子どもからの声があると、有志社員たちが終業後に拡大コピーして個別対応で送っていたような時代がありました。今では、個人情報保護法や労務の観点からそのような対応は難しくなりました。

 

業務として、取り残された子どもへの個別対応が難しいならば、プライベートで関わればよいわけで、ベネッセでも非営利組織に関わる社員は多くいます。コロナ禍で在宅ワークが増えたと思いますが、非営利組織もオンラインで関われることが増えています。まずはライトなボランティアやプロボノからはじめてみてはいかがでしょうか? その結果、企業人が非営利組織の理事として関わる人が増えていくのがよい流れだと思います。

 

最後に、私のような普通の企業人がどうやって非営利組織の理事になったかをまとめると、こんな感じかと思います。

 

①身近な社会の歪みに違和感を感じる

②その課題に取り組む団体に出会う

③団体のイベントなどに参加する

④得意分野や人脈を活かして関わる

⑤代表の壁打ち相手になる

⑥理事の打診をいただく

 

社会課題は、多様化かつ複雑化しているので、1つの団体だけで解決できるものなんてありません。多様なセクターから非営利セクターに人が流れることで解決に近づくことも期待できます。逆に、非営利セクターの人がビジネスセクターで求められることも増えると思います。非営利組織を運営する難しさや、社会インパクトを創出することは、単に利益を出すことよりも難易度が高いためです。SDGsなどの取り組みで、力を貸してほしいという引き合いは増えるでしょう。

 

非営利組織は受益者からお金をいただけない事業もあるので、企業との協業や寄付でお金の流れが増えることは歓迎です。人やお金の流れが増えると、課題を解決するスピードを加速できます。このようにビジネスセクターと非営利セクターの人の行き来が増えることは、とても意義があると思います。私もその1人として、ミツバチのようにいろいろな団体を行き来をまだまだ楽しみたいと思っています。

<編集後記>

 

青木さん、多くの非営利組織との出会いや関わりのストーリーをお話いただき、誠にありがとうございました! お仕事や身の回りで感じた問題意識や違和感に向き合いながら、共感する団体さんたちと出会い、関係性を発展していく姿に感銘を受けました。

 

インタビュー後編でふれてくださった「複数の領域の横断経験は価値」というのはそのとおりで、社会課題解決の面だけでなく、それを事業にする難しさ、そして、組織や人の動かし方も、企業人が非営利からヒントを得られることって、ものすごく豊かですよね。

 

WITでも現在立上げ準備中のボードフェロープログラムなどを通じて、非営利に関わりたい企業人のサポートを一層すすめていきたいと思います!

 


 

前編はこちら

>> ビジネスパーソンが働きながら5つのNPOに関わるようになった理由とは?ベネッセこども基金・青木智宏さん

 

※こちらは、一般社団法人WIT(ウィット)note掲載記事からの転載です。

>> WITのnote他の記事を読む

 

WITでは2021年7月より、ビジネスリーダーと非営利組織の経営者が、社会課題解決事業の経営について本質的な議論・協働を行う6か月間の実践型プログラムを開始します。

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>> ボードフェロープログラム  社会にインパクトをもたらすリーダーシップを発揮する実践型プログラム

 

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※このメディアを運営するNPO法人ETIC.の代表理事・宮城治男はベネッセこども基金の評議員を務めています。

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山本 未生

WIT Co-Founder & Executive Director ( http://worldintohoku.org/ )。 組織・セクター・国などの様々な境界を越えて、より良い社会を目指して協働するリーダーを育成する事業をWITで展開。住友化学株式会社、SVP東京、McKinsey & Companyを経て、2011年、東日本大震災を機にWIA(現WIT)を共同設立、2013年より同代表理事。デジタル・ソーシャルイノベーションの世界的アワードWorld Summit Awardのジャパン・カントリー・エクスパートを務める等、日本のソーシャルイノベーションのインパクトを海外にも広める動きも行っている。英語日本語双方での講演多数。2005年東京大学教養学部総合社会科学科国際関係論課程卒業。2013年MITスローン・スクール・オブ・マネジメントでMBAを取得。ボストン在住。

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