終身雇用まっしぐらなんて時代は、もう古いのかも。働き方の選択肢が増えつつある今、新卒でフリーランスを選んだ2人が就職を選ばなかった本音を聞かせてくれました!
4次面接で落ちた瞬間に、「就活やめよう」
―そもそも、どうして、お二人は新卒でフリーランスになろうと思ったのですか?
田中: 僕は、3年生の3月くらいまでは就活を少しやっていたんです。4、5社の書類選考は通って、そのうちの1社だけは4次面接まで進んでいたのですが、その4次面接で落ちた瞬間に、「就活やめよう」と、他の選考も全部辞退しました。
―なぜそこで就活をやめようと思ったのでしょうか?
田中: もう、心が折れたんですね。そこから就活はもういいかなと思って、気づいたら卒業していたという感じでした。志があったわけではないです。ただ心が折れて、思うままに生きようと思って、ぼーっとしていました。
―人によっては、その道をやめること自体を怖いと感じる人もいると思うんです。人と違う道を進むことや、生きるために厳しく自分で責任を持って稼いでいくこととかに、怖さはなかったのですか?
田中: 僕は、小さいことはすごく気にするタイプなんです。人にちょっと嫌なことを言っちゃったとか、すごく引きずります。逆に、小さいことを気にしすぎて、大きな問題に直面すればするほど何も考えられなくなって…。そのまま、卒業していました(笑)。 ―西元さんは、どうですか?
西元: 大学1年の終わり頃から、メディア系ベンチャー企業が募集していたライターになって、そこで半年後には中核メンバーになりました。さらに半年後には取締役にならないかという話があり。けれどそこを断って、辞めて、自分で何かをしようと思いました。
うちの大学には、起業したい人が入れるインキュベーションの施設があるんですが、その担当の先生が「これ書いて」と当然のように利用申請書を渡してきて。流されるがままに利用することにしたんですが、起業の支援をしてくれる場だったので、アプリ開発などいろいろしていました。就活はまったくしていませんでした。
―もともと大学でも、アプリ開発を学んでいたんですか。
西元: 僕は専攻が全然違って、半導体のようなハードウエア系なんですよ。もともと、ハードとソフトの両方をやりたいという思いが僕の中にあって、大学に入るときに、ソフトウエアは自分でもできるなと思って、実験するための設備が必要なハードウエア系に進みました。
普通に就活をして、その先どうなるのかなと逆に怖かった
―西元さんも、気づいたときには、就活をしなかったということですか。
西元: さっき怖さという話がありましたが、僕は普通に就活をして、その先どうなるのかなと逆に怖かったんです。与えられた仕事をして、給料が入って、そこそこうまくいくだろうとは思ったんですけれど…。基本的な能力があれば仕事があるという時代でもなくなってきているから、自分一人でも生きていくような力がないといけないなという不安があって、自分でやるという方向に駆り立てられたんです。
―お二人のまわりにも、同じような考え方の人はいますか?
田中: 僕は、美術大学なので、就職をしないで作家活動をしたり、プラプラしていたりする人がわりといます。フリーランスでやるという人はあまり聞かないですけれど。
西元: 僕の場合は、まわりにはほとんどいなくて……。大学には、IT系を学ぶ学生がすごく多いこともあって、大企業に入ったり、大学院に進んだりする人が多かったです。例外があるとしたら、インキュベーション施設で起業したいという学生が何人かいたくらいです。
普遍性や応用性があるオープンなスキルを身につける
―もし私が就活生だったとして、今のお二人の話を聞いたら、フリーランスとして社会で通用する技術や得意なことが、学生時代から確立されていたからできたのかなと感じると思います。
田中: 大部分は、後から身につきました。僕は主にグラフィックデザインの仕事をしているのですが、大学では立体系のアートを学んでいました。立体系のアートは、場所が必要です。でもグラフィックだったら、パソコンがあれば独立してできそうだなと思い、学生のうちから個人的に学んではいました。
しかし、卒業して仕事をいただいたときにはやはり知識が全く足りず、大半のことは後から勉強して身につけました。なので最低限のこと、つまり人から直接教わらずに自分で学べる範囲でも学生時代から確保していれば、社会に出てからでもいくらでも学べそうだなという気がしています。
西元: 最悪どうにかなるだろうと、割り切っていた感じがします。高い技術があったからかといわれると、僕の中では全然そうじゃないと思っています。大学の専攻もIT系ではないですし、アプリ開発でもスーパーエンジニアみたいな実力はもっていません。そのときは、ライターをしていたので、大したお金は入らないけれど、とりあえず生きていくぶんには困らないかなという思いはありましたが。 ―西元さんにとっては、とりあえず生きていけるようになるために、終身雇用を選ぶ方が怖かったということだったんですね。お二人は、新卒フリーランスとしてやっていくための環境をどう整えてきたんですか。
田中: 技術にも2種類あると思うんですよね。その企業に特化して、そこでしか使えないスキルと、普遍性や応用性があるオープンなスキル。学生時代からオープンなスキルを身につけるための勉強をしていたから、最初から踏み出せたのかなと思います。
―オープンなスキルとは、具体的にはどんなことでしたか?
田中: グラフィックのデザインです。ニーズがあって、そのニーズを拾えば、ある程度お金になるなと思っていました。もう一つは、いろいろな人との共通言語を身につけようと思って、奔走していました。
多様な職種の人と渡りあう共通言語を手にいれる
―共通言語、おもしろいですね。業界や分野が違えば、言葉の意味が全然違うこともあります。多様な職種の人と渡りあう共通言語を身につけるには、偏った場所にいないで、自分から外に出て行かないと難しいですよね。
田中: それは、すごく難しいと思います。例えば、僕の大学では、アーティストとして、内に閉じこもって、その中で生きていくという選択をする人が多いかと思います。
でも、今後ビジネスでお金を稼いでいったり、社会に影響を与えていったりするとしたら、いろいろな人と話さなきゃいけないと思うんです。そこで、その人たちはどんな考えをもって、どんな言葉で話してということを早い段階で知らないと、今後の人生の機会損失が大きくなると思ったので、最初に身につけようといろいろ工夫したんです。 ―そこに気づくのは、すごいですね。どうして、そう思うようになったんですか。
田中: 本を読むのが好きで、本を読んでいろいろ調べて、それを話せる人がほしいなと思ったことがきっかけです。例えば、シンギュラリティみたいな科学的な話は自分がいた美術系の大学ではあまり話せない。そういうときに、くわしい人と近づいて話し合えるようになるということが、共通言語を手に入れるということだと思ったんです。
田中: イノベーションを起こすには、新しい結合がいるという話もあるけれど、そこに共通言語がないと難しいなと思います。なかなか混じりづらいAとBに共通言語があったら、交わる可能性がすごく高くなります。
―田中さんの場合、言葉からだけでなく、イメージも作れるからいいですね。
田中: そうですね。表現としては、言葉以外の選択肢もありますね。
つながる人を自分で選ぶ
―西元さんが起業したり、フリーランスになったりするために意識してきたことはありますか。
西元: 人とのつながりを大切にすることを意識していました。仕事をいただくにも、起業するにも、最初のきっかけが必要なので。あとは、情報です。ずっと一人でやっていると、あんまり直接的な情報が入ってきません。ITの勉強会がたくさん開かれているので、そういうリアルな場所がないとシェアできない情報もあります。
―人とのつながりが大切、とよく聞くと思うのですが、誰とでもつながればいいという話ではない気がしています。仕事が重なりそうなコミュニティで、生態系を自分のまわりに作っていくことを意味しているのかなと思うのですけれど、どうですか?
西元: 本当にそうだと思います。誰でも会えばいいとか、ITの勉強会だからどれでも行けばいいとかいうものではないので、自分で選ぶことは大事なのかなと思っています。
やっぱり現実世界で人と関わらないとお金は稼げない
―フリーランスは人脈といいますけれど、どんな人脈をもつかで、仕事や自分の進む方向がすごく変わりそうですね。実際にフリーランスとして働いている人の話を聞くと、コミュニティとフリーランスって密接な関係があると思うのですが、お二人はどう思いますか。
田中: 実を言うと、僕は人と会うとすごくエネルギーを使うタイプの人間なので、社会から逃げたいといった気持ちで、フリーランスを選んだ部分もあります。今の時代は、そうやって生きていくこともできるようになったと思うんです。
たとえば、クラウドソーシングを使えば、インターネット上で仕事を受けて、お金をもらうことができます。僕も実際にやってみたんですが、クラウドソーシングで受注すると、価格競争がものすごく激しくて、厳しいんですよね。そこで気づいたのは、やっぱり現実世界で人と関わらないとお金は稼げないなということ。リアルなコミュニティに関わって仕事をした方がお金のやりとりもあるし、自分の縁にもなるし、フリーランスにとっては特にいいなと思います。
―人と関わることで、自分のもっている価値が顕在化して、対価をもらうことで、それがどんどん上がっていく感じでしょうか。
西元: 人との関わり合いの中で仕事をするからこそ、フリーランスとして成長していく感じはあります。お互いに目指す方向を理解し合った上で、お金と経験の交換がちゃんと生まれるような設計をしていくと、一つの案件でも、成長カーブがきゅっと上がる気がします(西元くんが作成に携わったアプリはこちら)。
田中: インターネットを通して仕事をすると責任から逃れられる部分が大きいです。でも、そこから逃げていると、仕事をしてもあまりうまくいかなかったり、成長できなかったりします。リアルな関係でちゃんとコミュニケーションを図ると、責任はどんどん大きくなる。最初は怖かったけれど、しっかりと腹を据えて自分の責任で全部やるようになりました。
西元: それに、コミュニティや人と関わることは、自分の創造力を生かすための手段だという気がしています。
想像以上の何かを期待してもらえるから、仕事が生まれる
―創造力を定義するとしたら、なんだと思いますか?
西元: 専門性ではない部分のことかなという気はしていて。エンジニアで世界トップの人は、極端なことをいうと仕事が勝手に入ってくるから、積極的に人と関わらなくてもいいかもしれません。ただ、ほとんどの人がそういうわけじゃないから、専門的な知識以外で、自分の特徴であるとか、全身を使って働くために人と関わっているのかなと思います。
―なるほど! フリーランスになると、知識や技術という面で世界一のエンジニアになる覚悟で挑まないといけないと思うかもしれない。でも、そうじゃないんですね。
西元: そうなんです。人と関わる中で、知識や技術といった部分以外の自分らしさでうまくやっていける。 ―技術ではなく、総合的な人間力への対価としてお金が発生するということなんですね。
西元: 依頼する側にしてみたら、どういう気持ちで仕事をやってくれるかという態度への評価もあるかもしれません。あとは、専門性が高くなくても、それまでの個性的な経験を生かすということもできそうです。
―クラウドソーシングでは純粋に納品物のクオリティーが求められますが、きっとそれ以上の何かが起きるのではと期待して依頼するのかもしれませんね。
西元: それもあるかもしれません。1回だけの仕事ではなくて、次も何か一緒にやろうということもあります。そういうことは、人との直接的なつながりがないと生まれにくいですよね。
田中: 確かにそうだなと思います。例えば、品質というとき、広い意味で捉えたら、その人に頼めばちゃんと向き合ってくれそう、他の有力なリソースを巻き込んでくれそうといったことも含まれる気がします。そこを見て仕事ができる方が、仕事としても人生としても豊かになっていくという実感があります。
自分自身の向き不向きで働き方を選びとる
―就活をやっていて嫌だなと思っていても、なかなか違う道に踏み出せない人も多いと思います。フリーランスは、自信がある人しかできないことなのでしょうか。
西元: 僕はそんなことないと思います。フリーランスは、まったく訳がわからないことではないんです。就活して企業で働くことだって、本当はよくわからないことではないのかなと疑問を投げかけたい気もします。でも、みんながやっているから、なんとなく大丈夫かなというところがある。 ―たしかに、みんながやっているからという部分はありそうですね。
西元: だから、まわりにフリーランスでやるという人がいれば、抵抗感が少なくなるのではないかなと。
―田中さんは、どう思います?
田中: いきなり自信がある人はそんなにいません。逆に言うと、就職する方がすごく怖くて…。決められたルールの中でしっかり働くといったことができない。絶対毎日怒られるじゃん、と就職することへの自信がなくて。どちらかというと、自分はフリーランスの方ができそうという向き不向きで選びました。
西元: まさに、向き不向きで選べばよくて、就職する自信がないなら、自信のないことを無理に選ぶ必要もない。それだけな気がします。
―キャリアにはいろいろな選択肢があって、自分のやりたいことを選びとれるといいのですね。お話聞かせていただいて、ありがとうございました! 二人も登壇する、MAKERS UNIVERSITY第1期生の最終プレゼン「THE DEMODAY」が11月13日(日)渋谷ヒカリエにて開催されます! MAKERS UNIVERSITY第一期生最終プレゼンTHE DEMODAY
デザイナー/田中 仁
1992年生まれ。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒。卒業と同時に独立。相棒は猫のにゃん ちゅう。憧れている人はスナフキン。人生でどれくらい自由を手に入れられるか実験中。
エンジニア/西元岳
1991年北海道生まれ。電気通信大学情報理工学部卒。ガジェットがとにかく好きで、在学中はテック系メディアの編集・執筆を担当。社会人として幸せな生き方を追求しながら、主にエンジニアとして活動中。
フリーランサー/川端元維
1986年大阪生まれ。組織や領域、価値観、言語の壁を越境するフリーランサーとして、人・組織・社会の変革に火をつける仕事を実践中。 大学卒業後、カナダでの社会起業家武者修行を皮切りに、自動車部品メーカーでの法人営業、全寮制学校でのリーダーシップ教育企画・実践、教育企業での新規事業開発を経て独立。 現在はNPOや社会企業の事業開発・組織開発を注力領域としており、国内外のNPO・ソーシャルベンチャーの経営や事業運営、支援実績多数。ゲームチェンジャー・スクール 共同運営。 調査・研究という観点では、内閣府NPOマネジメント人材育成に関する調査事業への参画、フィリップ・コトラー著「GOOD WORKS!」やソーシャルイントラプレナーシップ開発に関するレポートの共同邦訳等、幅広い実績を有する。
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