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全国の「U-35」が、地域から未来を書き換える。若き挑戦者を支えるETIC.佐々木健介、伊藤いずみ対談

2021.04.09 

当たり前が通用しなくなったときこそ、変化を起こしていけるはず。

 

2020年にはじまった「コロナ禍」は、人類の移動と集合の自由、そして心身の健康を奪い、わたしたちに待ったなしの変化を突きつけました。 しかし、常識や慣習が通用しない困難な状況だからこそ、若い力で次の時代をつくるチャンスとも言えるのではないでしょうか。

そう考えた私は、このDRIVEメディアを運営する認定NPO法人ETIC.(エティック)の伊藤いずみさんと佐々木健介さんに、この時代に若者の挑戦を支える大切さを聴いてみたいと思い、コンタクトを取りました。

お二人は現在、1,600名以上の起業家を支援してきたエティックで、全国の若者起業家の選抜制プログラム「ローカルベンチャーラボ Change Makers U-35特別枠」の立ち上げに取り組んでいます。

「この時代に変化を生み出す若者たちに、どんな言葉を送りたいですか?」

佐々木さん、伊藤さんの口から語られたのは、当たり前のようでいてほんとうに大切なこと。

 

私はエティックのパートナーとして、お二人と一緒に起業家育成や社会インパクト創出のプロジェクトに取り組んでいますが、現場で起業家の卵に向き合ってきたお二人から、若い挑戦者を支えるあたたかい気持ちと、今回の取り組みにかけるワクワク感を受け取ることができました。

今回の記事では、そのエッセンスをお伝えします。 ぜひ、これから新しい事業やプロジェクトを立ち上げたい若い人や、若者が活躍する社会づくりに関心のある企業や行政の方々にお読みいただければ幸いです。

 

U-35記事写真_OGPリサイズ

佐々木健介(写真左)

2002年より社会的課題を解決しイノベーションを起こす「社会起業家」の輩出に取り組み、これまでに300社以上のソーシャルベンチャー支援・インパクト創出に携わる。

「NEC社会起業塾(現 社会起業塾イニシアティブ)」、経済産業省「新事業創出のための目利き・支援人材育成等事業」支援者、日本財団/西武信金による「西武ソーシャルビジネス成長応援融資」の企画運営協力等担当。

現在は、「都市生活に起業家的ライフスタイルをインストールする」をミッションに、新規事業立ち上げ中。毎年1,000件以上のエントリーが集まるTokyo Startup Gateway等を担当。渋谷区在住、9歳と3歳の娘の父。

 

伊藤いずみ(写真右)

静岡県出身。大学卒業後、ITサービス業にて業務アセスメントやサービス設計等のコンサル、国内外のサービス拠点の立ち上げに従事。仕事の傍らプロボノ活動で海外の社会起業家事業に関わる。

東日本大震災後、ETIC.右腕プログラムを通じて、地域の人と共に東北に根付く手仕事を活かしたものづくりを行い、被災地に新しい産業を作る「大槌復興刺し子プロジェクト(岩手県大槌町)」に参画、商品開発や現地マネジメントを担う。

その後単独の事業やコミュニティだけでなく、よりマクロに地域を捉えて、地域や社会全体での仕組みづくりを目指したいと考え、2017年よりETICに本格的に参画。地域を舞台に地域資源と自分の思いや価値観を掛け合わせて事業構想をする「ローカルベンチャーラボ」の立ち上げに加わり、責任者を務めるほか、ローカルベンチャー事業気仙沼担当コーディネーター等を務めている。

何者にもなっていない人、わかりにくいものに価値を見出す

 

――今日はよろしくお願いします。まず、お二人が若手起業家支援の仕事にどんな可能性を感じているのかお聞かせください。

 

佐々木: 僕は社会起業家の支援をずっとやってきました。「世の中を変えるぞ!」といったときに、今までなかった技術や制度も大事だと思うけど、変化の中心にはいつも「個人」がいて。

想いを持った個人が目を輝かせて動いて、そのエネルギーに周りが巻き込まれる場面に出くわすにつれ、やはり個人が原動力なんだなってずっと思ってて。

直感を信じて取り組んでいる事業やチャレンジが共感を生んで、周りを巻き込んで世の中を変えていく流れが好きで、その可能性を強く信じ続けている感じですかね。

 

伊藤: 私も、学生のときから社会起業には関心があって。何か問題があったときに批判するのではなく、当事者意識を持って行動で変えていこうっていう人たちに惹かれるし、自分もそうありたいと思っています。

大学卒業後、渋谷のIT企業で3年ほど働いていました。それはそれで楽しかったものの、今後のキャリアを考えて、エティックの東北関連のイベントに参加しました。それがきっかけで「もう行っちゃえ!」となって、2015年冬に東北に飛び込みました。

東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県の大槌町で、地域のおばあちゃんと一緒に、伝統工芸の刺し子を使った商品開発プロジェクトの活動に2年ほど取り組んでいました。

製品を開発し、会社をつくって事業として回していくつもりだったんですが、商品や事業をつくるだけではだめでした。プロジェクトや地域そのものが未来にむかっていく道筋や距離感を考えたときに、自分たちの力量が足りないことに気付かされて。

それがきっかけで、地域で事業をつくる人材育成や仕組みづくりに強く興味を持って、エティックで働くことにしました。

また、どうしても経済的なインパクトとか、わかりやすいものに光があたりがちで、わかりにくいものが評価されにくい、支援もお金も集まりにくいと思ったんですね。

でも、経験も引き出しも少ない若手だからこそできる発想はあって。

若い起業家がみている可能性を信じて一緒にチャンスを掴んで物事を変えていければ、本人たちの事業だけでなく地域も社会も変わっていけると感じています。

 

U-35記事写真_西粟倉村FW

伊藤さんがプロジェクトリーダーを務めるローカルベンチャーラボでの、岡山県西粟倉村でのフィールドワークの様子(新型コロナウイルスの感染拡大以前に実施されたもの)

 

――ちなみに、「わかりにくいものが評価されにくい」とは?

 

伊藤: 震災復興の文脈では、事業所の数がどれだけ増えた、売上がどれだけ上がったかなどの数字がメディアで取り上げられたり、復興支援の成果指標になることが多かったんです。でも、蓋を開けて実態をみてみると、地域の人たちの想いがついてきていなかったり、地域の基盤であるはずの幸せへのまなざしが足りていないと思うことがあったんですね。

困っている人や、地域にとって本当に大事なことをしようとしている人に手を差し伸べる支援がおざなりになっている気がしたんです。

 

――とてもよくわかります。自分たちで暮らしや仕事を新しくつくるうえでは、目に見えない信頼関係や意識の変化が大事だと思うのですが、経済復興だけを意識しすぎるとその視点が削ぎ落とされがちですよね。

 

伊藤: 地域の経済を立て直すど真ん中の取り組みとして、お金をつくることはもちろん大事で、そこに覚悟決めてやっている人のことはリスペクトしています。ただ、事業やお金以外、もっと人の想いの部分を大事にして育てていく必要性を感じていました。理解、共感されないと、せっかく立ち上がった人たちが落ち込んでしまいますしね。

1人が世界を救うのではなく、「わたしたち」が現実をつくる

 

佐々木: 東北復興の文脈でいえば、今年で震災から10年。

メディアの報道でありがちなのは、「地域にこんな課題があります、でも立ち上がった若者がいます、そこには希望があります」みたいな編集されたストーリー。仕方ないけど、浅いなって思う。

なぜなら、若者がひとり立ち上がったのが希望なんじゃなくて、地域で挑戦している人と人のつながりや応援しあう文化、つまり「苗床」のような「挑戦が育つ土台」が醸成されているのが大事なんだけど、それが伝わらないともったいないんだよね。そのあたり、何か思うところはありますか?

 

伊藤: 固定観念や規制を力強く突破していく起業家やリーダーも個人的には大好きで、その覚悟はすごいなと思うんですが、それだけではないやり方が広がっているのを感じますね。

とある案件で震災復興において人のつながりが地域の仕事づくりにもたらした影響を調査しているのですが、協力しあえる関係性や、そこを切り盛りしているつなぎ役の大事さを仮説として持っています。

人のつながりで波及効果が出せたり、思わぬところで仕事づくりにつながっていくのは、地域ならではかも知れません。例えば地域の若者が環境に配慮してペットボトルの使用をやめたのがすぐ広まっていくとか、そういう影響の速さが、やがて事業になっていく可能性を秘めていると思っています。

一方で、地域で暮らして事業をつくるためには人間関係の折り合いをつけたり調整しないと何も始まらないですが、それが面白さでもありますね。

 

佐々木: 確かに!

今はあまりいないと思うけど、マッチョ系の地域の権力者の人たちが「地域に骨を埋める気があるのか?!」とかいって若者を詰めちゃったり、若者がなんとか頑張って勉強してビジネスをつくろうとしていると「地域はそんなんじゃない!」って言って、せっかく何かやろうとしてる若手を萎縮させちゃったり。本当にもったいない。

逆に、都会でアプリ作るのって、地域の人のつながりがなくてもできるじゃん。

だから東京で起業とかプロジェクトした方が楽で、地域でイノベーティブなことやろうとすると大変、みたいな。

でも、逆に都会だとできないことができちゃうというか、その土地のキーパーソンとつながっておもしろがってもらえれば一気に加速する可能性もあるんじゃないかなとも思ってるんだよね。

なんかやってやろう!っていう気持ちを持った若者が地域でチャレンジするのが難しいイメージをぬぐいさりたいね。

 

伊藤: 地域ではお金がなくても、人のつながり、関係資本で物事が動いていきますからね。

東京か、地方か。二項対立を超越する仕掛け方とは?

 

――ありがとうございます。では、今回取り組むCHANGE MAKERS U-35プログラムの話をすると、20名の参加者の方々と一緒にどんな流れをつくっていきたいですか?

 

佐々木: 「新しい生き方・仕掛け方として、これはありだよね!」ってなる、20人分の「生き方のロールモデル」を参加者の皆さんと一緒に見出して、磨きあっていきたいね。

例えば、今の時代だったら、学生起業家が地元の田舎で農業の事業を立ち上げながら東京の大学にリモートで通うとかね。暮らしの拠点は自分が愛着を持っている地域だけど、仕事では東京や海外を相手に売上を立てているとか、特に食やものづくりの領域だとこれからさらに当たり前になっていくと思うんだよね。

 

――東京でやりがいある仕事を取るか、自分が住みたい地域を選ぶかの二項対立が、コロナの影響で一気に終わりかけていますよね。現に、2020年後半には東京都からの人口の転出が、転入を上回りました。暮らす場所を選びやすくなった時代だからこそ、若い人が地方で事業を仕掛ける面白さって、何だと思いますか?

 

伊藤: 例えば、徳島県上勝町の「ゼロ・ウェイスト宣言」はごみのない地域社会を目指して、リサイクル率が約80%になりました。この成果は東京のみならず世界に発信されて、この取組を進めている方はダボス会議に参加されています。

人口の少ない地域だからこそ、同じ趣旨の活動でも自然にユニークになっていく。地域というフィールドに目を向けるからこそ、出せるインパクトもあるし。

「東京でやると埋もれるかもしれないけど、地域でやるからこそおもしろい」という側面は、事業の作り方、見せ方次第でありうると思います。

「どうせ変わる事業計画」よりも、「自分の全人格」を大切に

 

――最後に、これから全国各地で事業やプロジェクトをはじめたい若い人たちに、「まずは一歩目、これからはじめてみるといいよ」というお勧めがあれば教えてください。

 

佐々木: この前お話を聴いた、日本酒が好きすぎて起業した道前さんの取り組みが凄くいいなと思ったんだよね。技術や競争優位性ではなく、本人の人柄や情熱から事業が始まっていて、「生きざま」そのものが仕事になっているというか。

これを踏まえると、「地域」で何か事業をやろうとか、場所に引っ張られすぎない方がいいと思うんだよね。仕事で成し遂げたいことだけではなくて、どんな暮らしをしたいのかとか、「自分の全人格」に向き合ったときに、本当にやりたいことが出てくると思う。

 

伊藤: あんまり深く考えすぎずやってみたらいいと思う。はじめから強烈な覚悟が問われるわけじゃない。

経験を重ねた人たちは、ちゃんと事業計画が準備されていないと、やっちゃいけないんじゃないかと思いがちだけど、若い世代の方々は等身大で事業ができる。きれいな事業計画を作ってもどうせやってみたらアテにならないんで、周りが言うことに耳を貸しすぎずにまずはやってみたらいいと思う。

 

U-35記事写真_メンタリング

2017年に行われたローカルベンチャーラボでの、メンタリングデイの様子。起業家メンターやコーディネーターとともに実践で得られた学びを振り返り、事業アイデアを進化させていきます

 

佐々木: 2、3回やってもうまくいかない場合も往々にしてあるわけだけど、自分が心の底からやりたいことであれば、4回目でうまくいったりするからね。

仕事と暮らしの垣根がなくなってきている時代だからこそ、「改めて自分は何を大切にしたいんだっけ? 本当は何にワクワクするんだっけ?」と自分に問いかけてみるといいと思う。

 

――起業家的に挑戦をしていく人たちは、試行錯誤を通して全身で学習していくんですよね。今日はお忙しい中、ありがとうございました。

次の時代に、みんなで橋をかける

 

二人のお話に込められたメッセージは、自分にはこう聴こえていました。

 

「本当にこたえのない時代だからこそ、みんなで次の時代への橋をかけていこう」と。

 

どこに暮らし、何に挑戦するか。

これまで二項対立になりがちだった暮らす場所と挑戦のテーマが自由に組み合わせられる状況になった今、挑戦の舞台は東京だけではなくなっています。

 

今回のChange Makers U-35では、6ヶ月間のプログラムとオンラインコーチングを通して、全国の若手起業家や、これからチャレンジしていく人たちが、自分と事業を進化させていきます。

 

 U-35記事写真_バナー

 

若いチェンジメーカーと彼・彼女らを支える支援者が、インターネットの力で距離をこえて繋がれるようになったことで、これまで以上に若い挑戦者が可能性をつかみやすい時代が訪れようとしています。

 

最後に、この記事を読んで地域で起業したり、今手掛けている事業を進化させたいと思っている35歳以下の方へ。

 

「ローカルベンチャーラボ スタンダードチャータード財団支援枠 Change Makers U-35」では、自分と地域の「枠」を超えて、構想・妄想し、未来を書き換えていきたいと願う方からのエントリーをお待ちしています。(応募締め切り:2021年4月26日)

 

そして、この取組は英国スタンダードチャータード財団の支援により、3万円(税別)の特別価格にて参加できる環境が整えられています。日本全国各地域での若者起業家支援や、若者育成を起点にした仕事づくりに関心のある企業、行政機関の方は認定NPO法人ETIC.(エティック)までご連絡ください。

 

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ETIC.ローカルベンチャーラボ地方創生起業
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川端元維

川端元維

人・組織・社会の変容デザイン事務所 innovate with代表。「人・組織・社会の持続可能な未来づくり」をテーマに異なる国・文化・組織やセクターをつなぎ、新しい価値や変化を生む協働型の事業やプロジェクトを各地で展開。ソーシャル・イノベーションを生み出す触媒として、海外の投資家/篤志家と日本の社会起業家をつなぐプロジェクトに尽力。起業家支援プログラム等の開発・運営を通して、70社以上の創業支援、20社以上の事業開発支援、4,000名以上の起業を志す個人の支援を実施。大阪に暮らし、世界と働く1児の父。NPO法人ETIC. クリエイティブシティ事業部 インパクト・パートナー。

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