株式会社スマイルズ・遠山正道代表取締役社長
食べるスープ専門店「Soup Stock Tokyo」、ネクタイブランド「giraffe」など、複数のユニークな事業を手がけている株式会社スマイルズ。最近では、入場料のある本屋「文喫」 をプロデュースし話題になりました。ビジネスとして成功しつつも、「世の中の体温をあげる」という言葉をかかげ、遊び心や温かみのあるサービスを提供し続けています。
そんなスマイルズの代表である遠山正道(とおやま・まさみち)さんが、起業を目指す学生のために「ビジネスのつくり方」をテーマに登壇される機会がありました。
ビジネスプランを作るにあたり、ポイントのようなものはあるのでしょうか。事業化するうえで、または起業するうえで何を大切にすればいいのでしょうか。
ご経験をふまえた遠山さんの言葉一つひとつから、その答えを探っていきます。
遠山正道さんプロフィール
株式会社スマイルズ代表取締役社長
1962年東京都生まれ、慶應義塾大学商学部卒業後、1985年三菱商事株式会社に入社。2000年株式会社スマイルズを設立し、代表取締役社長に就任。現在、食べるスープ専門店「Soup Stock Tokyo」、ネクタイ専門店「giraffe」、ファミリーレストラン「100本のスプーン」、新しい結婚のありかたを提案する「iwaigami」、また様々な企業や行政との事業などを多数展開している。
「やりたいこと」を現実にするための4行詩
株式会社スマイルズでは、新しい事業を始める時に作っているものがあると遠山さんは話します。それは、「やりたいこと、という4行詩」。 「『やりたいということ』に出会う、これは自分がやりたいと、ときめきを感じる部分になります。『必然性』を根っこにする、これは自分の中での事業の必然性になります。『意義』とは、社会的な意義や組織的な意義など。そうあてはめていくと、世の中に『なかったという価値』、オリジナルになります。 Soup Stock Tokyoの場合、『やりたいということ』は『スープという共感』になります。スープというものに共感して集まってくれた仲間と、作品のようにスープを作って、世の中に提案して、世の中がいいねって言ってくれる。お客さんや世の中との共感の関係性ができれば、スープが別の食べ物になったり、別のサービスになったりしても、その共感の関係性はさらに広がっていくだろう。そういうことを意味しています」
では、その「やりたいということ」が別のものだったらどうなっていたのでしょうか。好物だというラーメンをたとえ話に、遠山さんは話を続けます。
「つゆものが好きなんですけど、スープと同じつゆものでも、ラーメンでスタートしていたら今、この場には立っていなかったと思います。会社名もスマイルズではなかったのでは?たとえば次の業態は、餃子しか思い浮かばない。同じ外食でも、同じつゆものでも、何を大事にしているかで次の発展性が変わってくる。何を軸にするかということですね」
「やりたいこと、という4行詩」、2つめの「必然性」は、三菱商事で働いていた頃に抱いていた「社長になってみたい」という思いでした。3つめの「意義」はSoup Stock Tokyoを始めるきっかけにもなった、世の中や外食産業に対する「なんでこうなっちゃうの?」という素朴な疑問や苛立ちのようなもの(著書「スープで、いきます」より)からきていると遠山さんは話します。
「いろいろな疑問、苛立ちってありますよね。それは大きな(アイデアの)宝庫だと思います。私も今、担当している大学のゼミで、生徒たちに『不満を20個書き出そう』と言っているんですけれども、それらはたとえばオセロで黒を白にしたら勝ちになるような感じで、その不満をもしひっくり返せれば、勝ちですよね。それが、自分でオリジナルなもの、なかった価値を創るということ。だから、そういったものを発見できるといい」
笑顔が連鎖する、レモンのお洋服
ここで話は、2016年のスタート以来、多くのアートファンたちを引き付けている「瀬戸内国際芸術祭」へと移ります。この芸術祭へは、今年もたくさんの人が訪れていますが、こちらにもスマイルズは関わっています。それは泊まれるアート作品、「檸檬ホテル」。2016年から芸術祭への作品として出品しながらも、実際に1日1組のみが泊まれるホテルとしてたくさんの注目を集め続けています。
スライドで紹介されたのは、レモンたち。黄色の毛糸のようなもので大切そうに包まれています。
「これはレモンのお洋服です。檸檬ホテルに行かないと買えないもので、価格はレモンが入って1個1,200円です。どういう商品かというと、このレモンを見ると、だいたい反応が2通りあるんです。『なにこれ?』と『かわいい!』の2つ。若い女性が『なにこれ?』とうっかり買う、それで東京に戻って友人に、『はいこれ』と渡す。友人は『何これ?』と聞く。それで『ん?レモンのお洋服よ』と答える。そういう商品なんです。笑顔が連鎖していく。私は、スマイルズもこんなふうになったらいいなと思っています。
少なくとも、マーケティングやアンケート調査からは、レモンのお洋服があったら買いたいなんていう答えは多分存在しないですよね。だから、レモンにお洋服があったらいいかもと思いついた時とか、『もうちょっと服のとっくりのあたりはこうしたい』と話している時とかが楽しいんです。ビジネスとしてはこのレモンのお洋服だけだと成立しないのですが、売上と利益の関係性でプラスになれば、こういうものを積み重ねていって仕事になったら楽しいですよね」
「なんでやりたかったんだっけ?」の問いは後に救いになる
講演の後は、参加者との質疑応答が行われました。講演を通してそうでしたが、とてもわかりやすい言葉で、語りかけるように答えていく遠山さんの姿勢が印象的でした。
参加者は、本気で起業を目指す学生たち。やりたいことを大切にしながら楽しく事業を創っていく遠山さんのお話に心を動かされながらも、本気でビジネスに取り組みたいからこその具体的な質問が多く飛び交っていました。
─起業家やCEOの立場では、数字やロジックで話すことが必要な場面が多いと思います。遠山さんは右脳と左脳のバランスをどのように取られていますか?
「左脳と呼ばれる数字のことなどは、放っておいても必ず出てきます。そしてそれを教えてくれる人は、先輩や参考書、コンサルタントや銀行などたくさんいます。だけど、肝心の『なんでやりたかったんだっけ』や『誰がやりたいの?』、『そもそもこれどうして?』など、肝心な部分が抜け落ちてしまっているものがすごく多いんです。だから、私はいろいろな場面でことさらそのことを話しています」
─起業する時、生活していけるかといった悩みを抱いたことはありますか?
「今でもうまくいっていない事業はたくさんあります。いい事業なんだけれど、おもしろい展開になってきたのだけれどなかなか黒字にならないという。それらを黒字化するのが私の使命みたいなものなのですが、苦労はあります。そんな時、最初の『なんでやりたいんだっけ?』という部分を何度も振り返ります。少し引いてみて、本当に実現したいシーンみたいなものをもう一度問いかけると、言葉づかいなども変わってきて、大事にすべき優先順位みたいなものが変わってきます。ハンドルと行き先が見えると、あとはアクセルをふむだけ。まわりの人たちにも『手伝ってよ』と堂々と言えます」
─起業するのに向いている人、向いていない人はいるのでしょうか。また才能や努力は関係あるのでしょうか。
「才能みたいなものはわかりませんが、役割のようなものはあると思っています。たとえば私は、社長とは映画監督かなと思ったりするんです。『こういう映画が撮りたい』と思いつくと、やった!となる。それでプロデューサーを探して、お金を調達する人、主役、カメラマン、スタイリストなどを決めていく。監督の私は結局、何もできなくてイメージを伝えたりするだけなのですが、その映画を作っているシーンを考えると、映画館でチケットのもぎりしている人もいるし、映画館でフィルムを回す人もいる。
いろいろな役割の人がいて、プロジェクトは成立します。自分がどこに向いているのかが早めにわかるといいかもしれないですね。そして誰でも、言い出しっぺになり得る。たとえば、もぎりの人は誰よりも映画館で映画を観ている。その人が『こういう映画はどうでしょう?』と提案することから映画作りが始まることもあると思います」
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いかがでしたでしょうか。
遠山さんのお話にあった、「やりたいこと、という4行詩」。ご自分の言葉で一度作ってみてはいかがでしょうか。その答えが、先へとつながる大きな気づきになることを願っています。
今回遠山さんがお話されたのは、神奈川県在住、または在学している大学生や大学院生たちを対象にした神奈川県庁主催の起業家創出プログラム「WOW KANAGAWA 2019」のオープニングイベントでした。
学生の今だからこそ気付くこと、また沸き上がるアイデアや思いをビジネスにして世の中に発信していく。その実現のために、約7ヶ月かけて同世代で起業を志す仲間とともにプランを練り上げていくこのプログラム。4ステージから成り立ち、起業に必要な「観察する力」「つくる力」「売る力」に力点をおいたプログラムを展開します。「カラダ」「地域くらし」「テクノロジー」の3領域でビジネス・アイデア/プランを募集しているようです。応募締め切りは8月5日。すでにアイデアをお持ちの方、また起業に関心がある方、ぜひチャレンジをしてみてください!
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