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組織変革、そして代表退任。ETIC.らしい進化の旅路へ──宮城治男×嘉村賢州

2021.05.24 

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「ETIC.らしい進化の旅路が、新しく始まろうとしている感じですね」

 

今回の対談後、「ティール組織」解説者・嘉村賢州さんからいただいた言葉です。

 

 

さて、当メディア「DRIVE」を運営するNPO法人ETIC.(エティック)は、2021年6月から組織体制が大きく変わります。その一環として、1993年の団体設立から28年間、代表を務めてきた宮城がこの度退任いたします

 

「エティックの組織の進化を最大化させたい」という想いからの決断でしたが、最初に聞いた時は社内でも大きな驚きがありました。一方で、これまで進めてきた組織変革がさらに加速していく──そんな予感がした瞬間でもありました。

 

 

今回は、エティックの組織変革をサポートくださった嘉村賢州(かむら・けんしゅう)さんをゲストにお招きし、「組織変革から代表退任に至る経緯と、その思い」について、宮城との対談形式でお届けします。

 

※本記事はダイジェスト版です。長編版も同時公開しております。ティールとともに歩んできた組織変革ということもあり、長編版ではティールの基本的な概念についても理解を深めていただける内容です。ぜひあわせてお読みいただければ幸いです。

 

※本記事の掲載情報は、2021年05月現在のものです。

 

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宮城 治男 / NPO法人ETIC. 代表理事

 

93年学生起業家のネットワーク「ETIC.学生アントレプレナー連絡会議」を創設。2000年にNPO法人化、代表理事に就任。11年、世界経済フォーラム「ヤング・グローバル・リーダーズ」に選出。文部科学省参与、中央教育審議会 臨時委員、内閣官房まち・ひと・しごと創生会議構成員等を歴任。

 

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嘉村 賢州(かむら・けんしゅう)さん / 場づくりの専門集団NPO法人「場とつながりラボhome’s vi」代表理事、東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授、『ティール組織』(英治出版)解説者、コクリ!プロジェクト ディレクター(研究・実証実験)

 

集団から大規模組織にいたるまで、人が集うときに生まれる対立・しがらみを化学反応に変えるための知恵を研究・実践。研究領域は紛争解決の技術、心理学、先住民の教えなど多岐にわたり、国内外を問わず研究を続けている。実践現場は、まちづくりや教育などの非営利分野や、営利組織における組織開発やイノベーション支援など、分野を問わず展開し、ファシリテーターとして年に100回以上のワークショップを行っている。

 

2015年に1年間、仕事を休み世界を旅する中で新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、今に至る。最近では自律的な組織進化を支援する可視化&対話促進ツール「Team Journey Supporter」を株式会社ガイアックス、英治出版株式会社と共同開発。2020年初夏にサービスをローンチした。

 

組織変革、その前提にあるストーリー

 

宮城 : まず前提となる話から入りますね。

 

エティックは、1993年の設立以来、起業家やチャレンジをする人を応援し、そういう生き方の選択肢を社会に伝え続けてきました。その背景には、空前の豊かさと自由と、日本でいえばおそらく平和が当たり前にある、そんな先人の理想が実現したような社会に生きながら、多くの人が自分で自分自身の生き方や働き方の可能性を限定してしまっている──それを解き放っていきたい、という願いがありました。

 

そしてここまで、NPOというニュートラルなスタンスで多くの人たちの想いを集め、社会の新しい流れをひらいていく役割を担ってこれたのかなと思っています。

 

ITなどの進化もあり、小さなひとりの思いが一瞬で世界に届き、お金も動く時代になりました。私の目からみれば、一人ひとりの人が社会に与えられる影響力が、団体設立当時とは比べようもないほど大きくなっています。ある意味エティックが目指してきた、「一人ひとりがアントレプレナーシップを持ちうる時代」が現実に近づいてきているとも感じています。

 

そんな軽やかなはずの時代に、エティックのスタッフたちが、自分たちの思いは後回しにして、時に無理をしてまで、ミッションのために仕事をしていくというこれまでのやり方は古くなってきていると感じ始めていました。むしろエティックで働いている一人ひとりが自由な生き方を体現し、それが自然に伝播していく──そして多くの人とともにそれを分かち合っていくスタイルの方が、インパクトが大きくなる時代なんじゃないかと。

 

実際に、エティックが大事にしている価値観と実際の組織のあり方のギャップの中で痛みを感じる人も出てきました。これはもう待ったなしで組織自体の変化に向き合う時だということを思ったのが、4〜5年ぐらい前でした。

 

その後、組織変革に取り組みはじめてから1年ほど経過した頃に、「ティール組織」(*)が出版されました。自分がアントレプレナーシップについて伝えたかったことが、社会のパラダイムの進化とともに整理されている気がして、すごく心に刺さりました。ティールの概念を取り入れることは、エティックの組織の進化のてこになるんじゃないかと思いました。

 

(*) “数万人規模のグローバル企業から先進的な医療・介護組織まで、膨大な事例調査から導き出した新時代の組織論”について執筆された書籍。《引用元 : 書籍「ティール組織」(著 : フレデリック・ラルー、訳 : 鈴木立哉、解説 : 嘉村賢州)の帯より》

 

そして、「ティール組織」日本版の解説者である賢州さんともご縁が深まり、この変革に伴走いただくことになりました。

 

「結構自分の中では新鮮なひらめきだったんですね。なぜならば、代表を退任するなんてことを今まで真剣に考えたことがなかったんですよ。」

 

宮城 : 組織変革の旅路を歩みはじめ数年がたち、徐々にエティックの組織のあり方が「耕されてきた」感覚はありました。新しい事業が生まれやすくなったり、人やお金の課題を自律的に解決していくような動きも進んでいました。しかし、「何かが足りない」「もう一歩で壁を越えられる」というジレンマも感じてはいました。

 

そんな時、「ティール組織」の著者、フレデリック・ラルーさんが2019年に来日され、リトリート(日常を離れてリフレッシュしたり内省をするプログラム)に参加しました。その一泊二日の研修の中で、彼の生き方自体がティールの概念を体現している人だなと感銘を受けました。

 

直接的にどの言葉というよりは、彼のセッションを受けつつ、「自主経営(*)をやっていくのって、そもそもこの組織が誰のものなのかっていうところが出発点になっちゃうよな」と思ったんですね。誰かの顔色を伺うのではなく、スタッフ一人ひとりが組織が本来何を世の中に提供していくかや自分が何をして世の中に貢献していくかを自ら問い続け行動していく状態にならないのであれば、なんか取ってつけた改革だなと。

 

(*) “大組織にあっても、階層やコンセンサスに頼ることなく、仲間との関係性のなかで動くシステム”のこと。セルフ・マネジメント。《引用元 : 書籍「ティール組織」(著 : フレデリック・ラルー、訳 : 鈴木立哉、解説 : 嘉村賢州)》

 

賢州 : なるほど。

 

宮城 : これ、表現が難しいんですけど、エティックってやっぱりよくよく考えて、突き詰めると、「宮城のもの」になってしまうのかなと思ったんですよ。

 

28年前に始めて、ずっと創業経営者でやってきて、その役割分担として代表なので当然表に出るし、それでいうと、誉(ほま)れもリスクも、最終的に自分が握ってしまっているところがあるなと。

 

やはりどうしても組織構造としてのエティックは未だヒエラルキー型であり、その頂点に自分がいるという中で、「これを手放してしまうのが一番早いかも」と忽然(こつぜん)と思ってしまいました。

 

結構自分の中では新鮮なひらめきだったんですね。なぜならば、代表を退任するなんてことを今まで真剣に考えたことがなかったんですよ。まったくもって「代表にしがみつきたい」みたいな感覚はなかったんです。むしろ「まあこんな役回り誰もやりたくないだろう」「だからやれるところまで走り続けるしかないだろう」と思っていました。

 

賢州 : どうしても「組織=創業者のアイデンティティ」になってしまって、過剰に組織の痛みが個人の痛みになってしまっているケースはありますね。その状況下で組織経営が属人的になっている組織は多いです。

 

ティール組織の観点から言うと、「組織として、この世に何を表現(実現)していくのか」という存在目的の声を聞くことや、「新しい世界観で組織を運営していく」というあり方的なことと、旧来のマネージメントという言葉で想起する「数値を追いかけるとか業務を確実に遂行させる」という管理的な部分を一人が両立していくことは、本当は不可能と言えるぐらいだと思います。

 

また、宮城さんが根本的に感じていた、「世界の価値観は変わってきていても、自身の組織が人の自由度を全然生み出してない」という部分に感覚が動いていること。その上で、今回の代表退任は「組織を健全に機能させていく上で、役割を引き剥がしていったというプロセスなんだな」ということをすごく感じながら聞いていました。

 

宮城 : ありがとうございます。

 

補足的に言えば、フレデリックさんは、主に組織の代表が集まっているリトリートでしたけど、別に代表に辞めろとは言っていません。「(ティール的な組織運営における)リーダーとして必要のない役割は手放せ」「すっきり手放してしまうことでティールの進化が起きていく」っていうことが言いたかったんだと思うんですけど。自分はその話を受け取りつつ、自分自身が手放すという方向の結論になっちゃったんですよね。

 

ただそうひらめいてしまったら、代表という役割を手放すことに対してもう良いイメージしかわかなくて、二度と自分のなかで覆ることはなかったです。エティックというちょっと変わった、志だけで集っているような組織が、この時代に次のステージにいくためには、そうするしかなかったのだろうなと、今では思っています。

 

一人ひとりがやりたいことがちゃんと選択できる構造に変容する旅路への「最後のパズルのピース」

 

賢州 : 退任についてお伺いしたいことが、三つあります。

 

一つは、エティックという組織の声を聞く時に、「最後の一歩が自分が抜けることなんだ」ということを感じたのかどうか。次に、組織の変容が進んでいく中で「(抜けてしまっても)大丈夫そうだ」という感覚があったのかどうか。最後に「宮城さん自体が新たな呼び声(自身の新しい目的)を感じているのか」どうかです。

 

宮城 : 自分自身については、「次にやりたいことがある」みたいな感覚ではないです。しかし「手放すことでみんなが進化する、自分も含めて」と招かれている感じはあります。

 

そして前二つはやっぱりありましたね、決断した時点で。「なんかそろそろ、そのタイミングが来たな」という感じはあって。

 

退任については昨年一年かけてスタッフのみんなに話したのですが、その過程で組織が成熟してきていたんだなということもすごく感じました。思った以上に、みんながちゃんと受け止めてくれました。

 

自分は毎年、年始の挨拶みたいな感じでスタッフ一人ひとりにメールを書いているのですが──今年はこれ最後だと思いながら書いたんですけど──そのリアクションの中に、「実は私もこういうことをやりたくて準備を始めてるんです」みたいなことを返してくれる人が結構たくさんいました。

 

「自分は『なんでも話して!』っていつも言っているつもりだったんですけど、組織の構造の中でトップにいる人間に対して、自分の企みや本当の思いはそんなに言えなかったんだな」と思いました。このプロセスを通して、みんなに「自分が本当に大事だと思うことはやっていいんだ」という自由な感覚を得てもらうきっかけになったのかなという気がして、とても嬉しかったです。

 

賢州 : 冒頭におっしゃっていた、「一人ひとりが主役というか、一人ひとりが生き方の選択肢というものを持って欲しいけど、今の日本社会はそうなっていなかった。だからこそ、アントレプレナーシップということを伝えていった」という観点で言うと、宮城さんが今回飛び出すということで、エティックにいる一人ひとりがやりたいことがちゃんと選択できる構造に変容する旅路への「最後のパズルのピース」というかそんな一手な感じですね。

 

皆さんが今の自分や組織に向き合い、考えていくきっかけにもなれたら

 

──最後に、読者の皆さんに伝えたいことはありますか。

 

宮城 : 自分が代表を退任して、エティックは「全員が主体となって、全員で作り出していく、全員で経営していく場」になります。

 

そしてこの変革は、組織の枠組み、垣根を取り払い、皆さんに参画いただきつつ、大きなエコシステムをつくりだしていきたい、という狙いもあります。よく「次の代表は誰なんですか?」と聞かれるわけですが、「エティックに関わる皆さん一人ひとりなんです」と言いたいくらいです。

 

プログラムに参加してくださった人たち、エティックに関わってくださる人たち一人ひとりも、新しい時代が求めているような生き方を体現していく大切な存在なのだと思っています。

 

エティックで生まれるご縁が、社会を良きものにしていくことを共に広げていく仲間という意味で、オープンに開放される。そして関わる人それぞれが当事者として一緒に社会を創っていける──そんな場にみんなで進化していく契機となればと思っています。

 

今回の変革が、「自分たちの組織のあり方は、どうしていこう」「自分の人生や仕事で、本当に大切にしていきたいことは何なのか」など、皆さんが今の自分や組織に向き合い、考えていくきっかけにもなれたらという願いもありますね。

 

メッセージサイトもぜひご覧ください。

 

以上、嘉村賢州さんと宮城との対談でした。

 

実は対談当日は2時間以上にわたり話が盛り上がりました。今回はダイジェスト版としてシンプルに分かりやすい記事を皆さまにお届けしました。「二人の言葉をさらに丁寧に皆さまにお伝えしたい」という想いから、長編版も同時公開しております。

 

ティールとともに歩んできたエティックの組織変革ということもあり、長編版をお読みいただくことで、「ティール組織」の本を読んだことがある方にもこれから読みたいと考えている方にも、ティールの基本的な概念についても理解を深めていただけるかと思います。

 

ぜひあわせてお読みいただければ幸いです。

 

長編版はこちら↓

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さて最後に。今回のエティックの組織変革を皆さまにお知らせする特設サイトを作成しましたのでご紹介します。組織体制・経営体制の変更に関する詳細のほか、エティックのスタッフや今までご縁をいただいた皆さまからのメッセージを掲載しています。この記事を読んでくださった皆さまもぜひ一言、これからのエティックに期待することなどをお寄せいただければと思います。

 


 

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本記事から3ヶ月後の「ETIC.の現在地」をお伝えする記事も公開。ぜひあわせてお読みいただければ幸いです。《2021年08月26日追記》

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Ryota Yasuda

1989年生まれ。早稲田大学スポーツ科学部卒業。執筆・編集する、アート作品をつくる、ハンドドリップでコーヒーを淹れる、DJする、など。「多趣味多才」をモットーに生きている。2015年よりETIC.参画(〜2023年5月末まで)。DRIVEでの執筆記事一覧 : https://drive.media/search-result?sw=Ryota+Yasuda