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好きなことが仕事に。黒田製作所・黒田知範さんの原体験とは──

2021.07.26 

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撮影 : 玉利康延

 

『好きなことが仕事に──その10年はたしかに血となり肉となっている』

 

映像作品のプロデュース・製作、UI/UX設計、WEBデザインやマーケティングなど、多岐にわたって10年以上活動されている黒田さんはそのように語ります。本記事では「原体験」をキーワードに黒田さんにお話をお伺いしました。

 

私自身、普段「本当は何をやりたいのか?」「何を仕事にしたいのか?」といったことをよく考えてしまう性格なのですが、「そのヒントは灯台下暗しで、意外と身近なところに転がっているのではないか」と、取材を通じて改めて気づくことができました。

 

さて、あなたの「原体験」もぜひ思い浮かべながらお読みいただければ幸いです。新たな一歩を踏み出す「きっかけ」がそこにはあるかもしれません。

 

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黒田製作所 / 黒田知範さん

 

鹿児島出身 東京在住。実家は鹿児島の老舗中国料理店。1988年、鹿児島生まれ。京都造形芸術大学映像・舞台学科中退。UI/UX設計や企業、非営利団体、イベントなどのアートディレクション、コンサルティング、マーケティングなど媒体を選ばずデザイン活動を行なっている。図書館検索サイト「カーリル」に立ち上げから参画。主な仕事に坂本龍一 Playing the Piano @Seoul ウェブメンバー、「移住ドラフト会議」アートディレクター、「東北食べる通信」料理撮影・デザイン、みずほ銀行「JUMP!」キャンペーン動画など。「マーボーナイト」を主催するマーボーJr.としての活動も。

 

黒田製作所のWEBサイト

 

「初代iMac」がすべての始まり──

 

──多岐にわたって活動されていらっしゃいますが、黒田さんの「原体験」についてお話をお聞かせください。

 

黒田 : 幼い頃、レゴで色々作るのが楽しかった思い出があります。小学校時代はずっと工作に夢中になり、とにかく自分が遊ぶものは自分で作って、休み時間に友達と遊んでいました。

 

父親が映画をよくレンタルしてきたこともあり、家に帰ると何かしら映画を見ていたような毎日でした。そんな中、小学校5年生の時に、「初代iMac」が自宅にやってきました。その中に搭載されていたビデオ編集ソフト「iMovie」で作った、プラモデルとレゴを使ったアニメーションが、人生初の自分の映像作品でした。

 

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小学校5年生の時に、黒田さんのご自宅にやってきた「初代iMac」。2021年現在も保存してあるそうです。

 

──その後の、中学時代のお話もお願いします。

 

黒田 : インターネットの環境も整ってきて、中学1年の時に、iMacのソフトを使ってホームページを作ったり、掲示板を立ち上げたりしました。インターネットを使って情報発信することの第一歩です。

 

中学2年の文化祭では、クラスみんなで10分ほどの短編映画を製作しました。

 

出演者はクラスメイトのみんなで、脚本は友達と作りました。監督は僕で、企画・脚本・演出・カメラなど、当時DVDの特典でついてきたメイキングムービーを見よう見まねで、全てを担当しました。これは、今の仕事にも繋がるとても良い思い出です。

 

中学3年の時も映画を製作し、より多くの生徒に観てもらうために、チラシやポスターを作って、校内に勝手に張り出してよく怒られましたが、出来がいいので先生が許可をとってくれるほどでした。今の仕事の原型は、この頃からずっと変わっていませんね。

 

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黒田さんが中学校の時に製作した映画のワンシーン・その1

 

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黒田さんが中学校の時に製作した映画のワンシーン・その2

 

──続けて、高校や大学時代についてもお話をお聞かせください。

 

黒田 : 高校時代は、友人と自主制作の映画を製作していました。この時は監督ではなく、カメラや演出を担当しました。また同級生から映像編集の依頼をもらうこともあり、同級生がクライアントのような感じで、休みの日になれば撮影、帰ってから編集という業界人さながらの忙しさでした。

 

大学は、京都造形芸術大学の映像舞台芸術学科に入学し、ここで「実験映像」に出会い、その世界にどっぷり浸かりました。

 

その後、紆余曲折あり、ドキュメンタリー畑へ。物事の捉え方を数々の作品を通して学んだことが、映像の世界だけではなく、ものづくりの現場や全ての仕事に通づることだったと、今になってまざまざと感じます。

 

在学中には新しく映画学科が設置されるということで、そのプロモーションのお手伝いでアートディレクションを担当しました。先ほどもお伝えしましたが、今も昔もやっていることは一貫していて、何も変わっていないですね(笑)

 

黒田製作所、発足へ──ネーミングに込めた想いとは?

 

──黒田製作所は2008年発足ということですが、発足当時のお話もお聞かせください。

 

黒田 : 結論から言うと、諸事情により大学を2年で辞めました。ただありがたいことに、当時の理事長や職員、友達たちが支えてくれました(お前は辞めちゃいけない!とみんなに言われたのも懐かしい思い出です)。

 

大学を辞めた後は、社会勉強の意味も込めて、引越しのアルバイトやカフェの店長などを経験しました。しかし、それまで自分がやってきた映像やデザインの仕事で食っていきたいと思い、アルバイトを辞めたら、なんと次の日から仕事をいただくことができました。とても印象的な出来事で、今でも鮮明に覚えています。

 

実はその前後に、デザイナーの先輩2人から「お前はもう、『黒田製作所』という名前でいいんじゃない」と命名され、それが「黒田製作所」の始まりです。というのもそれまで周りから「器用貧乏」と言われてきたのですが、それをポジティブな言葉に変換しようとした時に出てきたのが「製作所」という言葉でした。

 

人によっては「器用貧乏」は言われて嫌な言葉だと思います。僕も最初は嫌でしたが、今は誇りに思うと同時に、「好きなことはなんでも伸ばしてしまえ!」と、ポジティブな言葉として捉えるようになりました。

 

──「黒田製作所」というネーミングに込めた想いはどのようなものでしょうか?

 

黒田 : 「黒田製作所」というのは、その名の通り、困った時に頼りになりそうな町工場のようなイメージです。また便利屋のようなイメージでもあり、やることを絞らずに、常になるべく新しいことをしていたいという気持ちがあります。

 

「黒田製作所」というネーミングを僕もすぐに気に入って、さっそく名刺を作ってスタートさせました。その当時は、友達や大学時代の教務の先生から仕事を紹介していただきながら、活動を続けていました。

 

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「黒田製作所」発足当時の仕事場(黒田さんが常駐していたシェアハウス内)《写真 : 黒田さん》

 

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「くろだめし」と題して、黒田さんが料理し、友達に振る舞っていたとのこと。「くろだめし」の企画は今も続いているそうです。《写真中央 : 黒田さん》

 

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マーボーナイトで「マーボーJr.」として中華鍋を振るう黒田さん

 

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その場で花椒をすり潰して提供する麻婆豆腐

 

好きなことが仕事になり、たしかに自分の血となり肉となっている──

 

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2020年10月岐阜県郡上市、川での撮影中風景《写真 : 黒田さん》

 

──絞るのは難しいと思いますが、今まで数々の仕事を手掛けられてきた中で、特に印象的だったお仕事はありますか?

 

黒田 : 日本最大の図書館蔵書検索サイト「カーリル」(*)の仕事です。

 

(*) 全国の図書館の蔵書情報と貸し出し状況を簡単に検索できるサービス。

 

僕はこのサイトの立ち上げからデザイナーとして参画しています。運営しているのは4名と少ない人数ですが、2011年3月より10年以上サービスを月間20万ユーザーに提供し続けています。

 

立ち上げ当時、3日間で1つのプロダクトを作るというテーマで、開発合宿を毎月実施していました。初日のブレインストーミングから始まり、最終日にはサービスを形にしてローンチするという流れです。この合宿でローンチされたプロダクトは数知れず。

 

そのような中誕生したカーリルは、ブレストがあまりにも楽しくなり、合宿を2日のばし、「構想に2日、開発に3日」の計5日間でローンチしました。開発合宿の経験があったからこそ、スピード感を持って仕事をするスタイルが自然と身につきました。

 

また原体験という観点だと、メンバー共通の認識として「図書館が面白くなく、行きたいとあまり思えない」「図書館のWEB検索が使いづらい」などがありました。しかし本来は、「図書館は知の集合体で、みんなぜひ行くべきところで、心のよりどころにもなる場所」です。なのでカーリルでは「自分たちが面白いと思う図書館」を表現しました。

 

「本の世界は楽しい」「明るい未来が図書館から描けるように」ということを僕はデザインで表現しました。目に眩しい青をチョイスしたり、ボタンには蛍光のオレンジを使用したりと、エンターテイメント性のあるものを作りました。

 

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カーリル

 

──当メディア「DRIVE」の運営元・NPO法人ETIC.(エティック)が実施している「地域ベンチャー留学」(*)というプロジェクトのクリエイティブについて、2015年から黒田さんにはお世話になっていますが、この仕事についてもお話をお聞かせください。

 

(*) 大学生を対象とした実践型インターンシップ・プログラム。

 

黒田 : 地域ベンチャー留学ではチラシ・ポスター・WEBを制作しています。

 

クライアントワークとしては、文章や写真が渡されてデザインするというのが通常のデザインの仕事かと思いますが、自分が今までやってきた経験やデータから、より良い解を導き出すために逆提案もします。自分でキャッチコピーを書いたり、写真を撮影したり、WEB構成やマーケティングを考えたりといった感じです。

 

このスタイルが僕の強みでもあります。

 

地域ベンチャー留学の場合、事務局のみなさんと一緒に議論しながら導き出しました。その中でも一番難しいと感じたのは、対象が大学生ということで、流行り廃りが激しい中で、「どのようにプロモーションを打っていくのか」ということでした。

 

2015年に初めて依頼された時に感じたことは「地域ベンチャー留学のようなプロジェクトが、僕の学生時代にもあったら良かったな」ということでした。僕が学生時代、インターンは自分ごとではなく、意識の高い学生がやるものだと思っていました。

 

しかし、意識の高くない学生でも、しっかりと訴求して何かのきっかけさえあれば、インターンに挑戦するのではないかと考えました。

 

試行錯誤を続けながら、現在のクリエイティブになっていますが、特にここ1〜2年のキャッチコピー「地域との挑戦は、わたしを強くする。」は、特にその想いがしっかりと具現化され、しっくりきているのではないかと思います。

 

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地域ベンチャー留学

 

──最後に、黒田製作所を10年以上続けられてきて、今どんなことを感じていますか?

 

黒田 : 僕を贔屓(ひいき)にしてくださる方、頼りにしてくださる方、作ったものを良いと思ってくださる方がいるからこそ、活動を続けることができました。そういう方々がいてくださる限り、「ぜひ一緒にやりましょう」と。

 

黒田製作所の発足以来、好きなことが仕事になり、あらゆる経験がたしかに自分の血となり肉となっています。より良いものを作っていくという意味で、これからも色々と吸収して、自分の感覚もさらに磨いていかなければいけません。

 

また今後も、未来をつくっていくことをポジティブに捉え、「うまくいくかどうかはわからないけど、とにかくまずやってみること」を大切にしていきたいと思います。

 

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ロゴ制作・WEBデザイン(https://anoneproject.me)

 

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「東北食べる通信」料理撮影(スタイリング : 中山晴奈)

 

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「東北食べる通信」写真撮影・デザイン

 

──ありがとうございました!引き続き、心から応援しています!

 

※本記事の掲載情報は、2021年6月現在のものです。

 

取材後記

 

冒頭でもお伝えした通り、黒田さんへの取材を通じて、私自身「原体験」の大切さを改めて痛感しました。

 

それはすでに自分自身が認識している原体験かもしれませんし、「そういえば小さい頃、こんなことに夢中になっていたな」と忘れかけていた原体験かもしれません。もしくは、「こんなことやりたいと夢を描いていたけど、そういえばいつの間にか諦めちゃっていたな」というものかも。

 

小学校5年生の時に自宅にやってきた「初代iMac」がすべての始まりだった黒田さん。

 

小学生で映像制作し、中学では短編映画を制作し、チラシやポスターを作り広告を校内に打って…と、現在のお仕事の原型がずっと変わっていないというお話は特に印象的でした。

 

「小さい頃、自分はどんなことに没頭していたっけ?」と取材後に振り返ってみたほどでした(笑)

 

本記事が、みなさんの新しい気づきやアクションの「きっかけ」になれれば、ライターとしてこれ以上の幸せはありません。みなさんもぜひご自身の「原体験」を振り返ってみてはいかがでしょうか?

 

 

最後に、ETIC.(エティック)が実施しているプロジェクトのWEBで、黒田さんが制作くださったものをご紹介します。

 

 

 

最後までお読みくださりありがとうございました。

 

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Ryota Yasuda

1989年生まれ。早稲田大学スポーツ科学部卒業。執筆・編集する、アート作品をつくる、ハンドドリップでコーヒーを淹れる、DJする、など。「多趣味多才」をモットーに生きている。2015年よりETIC.参画(〜2023年5月末まで)。DRIVEでの執筆記事一覧 : https://drive.media/search-result?sw=Ryota+Yasuda