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なりゆきの未来から、意志ある未来へ。持続可能な社会をつくる、離島・海士町に吹く「新たな風」とは

2018.12.03 61view 

海士町風景

600人超。

この約10年の間に、人口2300人ほどの島根県海士町(あまちょう)に移り住んだ人の数である。

海士町は、日本海の島根半島沖合約60キロメートルに浮かぶ、隠岐諸島のひとつ。松江市から、フェリーで約3時間かかる場所にある。

「定着率は、50%くらいなんですが、中山間地域では高い方です。新しい人がどんどん増えるので、最近は誰が移住者か分からない。地元の人の気持ちが分かるようになりました。」

2008年にトヨタ自動車を退職し、海士町で起業した、阿部裕志さん(40)が笑った。

abe

阿部さんは今年、10年経営してきた地域づくり・人材育成・メディア事業に取り組む

「株式会社 巡の環(めぐりのわ)」を、「株式会社風と土と」に社名変更した。リニューアルされた会社のホームページには、“10年前に自分の中に吹く風を感じて海士町に移住してきましたが、今もまた新たな風を感じています。”と、阿部さんのメッセージがつづられている。

これまでも、海士町はまちづくりのトップランナーだった。廃校寸前だった隠岐島前高校の復活、島の産業の再生etc。圧倒的に不利な条件からの痛快な快進撃は、注目を集めた。その海士町で、新しい風がまた起ころうとしている。その渦の中心にいる阿部さんに、今回、お話をうかがった。

海士町は、持続可能な社会をひっぱるタグボートになる。

海士町には、「ないものはない」という一風変わったスローガンがある。

コンビニもない、自販機もない、映画館もない。なくていい。「ない」からこそ、楽しむための工夫が生まれ、人との絆も生まれる。本当に大事なものは、すべてここにある。

海士町写真町内綱引き大会

この海士町の“足るを知る”精神が、今年、香港で行われたクオリティオブライフ国際会議で世界に向けて発信された。人類の活動で消費される資源は、地球1個分を超えている。「ないものはない」という考え方、暮らし、幸せのあり方は、持続可能で幸せな社会に役立つ新たなモデルになる、というものだ。

「このままだと持続不可能な世界を、この先、自分の子ども、孫の世代に残すことになる。

ツケの先送りです。これって、全然、人類が進化していない。次の世代は、もっと楽しく暮らせる人が増えてほしい。なりゆきの未来から、意志ある未来へ。それに向けてアクションを起こしていきたいと思っています」

阿部さんは続ける。

「海士町は、社会実験がやりやすいんですよ。これからの社会ってこうなったらいいな、と思うことを試しやすい。ある意味、島まるごとが、自分たちのほしい未来への『人生実験』の集合体です。」

例えば、再生可能エネルギーやITを用いた遠隔医療のような「技術」、GNH(国民総幸福度)やSDGs(持続可能な開発目標)、ティール組織やベーシックインカムといった「考え方や取り組み」。こうした新しいアイデアを現実にしていくためには、何度も試作を繰り返す商品のように、実社会でテストしなければならない。この社会実験を考えた時、海士町は、規模が小さく、やってみよう!という前向きな人が多く、やりやすいのだ。現在も、町職員に半農半漁をベースとした副業を後押しする「半官半X」制度、町のUIターン者や求職者を一手に引き受ける「島の人事部」、GNH(国内総幸福量)を反映した地域づくりなど、未来を創っていくために必要な様々なアイデアが生まれ、実現に向けて取り組みが進んでいる。この10年以上の度重なる挑戦で、新しいものを受け入れる空気が町の中に出来上がっている。

「理想はあっても、みんな、なかなか形に出来ないですから。『ここなら何かできそうだ』という期待が、移住を決意させるトリガーになっていると思います。」

海士町話し合い風景2海士町話し合い風景

今年は、英治出版の社長・原田英治さんが東京から移住されている。元世界銀行副総裁の西水さんをはじめ、国内外から著名人が島を訪れており、「会いたい人に会いまくれる島」と、阿部さん。

「高度成長期の時は、海士は最後尾でした。でも、成長経済には限界がくる。パラダイムシフトが起きて、持続可能な社会に舵を切った時、海士町は都会から遠く離れていたからこそ残っていた人と人が助け合う関係性や人と自然が共存する知恵を活かして、日本のタグボートになります」

「タグボート」とは、小回りの効かない大型船を引張って誘導する、小さな船のこと。阿部さんのワンクリックで、プレゼン資料のボートの船首が左から右へ変わった。ボートは風見鶏の矢のようでもある。「今もまた新たな風を感じています」という、阿部さんのホームページの言葉を思い出し、胸が高鳴る。風向きが、変わるのか。私たちの社会は、ゆっくりと、向きを変えつつあるのだろうか。

スライド資料

私と仕事と社会をつなぎ、未来を“自分ゴト”にする

持続可能な社会に舵を切る。言葉では簡単だけれども、リアルにその姿を思い描くのは、多くの人には、なかなか難しい。

例えば、地球の温度が1度上がったことよりも、売上の上下が重要な関心事である営業マンは多いだろうし、途上国の労働問題に気をもみながらも、セールで洋服を売り裁かねばならないスタッフもいるだろう。知識はあっても、行動は矛盾だらけ。「そうは言ってもね」と、日常の忙しさの中に違和感を封じ込めてしまう。自分の明日のご飯の方が、切実だから。

阿部さんは、「社会を変えるには、企業を巻き込まないと難しい」と話す。

「社会課題の多くは、経済活動から生み出されます。会社の先には社会があるけれど、『社会人』ではなく『会社人』になっている人が多い。『会社』と『社会』の扉をあけるには、一人ひとりが、私と仕事と社会を紐づける“マイプロジェクト”を考える必要があります。会社を利用して、どうやってマイプロジェクトを回していくかに向き合わないといけない。」

『風と土と』では、このような社会の未来を“自分ゴト”にするための企業研修を行っている。海士町は、地域のサイズが小さいので、自分と仕事と社会(地域)のつながりが分かりやすい。そのため、地域の課題を自分ゴトと考え、行動を起こしている人がたくさんいる。この海士町を映し鏡にし、自分はどんな社会を望むのか、そのためにどんな仕事をしていくのか、参加者が自分を掘り下げていくことをファシリテートしているのだ。

海士町話し合い風景3

自分たった一人変わっただけで、と思うかもしれない。でも、身近な誰かが変わると、その周りの人も変わっていく。「6次の隔たり」(Six Degrees of Separation)という仮説があって、友達の友達・・を6回繰り返すと世界中の人とつながれるそうだ。私たちと世界は、密接につながっている。

『風と土と』の研修は、海士町を飛び出し、企業、地域、官庁などで繰り広げられる。未来を“”自分ゴト”として考えられる人を増やす、壮大な挑戦だ。

社名を変更した理由

“海士町だけでなく都市や他地域へも活動を広げながら、ビジョンやアイデアを描くだけに終わらず、軽やかに力強く実現に向けて挑戦していきます。そのために、この度「株式会社風と土と」へ社名を変更することにしました。”

ホームページでは、こう謳われている。

しかし、10年続いてきた「株式会社 巡の環」で、事業を進めることもできた。社名の変更には、阿部さんの、深い思いがある。

新社名披露 阿部さん

「私はずっと、プレーヤーとマネージャーを一緒にやっていました。自分も現場に立ちながら、経営にも携わっていました。でも、それではダメだと気づいたんです。経営者は投資をする人だ、と英治出版の原田さんから言われました。人も事業も投資して育てないと自転車操業になる。投資をしないと伸びない。

それを聞いて、もう一度、経営者として、ちゃんとやっていきたい、と思ったんです。

『巡の環』という名前は、私が考えた社名ではありませんでした。一緒に起業した2人に誘われたとき名前も決まっていたし、最初は代表ではなく途中で交代してほしいと言われて代表になった。もちろん、一生懸命仕事には向き合うんですが、自分で名付けた会社でないと、心のどこかで隙が生まれるんです。それでは、未来を見据えて投資ができない。自分のコミットを高めるために、社名を新しく自分で決めました。風の人(よそ者)と土の人(地元)がともに力を合わせて、新たな可能性という風を現実という土にして、風土を紡いでいく。そんな想いを込めました。」

こうして、海士町のまちづくりからスタートした会社は、持続可能で幸せな未来を次の世代に手渡すことを目指し、『株式会社風と土と』の名で、再スタートを切った。

阿部さんの想いと仕事と社会が密接につながりあった、第二創業である。

あなたの望む社会は、どんな社会ですか?そのために、あなたは誰と何をしたいですか?

少し作業の手を止めて、考えていただけたら。

海士からの風の便り(求人情報)も届いています。もしも、あなたの答えに合うようでしたら、応募されてみてはいかがでしょうか?

「株式会社 風と土と」の募集要項の詳細はこちら!

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NPO法人ETIC.のDRIVE事務局です。ワクワクドキドキする記事を皆さんにお届け出来るよう、日々駆けずり回っています。

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