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「“復興”とはもとの姿に戻ることではなく、未来に向かって力強く進むこと」。食のヒーローたちが福島からパリ、そして世界に発信した復興五輪のメッセージ

2021.08.13 

2021年7月23日。東京オリンピックの開幕にあわせて、次回の夏季五輪開催都市のフランス・パリでは東北の食と酒をふるまう試食会が開かれた。「海外から日本に来る観客をもてなすことは叶わなくなった。それならむしろこちらから出かけていって、多くの人に東北の食を、復興した姿を伝えたい」という想いからはじまったこの会には、パリ在住のシェフや食のインフルエンサー、パリ五輪の関係者ら約30人のゲストが集まった。

 

「ヒューマンレガシー・ダイニング〜テロワージュ東北 in パリ」と名付けられたこのイベントでは、福島・宮城・岩手の3県から送られたコメ・海藻・水産品・フルーツ加工品の約20品目を使用したランチブッフェが、同じく東北産の日本酒・ワイン・クラフトビールとともに提供された。当日はパリ10区市庁舎と福島市の会場をオンラインで繋ぎ、食材を提供した生産者たちの声は海を越えて試食会の参加者たちに直接伝えられた。

 

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「復興はもとの姿に戻ることではなく、未来に向かって力強く進むこと」

 

試食会の後、復興の最前線に立ち続けている内堀雅雄福島県知事の挨拶に続いて、東北の農家や漁師ら4人から震災後10年間の軌跡と食の復興にかける想いを伝えるスピーチが行われた。話し手の多くは震災で大切な仲間や仕事場を失い、福島原発事故による根強い風評被害に苦悩しながら、自分が育て収穫した作物の安全性を、美味しさを伝えてきた人たちだ。ひとりひとりが丁寧に紡いだ感謝の言葉、ユーモア溢れるスピーチは日仏英の言語で全世界に向けて配信された。

 

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福島や東北が挑戦を続けられた原動力は、フランスや世界の人々が東北に「がんばれ!」とメッセージを送ってくださったことです。これまでの10年間、みなさんからいただいたあたたかい連帯、絆に対して心からの感謝を送ります。ありがとう。――内堀雅雄 福島県知事

 

震災が起こったとき、わたしたちはこんなにも楽しい今があることを想像できませんでした。ビールを造ることも、農作業も大変なことが多いですが、こうしてたくさんの仲間がいて、フランスのみなさんがいて、わたしたちはいまとても幸せです。――加藤絵美さん:カトウファーム(福島県福島市)

 

水産業は、死ぬことと隣り合わせです。自分もいつ死ぬかわからないし、危なかったこともいっぱいある。東日本大震災の津波もそのひとつで、危なかったです。(大漁旗を指さしながら)漁で魚がたくさんとれた日にはこれを船に立てて音楽をかけて踊ります。東北のわたしたちは、自然とのやりとりを楽しんで生活をしています。――千葉豪さん:千歳丸(岩手県大船渡市)

 

生産者、料理人、酒蔵と連携して、東北の人・食・風景・文化の魅力を世界中に伝える「テロワージュ東北」というプロジェクトをはじめました。震災を乗り越えたわたしたちのように、世界が力をあわせてコロナウイルスを乗り越え、ぜひみなさんに東北に足を運んでほしいと思っています。――毛利親房さん:秋保ワイナリー(宮城県仙台市)

 

復興の定義はいろいろあります。正直、10年前の景色のまま取り残されている場所もまだあります。それでもこうして東北の食と食文化を伝えるトップランナーたちがいて、未来はすごく明るい。復興とはもとの姿に戻ることではなく、未来に向かって力強く進むこと。それが復興だと思っています。わたしができることは、美味しい福島の食を通じて世界の人たちを笑顔にすることです。――齋藤由芙子さん:ももがある(福島県福島市)

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「東北の食に対する信頼を取り戻した彼らの軌跡こそ、今回の五輪で世界に伝えるべきレガシー」

 

今回の試食会は、東北の食産業の長期的支援を行う一般社団法人東の食の会とNPO法人ETIC.(エティック)、米金融大手のJ.P. Morganが、フランス現地の非営利団体Les Canaux(レ・キャノ)とパートナーシップを組んで開催する2度目のイベントとなる。

 

2024年のパリ五輪を通じていかに経済や社会のあり方を進化させ、レガシーを後世に残すか?を掲げて活動する同団体代表のElisa Yavchitzさんは、東北がその再建の過程で地域を越えて人々の心を結びつけてきたことからフランスは多くを学ぶことができるはずだと語る。その声に応え、前回に続いてパリを訪問した東の食の会の専務理事である高橋大就さんは、集まった参加者たちにこう語りかけた(全文はこちら)。

 

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「この人の作ったものなら、この人が保証するなら間違いない」。資本と科学だけでは難しかった、食の安全性に対する人々の信頼を担保したのは、人でした。東北の食に対する信頼を取り戻した彼らは、犠牲者ではなく、ヒーローです。そして、彼らのこの10年間の軌跡こそ、今回の五輪で世界に伝えるべき「レガシー」、Human Legacyだと思います。それを世界のみなさんに伝えたくて、次の五輪の開催地であり、食の都であるこのパリへやってきました。――高橋大就さん:東の食の会(東京都)

 

東京オリンピックの開幕と東北の復興を、こうしてわたしたちのやり方で祝福できる今日この時間がとてもうれしいです。東北のみなさんはヒーローだと思います。このように人類が困難に直面していても、団結し、同じ目標に向かって前進していけば、大きなことを成し遂げられると証明したと思います。――Elisa Yavchitzさん:Les Canaux(パリ市)

「最初は疑いの気持ちもあったが、いまは福島のひとたちのことを完全に信頼しています」

 

プレゼンテーションが終わると、会場参加者からは暖かい拍手が東北の生産者たちへ贈られる。自身で食材を扱い、味だけではなくその安全性や持続可能性にも厳しい目線を持つシェフやバイヤーなど食のプロフェッショナルたちからも、東北の食が真に復興を遂げ、早くフランスそして世界中で楽しめるようになることを期待するコメントが次々と寄せられた。

 

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すべての料理が本当に美味しかったです。お酒と食事が上手に調和していて、また日本とフランスの食文化のマリアージュがすばらしいことを再認識しました。今年4月から欧州への水産物の輸出には一層厳しい食品の安全の認証が必要になりましたが、東北の沿岸地域の事業者がこの認証を取得しやすくなるような行政の支援を期待しています。――会場参加者(食のインフルエンサー)

 

「FUKUSHIMA」に対するわたしのイメージは、この10年でポジティブな意味で変わりました。最初は風評被害もあって疑いの気持ちもありましたが、いまはそれもまったく無くなり、福島の人たちのことを完全に信頼しています。――会場参加者(食のバイヤー)

 


 

「福島の人たちのことを完全に信頼しています」。最後のメッセージを聞いたとき、これはこの日のプレゼンターだけでなく、東北の生産者・食に携わる人々が安全性や想いを10年間語り続けることで取り戻した異国の地での信頼・安心なのだと筆者は誇らしく思った。さらに加えるならば、開催そのものを危ぶむ声が広がった今回の東京五輪ではあるが、日本が今こそ世界に誇れること、感謝を伝えるべきことは復興以外にもたくさんあると感じた。

 

<参考:当日のメニュー>

メニュー

ヒューマンレガシー・ダイニング〜テロワージュ東北 in パリ

Le déjeuner d’heritage humain ~ ‘Terroage’ (Terroir + Mariage) Tohoku

 

Aperitif - ‘Juicy Pop’ Yellow Beer Works, Cidre d’ érable (Kinoko House)

  

4種のソース Quatresauces

藻塩 Sel d’algues

アルガソルト Sel de Mekabu

トマトバター Tomates au beurre

肉みそ Miso au porc

  

前菜 Entrée

胡麻豆腐 Tofu de sésame

塩蔵ワカメ、昆布とズッキーニ揚げびたし Wakame, Kombu salé et courgette frite marinée

素麵こんにゃく 蕎麦出汁仕立て Konjac nouilles japonaises sauce soba-dashi

ウイスキーでフランベしたフォアグラとシェーブルチーズ Fois gras flambé au whisky et fromage de chèvre

<テロワージュ terroage>

Koshu sur lie 2020 (Akiu Winery), Hanauta Hops (haccoba)

 

串カツ Kushi-katsu

358 でマリネした鶏むね肉 Poulet mariné au 358

シイタケの鶏肉詰め Poulet farci de shiitake

シャトーブリアン Chateaubriand

海老 Crevette

<テロワージュ terroage>

Steuben 2020 (Minami-Sanriku Winery)

 

御飯物 Riz

雲丹 Oursin

本鮪 Thon rouge

<テロワージュ terroage>

Iwaki Kotobuki Junmai ‘Akagane’ (Suzuki Brewery)

 

デザート Dessert

シューフロマージュ Chou à la fromage ももふる Pêche ‘Momofuru’

セミドライフルーツ Demi sec pêche et pomme

<テロワージュ terroage>

Iwaki Kotobuki Junmai Daiginjo (Suzuki Brewery)

 

Digestif – Cidre de Machiko (Three Peaks Winery)

 

 

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3.11東日本大震災福島
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山崎 光彦

山崎 光彦

三重県出身。日系企業勤務を経て、英国マンチェスタービジネススクールに留学。在学中にETIC.でインターンシップを経験し、「自らの意志で人生を切り拓いていく人を応援する」仕事は意義深く、尊いものだと感じる。このご縁をきっかけとして、2015年よりETIC.に参画。起業家の創業支援や企業とのプロジェクト開発、リサーチ業務を担当

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