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#ローカルベンチャー

ごみが資源になり、経済が回っていく―持続可能な経済を実現するサーキュラーデザイン〜ローカルベンチャーリレーピッチvol.3〜

2021.10.28 

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地域課題の最前線にいるローカルベンチャーの担い手たちは、どんな課題に挑み、どんな未来を描いているのでしょうか。

ローカルベンチャーリレーピッチは、地域と企業の共創を考えるオンラインイベント「ローカルベンチャーフォーラム2021〜地域と企業の共創を考える〜」のDAY3・4として開催されました。モデレーターはジャーナリストの浜田敬子さん、DAY3のコメンテーターは株式会社ビズデザイン大阪の友田景さんです。

全国各地の担い手によるリレーピッチの模様を6回の連載でお届けします。

 

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3つ目のテーマは、「持続可能な経済を実現するサーキュラーデザイン」です。Reduce(減らす)、Reuse(繰り返し使う)、Recycle(再び資源として使う)の3Rが提唱されて約20年。ESG投資などへの関心が高まる中、世界で注目されているキーワードの一つが「サーキュラーエコノミー」です。

 

サーキュラーエコノミーとは、従来の「Take(資源を採掘して)」「Make(作って)」「Waste(捨てる)」というリニア型経済システムの中で、活用されることなく廃棄されていた製品や原材料などを新たな資源と捉え、廃棄物を出すことなく資源を循環させる経済の仕組みのことを指します。この循環の中で資源調達自体も行うため、資源が枯渇していく時代において、資源調達の優位性も生まれていきます。

 

先行する欧州では既に大規模な取組みも増えていますが、日本国内でも少しずつこの分野での取組が始まっています。たとえば同じ量のごみを減らしても、大都市と比べると地方の方が暮らしへのインパクトが大きくなります。地域の自然資源と暮らしに根差した持続可能なビジネスモデルがどのように模索されているのか、その取組についてご紹介いただきます。(会話文中敬称略)

DMO直営農場プロジェクトで持続可能な地域へ

まずは熊本県南小国町から、株式会社SMO南小国(以下SMO)の安部千尋(あべ・ちひろ)さんに、観光地域づくり法人(DMO:Destination Management/Marketing Organization)による直営農場プロジェクトについてお話しいただきました。

 

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安部 : 南小国町は熊本県阿蘇郡に位置する、人口4,000人弱の町です。高齢化率も40%に上りますが、黒川温泉に代表される温泉地を複数有し、年間約100万人の観光客が訪れる観光地でもあります。南小国町には人の手で守られてきた里山の風景があり、「日本で最も美しい村」連合にも所属しています。

 

この上質な里山を守り継ごうと、2018年に町から96%の出資を受けて設立したのがSMOです。Satoyama(里山)Management Organizationの頭文字を取ってSMOという名前になりました。SMOには地域商社としての側面もあり、2年でふるさと納税額を1.7億円から10億円弱にまで伸ばしています。地域のハブとして外部資本を稼ぎ、まちづくりに還元させるという中間支援の役割も担っているのです。

 

今回ご紹介するプロジェクトは、資源・経済の地域内循環をつくり、南小国町を人口減の中でも持続的な地域にしていくための取組です。元々は景観保全のための耕作放棄地対策として、町民の要望からスタートしました。

 

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一方、黒川温泉一帯では、約30軒の旅館から出る食品関連のごみや落ち葉の処理が長年の課題となっていました。そこでこの課題を解決しようと昨年から始まったのが、観光地から出る廃棄物を完熟堆肥に変える「地域コンポストプロジェクト」です。ここから農薬や化学肥料に頼らず、完熟堆肥を使って野菜を栽培する試験農園のニーズが生まれました。そして物産館やふるさと納税という販路をもつSMOが、有機農業で作られた農産物を高付加価値商品として販売することになったのです。この南小国町におけるサーキュラーエコノミーモデルを、地域全体に広げていくことを目指しています。

 

土地の所有者や農林課、農業委員会と連携しながら、耕作放棄地の増加が懸念されている地区を皮きりに、SMOが主体者となった実践がこの9月から始まっています。阿蘇の美しい里山がいつまでも保たれるよう、将来的にはESG投資も視野に、各数値の測定などエビデンスを集めながらプロジェクトを進めているところです。ご興味のある企業や団体がいれば、ぜひ仲間になってもらえると嬉しいです。

産業の枠を越えて、自然資本が生み出す価値の最大化を目指す

 

続いて岡山県西粟倉村のエーゼロ株式会社(以下エーゼロ)より、大井健史(おおい・たけふみ)さんの報告です。産業の枠を越えた、地域資源が循環する仕組みづくりについて伺いました。

 

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大井 : 土の表面の生命を育む層のことをA0層というのですが、エーゼロという社名はこのA0層に由来しています。A0層があるからこそ森の循環が成り立っているように、地域においても経済の循環を下支えするような存在になりたいという思いが込められています。

 

エーゼロが拠点としている西粟倉村は、岡山県北東部にある人口約1,400人の村です。村の93%が森林で、林業が主な産業となっています。そんな西粟倉村で弊社が取り組んでいるサーキュラーエコノミーは、やはり森林が循環の起点となっています。

 

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山から木が切り出され、「西粟倉・森の学校」で製材され、商品となり販売されます。エーゼロには「森のうなぎ」という養殖うなぎのブランドがあるのですが、「森の学校」で出た端材や木くずは、うなぎの養殖用プールの水温を一定に保つための燃料として使われています。さらに養鰻で出てしまう廃水は、農業用水として活用します。林業・水産業・農業といった産業の枠を越えることで、普通だったら捨てられてしまうものを村内でうまく活用しているんです。

 

また西粟倉は山地にあるため、シカによる食害も深刻です。現状では駆除を余儀なくされていますが、エーゼロではシカ達を単なる駆除対象ではなく、自然の営みの中で生まれる森からの贈り物としてとらえ直し、できる限り命をおいしくいただくことにつなげたいと考えました。そこで「森のジビエ」という商品名をつけ、豊かな自然が育んだ究極の自然派食材としてブランディングしながら、ふるさと納税やECサイトでの販売を行っています。

 

シカの下にはかばんの写真もありますが、これはシカ革を使ったかばんです。村内に移住した革職人の方が制作しています。地域経済の循環を生むにはプレイヤーも必要なので、西粟倉村ではローカルベンチャースクールなどを通じて、人の還流をつくる取組も同時に行っています。

 

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移住者だけでなく、西粟倉を応援してくれる人を増やしたいという思いから、関係人口アプリ「西粟倉アプリ村民票」も開発されました。興味をもってくださった方は、アプリをダウンロードして、まずは関係人口になっていただければ幸いです。

これまでの延長線では右肩下がり。失敗を恐れず挑戦を育む地域に未来がある

 

浜田 : 何ひとつ無駄にしないという思想がすばらしい事例でしたが、感想はいかがですか?

 

友田 : 観光地が農業ともつながる南小国町、林業・水産業・農業の枠を越えて廃棄物活用に取り組む西粟倉村、両地域とも「越境」がキーワードですね。これまでは行政が縦割りで処理していたものに、うまく民間が入ることで新しいモデルを創造しているという点が共通して言えることだと思います。シームレスにやっていくのが重要だと感じました。

 

浜田 : まさに越境しなければ循環図は描けないということが伝わる事例でした。捨てられているものが他の産業では活用できるかもしれないという、発想の転換が必要ですね。

 

友田 : ごみが資源になる、経済が回っていくというのはこういうことなんだな、とお二人の話を聞いて実感がわきました。

 

浜田 : そもそも自分達の地域にはどんな資源があるのか、洗い出すことも大切なのでは?

 

友田 : 地元にいるとそれが当たり前なので、なかなか気付かないというのはよくあることです。ご報告いただいた安部さんも東京からの移住者ですし、エーゼロの創業者である牧大介さんも移住者ですよね。ヨソモノの方が地域のよさに気付きやすいので、ヨソモノ視点をうまく取り込むと地元の資源を発掘しやすいでしょうね。

 

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浜田 : 最後に、3テーマのスピーチ全てを通じての感想をお聞かせください。

 

友田 : これまでの継続・延長線だと、地域は確実に右肩下がりになっていきます。失敗するかもしれないけど、新しい取組を始めようという土壌がないとこれから先は難しいですね。ローカルベンチャー協議会に参画している自治体のように、可能性を育んでいく土壌がある地域では、行政とも連携しながら様々なアイデアが生まれ、次々と実行されていくんだなと改めて感じました。

 

浜田 : NPOや行政、ベンチャー企業、大企業の中で新規事業として立ち上げるなど、多様なプレイヤーがいたことも印象的でした。

 

友田 : 立場が違っても共通して言えることは、いかに持続可能なビジネスをつくるかということです。行政であってもお金がなければ手放さざるを得なくなり、続けられません。いかにお金を回していくかという視点は、あらゆるセクターで必要な考え方です。

 

浜田 : 1テーマ目のノトツグの報告でも、古い民宿をベーカリーなどを併設したおしゃれな施設にリノベーションするという話をされていましたね。ビジネスの観点からも、人が来たいと思うような魅力的な施設にしていくことが大切だと思いますが、そのためにはどんな視点が必要なのでしょうか?

 

友田 : なんで地方の金融機関がさびれていくのかというと、重要なポストに女性がいないということも一因なのではないでしょうか。今どういうものが流行っているのか、感度を高くもつことで生まれる発想やセンスという面では、女性の視点が非常に重要だと思います。実際におしゃれなスポットって、圧倒的に都会に多くて地方では少ないですよね。そういったところが、これからのチャレンジの土壌になっていくのではないかと個人的には感じています。

 

浜田 : 裏を返せば、女性や若い人達にまだまだチャンスがあるということでもありますね。友田さん、解説ありがとうございました。

 

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以上、ローカルベンチャーリレーピッチ第3テーマの様子をお届けしました。

また現在、自分のテーマを軸に地域資源を活かしたビジネスを構想する半年間のプログラム「ローカルベンチャーラボ」2022年6月スタートの第6期生を募集中です!申し込み締切は、4/24(日) 23:59まで。説明会も開催中ですので、こちらから詳細ご確認ください。

 

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茨木いずみ

宮崎県高千穂町出身。中高は熊本市内。一橋大学社会学部卒。在学中にパリ政治学院へ交換留学(1年間)。卒業後は株式会社ベネッセコーポレーションに入社し、DM営業に従事。 その後岩手県釜石市で復興支援員(釜援隊)として、まちづくり会社の設立や、組織マネジメント、高校生とのラジオ番組づくり、馬文化再生プロジェクト等に携わる(2013年~2015年)。2015年3月にNPO法人グローカルアカデミーを設立。事務局長を務める。2021年3月、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。