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地方での志ある大人との出会いが、人生を変える。近畿日本ツーリスト社員の、修学旅行に新たな選択肢をつくる挑戦

2020.10.20 

学生の一大イベントである修学旅行。京都、沖縄、東京、海外など、定番はあれど行き先は様々。とはいえ、名前を聞いたこともなかった日本の地方に行った人はほとんどいないのではないでしょうか。

 

いま、学生にこそ「地方で志を持って生きる大人たちと出会い、リアルな社会課題に触れて、人生の価値観を広げてほしい」と、修学旅行に新しい選択肢を創る挑戦をしている人がいます。近畿日本ツーリスト首都圏(KNT-CTホールディングス株式会社)で修学旅行を担当する玉田勝司さんに、なぜ日本の地方で学ぶという体験を高校生に届けていきたいのか、その背景とこれまでの挑戦を伺いました。

 

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中央、賞状を手にしているのが玉田さん。2019年開催の、地方での事業創造を学ぶ半年間のプログラム「ローカルベンチャーラボ」デモデイにて

 

高校生が慶應義塾大学の特任教授と大学生らと一緒に、地方創生・SDGsを岩手県釜石市で学ぶツアーを企画

 

普段は修学旅行の企画立案や営業、修学旅行中のツアーガイドを担当している玉田さん。現在は従来の業務に加え、自分発の新規事業として高校生が慶應義塾大学特任教授と大学生らと一緒に地方を訪ね、地域の事業者など志ある大人に出会い、社会課題の現場を知り、SDGsについての学びを深めながら、実際に地域の事業をベースに持続可能な事業のあり方を考えてみるツアーを企画しています。

 

玉田さんがこの企画を生み出すことになったのは、岩手県釜石市などの地方創生に従事する慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授の横田浩一さんのセミナーに参加し、地方創生やSDGsについて学んだことがきっかけでした。

 

その後、幸運にも横田さんと慶応大学の学生らのサポートを得られることになり、新規事業創出を後押しする社内風土にも助けられ、岩手県釜石市を舞台に企画がスタート。2018年春に初めてのツアーを催行して以来、これまでに4回のツアーが催行されています(2020年8月現在、新型コロナウイルス感染拡大防止のため一時休止中)。

 

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釜石市での参加者集合写真

 

地方で志を持って生きる人との出会いは、高校生を変える

 

その挑戦は順調にスタートしたように感じる一方で、「正直なところ、初回時点では自分で企画しておきながら高校生たちに何か人生における本質的な価値を感じてもらいたいとか、自分が変わる体験を届けたいといった想いは持っておらず、単純に地方創生とSDGsの学びの機会として捉えていました」と苦笑しながら語る玉田さん。

 

実際、参加者は集まったものの、初回は「アクティブラーニング」や「SDGs」といったチラシのキーワードが目に入り何となく参加したような学生がほとんどだったそう。けれど1日目、震災後東京の大企業から復興のために釜石市役所に転職した30代男性のこれまでの挑戦、津波が建物の2階まで押し寄せてきて従業員を亡くした旅館「宝来館」の女将の復興にかける想いなど、志ある人たちの生の言葉に触れる時間を経て、参加者たちに熱が入ったような雰囲気が生まれ始めたのだと玉田さんは語ります。

 

「最終日のプレゼン準備のために徹夜する学生まで出てきて、人は志を持って生きる人との出会いで何かが変わるのだと、このツアーが持つ可能性を感じ始めました。プレゼンを明日に控えた2日目の夜、布団に入ってからも高校生の学びの場にこれから先、取り入れてみたいことの妄想が広がって、興奮して朝まで眠れなかったくらいです」

 

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プレゼンの様子

 

「地方では都会の中で閉じていた心が開き、人生への本質的な問いを立てるきっかけになる」。自分自身が地方で学び、実感した価値とは

 

初回のツアーを終えた2018年秋、玉田さんは岩手県釜石市をフィールドにした経済産業省「未来の教室」実証事業『未来の教室 in 釜石』(震災復興からのSDGs@釜石を題材にした人材育成プログラム)に参加。今度は自らが様々な企業の人たちとチームを組んで釜石の事業者の事業ブラッシュアップなどに取り組む体験をします。その中で改めて、「自分も心からやりたいと思うことに本気で取り組もう」と、挑戦する意志に火がついたのだと玉田さんは語ります。

 

「『未来の教室』では僕自身一参加者として地方をフィールドに事業プランを練ったのですが、地方では東京の会議室では起き得ないような自己開示が多くあって、たとえば自分の想いを語りながら泣く人もいるんですよね。そうすると皆『自分を出していいんだ』と思えるようになって、殻を破った素直な言葉で議論がスムーズに進むようになるんです。その分インプット量も多くなって、学びのスピードも早くなったように感じました。本当の意味で、チームで協働する難しさと面白さも実感できました。

 

同時に、東京でキャリアを持っていた人が地方に移住して、経済的価値観とは違う軸で志高く生きていることを知ることや、そうした人の人生への考え方、向き合い方を知り、今まで触れてこなかったような人生の軸に触れることで、参加者皆が心を開いていくような体感も得たんです。『働くとは、豊かさとは何だろう』とか、都会での生活では考えないような本質的な問いを立てるきっかけになりました。自分が受益者としてそうした体験をしてみて改めて、地方での学びは人が変わるきっかけになりうると確信することができました」

 

玉田さんはそうした自らの体験と照らし合わせながら、偏差値や資本を中心とした限られた価値観の中で生きる都会の高校生たちにとっても、志を持って生きる大人と出会うことが人生への気づきをもたらし、心が開かれていくのではないかと高校生にとっての地方を訪ねる価値を考えます。

 

「偏差値という物差しに沿って進学先を選択している高校生も多いと思うのですが、『自分にとっての“学び”とは何なんだろう?』と自分に問いかけられる機会があれば、自分はこれから何がしたいのかという視点で自分の進路を自分で考えることができると思うんです。それが魅力的な地方との出会いで可能になるのではと思っています」

 

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釜石市にて、地域事業者らの話を聞く時間

 

大学生・教師・ツアーガイドまで巻き込まれていく、地方での学びの力強さ

 

「未来の教室」終了後、玉田さんは積極的に催行を重ね、ツアーには再現性があることが分かっていきました。

 

「メンターには慶応大学の学生たちが付き、彼らが参加者と同じ目線でがっつり参加し、最終日のプレゼンに対する視点を与えてくれたり、資料整理を手伝ってくれたり、発表内容を考えてくれたりするのですが、あるとき自分も発表したいと言い出してくれた大学生がいて、別の回では高校の先生まで自分も発表したいと手を挙げてくれたことがありました。そうしたことが重なって、今では社員も高校生たちと一緒になってツアーを通して考えたこれからのマイアクション を発表するようにしています。高校生・大学生・社会人が同様に発表する場を設けたことで、結果的に想定以上の動きが生まれるようになりました」

 

さらに、事業を育てるための学びの機会、フィールドとなる他地域との出会いを得るため、ローカルベンチャー協議会が運営する地方での事業創造のための学び場「ローカルベンチャーラボ」3期に参加。北海道下川町や徳島県上勝町、島根県雲南市などでフィールワークを行い、地方のプレイヤーたちとのつながりを作り上げていきました。

 

「地方で出会うプレイヤーの皆さんは、とにかく自らの取り組みについてとても熱量高く語ってくださいます。重い雰囲気になりがちな深刻な社会課題についても、おもしろそうだから関わりたいと感じるような雰囲気を各地域が醸し出していて、楽しみながら人を巻き込む仕組みづくりについて学ぶことができました。また、現場に足を踏み入れたことで、地域側の目線から地域の課題を知ることができました」

 

地方の課題の一つである若者の都市部への流出に対して、たとえばツアーで訪れた高校生がその地域の魅力を地元の高校生に伝えることができたら、お互いがお互いに光を当て合うような機会が生まれ、地方の若者にとっても自己や故郷を肯定する機会になるのではと構想を膨らませているとも語ります。さらに、これからはSDGsという軸を持ちながらも、高校生自身が学びたいことを考え学ぶことができるツアーを設計していきたいと語ります。

 

日本には学びの素材に溢れた素晴らしい地方がたくさんある

 

最後に、コロナ禍で先行きが不透明ながらもこれからツアーをどう育てていきたいのか、玉田さんは以下のように語ります。

 

「既存のツアーの中には、日本の地方へ社会課題を学びに行くものはあまりありません。けれど、実際日本は素晴らしい地方と学びの素材で溢れていますので、そこを一つのカテゴリとして確立していければと思っています。

 

会社にもこうした取り組みの必要性を段々と伝えられてきましたし、僕よりも年下の社員たちの中にはおもしろがってこの企画に関わってくれるようになるケースが増えてきています。学校側に既存の修学旅行の代わりにしてもらうにはまだまだ道のりは険しいのですが、まずは保護者に直接的に地方に高校生が学びにいく価値や魅力を伝えていけたらと思っています」

 

また、この取材後改めて玉田さんに新型コロナウイルス感染拡大を通して変化したことを伺いました。今年春に予定されていた首都圏の修学旅行は、すべてが中止もしくは変更となってしまったとのこと。今までの日常の“当たり前”が当たり前でなくなり、旅行が不要・不急と一括りで報道されるなか、自らが日頃関わっている仕事は“不要”なのだろうかと、考え込むことも少なくなかったと語ります。

 

「気が滅入ることも多くありましたが、このような経験をすることで自分の仕事の本質が何であるのかを考え、向き合う時間をいただけたと前向きに考えてます。教育も旅行も、オンラインでできる領域が多くあると認知されたことにより、リアルの旅行で提供する価値が今後ますます問われると思います。

 

このコロナ禍の中、修学旅行の実施が当たり前でなくなった状況で、実施いただく学校に感謝の気持ちでいっぱいです。同時に今まで3密(同じ方面・同じ時期・同じ内容)であった修学旅行を、今後地方で展開していく大きなチャンスであるとも思っています。旅と学びを通して、首都圏の高校生と地方の方々と繋げる機会を提供していきたいと思っています」

 

心に深く響く、地方での志ある人との出会いと学び。未来をつくる若者にそうした学びを届ける玉田さんの挑戦は、これからも続きます。

 

現在、自分のテーマを軸に地域資源を活かしたビジネスを構想する半年間のプログラム「ローカルベンチャーラボ」2022年6月スタートの第6期生を募集中です!申し込み締切は、4/24(日) 23:59まで。説明会も開催中ですので、こちらから詳細ご確認ください。

 

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桐田理恵

1986年生まれ。学術書出版社にて企画・編集職の経験を経てから、2015年よりDRIVE編集部の担当としてNPO法人ETIC.に参画。2018年よりフリーランス、また「ローカルベンチャーラボ」プログラム広報。