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公平な分配ではなく「選択と集中」を。地方創生8年目で立ち返るべき原点とは

2021.12.07 

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地域と企業の共創を考えるオンラインイベント「ローカルベンチャーフォーラム2021」が、10月19日から11月5日にかけて断続的に5日間、開催されました。本記事では、その初日に行われたセッション、「ESG経営と地方創生 ~企業・自治体・ローカルベンチャーのこれからの進化」より、デジタル庁 統括官、村上敬亮氏による話題提供部分を抄録してお届けします。

 

地方活性化においていま最大の課題は何か。そして開始6年目を迎えたローカルベンチャー推進事業は、今後どこにフォーカスすべきか。長らく地方創生に携わり、ローカルベンチャー推進事業にも立ち上げから関わってきた村上氏は、現場を知り尽くした氏ならではの知見を披露してくださいました。

 

村上様

村上敬亮氏/デジタル庁統括官(国民向けサービスグループ長)

1990 年、通商産業省入省。湾岸危機対応、気候変動枠組条約交渉、PL 法立法作業などに従事した後、10 年にわたって著作権条約交渉、e-Japan 戦略立案などの IT 政策に従事。その後、クールジャパン戦略の立ち上げ、COP15,16 等の国際交渉、再生可能エネルギーの固定価格買取制度創設などを担当し、2014 年から 6 年間、内閣官房・内閣府で地方創生や国家戦略特区業務に従事。2020 年 7 月に中小企業庁経営支援部長、同年 9 月 現職。2020 年 12 月 世界経済フォーラムと国際官民連携ネットワークが「Agile 50」公共部門を変革する世界で最も影響力のある 50 人にも選ばれた。

いま必要なのは地域における「選択と集中」

 

長らく地方創生業務に従事してきて、いまいちばん必要だと感じているのは、「地域における選択と集中」だ。たとえば、「観光」を地域振興の柱にしたとする。でも、たいていどこでも食べ物、歴史、自然体験、様々なすばらしいコンテンツがあって、それぞれに「これを推したい」という人たちがいる。その中からテーマを絞って、「我が地域はこれで勝負しよう」という判断ができるかどうか。もしも強みがたったひとつしかなければ却って簡単なのだが、豊富な地域資源の中から「これ」と決めて「選択と集中」をするのはとても難しい。

 

好事例は海外にある。スペインのバスク地方にあるビルバオという都市は、以前は鉄鋼と海運の町だった。ここではマリアーノ・ゴメス氏という市議が中心となって、ジビエを使った観光振興に取り組み、ヨーロッパ有数の料理人学校も作られた。すごいのは、毎年「今年はこのジビエでいこう」と決めると、その学校も観光協会も商工会も農業委員会のPR活動も、すべてその同じジビエをテーマに据えるのだ。ジビエというテーマに「選択と集中」し、様々な組織にその横串が通っている。

 

これが日本ではなかなか実現されない。補助金を獲得するところまでは各団体が協力してやるのだが、そこから先は観光、農業、教育と予算が分かれてしまい、さらにその中で、去年はA社を採用したから今年はB社を、という力が働く。つまり、自治体の論理では、選択と集中ではなく公平な分配が優先される。

 

しかし、そうやって地域内の各セクター間に不平不満が出ないよう均等に分配することばかり考えていると、実際には何もできなくなる。美食でいくなら美食、ジビエならジビエと決めないといけない。「お客様」は地域の外にいるのだから。ビルバオの例のように、数年にわたって一つのテーマに選択と集中をして、地域の総意をかけてそこに取り組む、ということが必要なのだが、日本の地域社会はそれが苦手だ。

 

もちろん地域の盛り上げにチャレンジする人はいる。商店街の再生、DMOや地域商社を興して成功させる人もいる。でも彼らは最初のうち、なぜあいつだけが支援されるのかといって、たいてい地域社会から叩かれる。たとえば古民家改修ゲストハウスで成功し、地域食材をたくさん買い上げていても、客を車で迎えに行くと「あれは白タクだ」と非難されたりする。そうではなく、地域全体で「この人の取り組みに賭けてみよう」とならないものだろうか。地域が「このテーマで行く」と決め、そこにどれくらい人々の気持ちがついてくるか。これは地域力の問題だ。

ソーシャルビジネスは地域の「気持ち」と「お金」を味方に引き寄せること

 

地方創生が始まって8年目。あらためて原点に立ち返り、地域が「選択と集中」の効いたテーマを決めて実践していくことが重要だ。そして6年目に入ったローカルベンチャー推進事業では今後、その選択されたテーマにうまくつながるベンチャーの育成がカギを握る。地域が選択したテーマにつながっていないベンチャーは、ある程度の規模までは売上を伸ばせても、その次に行けない。

 

その際、もちろん自分で資金調達してグローバルで勝負できるような方向へぐいぐい進んでいくのも、ひとつの道だ。だが、そうではなくソーシャルビジネスの領域でやるのなら、地域全体の力を引き寄せて、できれば地域住民が事業者サイドとして参加してくれるくらいのパスを描く必要がある。

 

事業というのは「きれいごと」だけでは続かないものだ。ソーシャルビジネスであってもどこかで利潤動機をビルトインする必要がある。事業のサステナビリティに責任を持とうとすれば、ちゃんと稼がないといけない。きれいごとだけで続けていると、最後は補助金漬けになり、公平と分配の論理に絡めとられて何も実現できない、という事態になりかねない。

 

地域の力を引き寄せた好例をひとつ挙げると、香川県三豊市に「UDON HOUSE」という場所がある。古民家を改修した施設でうどんづくり体験を提供するというもので、これが特に外国人観光客に好評となり、大きな経済効果を生んだ。これも最初のうちは地域の反応は厳しいものだったが、もたらす効果が目に見えるにつれて理解が深まり、同じベンチャーが次に「URASHIMA VILLAGE」という一棟貸しの宿泊施設を始めたときには、地元の企業連合が出資するまでになった。

 

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UDON HOUSEのウェブサイトより

 

これは地域の「気持ち」と「お金」がベンチャーに集まり、それによって事業が次のステージに進んだ事例だが、地元がなぜ協力するかいえば、テーマの立て方に納得感があるからだ。この地域にはやっぱりこれが必要だよね、という納得感につながれば、潜在的にチャレンジしてみたいと思っている地元の人たちの気持ちとお金を引き出すことができる。

「特定多数」を切り出して選択と集中、みんなで頂上を目指す

 

「選択と集中」をする上では、特定多数のメンバーをどうやって切り出すのか、が勝負になる。

 

たとえば、 ある住宅街で自動走行車両による宅配のテストをしている。集配センター以降はオンデマンドで動き、何を運んでもいいのだが、実際には誰も使っていない。なぜなら、このサービスの運営コストをだれがどうシェアするのかを合意できないからだ。民間の事業である限り、「これはいい仕組みだからすべての事業者が利用できるようにしよう」というわけにはいかない。宅配ロッカーの配置や台数、走行ルートなどを考え、利益が出るように設計するには、数社に限って話し合う必要がある。なのに、途中から行政が入ってきて補助金を出すといった途端、すべての事業者に公平に使わせろということになって、綿密な設計がご破算になってしまうのだ。

 

同様のことは今後ますます増えてくる。社会のスマート化で、たとえばスマートウォッチから身体データを病院に送るといっても、病院によってもデバイスによってもシステムは違う。その間をつなぐデータ連携基盤が必要になるが、そのコストはだれがどう負担するのか。それを決めるには、一定の事業者の取組みに「選択と集中」する必要がある。新しいテクノロジーを導入するとき、ひたすら公平を追求していると何もできない。

 

高度成長期(昭和)は、ハードは計画経済(公助=行政=不特定多数向け)、ソフトは競争経済(自助=民間=特定ユーザー向け)でよかった。いまは真ん中に共助がある。ここは「特定多数」の領域だ。「選択と集中」の相手といってもよい。ある地域で自動走行車両を走らせるためのコストは、それを利用する特定多数の間でシェアされなければならない。つまり、特定多数のメンバーを切り出さないと身動きがとれないのである。

 

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この身動きが取れない状態のことを、私は「山頂なき登山」と呼んでいる。いまの日本は登山口ばかり作っている。いろんなソフトをつくり、SDGsを謳う。遠隔診療、遠隔教育などもしかり。でもいったいどこへ向かって登っているのか、まったく見えない。山は山頂が見えてこそ登りたくなるもの。山頂を共有できないと特定多数は見えてこない。

 

いかに山頂を見える化し、登りたいと思わせるか。そうやって信じて一緒に登るメンツをいかに切り出し、「これでいこう」と合意し、いかにみんなで彼らを応援するか。その力が地方創生の成否を決めるだろう。

 

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<質疑応答>

 

――挙げていただいた事例では直接DXが見えないが、「選択と集中」の裏にはDXがあるということか。

 

一つのテーマで観光協会、商工会、教育委員会など関連団体にぜんぶ横串を通そうとすると、必然的にデジタルを使うことになる。マーケティングにしても調達にしても、共通の基盤をつくっていく必要があり、その積み重ねがとりもなおさずDXだ。高価なデジタル機器の導入がDXではない。

 

――ハードの予算をとってきて、さてどう使おうか、だとどうしても縦割りになる。すでにある小さな成功を横展開するときに必要なものは何か、つまり、あくまで事業(ソフト)ありきで発想すべきということか。

 

そうだと思う。4人で小さく成功した事業があるとすると、別の4人が似たようなことを始めるのではなく、最初の4人の成功をどう拡張していくかを考えるべきだ。小さな縄張り意識にとらわれず、みんなで一緒にひとつの高い山頂を目指すことが大事だ。

 

――その中で都市部の企業にはどういう役割があるか?

 

最近は企業版ふるさと納税をうまく使いたいという企業が増えている。レバレッジの効いた投資が可能なので、これを使って地域課題の解決に貢献したいという大企業も少なくない。地域の側にとっては、そういう企業の力をうまく利用して地域の「選択と集中」の取組みにつなげていけるといい。

 

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中川 雅美(良文工房)

福島市を拠点とするフリーのライター/コピーライター/広報アドバイザー/翻訳者。神奈川県出身。外資系企業で20年以上、翻訳・編集・広報・コーポレートブランディングの仕事に携わった後、2014~2017年、復興庁派遣職員として福島県浪江町役場にて広報支援。2017年4月よりフリーランス。企業などのオウンドメディア向けテキストコミュニケーションを中心に、「伝わる文章づくり」を追求。 ▷サイト「良文工房」https://ryobunkobo.com